DPP-4阻害剤。低血糖を起こしにくい。SU剤との作用機序の違い。
こんにちは。

2010年に承認されたDPP-4阻害剤は、
2017年現在、日本でもっとも使用頻度が高い経口糖尿病薬です。
日本の糖尿病治療薬として定着したと考えられます。
低血糖を生じにくいので、使いやすいと考えられます。

それでは、
DPP-4阻害剤(ジャヌビア、グラクティブ、トラゼンタ、ネシーナ、エクアなど)と
SU剤(アマリール、グリミクロン、オイグルコンなど)の
作用機序の違いについて、考えて見ます。

DPP-4阻害剤が関与するインクレチンがインスリン分泌を促す仕組みと、
SU剤がインスリン分泌を促す仕組み(☆)は、異なっています。

まず、SU剤の作用機序です。

難しい箇所は省いて、超簡単に言うと、SU剤はβ細胞表面のSU受容体と結合して、
カリウムチャンネルを閉じっぱなしにしてしまい、
その結果カルシウムが細胞内に流入してインスリンを分泌させます。

この場合、SU剤の作用時間(12~24時間)の間は、
血糖が高かろうが低かろうが関係なく、ずっとインスリンはだだ漏れ状態です。
だから低血糖が生じやすいのですね。

そして、インスリンを分泌しっぱなしのβ細胞が、
疲弊していく可能性があるわけです。

まあ、人為的に無理矢理カリウムチャンネルを閉じて、
β細胞を騙しているようなものですかね。


次にインクレチンとDPP-4阻害剤について考えて見ます。

インクレチンは、食事摂取により消化管から分泌され、
インスリン分泌を促進するホルモンで、
上部小腸にあるK細胞から分泌されるGIPと、
下部小腸にあるL細胞から分泌されるGlp1があります。

Glp1の主な生理作用はインスリン分泌促進作用ですが、
それ以外に膵グルカゴン分泌抑制作用、消化管運動抑制作用、
インスリン感受性亢進作用、そして膵β細胞保護・増殖作用が認められています。

GIPはGlp1に比べると作用は弱いとされています。

そして、Glp1やGIPを分解するDPP-4という酵素を阻害して分解を抑制し、
血中濃度を上昇させて保つのがDPP-4阻害剤です。

つまり、通常の食事では半減期が2分で失活が早いインクレチンというホルモンを、
DPP-4阻害薬によりDPP-4をブロックすることで、血中に保つわけです。

インクレチンは糖質や脂質を摂取すると消化管から分泌されて、
β細胞のインクレチン受容体に作用してβ細胞内のサイクリックAMPを上昇させ、
インスリン分泌の増幅経路に働きます。

こちらは、糖質を食べて血糖値が上昇してβ細胞内にとりこまれてATPが産生されて、カリウムチャンネルが閉じてカルシウムが細胞内に入ってきたときだけ、
増幅経路に働いてインスリンを分泌させます。

血糖値が下がって108mg/dlくらいになると、
β細胞はブドウ糖を取り込まなくなり細胞内カルシウムは増加しないので、
インクレチン濃度が高くても増幅経路は作用せず、インスリンは分泌されません。

インクレチンによるインスリン分泌促進作用はグルコース濃度依存性のものであり、
低血糖を起こさないと考えられます。即ち血糖値の上昇に応じて、それが高いほどインクレチンによるインスリン分泌促進作用が発揮されると考えられます。


はてさて、どうころんでも、結構難しいお話しですね。 ε-(-Д-)

<糖質摂取後、インスリン分泌に到る流れ>

以下は、糖質摂取後、インスリン分泌に到る一連の流れです。

①糖質摂取→血糖値上昇→糖輸送体でβ細胞内にブドウ糖取り込み→β細胞内ATP上昇→Kチャンネル閉鎖→脱分極→カルシウムチャンネル活性化→細胞内カルシウム濃度上昇→インスリン分泌


上記の一連の流れの過程において、インクレチンによる「β細胞内サイクリックAMP上昇」が加わると『Kチャンネル閉鎖』や『カルシウムチャンネル活性化』が促進されインスリン分泌が増幅されます。
さらにサイクリックAMP上昇はインスリン分泌を直接促進させるとされています。

このようにインクレチンは、β細胞内サイクリックAMP上昇を増幅させて、
ブドウ糖濃度が高いときにだけインスリン分泌を促します。


こういう作用機序なので、
インクレチンは血糖値が高いとき、その高さに応じてインスリン分泌作用を有し、
108mg/dl以下に血糖値が下がってきたら
インスリン分泌作用がなくなるわけなので、
単独使用では低血糖は理論的には起こりません。

またSU剤のように、24時間β細胞を鞭打つといった側面は皆無なので、
β細胞も疲弊しないのだと思います。

なお2型糖尿人では、血中Glp1濃度の低下が認められ、
膵β細胞におけるGlp1によるインスリン分泌の感受性も低いと言われています。

その意味では、
DPP-4阻害剤は、初期の糖尿病患者には特に有効性が高い可能性があります。



江部康二


(☆)<SU剤の作用機序とブドウ糖刺激による一般的なインスリンの分泌経路>

血液中のブドウ糖濃度が上昇すると、ブドウ糖は膵臓のβ細胞の表面に発現するGLUT2(糖輸送体2)により、
細胞の中に取り込まれます。

取り込まれたブドウ糖は代謝を受け、ミトコンドリアでATP(エネルギー)が産生されます。
このATP濃度が増すと、β細胞表面のカリウムチャンネルが閉じます。

そうするとKが細胞外にでなくなり、細胞膜の脱分極が起こり細胞内外で電位差が生じます。
その結果、カルシウムチャンネルが活性化しカルシウムが細胞内に流入します。
カルシウム濃度が上昇すると、β細胞は活発になり、インスリンを分泌します。

この一連の流れが、ブドウ糖刺激による一般的なインスリンの分泌経路です。

SU剤は、カリウムチャンネルの一部を構成するSU受容体と結合して、ATP濃度とは無関係にカリウムチャンネルを閉じてしまいます。

SU剤によりカリウムチャンネルが閉じてしまえば、上述の一般的なインスリン分泌経路の一連の流れと同様に、

(Kが細胞外にでなくなり、細胞膜の脱分極が起こり細胞内外で電位差が生じ、カルシウムチャンネルが活性化し)

カルシウムが細胞内に流入しカルシウム濃度が上昇し、β細胞は活発になりインスリンを分泌します。

この場合、SU剤の作用時間(12~24時間)の間は、血糖が高かろうが低かろうが関係なく、ずっとインスリンはだだ漏れ状態です。
だから低血糖が生じやすいのです。
アクトス(ピオグリタゾン)。男性の膀胱癌リスクあり?なし?
こんばんは。
今日は、アクトスについて考えて見ます。

武田薬品のアクトス(ピオグリタゾン)は、
ビグアナイド系薬(メトホルミンなど)と同じように
インスリン抵抗性を改善させる薬です。

発売前の研究において、
雄ラットで膀胱がんを増やす作用が報告されています。
しかし、この作用は雌ラットでは確認されていません。


仏国内の保健データベース内の約150万人の糖尿病患者(年齢40~79歳)に関する
2006~09年のデータを用いて、
膀胱がんの発症率を検討した後ろ向きコホート研究フランスの疫学調査において、
男性においてのみ、
アクトスで膀胱癌のリスクが有意差をもって認められたということです。
男性に膀胱がんリスクがあるということで、
フランスでは2011年以降、同薬の新規処方を中止しています。

FDA(米食品医薬品局)は2010年に膀胱がん患者に対しては投与すべきでないとし、
膀胱がん既往者に対しては慎重投与とする勧告を出しました。

これらを考慮して、私も、基本的に男性には投与しないようにしてきました。


KPNC(Kaiser Permanente Northern California)試験は、
米食品医薬品局(FDA)の要請を受けて
武田薬品工業が米国カリフォルニア州で実施している
アクトスとと膀胱がんの関係を評価するための疫学研究です。

10年間の試験期間が予定されており、
今年(2011年)4月号のDiabetes Careに
その5年時での中間解析結果が報告されました(Diabetes Care 2011; 34: 915-922)。

それによると,1997~2002年に登録された19万3,099人の患者のうち、
アクトス内服患者3万173人を
アクトス非内服糖尿病患者16万2,926人と比較したところ、
全体では有意な膀胱がんの増加は認められなかったものの、
2年以上使用している患者ではぎりぎりで有意なリスクの増加が認められました。


2014年、100万例以上の大規模コホート研究で、
ピオグリタゾン(アクトス)と膀胱がんに
関連は認められなかったと
Diabetologia(2014年12月3日オンライン版)で報告されました。

さらなる研究が必要であることは言うまでもないのですが、
肥満のない糖尿病患者には、
アクトスは、今までより少し使いやすくなったと言えます。


上述のように、フランス政府の決定はありましたが、
欧州医薬品庁(EMA)や米国医薬品庁(FDA)は、
アクトス使用には制限を加えず、モニタリングを続けるということです。

アクトスは、体重増加、浮腫、心不全などの副作用が一定懸念され私自身は、
もともとほとんど使っていません。

一方、前医で処方され副作用もなく経過がいい糖尿人(女性)で、
糖質制限食がキッチリできない人には、そのまま継続処方することがあります。

糖質制限食がキッチリできる人もいれば、できない人もいます。

上述のようにアクトス投与で、
男性の膀胱癌に関してリスクありとする報告となしとする報告があります。

私は男性には今まで通りに基本投与しないという
スタンスで、いきたいと思います。

一方、痩せ型の女性糖尿人には、
体重増加作用を期待して、アクトス投与も選択肢の一つかとは思います。



江部康二
米1億人超が糖尿病か予備軍、人口の3分の1 。しかし合併症は大幅減少。
こんにちは。

7/19(水) 14:55配信 AFP=時事
によれば、

2017年7月18日に発表されたアメリカ疾病管理予防センター(CDC)の報告書で、
米国では約1億人が糖尿病またはその予備軍となっていることが、
明らかになりました。
これは、米国人口の約3分の1にあたります。

CDCは隔年で発表している報告書で、
2015年に米国で死因第7位となった糖尿病を
「増大しつつある健康問題」と説明しています。
2015年には18歳以上の糖尿病患者が新たに150万人増えたと推定されています。

上記は
ヤフーニュース
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170719-00000022-jij_afp-int
の要約です。


このように、米国でも日本と同様糖尿病患者は増え続けています。

一方で、
医学雑誌「ニューイングランド ジャーナル オブ メディスン」2014年4月17日
に発表されたように、
米国の調査で、糖尿病合併症の発症率が、
この20年間(1990~2010年)に急速に低下していることが判明しています。(*)
(1)急性心筋梗塞 マイナス67.8% 
(2)高血糖症による死亡 マイナス64.4% 
(3)脳卒中 マイナス52.7%
(4)下肢切断 マイナス51.4%
(5)末期腎不全 マイナス28.3%


日本でも、2012年の統計まで糖尿病患者は増え続けています。
そして、日本では、糖尿病合併症は米国と異なり減少していません。

日本糖尿病学会『第56回日本糖尿病学会年次学術集会』熊本宣言2013
の記載が以下です。
『糖尿病合併症で苦しむ患者さんの数は今なお減少していません。
糖尿病腎症で透析になる人が年間16000人以上。
糖尿病網膜症で失明する人が年間3000人以上。
糖尿病足病変で切断する人が年間3000人以上。』
  


糖尿病の治療薬としては、米国も日本も差はありません。
なので、合併症発症率の差は、薬以外に要因があることとなります。

運動療法もそんなに差があるとは思えません。
そうなると残るのは、糖尿病の食事療法だけです。

米国では1993年から糖質管理食が広まりはじめました。
米国では1994年に炭水化物と脂質の割合を固定しなくなりました。
2005年、ボストンのジョスリン糖尿病センターは、
炭水化物の推奨量を40%に下げました。

全米最大の糖尿病患者会は、大分前から炭水化物40%ていどを推奨しているそうですが、
いつ頃からそうなのかは、判然としません。

ともあれ、米国では糖尿病と診断されたら、糖質摂取を意識することは、
1993年糖質管理食が広まり始めたころからは、
常識になっていったと思われます。

これに対して日本の糖尿病食は、
1969年から一貫して糖質60%を推奨しています。
2013年11月の食品交換表第7版で、初めて50~60%になりました。

糖尿病と診断されるまでの糖質摂取比率
米国が約50%で
日本が約60%です。


あくまでもアバウトな仮説ですが、
糖尿病と診断された後の糖質摂取比率が、
50%→40%の米国の糖尿病患者と
60%→60%の日本の糖尿病患者との差が、
合併症発症率の違いに反映された可能性が否定できないと私は思います。


(*)
Changes in Diabetes-Related Complications in the United States, 1990–2010
N Engl J Med 2014; 370:1514-1523April 17, 2014


江部康二
朝日カルチャーセンター京都教室。糖質制限と生活習慣病。9/5(火)。
こんにちは。

2017年9月5日(火) 15:00-16:30
朝日カルチャーセンター京都教室にて
糖質制限食の講座の講師をつとめます。

糖質制限と生活習慣病
加速する“脱”糖質潮流の正しい知識


京都教室では久しぶりの糖質制限食講座です。
この1年、糖質制限食の展開において大きな発展があり
いい意味のサプライズもありました。

2016年7月のNHKクローズアップ現代の試算によれば、
糖質制限市場は、3184億円とのことです。
医学界より、企業のほうが糖質制限食をビジネスチャンスと捉えて
行動が迅速なようです。

一方、医学界においても、嬉しいサプライズです。
2017年2月7日(火)午後から、東京大学医学部に行ってきました。
渡邊昌先生、門脇孝先生、江部康二の3人で鼎談を行いました。
二人で話し合うのが対談で、三人で話し合うのが鼎談です。
渡邊昌先生は、医学雑誌「医と食」の編集長です。
門脇孝先生は、
一般社団法人 日本糖尿病学会 理事長
であり、
東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授
です。

日本糖尿病学会のトップとじっくり話し合うことができて、
とても有意義な90分間でした。

ケトン体に関しても「心血管イベント,および全死亡の発症率を低下」という
とてもポジティブな評価を示す研究が最近発表され、
糖質制限食にとって大きな追い風となりました。

このような、糖質制限食に関する最新の動向を、
本講座において余すこと無くお話ししたいと思います。
京都、関西方面の皆さん、是非奮って、ご参加頂けば幸いです。


江部康二



☆☆☆
以下、朝日カルチャーセンター京都教室のサイトから転載です。


糖質制限と生活習慣病
加速する“脱”糖質潮流の正しい知識


講師名 高雄病院理事長 江部 康二

講座内容
糖糖質制限食は、1999年から京都・高雄病院において糖尿病治療食として開始され、
合併症を予防できる唯一の食事療法として画期的な成果をあげてきました。
この課程で、肥満・メタボなどの生活習慣病にも有効ということが判明しました。
従来の糖尿病食(カロリー制限・高糖質食)では、必ず食後高血糖を生じるので、合併症の予防は困難です。
糖質制限食の実践により、様々な生活習慣病(片頭痛やニキビ・・・など)も改善します。
言い換えれば、生活習慣病とは、糖質の頻回過剰摂取が引き起こす現代病と言えます。
2016年、糖質制限市場が3000億円を超えたと試算されました。
いよいよ“脱”糖質時代の幕開けです。

日時・期間 火曜 15:00-16:30

日程 2017年 9/5


受講料(税込み)
会員 3,024円
一般 3,564円

注意事項
教材として資料をお配りする場合は、随時実費をいただきます。

お申し込み
https://www.asahiculture.jp/kyoto/course/6f1082eb-70bf-d593-603c-5915b53a7534
電話:075-231-9693

講師紹介
江部 康二 (エベ コウジ)
<プロフィール>
・ 1950年生まれ。
・ 1974年京都大学医学部卒業。
・ 1974年から京都大学胸部疾患研究所第一内科(現在京大呼吸器内科)
にて呼吸器科を学ぶ。
・ 1978年から高雄病院に医局長として勤務。1996年副院長就任。
・1999年高雄病院に糖質制限食導入。
・2000年理事長就任。
・ 2001年から糖質制限食に本格的に取り組む。
・2002年に自ら糖尿病であると気づいて以来、さらに糖尿病治療の研究に力を 注ぎ、
「糖質制限食」の体系を確立。これにより自身の糖尿病を克服。
内科医/漢方医/
一般財団法人高雄病院理事長/一般社団法人日本糖質制限医療推進協会理事長

<著書>
『主食を抜けば糖尿病は良くなる!』2005年(東洋経済新報社)
『主食を抜けば糖尿病は良くなる!実践編』2008年(東洋経済新報社)
『我ら糖尿人、元気なのにはわけがある』2009年(東洋経済新報社・作家宮本 輝氏との対談本)
『糖尿病がどんどんよくなる糖質制限食』2010年(ナツメ社)
『主食をやめると健康になる』2011年(ダイヤモンド社)
『食品別糖質量ハンドブック』2012年(洋泉社)
『糖質オフ!健康法』2012年(PHP文庫)
『糖尿病治療のための!糖質制限食パーフェクトガイド』2013年(東洋経済新 報社)
『主食を抜けば糖尿病は良くなる!新版』2014年(東洋経済新報社)
『主食を抜けば糖尿病は良くなる!2 実践編 新版』2014年(東洋経済新報社)
『炭水化物の食べすぎで早死にしてはいけません』2014年(東洋経済新報社)
『江部先生、「糖質制限は危ない」って本当ですか? 』 2015年(洋泉社)
『なぜ糖質制限をすると糖尿病が良くなるのか』2015年(ナツメ社)
『糖質制限の教科書』2015年(洋泉社)監修
『よくわかる! すぐできる! 「 糖質オフ! 」健康法 』2016年(PHP研究所)
『人類最強の「糖質制限」論~ケトン体を味方に して痩せる、健康になる』2016年(SB新書)
『外食でやせる!』2017年(毎日新聞出版)
『江部康二の糖質制限革命』2017年(東洋経済新報社)
など多数。

ブログ『ドクター江部の糖尿病徒然日記( http://koujiebe.blog95.fc2.com/
は日に約6000~7000件のアクセスがあり、
糖尿病のかたやそのご家族から寄せられ た質問への回答や、
糖尿病・糖質制限食に関する 情報の発信に、日々尽力している。
インスリンの功罪。2017年。
1)
基礎分泌インスリンは、ヒトの生命維持に必要不可欠です。

2)
スーパー糖質制限食実践中でも、主として野菜分の糖質は摂取します。
従って、食事のたびに基礎分泌の2~3倍レベルの追加分泌インスリンがでます。

3)
インスリンは血糖値を下げる唯一のホルモンです。


4)
インスリン注射で、1型糖尿病患者の命が助かるようになり、
近年、寿命が延びてきました。

5)
過剰なインスリンは、酸化ストレスとなり、
がん、老化、動脈硬化、糖尿病合併症、アルツハイマー病など
様々な生活習慣病のリスクとなります。



こんにちは。

今回はインスリンの功罪について復習を兼ねて考察してみます。

インスリンには、24時間継続して少量出続けている基礎分泌と、
糖質を摂取して血糖値が上昇したときに出る追加分泌の2種類があります。

タンパク質摂取でも少量のインスリンが追加分泌されますが、
脂質摂取では、インスリンは追加分泌されません。

これでまず解るのは、食物を摂取していないときでも、
人体の代謝には、少量のインスリンが必須ということですね。

このインスリンの基礎分泌がなくなったら、人体の代謝全体が崩壊していきます。

つまり、基礎分泌のインスリンがないと、
全身の高度な代謝失調が生じ、生命の危険があります。

例えば「運動をしたらインスリン非依存的に血糖値がさがる」といっても、
インスリン基礎分泌が確保されているのが前提のお話です。

もし、基礎インスリンが不足している状態で運動すれば、
運動で血糖値はかえって上昇します。

また、肝臓で行っている糖新生も、基礎インスリンが分泌されていなければ制御不能となり、
空腹時血糖値が300mg/dl~400mg/dl、或いはこれ以上にもなります。

また、糖質を食べて血糖値が上昇したとき、
追加分泌のインスリンがでなければ、高血糖が持続します。

高血糖の持続は糖毒といわれ、膵臓のβ細胞を傷害し、
インスリン抵抗性を悪化させます。

さてブドウ糖が、細胞膜を通過するためには、特別な膜輸送タンパク質が必要です。

それが糖輸送体(GLUT)であり、現在GLUT1~GLUT14まで確認されています。

GLUT1は赤血球・脳・網膜などの糖輸送体で常に細胞の表面にあり、
血流さえあれば即血糖を取り込めます。

これに対して筋肉細胞と脂肪細胞に特異的なのがGLUT4で、
基礎分泌のインスリンレベルだと、通常は細胞内部に沈んでいます。

GLUT1~GLUT14の中で、インスリンに依存しているのはGLUT4だけで特殊です。

筋肉細胞と脂肪細胞にあるGLUT-4は、
インスリン追加分泌がないと細胞内に沈んでいるのでブドウ糖を取り込めません。

インスリンが追加分泌されるとGLUT-4は細胞表面に移動して血糖を取り込むのです。

このようにインスリンは、生命の維持に必須の重要なホルモンであることが確認できました。

また近年、1型糖尿病患者の寿命は延びています。

以下、糖尿病ネットワークから一部抜粋。
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2016/024725.php

1975年に米国で行われた調査では1型糖尿病患者の寿命は、健康人に比べて27年短いとされていました。

スコットランドのダンディー大学が2万4,691人の1型糖尿病患者を対象に行った調査では、
20代前半の糖尿病患者の予想される平均余命は、
健康な人に比べ男性で11.1年、女性で12.9年短いという結果になりました(2015年1月報告)。


このようにインスリンの使用法や種類が改善されたことで、
1型糖尿病患者の寿命はかなり改善されてきています。

インスリン注射が、おおいに役に立っているわけです。


一方で過剰なインスリンの害にはエビデンスがあります。

たとえ基準値内でも、インスリンの血中濃度が高いほど、
アルツハイマー病、がん、肥満、高血圧などのリスクとなります。

また、高インスリン血症は、活性酸素を増加させ、
酸化ストレスリスクを生じます。


酸化ストレスは、老化・癌・動脈硬化・糖尿病合併症、その他多くの疾患の元凶とされていて、
パーキンソン病、狭心症、心筋梗塞、アルツハイマー病などにおいても
酸化ストレス関与の可能性が高いをされています。

ロッテルダム研究によれば、
インスリン使用中の糖尿人ではアルツハイマー病の相対危険度は4.3倍です。

Rotterdam研究(Neurology1999:53:1937-1942)
「高齢者糖尿病における、脳血管性痴呆(VD)の相対危険度は2.0倍。
アルツハイマー型痴呆(AD)の相対危険度は1.9倍。
インスリン使用者の相対危険度は4.3倍」


インスリン注射をしている糖尿人は、メトグルコで治療している糖尿人に比べて
ガンのリスクが1.9倍というカナダの研究もあります。

2005年の第65回米国糖尿病学会、
カナダのSamantha博士等が、10309名の糖尿病患者の研究成果を報告、
その後論文化。コホート研究。
 「メトフォルミン(インスリン分泌を促進させない薬)を使用しているグループに比べて、
インスリンを注射しているグループは、癌死亡率が1.9倍高まる。
SU剤(インスリン分泌促進剤)を内服しているグループは癌死亡率が1.3倍高まる。」 
Diabetes Care February 2006 vol. 29 no. 2 254-258


このようにインスリンの弊害を見てみると、
インスリンは血糖コントロールができている限り少なければ少ないほど、
身体には好ましいことがわかります。

別の言い方をすれば、農耕開始後、精製炭水化物開始後、
特に第二次大戦後に世界の食糧事情が良くなってからの糖質の頻回・過剰摂取が、
インスリンの頻回・過剰分泌を招き、
様々な生活習慣病の元凶となった構造が見えてきます。


スーパー糖質制限食を実践すれば、インスリンの分泌は必要最小限で済むようになり、
糖尿病は勿論のこと、様々な生活習慣病の予防が期待できます。

ブログ読者の皆さんも、スーパー糖質制限食実践で、
必要最低限のインスリンで血糖こントロールを維持して、健康ライフを送ってくださいね。

インスリンは糖質代謝の調整が主作用ですが、
それ以外にも下記のごとくいろいろな働きがあります。


☆☆☆インスリンの作用

インスリンは、グリコーゲン合成・タンパク質合成・脂肪合成など、
栄養素の同化を促進し、筋肉、脂肪組織、肝臓に取り込む。

インスリンが作用するのは、主として、筋肉(骨格筋、心筋)、脂肪組織、肝臓である。

A)糖質代謝
*ブドウ糖の筋肉細胞・脂肪細胞内への取り込みを促進させる。
*グリコーゲン合成を促進させる。
*グリコーゲン分解を抑制する。
*肝臓の糖新生を抑制し、ブドウ糖の血中放出を抑制する。

B)タンパク質代謝
*骨格筋に作用してタンパク質合成を促進させる。
*骨格筋に作用してタンパク質の異化を抑制する。

C)脂質代謝
*脂肪の合成を促進する。
*脂肪の分解を抑制する。




江部康二