2009年07月23日 (木)
こんばんは。
本ブログで、糖質制限食と体重減少効果については、コンスタントにコメント・質問を頂いてます。皆さん、美しく痩せたいという願望はありますものね。私も以前、体重増加に悩んだ時期がありますので、お気持ちよくわかりますよ。
ます大雑把に言って、糖質制限食で約9割の人は順調に体重が減少しますが、残りの約1割の人が一筋縄ではいきません。今回は復習を兼ねて、そこら辺を考えてみましょう。
さて、「同一カロリーの摂取であれば、何を食べても減量効果は変わらない」という<カロリー神話>は、大多数の医師・栄養士において現在も根強い信仰のようになっています。
私もかつてはカロリー神話を信じていましたが、人体の生理・代謝を系統的に理論的に考察してみると、はっきり間違いということがわかりました。
まず私自身の体験ですが、42~43歳ごろから体重は徐々に増加し腹回りも順調に育っていきました。
このごろは週2回のテニスの帰りにスポーツジムにもよって自転車こぎや腹筋・背筋運動もやってましたが、なぜかしっかり摘めるお肉が増えているので筋肉増強ではなく脂肪増強に間違いありません。
食事は、主食は玄米や胚芽米で、おかずは野菜や豆腐や魚が中心で、油脂や動物性の肉は極力控えて、カロリーにも注意して、いわゆる「ヘルシー食」を実践していました。
食事も運動も、一般の中年男性に比べれば、はるかに健康的だったのに、「何故だ!!」戸惑いと憤りが湧いてくるものの誰のせいでもありませんし現実は厳しいものでした。
2002年、52歳で糖尿病発覚時にはとうとう体重67kgになって、
血圧は160/100、腹囲は86cmと、
メタボリック・シンドロームの診断基準を見事に満たしていました。(=_=;)
HbA1cは6.3%、身長は167cm。
ここに至り、2002年6月からスーパー糖質制限食を開始しました。
その結果半年間の糖質制限食で、体重は56kgにおち、血圧も120/70、HbA1Cも4.9%と改善し、メタボリック・シンドロームも解消しました。
糖質制限食になって、それまで控えていたビーフステーキなど脂質たっぷりの食品をよく食べるようになったので「ヘルシー食」時代と同等以上にカロリーは摂取していますがこの成果です。
お酒の量も全く同等に飲んでいますが、「純米酒とエビスビール」から、「焼酎と赤ワイン」に完全に切り替えました。赤ワインは例外として、糖質のある「醸造酒」→糖質のない「蒸留酒」への変更ですね。
私一人の成功体験のみ語っても、説得力が弱いので、糖質制限食で減量できるメカニズムを生理学・生化学を駆使して理論的に考察してみましょう。
カロリー制限食と糖質制限食では、痩せる効果に大きな差があるのですが、「糖質制限食」でやせるメカニズムに関しては、以下の四つの要素が重要です。
「糖質制限食」では、糖質を摂取しないので
1 肥満ホルモン(追加分泌インスリン**)がほとんどでない。
2 体脂肪が常に燃えている。
3 血中のケトン体値が高まり、尿中に含有カロリーと共に生理的に排泄される。
4 肝臓でアミノ酸などから糖新生が行われそれに高エネルギーが消費される。
一方、従来の「カロリー制限食」では、糖質を摂取するので
A 血糖値が上昇して肥満ホルモン(追加分泌インスリン)がたっぷり分泌される。
B 体脂肪は燃えなくなり、血糖値が中性脂肪に変わり蓄積される。
C ケトン体は尿中に出なくなる。
D 肝臓の糖新生はストップする。
この<1、2、3、4>と<A、B、C、D>の比較をしてみれば、「糖質制限食」のほうが「インスリン・スイッチが作動するカロリー制限食」より、ダイエット効果があることがお解りいただけると思います。
<1、2、3、4>に関しては、摂取カロリーとは全く無関係の生理学的な事実であり、あくまでも糖質を摂取するか否かが鍵となります。
このように、少なくとも同一カロリーである限りは、糖質制限食が脂肪制限食よりダイエット効果が高いことは、理論的に証明できたと思います。
さて、しかしながら「糖質制限食を実践してもなかなか痩せない!」まれですが、そういう人が確かにおられます。
高雄病院の入院患者さんで、150cm、90kgの女性がおられました。1200キロカロリーの 糖質制限食でも減量できずに、1000キロカロリーの糖質制限食でやっと体重が減り始めました。
どうやら世の中には、痩せやすい人と痩せにくい人がいることは間違いないようですが、その大きな要因として基礎代謝があります。
吉田俊秀先生(京都府立医大臨床教授・肥満外来)によれば、日本女性の平均基礎代謝量は約1200キロカロリー/日ですが、個別には600~2400キロカロリー/日とかなりのばらつきがあるそうです。
単純には、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回れば太るし、下回れば痩せます。
通常のカロリー制限食なら
<消費エネルギー=基礎代謝+運動エネルギー+食事誘発熱産生>です。
糖質制限食なら
<消費エネルギー=基礎代謝+運動エネルギー+食事誘発熱産生> に加えて、
《肝臓の糖新生でエネルギーを消費+尿中ケトン体でエネルギーを消失》が追加です。
基礎代謝は、何も活動していない時でも人体の機能維持に必要なエネルギーで、男性で平均約1500キロカロリー、女性で平均約1200キロカロリーです。
運動エネルギーは、1万歩歩けば、標準体重の人が350キロカロリー、肥満の人は400~500キロカロリーを消費します。
食事誘発熱産生は、食事摂取中に消費するエネルギーですが、日本人は、平均200キロカロリー/日とされています。
こう見てくると消費エネルギーのなかで、基礎代謝が一番大きな割合を占めていることがわかります。
基礎代謝が800キロカロリー/日しかない人ならば、1200キロカロリー/日という低カロリーでもなかなか痩せないことは理解できますよね。
さて、1995年、米国アリゾナ州に居住するネイティブアメリカンの「ピマ族」に、「β3アドレナリン受容体」という物質をつかさどる遺伝子に変異が発見され、これを持つ人は糖尿病や肥満になりやすいことが報告されました。
この報告にヒントを得て、吉田先生が肥満外来の患者さんを調べたところ、34%の人に「β3アドレナリン受容体」の遺伝子変異が見つかったそうです。この遺伝子変異があると、日本人では基礎代謝量が200キロカロリー/日も低下していて、他の人と同じように食べていたら太りやすく痩せにくいのです。
ピマ族や日本人に比較的多く見られるこの遺伝子変異は「倹約遺伝子」とも言うべきもので、脂肪をためやすく燃えにくいようにするものです。
即ち、摂取エネルギーを最大限に吸収し、消費エネルギーを最小限に抑えるという、私達の祖先がかつて食料不足で飢えに苦しめられていたころには、大いに有利に働いていたものと考えられます。
かつては「倹約遺伝子」として有利に働いていたものが、飽食の現代では「肥満遺伝子」と変貌してしまったわけです。(*_*)
もし倹約遺伝子の持ち主であれば、女性で1200キロカロリーの 糖質制限食でも痩せにくいことがあり、「 糖質制限食+カロリー制限食(1000キロカロリー)」が必要となります。
**
肥満ホルモン(インスリン)
糖質を摂取して血糖値が上昇すると、インスリンが追加分泌されて、血糖は骨格筋や心筋などの細胞に取り込まれて利用されたり、グリコーゲンとして蓄えられます。しかし、血中の余剰の血糖は中性脂肪に変えられて体脂肪として蓄積されていきます。インスリンが肥満ホルモンと呼ばれる所以です。糖質制限食なら血糖値はほとんど上昇しないので、インスリンもほとんど追加分泌されません。
江部康二
本ブログで、糖質制限食と体重減少効果については、コンスタントにコメント・質問を頂いてます。皆さん、美しく痩せたいという願望はありますものね。私も以前、体重増加に悩んだ時期がありますので、お気持ちよくわかりますよ。
ます大雑把に言って、糖質制限食で約9割の人は順調に体重が減少しますが、残りの約1割の人が一筋縄ではいきません。今回は復習を兼ねて、そこら辺を考えてみましょう。
さて、「同一カロリーの摂取であれば、何を食べても減量効果は変わらない」という<カロリー神話>は、大多数の医師・栄養士において現在も根強い信仰のようになっています。
私もかつてはカロリー神話を信じていましたが、人体の生理・代謝を系統的に理論的に考察してみると、はっきり間違いということがわかりました。
まず私自身の体験ですが、42~43歳ごろから体重は徐々に増加し腹回りも順調に育っていきました。
このごろは週2回のテニスの帰りにスポーツジムにもよって自転車こぎや腹筋・背筋運動もやってましたが、なぜかしっかり摘めるお肉が増えているので筋肉増強ではなく脂肪増強に間違いありません。
食事は、主食は玄米や胚芽米で、おかずは野菜や豆腐や魚が中心で、油脂や動物性の肉は極力控えて、カロリーにも注意して、いわゆる「ヘルシー食」を実践していました。
食事も運動も、一般の中年男性に比べれば、はるかに健康的だったのに、「何故だ!!」戸惑いと憤りが湧いてくるものの誰のせいでもありませんし現実は厳しいものでした。
2002年、52歳で糖尿病発覚時にはとうとう体重67kgになって、
血圧は160/100、腹囲は86cmと、
メタボリック・シンドロームの診断基準を見事に満たしていました。(=_=;)
HbA1cは6.3%、身長は167cm。
ここに至り、2002年6月からスーパー糖質制限食を開始しました。
その結果半年間の糖質制限食で、体重は56kgにおち、血圧も120/70、HbA1Cも4.9%と改善し、メタボリック・シンドロームも解消しました。
糖質制限食になって、それまで控えていたビーフステーキなど脂質たっぷりの食品をよく食べるようになったので「ヘルシー食」時代と同等以上にカロリーは摂取していますがこの成果です。
お酒の量も全く同等に飲んでいますが、「純米酒とエビスビール」から、「焼酎と赤ワイン」に完全に切り替えました。赤ワインは例外として、糖質のある「醸造酒」→糖質のない「蒸留酒」への変更ですね。
私一人の成功体験のみ語っても、説得力が弱いので、糖質制限食で減量できるメカニズムを生理学・生化学を駆使して理論的に考察してみましょう。
カロリー制限食と糖質制限食では、痩せる効果に大きな差があるのですが、「糖質制限食」でやせるメカニズムに関しては、以下の四つの要素が重要です。
「糖質制限食」では、糖質を摂取しないので
1 肥満ホルモン(追加分泌インスリン**)がほとんどでない。
2 体脂肪が常に燃えている。
3 血中のケトン体値が高まり、尿中に含有カロリーと共に生理的に排泄される。
4 肝臓でアミノ酸などから糖新生が行われそれに高エネルギーが消費される。
一方、従来の「カロリー制限食」では、糖質を摂取するので
A 血糖値が上昇して肥満ホルモン(追加分泌インスリン)がたっぷり分泌される。
B 体脂肪は燃えなくなり、血糖値が中性脂肪に変わり蓄積される。
C ケトン体は尿中に出なくなる。
D 肝臓の糖新生はストップする。
この<1、2、3、4>と<A、B、C、D>の比較をしてみれば、「糖質制限食」のほうが「インスリン・スイッチが作動するカロリー制限食」より、ダイエット効果があることがお解りいただけると思います。
<1、2、3、4>に関しては、摂取カロリーとは全く無関係の生理学的な事実であり、あくまでも糖質を摂取するか否かが鍵となります。
このように、少なくとも同一カロリーである限りは、糖質制限食が脂肪制限食よりダイエット効果が高いことは、理論的に証明できたと思います。
さて、しかしながら「糖質制限食を実践してもなかなか痩せない!」まれですが、そういう人が確かにおられます。
高雄病院の入院患者さんで、150cm、90kgの女性がおられました。1200キロカロリーの 糖質制限食でも減量できずに、1000キロカロリーの糖質制限食でやっと体重が減り始めました。
どうやら世の中には、痩せやすい人と痩せにくい人がいることは間違いないようですが、その大きな要因として基礎代謝があります。
吉田俊秀先生(京都府立医大臨床教授・肥満外来)によれば、日本女性の平均基礎代謝量は約1200キロカロリー/日ですが、個別には600~2400キロカロリー/日とかなりのばらつきがあるそうです。
単純には、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回れば太るし、下回れば痩せます。
通常のカロリー制限食なら
<消費エネルギー=基礎代謝+運動エネルギー+食事誘発熱産生>です。
糖質制限食なら
<消費エネルギー=基礎代謝+運動エネルギー+食事誘発熱産生> に加えて、
《肝臓の糖新生でエネルギーを消費+尿中ケトン体でエネルギーを消失》が追加です。
基礎代謝は、何も活動していない時でも人体の機能維持に必要なエネルギーで、男性で平均約1500キロカロリー、女性で平均約1200キロカロリーです。
運動エネルギーは、1万歩歩けば、標準体重の人が350キロカロリー、肥満の人は400~500キロカロリーを消費します。
食事誘発熱産生は、食事摂取中に消費するエネルギーですが、日本人は、平均200キロカロリー/日とされています。
こう見てくると消費エネルギーのなかで、基礎代謝が一番大きな割合を占めていることがわかります。
基礎代謝が800キロカロリー/日しかない人ならば、1200キロカロリー/日という低カロリーでもなかなか痩せないことは理解できますよね。
さて、1995年、米国アリゾナ州に居住するネイティブアメリカンの「ピマ族」に、「β3アドレナリン受容体」という物質をつかさどる遺伝子に変異が発見され、これを持つ人は糖尿病や肥満になりやすいことが報告されました。
この報告にヒントを得て、吉田先生が肥満外来の患者さんを調べたところ、34%の人に「β3アドレナリン受容体」の遺伝子変異が見つかったそうです。この遺伝子変異があると、日本人では基礎代謝量が200キロカロリー/日も低下していて、他の人と同じように食べていたら太りやすく痩せにくいのです。
ピマ族や日本人に比較的多く見られるこの遺伝子変異は「倹約遺伝子」とも言うべきもので、脂肪をためやすく燃えにくいようにするものです。
即ち、摂取エネルギーを最大限に吸収し、消費エネルギーを最小限に抑えるという、私達の祖先がかつて食料不足で飢えに苦しめられていたころには、大いに有利に働いていたものと考えられます。
かつては「倹約遺伝子」として有利に働いていたものが、飽食の現代では「肥満遺伝子」と変貌してしまったわけです。(*_*)
もし倹約遺伝子の持ち主であれば、女性で1200キロカロリーの 糖質制限食でも痩せにくいことがあり、「 糖質制限食+カロリー制限食(1000キロカロリー)」が必要となります。
**
肥満ホルモン(インスリン)
糖質を摂取して血糖値が上昇すると、インスリンが追加分泌されて、血糖は骨格筋や心筋などの細胞に取り込まれて利用されたり、グリコーゲンとして蓄えられます。しかし、血中の余剰の血糖は中性脂肪に変えられて体脂肪として蓄積されていきます。インスリンが肥満ホルモンと呼ばれる所以です。糖質制限食なら血糖値はほとんど上昇しないので、インスリンもほとんど追加分泌されません。
江部康二
糖尿と診断されて入院中に、先生のブログに行き着きました。病院食は、やはりカロリー制限を主体とした内容で、血糖値は一向に下がる気配はなく、インシュリン単位数は上がるばかりでしたが、自分なりに糖質を避けるよう、ご飯の摂取をやめたところ、いきなり、正常値となりました。退院後、あまりの改善に、薬はメルビンを処方されました。退院後も、糖質制限は続けており、当初の体重68キログラムは、2ヶ月で59kg、空腹時血糖値は入院当初260が90台、食後血糖値も300オーバーが110程度と、まるで夢でも見てるような結果となりました。国外居住のため、食べるものの選択に多少の苦労はあるものの、焼酎、赤ワインは日常的に飲んでいます。
ところで、このメルビンの作用ですが、肝臓の糖新生の抑制というのがあります。とすれば、《肝臓の糖新生でエネルギーを消費+尿中ケトン体でエネルギーを消失》のうち、《肝臓の糖新生でエネルギーを消費》という作用が、メルビンによって相殺されるものなのでしょうか?
つまり、メルビンが肝臓の糖新生を抑えることで、糖新生によるエネルギーの消費も抑えられるということになるのでしょうか?よろしくお願いいたします。
ところで、このメルビンの作用ですが、肝臓の糖新生の抑制というのがあります。とすれば、《肝臓の糖新生でエネルギーを消費+尿中ケトン体でエネルギーを消失》のうち、《肝臓の糖新生でエネルギーを消費》という作用が、メルビンによって相殺されるものなのでしょうか?
つまり、メルビンが肝臓の糖新生を抑えることで、糖新生によるエネルギーの消費も抑えられるということになるのでしょうか?よろしくお願いいたします。
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