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糖質制限食と癌④
おはようございます。
昨夜はとても涼しくて、快適に過ごせました。今朝は、22度でしたよ。

さて、今回も糖質制限食と癌のお話しです。

癌の分類として、アジア型の癌と欧米型の癌というのがあります。

アジア型の癌とは、細菌やウィルス感染が、主たる原因となるものです。胃癌、肝癌、子宮頸癌などです。先日の記事の、イヌイットに多いEBウィルス感染による鼻咽頭と唾液腺の癌もその典型ですね。

一方、欧米型の癌は、喫煙、食生活などライフスタイルが大きく関わるものです。肺癌、大腸癌乳癌前立腺癌子宮体癌などです。

かつて、日本に一番多かった癌は、胃癌です。そのほか子宮頸癌、肝臓癌も多かったです。
これらは全て、感染症型の癌です。

胃癌はヘリコバクター・ピロリという細菌の感染が、主たる要因ということが判明しました。水道の普及や冷蔵庫の普及など衛生環境の改善で、感染機会が減少して、胃癌も減少に転じました。

米国では1950年代の初めに、アジア型の癌の代表である胃癌の死亡率を、欧米型の癌の代表である肺癌の死亡率が追い越しました。

日本では1990年台初めに、肺癌の死亡率が胃癌の死亡率を追い越しました。日本は米国より、40年遅れて追いかけてるところです。

子宮頸癌は、ヒトパピローマウィルスの感染、肝癌はC型肝炎ウィルス・B型肝炎ウィルスの感染が主たる要因です。

さて、いよいよ糖質制限食と癌について考えてみましょう。

アジア型の癌(細菌・ウィルス感染が主たる原因)に関しては、糖質制限食でも太刀打ちできません。このことは、イヌイットとEBウィルス感染による鼻咽頭と唾液腺の癌を考えてみれば明らかです。

即ち、イヌイットがまだスーパー糖質制限食だった1910年代、1920年代にも鼻咽頭と唾液腺の癌は増加しています。

一方、欧米型の癌に関してはどうでしょう?

肺癌は、タバコという別格の真犯人がいますから、ひとまずおいておくとして、疫学的エビデンスが明白な乳癌大腸癌を考えてみます。

一般には脂肪の摂りすぎが、乳癌大腸癌のリスクとなると長い間常識として信じられてきました。

しかし、

米国の大規模介入試験(5万人弱の閉経女性を対象に、対照群を置き、平均8年間にわたって追跡)において、

「脂質熱量比率20%で強力に指導したグループは、対照群に比較して心血管疾患、乳がん、大腸がんリスクを下げない」

ことが、アメリカ医学会雑誌2006年2月8日号で報告されました。(JAMA. 2006;295:629-642. 643-654. 655-666.)

この論文により、少なくとも乳癌大腸癌に関しては、脂肪は発症リスクとはならないことが証明されました。

そして、イヌイットスーパー糖質制限食だったころは、乳癌大腸癌はほとんどありませんでした。
イヌイットが糖質を摂取し始めて、30年くらいで乳癌大腸癌が増えています。

これらを合わせて考慮すれば、脂肪ではなく、糖質の過剰摂取こそが、欧米型の癌の大きなリスクである可能性が考えられます。そして糖質制限食なら、その予防ができる可能性があるのです。 (^^)


江部康二

テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
江部先生
いつも貴重な情報ありがとうございます。
早速ですが下記のような情報を発見しました。
糖質制限的にはどうなんでしょうか?
またお暇なときに教えていただければと思います。


短期でも高脂肪の食事をしていると、運動能力や記憶力が損なわれる可能性がある。英ケンブリッジ大学の研究者がこのような研究結果を発表した。
2009/08/25(Tue) 13:28 | URL | 会長 | 【編集
700万年前のトゥーマイ猿人に遡ると無理ですか
江部先生が、2009年07月13日(月)・・・糖質制限食の効果とリスクの中で『人類がゴリラやチンパンジーと分かれて400~500万年です。その後、アウストラロピテクス属、パラントロプス属、ヒト属の3属・17種の人類が栄枯盛衰を繰り返し、結局、約20万年前に東アフリカで誕生したホモ・サピエンス(現世人類)だけが現存しているわけです。』とした上で
『400万年の人類の進化の過程で、<狩猟・採集期間>:<農耕期間>=1000対1で、圧倒的に狩猟・採集期間の方が長いのです。』と書いておられます。
しかし、私のような医学の素人には、
『700万年前に類人猿から分かれた最初の猿人であるトゥーマイ猿人まで遡って考えると、<狩猟・採集期間>:<農耕期間>=1750対1』と書かれても良いように思えるのですが如何なものでしょうか。
または、最古の哺乳類とされるアデロバシレウスや原始霊長類の登場まで遡っても良いようにも思えるのですが~~~!
江部先生は、そう書くと「オーバー表現」とのお考えで400万年としておられるのでしょうが、懐妊後の母体内の幼児の発育過程を見ると、39億年前に最初の原始生命が誕生したとき以来の発育過程が3月10日間で再現されているように思えます。
2009/08/25(Tue) 14:53 | URL | 料理不知のST坂 | 【編集
高脂肪食
会長さん。

糖質制限食は相対的に高脂肪食となります。
高雄病院の患者さんもブログ読者の皆さんも私も・・・
糖質制限食で心身ともに良好の方が多いです。

小児難治性てんかんにおける、超高脂肪食の
ケトン食(脂質75~80%)でも、てんかんが起こらなくなり、
多動児の心理が安定することが報告されています。
2009/08/25(Tue) 15:10 | URL | 江部康二 | 【編集
料理不知のST坂さん

トゥーマイ猿人ですか。
浅学にして知りませんでした。
人類の進化にはいろいろ意見がありますが、
一応のコンセンサスを得てるあたりが
400~500万年前にチンパンジーなどと分かれたという説と思います。

人類の進化の過程において(チンパンジーやゴリラと違う)主食が何か? が大きな意味を持っています。

「親指はなぜ太いのか-直立二足歩行の起原に迫る」
(島泰三、中公新書)
がおおいに参考になりました。

2007年11月04日 (日)のブログ 「人類の進化と食生活⑪農耕以前の人類の主食は? 」
もご参照いただけば幸いです。
2009/08/25(Tue) 15:26 | URL | 江部康二 | 【編集
Re: 糖尿病
匿名希望様。

了解です。
飛田先生はご自身が糖質制限食を実践しておられます。
何かあれば飛田先生とご相談ください。

HbA1cは糖質制限食できっと改善すると思います。
2009/08/25(Tue) 22:30 | URL | 江部康二 | 【編集
会長さんへ

その研究はラットを用いていた実験だったと思います。

生物にとっての毒性の有無などを調べるのには、ラットは適しているかもしれませんが、糖尿病やら食性やらを調べるのには問題があると思います。
ラットでそのような結果がでたとしても、それがそのまま人間に当てはめるのは無理があると思います。
2009/08/26(Wed) 13:57 | URL | めんぼう | 【編集
Re: 糖尿病
匿名希望様


糖質制限食でヘモグロビンA1cが改善し、体重も元に戻ると思いますよ。
2009/08/26(Wed) 14:15 | URL | 江部康二 | 【編集
Re: タイトルなし
めんぼうさん。

ありがとうございます。
マウス・ラットなどネズミ類は、本来の主食は草の種子(即ち今の穀物)です。
草原が地球上の有力な植生として現れる鮮新世(510万年前)以降
ネズミ科の動物が出現して爆発的に繁栄します。
510万年間、草原の草の種子(穀物)を食べ続けてきたネズミに、
高脂肪食を与えれば、代謝が破綻するのは当たり前ですね。

ゴリラに毎日ステーキ食べさせて実験しているようなもんです。( ̄_ ̄|||)
2009/08/26(Wed) 14:27 | URL | 江部康二 | 【編集
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