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UKPDS終了後10年間のフォローアップ
おはようございます。
今回は合計20年間に及ぶ大規模疫学研究(UKPDS)のお話しです。

<血糖コントロールによる心血管イベントの抑制>

UKPDS(United  Kingdom  Prospective  Diabetes  Study )
UKPDSは、25-65才の4209例の新規の2型糖尿病患者について、英国で実施された平均10年間にわたる過去最大規模の疫学調査です。UKPDSは、1970年代から準備され1977年に開始、1998年に結果が報告されました。その結論は、要約すれば以下の如くです。

厳格血糖コントロール群(平均HbA1C 7.0%)と
標準血糖コントロール群(平均HbA1C 7.9%)を比較したところ、

1) 2型糖尿病では血糖コントロールにより合併症、糖尿病性細小血管障害の
   リスクが減少する。
2) 罹病率と死亡率は血糖コントロール状況による統計的有意差は認められなかった。
3) メトホルミン(ビグアナイド系)は肥満の2型糖尿病患者で死亡率を減少させた。
4) 2型糖尿病で合併症のリスクの軽減が統計学的に証明された薬剤は
   グリペンクラミド(オイグルコン)だけである。

つまり、1998年のUKPDS報告によれば、インスリンやSU剤で強化治療して血糖をコントロールした厳格群で細小血管障害(腎症、網膜症)は有意に抑制されることが証明されましたが、大血管障害(心筋梗塞など)抑制効果を示すことはできませんでした。従ってこの時点では、死亡率も減少していませんでした。

このままでは、厳格に血糖コントロールをしても、心筋梗塞は予防できないという結論になってしまいますが、UKPDS終了後10年間のフォローアップ研究が続けられて、2008年10月にN Engl J Med 電子版に報告されました。*

その結果、今回は有意差がでて厳格コントロール群のほうが標準コントロール群に比し

1)すべての糖尿病関連イベント
2)糖尿病関連死
3)全死亡
4)心筋梗塞
5)細小血管障害

で有意な抑制効果を示しました。

10年間のフォローアップ期間中は、血糖コントロール目標や使用薬剤は、主治医と患者の判断に委ねられており、食事療法が原則であったかつての標準群でも、自由にインスリン,SU薬,メトホルミンの使用が可能でした。

その結果、インスリンやSU薬による厳格群でもメトホルミンによる厳格群でも、UKPDSの終了後1年でHbA1Cにおける標準群との差異は消失していました。

インスリンやSU薬といった使用薬剤の比率は、UKPDSの終了後5年目までに標準群と同等になっていました。フォローアップ期間中の体重は、厳格群でも標準群でも大きな変化を示さず、脂質や血圧についても厳格群と標準群とで差異はありませんでした。

つまり、研究終了後の10年間は、厳格群も標準群も動脈硬化に関わる要因は、全て同一条件になったのです。

従って、研究期間の最初の10年間で、厳格血糖コントロールをしたグループが、そのときには心筋梗塞予防効果は有意差が出なかったけれど、次の10年間で、持ち越し効果がはっきり現れてきたことになります。

血糖コントロールによる大血管障害抑制効果が証明できるまで、実に20年間を要したわけですね。

この持ち越し効果のことを、UKPDSの研究者は“legacy effect”と呼んでいます。日本の糖尿病専門医は、メタボリックメモリーと呼ぶそうです。

この結果を考察すると、「新規の糖尿病患者で、初期の段階に血糖コントロールを改善することが、10年、20年後の心筋梗塞を予防することにつながる」ということになりますね。

糖質制限食の役割はますます大きくなりそうです。

今回のブログは北里研究所病院糖尿病センター 山田 悟先生が医師会員制メディカルトリビューンMTproに書いておられる原稿を参考にさせていただきました。山田悟先生ありがとうございました。


10-Year Follow-up of Intensive Glucose Control in Type 2 Diabetes
R. R. Holman and Others - 9 Oct, 2008 N Engl J Med


江部康二

テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
こんちは
最近食生活が乱れ気味です。
2月の血糖値99
HbA1c6.4でした
この頃舌に軽い痺れみたいな違和感を感じ
喉の乾きも有ります。やはり要注意ですよね食欲を抑えるのがとても辛いです。糖尿病が悪化する時食欲旺盛になると言うのは本当でしょうか?
それと足がビリッと
痛くなる時が有ります医者は数値から見て
糖尿病から来る痛みでは無いと言われましたが心配です。
ご意見をお願い致します。
2009/03/19(Thu) 08:50 | URL | 留美子 | 【編集
 拝啓 江部先生、春うららかな心地良い陽気となって参りました。以前、食後の運動の件などでアドバイスを賜り有難うございました。
 さて、私は昨夏より糖質制限食(スーパーを基本にスタンダードを併用)を実践してきております。しかし、私は無類の麺好きなので、少々大袈裟ですが、日々その食欲との闘いです。以前先生がブログで書かれていたような気がしますが、炭水化物中毒についても、機会があればご教示下されば幸いです。私も先生がおっしゃるように「おいしく楽しく」をモットーに、これからも糖質制限食に励んでいこうと思います。
 そこで、お伺いしたいのですが、糖質を摂取する機会を1週間(1日3食×週7日=21食)のうち何回くらいまでなら許せるのか、あえて先生に「週○回位なら、まぁOK」とのお墨付きを頂きたいのですが、いかがでしょうか。
 私(46歳男、糖尿病歴3~4年位、通院歴なし)の場合、麺の摂取(糖質50~70g)で血糖値が210~230ほどまで上がります(空腹時血糖値は110前後で安定しています)。この値は1時間値も2時間値もほぼ変わらないか、むしろ2時間値の方が高い場合が多いです。こういう糖尿人は稀なのかもしれませんが、それだけグルコーススパイクに侵される時間が長いということになりますよね。グルコバイも試してみますが、ほとんど効果が薄いです。
 私は「週3~4回までなら」糖質食(麺のみ)OKとしようかなと思っているのですが、先生甘いでしょうか。可能な範囲で食後運動にも取り組みます。
2009/03/19(Thu) 14:17 | URL | 糖質制限食に励むにあたり | 【編集
痛み
留美子さん。

「2月の血糖値99
HbA1c6.4でした」

血糖値がいい割に、HbA1cが5.8より高いので
糖質摂取後の
食後高血糖が少しあると考えられます。
のどの渇きはそのためでしょうか。

糖質制限食ですので
脂質、タンパク質は満腹まで食べて大丈夫です。

足の痛みは、糖尿病とは無関係と思います。

「糖尿病が悪化する時食欲旺盛になると言うのは本当でしょうか? 」
よくわかりませんが、関係ないと思います。
2009/03/19(Thu) 18:18 | URL | 江部康二 | 【編集
糖質制限食に励むにあたり
空腹時血糖値は110mgと目標達成ですね。

食後2時間血糖値180mg未満が目標です。
それで動脈硬化の合併症が予防できます。

それを超える時間が長いほど、回数が多いほどリスクとなります。

1回に摂取する糖質の量を考慮し自己管理しましょう。

糖質制限ドットコムの大豆パスタもいいですよ。
2009/03/19(Thu) 18:24 | URL | 江部康二 | 【編集
ありがとうございました。私はまだ糖質制限食をしていないので
試して見ようと思います。
2009/03/19(Thu) 20:35 | URL | 留美子 | 【編集
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