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ビタミンCとヒト・サル・モルモット
おはようございます。

哺乳類のなかで、ヒトとサルとモルモットだけが、ビタミンCを作れません。

従って、食事からビタミンCを摂取しなくてはなりません。

進化の過程の食生活を通して、そのような身体を獲得したと考えられます。

それでは年間を通して、食べることができるビタミンC源にはどのようなものがあるでしょう。

チンパンジーと分岐して以降約700万年間、人類は狩猟・採集を生業としており、日常的な食料は、魚貝類、小動物や動物の肉・内臓・骨・骨髄、野草、野菜、キノコ、海藻、昆虫などです。

ときどき食べることができたのは、木の実、種子類、果物、山イモなどの球根類でしょうか。

上記のなかで、ビタミンCが豊富なのは、野草、野菜、種子類、果物です。

果物は、実りの秋といいますが、実は年間通して旬の物があります。

ただ野生種で小さいし、木になる果物は、サルやチンパンジーなどと競合しており、樹上生活者の猿のおこぼれくらいが人類の手に入ったのでしょうが、日常的なビタミンC補充には、足らなかったと思います。

野イチゴなどが、人類の先祖のほうが手に入れやすかったと思いますが、少量でしょう。

野草は年間通して、確実に獲得できるビタミンC供給源だった可能性があります。

せり、つくし、のびる、ふき・ふきのとうなどには、ビタミンCが豊富に含まれています。

他の野草にもビタミンCはあると思いますし、野草なら年間を通して何か常に摂取することが可能です。

種子類のなかでシイ、ギンナン、クリなどにはビタミンCが豊富に含まれています。

ともあれ、農耕前の人類は野草、果物、種子類から、年間を通してビタミンCを補充していたのでしょう。

サルも基本的には、ヒトと同じような食物からビタミンCを摂取していたのだとと思いますが、果物獲得に関してはヒトより有利ですね。

次はモルモットです。

モルモットは完全な草食性動物で、野生では、野草や草の実、穀類などを食べています。

モルモットの場合は、ビタミンCの供給源は、ほとんど野草だったと考えられます。

このように考えてくると、ヒトにおいても、野草がビタミンC補給には、一番頼りになっていた気がします。



江部康二
テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
イヌイットと壊血病と高チロシン血症と低ビタミンC血症
こんばんは。

1975年発表の、カナダの論文を読んでみました(*)。

やはりイヌイットのビタミンC摂取量は、カナダ白人と比較して、かなり少なかったです。

妊婦のビタミンCが不足していると、新生児高チロシン血症(**)になります。

イヌイットの高チロシン血症は、先天的なものではなく、ビタミンC不足によるものなので、ビタミンC投与で改善したと報告されています。

イヌイットの妊娠中の女性の平均ビタミンC摂取量は、28mg/日で、血中ビタミンC濃度は、0.25mg/dl。

イヌイットの同年齢の非妊娠女性名の、平均ビタミンC摂取量は26mg/日で、血中ビタミンC濃度は0.17mg/dl。

カナダの白人妊婦の、平均ビタミンC摂取量は、133mg/日で、血中ビタミンC濃度は0.97mg/dl。

イヌイットの妊婦のビタミンC血中濃度は低くて、新生児高チロシン血症(**)の頻度が、カナダアングロサクソン人が0.5%に対して14.8%もありました。

イヌイットの血中ビタミンC濃度は、壊血病危険ラインの0.2mg/dl未満の場合も多く、歯肉出血が高率に見られたそうです。

イヌイットの場合は、血中ビタミンC濃度が低値であることは、壊血病と新生児高チロシン血症のリスクを高めていました。

一方、マサイ族は、イヌイットと同レベルの壊血病危険ライン0.2mg/dlの場合も多いのに、壊血病がみられないのは、不思議です。

またマサイ族と新生児高チロシン血症の文献は、英文でも発見できませんでした。

人類とビタミンC、謎は深まるばかりですね。


江部康二



(*)
Neonatal hypertyrosinemia and evidence of deficiency of ascorbic acid
in Arctic and subarctic peoples
624-626 CMA JOURNAL/OCTOBER 4,1975/VOL.113
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1956727/pdf/canmedaj01544-0034.pdf


(**)メルクマニュアルより抜粋
チロシン血症

チロシン血症の子供では、アミノ酸のチロシンを完全に代謝することができません。このアミノ酸の代謝産物が蓄積するため、さまざまな症状が現れます。米国の一部の州では、新生児のスクリーニング検査でこの病気を調べています。

先天性チロシン血症にはI型とII型の2つのタイプがあります。I型チロシン血症が最も多くみられるのは、フランス系カナダ人やスカンジナビア系の子供です。普通、生後1年以内に肝臓や腎臓の機能障害、神経障害が起こります。そのため過敏性やくる病が現れたり、肝不全を起こして死亡することがあります。チロシン制限食はほとんど役に立ちません。治験段階の薬剤の中には毒性の代謝産物の生成を防ぐものがあり、I型チロシン血症の子供に効果があります。I型チロシン血症の子供の多くは、肝臓移植が必要になります。

II型チロシン血症はI型よりもまれな病気です。この病気の子供は精神遅滞を起こすことがあり、眼や皮膚にたびたび潰瘍が発生します。I型チロシン血症と異なり、チロシン制限食で病気の進行を防ぐことができます。



(***)チロシン
必須アミノ酸ではありませんが重要なアミノ酸であるチロシンは、フェニルアラニンという必須アミノ酸から作られます。
チロシンは脳や神経が正常に働くために必要不可欠なアミノ酸で、神経伝達物質であるドーパミン やノルアドレナリンの前駆体となり、脳機能を活性化させる働きがあります。
チロシンは感情や精神機能、性的衝動を脳内でつかさどる重要な神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリン の前駆体です。納豆やチーズ、みそなどの表面に白く析出してくる結晶や、若いタケノコの切り口に見られる白いアクがチロシン で水には溶けにくい性質があります。

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イヌイットとビタミンC考2010
こんばんは。

今回は、マサイ族の次に、イヌイットとビタミンCについて考えて見ました。

4000年前、すでにカナダ極北やアラスカに、人類(モンゴロイド)が移住し居住していました。

現在のイヌイット文化と同様の生活様式をしていたとは、必ずしもいえませんが、セイウチ猟などを中心に生業としていたようです。

現在のイヌイットの生活様式の原型ですが、まず10世紀頃、アラスカイヌイットでホッキョククジラが主食の時代がありました。

その後200~300年で他の極北周囲地域、西はチュコト半島、東はグリーンランドまでホッキョククジラ猟が広まりました。この文化は、チューレ文化と呼ばれています。

12世紀から17世紀にかけて極北地域に寒冷化が起こり、それまで豊富だったクジラが少なくなりました。

そのため、クジラ以外のものを主食とせざるを得なくなり、各地域でチューレ文化は多様化して、独自の文化が形成されていきました。

イヌイットといえば、誰でもイメージするような、アザラシ猟をして雪の家に住むという文化は、15世紀頃に形成されました。

その後、ホッキョクイワナ、アザラシ、シロイルカ、カリブーといった食材がイヌイットの主食となっていきました。

この伝統的な食生活のころは、海生動物の生肉・内臓、生魚肉・内臓が主食で、穀物や野菜もなしで、果物もほとんどなしです。

海生動物や魚の内臓には、あるていどのビタミンCが含まれていると思いますが、野菜や果物ほどではありません。

イヌイットの好物であるマクタック(シロイルカの生皮)にビタミンCが含まれているとのことですが、量的には野菜や果物には到底及ばないと思われます。

キビヤックというイヌイット独特の発酵食品があります。海鳥(ウミスズメ類)をアザラシの中に詰めこみ、地中に長期間埋めて作るそうです。

大変臭いそうですが、ビタミンCが豊富という説もあります。しかし通常、発酵食品にはビタミンCは含まれていないと思います。

結局ビタミンCが豊富なのは、新鮮な野菜と果物、そしてサツマ芋とジャガ芋です。内臓には含まれてますが、量的には野菜や果物には及びません。

こうなると、イヌイットが伝統的な食生活を続けていたころは、ビタミンCの補充はどうしていたのかという疑問が生じます。

イヌイットの伝統的食生活では、マサイ族と同様にビタミンC摂取量は少ない可能性が高いですし、ビタミンC血中濃度も低い可能性が高いです。そして、ビタミンC不足による病気はどうなのでしょう?

この疑問、仕方ないので、今夜は苦手の英文の論文を検索して、調べてみようと思います。(∵)?

続く

江部康二
テーマ:糖質制限食
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マサイ族の食生活とビタミンC考
こんにちは。

①Low ascorbate status in the Masai of Kenya
The American Journal of Clinical Nutrition 27: MARCH 1974, pp. 3 10-314.
http://www.ajcn.org/cgi/reprint/27/3/310.pdf

②京大名誉教授の家守先生の調査 http://www.zennyuren.or.jp/milk_no_yakata/jimu/hitori/hitori_03.htm

③サファリガイド加藤直邦さんのブログ、
僕は見習いナチュラリスト
http://naturanger.blog25.fc2.com/blog-entry-111.html

①②③を参考にして、アフリカのマサイ族の食生活を、再検討してみました。

マサイ族は、牛乳及びヨーグルトを2~3リットル/日摂取します。

毎日、何キロも歩いて牛の放牧をし、腰に牛乳を入れた『キブユ』という瓢箪(ひょうたん)をぶら下げて歩くので、数日間で自然醗酵され、ヨーグルトになります。このように、マサイ族の主食は、牛乳とヨーグルトです。

放牧しながら飲むとすれば、どちらかというと、2~3日経過した牛乳や発酵してヨーグルトになったものの方が、新鮮な牛乳よりも主となります。

これらだけの食料で不足する鉄分は、牛の生き血で補っています。牛の生き血は、週に数回、牛乳に混ぜて飲んでいます。トウモロコシの粉『ウガリ』も牛乳に混ぜて飲みます。

マサイ族は、野菜や果物は一切食べないそうですので、ビタミンCをどうやって摂取しているのか、不思議です。ビタミンCは、ヒトは体内で合成できないので、必ず食物から摂取することが必要です。

牛は財産ということで、殺したりしませんので、牛肉も食べません。山羊や羊も飼っていて、こちらは、お祝い事や家族に病人が出て、栄養をつけたいときに食べるそうです。

この時、山羊の生レバや生小腸も食べるそうです。

牛生レバのビタミンCは100g中に30mg
牛小腸のビタミンCは100g中に15mg

です。

山羊の生レバや生小腸は、五訂日本食品標準表に載っていないのですが、牛に準する程度と思います。

したがって、山羊の生レバや生小腸はビタミンCが豊富と思われますが、日常的に摂取しているわけではありません。

家守先生は、牛の生き血からビタミンCを摂取していると述べておられます。

牛の血漿中のビタミンC濃度は、1.4~3.6mg/dLであり、
人の血漿中ビタミンC濃度0.6–1.4mg/dLより高値です。

しかし、それでも、牛の血を1リットル飲んでもせいぜい30mgですから、やはり、牛の血でビタミンCが充分量摂取できるとは言えません。

①によれば

マサイの牛の新鮮な牛乳の中には、ビタミンC2.2mg/dl含まれています。瓢箪(ひょうたん)に入れて、数日間発酵させてから飲むとすれば、ビタミンCの含有量は減少します。例えば、瓢箪の中で4日間経過した牛乳は、ビタミンC0.4mg/dlに減ります。

そうなると、牛乳、ヨーグルト、生き血から得られる日々のビタミンC摂取量は、せいぜい30mg/日ていどでしかありません。厚生労働省の推奨量が、100mg/日として、全然足りません。


①によれば

伝統的な食事をしているマサイ族の血清アスコルビン酸濃度は、0.16mg/dlとかなり低くなっています。

ちなみに、厚生労働省の第6次改定「日本人の栄養所要量」によると、血漿中ビタミンC濃度基準値を0.7mg/100ml以上に設定しています。

バンツー族は、0.56mg/100mlでやや低値ですが、マサイ族よりは、かなり高値です。白血球の中の、ビタミンC濃度も、マサイ族はバンツー族の半分以下と低値です。

ビタミンB12は、マサイ族は1188pg/mlでバンツー族は404pg/mlで、マサイ族の方が高値でした。

赤血球中の葉酸はマサイ族は低値でした。血清総タンパクはマサイ族がバンツー族よりやや高値でした。
マサイ族が21名、バンツー族が24名の平均値です。

バンツー族は、ケニアやタンザニアの同じ地域に住んでいて、食生活はマサイ族とは異なり、穀物・野菜など何でも食べています。

他に、赤血球数、ヘモグロビン、白血球数、血小板数、血清鉄も検査されていますが、マサイ族、バンツー族ともに、異常はありませんでした。

結論として、マサイ族の血中ビタミンC濃度が低いのは、単純に食物から摂取するビタミンCが低いからと考えられます。

血漿ビタミンC濃度がこれほど低値なのに、壊血病や貧血は見られず、さらなる研究が必要と締めくくられています。

①は、1974年の論文ですが、その後の研究はどうなのでしょうか。

日本の厚生労働省は、100mg/日のビタミンC摂取を推奨し、血漿中ビタミンC濃度基準値を0.7mg/dl以上に設定しています。マサイ族の0.16mg/dlは兎も角として、本当の必須量はどうなのでしょう?

人類の本来の主食が何かを、考察するのに、人体で合成できないビタミンCの必須量が気になりますがよくわかりません。


江部康二



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マサイ族とビタミンC・その3
こんばんは。

良きアドバイザー、I先生から、とても貴重な情報をいただきました。

Low ascorbate status in the Masai of Kenya
The American Journal of Clinical Nutrition 27: MARCH 1974, pp. 3 10-314.
http://www.ajcn.org/cgi/reprint/27/3/310.pdf

マサイの牛のFreshなmilkの中には、100ml中アスコルビン酸2.2mg、3リットルで66mgとのことなのですが、ひょうたんに入れて数日発酵させてから飲むので、ビタミンCの摂取量は少ないとのことです。

伝統的な食事をしているマサイ族の血清アスコルビン酸濃度は、0.16mg/100mlとかなり低くなっています。

ちなみに、厚生労働省の第6次改定「日本人の栄養所要量」によると、血漿中ビタミンC濃度基準値を0.7mg/100ml以上に設定しています。

同じアフリカのバンツー族は、0.56mg/100mlでやや低値ですが、マサイ族よりは、かなり高値です。

血漿ビタミンC濃度がこれほど低値なのに、壊血病や貧血は見られず、さらなる研究が必要と締めくくられています。

ビタミンCの必須濃度は???
ですね。


江部康二
テーマ:糖尿病
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