2009年01月08日 (木)
おはようございます。
今日は、血糖調節システムのお話しです。
人体の血糖調節は、なかなか精妙で複雑なシステムにより維持されています。血糖値は「食事」、「肝臓によるグリコーゲン分解・糖新生と糖の取り込み」、「運動」、「ストレス」、「インスリン・グルカゴンなどホルモン」・・・いろいろな要素が合わさって調節されています。
① 空腹時
食物吸収が終了した直後には、肝臓のグリコーゲン分解が、循環血液中に入るブドウ糖の主要な供給源です。食後数時間が経過し、絶食状態が持続すると、ブドウ糖の供給源は、肝のグリコーゲン分解から糖新生に切り替わります。
② 摂食時
摂食時には消化管から吸収されたブドウ糖は、門脈血からまず肝臓に約50%取り込まれて、それ以外が血液の大循環に回ります。
肝細胞でのブドウ糖取り込み自体は、糖輸送体Glut2*を介して行われ、インスリン追加分泌とは関係ありません。しかし肝に取り込まれたブドウ糖はインスリンによりグリコーゲンとして蓄えられます。
糖尿人では<肝臓のグリコーゲン分解と糖新生>が摂食時にも抑制されにくいので、食後高血糖となります。また糖尿人は、門脈血からの肝臓のブドウ糖取り込みも低下しているので、この面でも食後高血糖を起こしやすいのです。
糖質摂食して血糖値が上昇すれば、正常人では速やかにインスリンが追加分泌されます。
肝臓に取り込まれなかったブドウ糖は、肝静脈から血中に入り、動脈血中に入ったブドウ糖は、インスリン追加分泌により細胞表面に移動した糖輸送体GLUT4により骨格筋や脂肪細胞に取り込まれます。骨格筋が、約70%の血糖を取り込みます。
これにより血糖値も速やかに下がります。取り込まれず余った血糖は、インスリンにより中性脂肪に変換されます。
しかし、糖尿人の場合は、血液中のブドウ糖(食後高血糖)は<インスリン分泌不足>と<筋肉や脂肪細胞におけるインスリン抵抗性>により処理されにくいので、食後高血糖が遷延します。
また、インスリン作用不足による脂質代謝異常、アミノ酸代謝異常、高血糖そのものによるインスリン作用低下、インスリン拮抗ホルモン優位、など様々な因子が重なり合って、高血糖が持続するのですね。
さらに糖尿人の一部においては、胃不全麻痺**による内容物の排出遅延があり、吸収も遅延して通常よりかなり遅れて血糖値が上昇することがあります。
③ 運動時
安静時には、インスリンの基礎分泌はありますが少量なので、糖輸送体(Glut4)は細胞表面にでてこれず、筋肉細胞・脂肪細胞は血糖をほとんど取り込まめません。
運動時(筋収縮時)には筋肉細胞の糖輸送体(Glut4)がインスリン追加分泌がなくても細胞表面に移動して、血糖を取り込むことが可能となり、血糖値が下がります。筋肉細胞が血糖を取り込んでエネルギー源とした後、筋肉中のグリコーゲンが満杯になれば、取り込みはストップします。脂肪細胞は運動には無関係です。ジョギングや歩行ていどの軽い運動が適切とされています。
糖尿人でインスリンの基礎分泌があるていど以上不足していると、運動によりかえって血糖値が上昇することがあるので注意が必要です。
バーンスタイン医師によれば、個人差はありますが空腹時血糖値170mg/dlを超えているような場合はそのような可能性があるとのことです。
また強度の強い運動だと、アドレナリンや副腎皮質ホルモンなどのインスリン拮抗ホルモンが分泌されますので、血糖値が上昇することがあります。
④ ストレス
急性のストレスがあると、アドレナリン、グルカゴン、副腎皮質ステロイドホルモンなど血糖値を上げるホルモンが分泌されますので血糖値が上昇します。
血糖値は、①.②.③.④などの因子が複雑に絡み合ったシステムにより調節されています。たかが血糖値されど血糖値、なかなか一筋縄ではいきませんね。
*
糖輸送体(Glut:glucose transporter)
ブドウ糖が細胞膜を通過して細胞内に取り込まれるためには、グルコーストランスポーター(糖輸送体)と呼ばれる膜蛋白が必要です。
Glut1~Glut12と HMITが報告されています。
Glut1(脳、赤血球、網膜などの糖輸送体)はインスリン非依存性です。
Glut2(肝臓、膵臓のβ細胞などの糖輸送体)はインスリン非依存性です。
Glut4(筋肉細胞、脂肪細胞の糖輸送体)はインスリン依存性です。
**胃不全麻痺
バーンスタイン医師(米国の1型糖尿病の医師で糖質制限食実践中)の本にも記載されている<胃排泄遅延・胃不全麻痺>が年期の入った糖尿人ではありえます。欧米人には胃不全麻痺が結構多いようですが日本人でも当然ありえます。
胃不全麻痺のある糖尿人は、夕食を午後6時頃食べても、胃からの排泄が遅延して吸収が遅くなり、通常よりかなり遅れて血糖値が上昇することがあります。そのため翌朝の空腹時血糖値が高値となることがあります。
江部康二
今日は、血糖調節システムのお話しです。
人体の血糖調節は、なかなか精妙で複雑なシステムにより維持されています。血糖値は「食事」、「肝臓によるグリコーゲン分解・糖新生と糖の取り込み」、「運動」、「ストレス」、「インスリン・グルカゴンなどホルモン」・・・いろいろな要素が合わさって調節されています。
① 空腹時
食物吸収が終了した直後には、肝臓のグリコーゲン分解が、循環血液中に入るブドウ糖の主要な供給源です。食後数時間が経過し、絶食状態が持続すると、ブドウ糖の供給源は、肝のグリコーゲン分解から糖新生に切り替わります。
② 摂食時
摂食時には消化管から吸収されたブドウ糖は、門脈血からまず肝臓に約50%取り込まれて、それ以外が血液の大循環に回ります。
肝細胞でのブドウ糖取り込み自体は、糖輸送体Glut2*を介して行われ、インスリン追加分泌とは関係ありません。しかし肝に取り込まれたブドウ糖はインスリンによりグリコーゲンとして蓄えられます。
糖尿人では<肝臓のグリコーゲン分解と糖新生>が摂食時にも抑制されにくいので、食後高血糖となります。また糖尿人は、門脈血からの肝臓のブドウ糖取り込みも低下しているので、この面でも食後高血糖を起こしやすいのです。
糖質摂食して血糖値が上昇すれば、正常人では速やかにインスリンが追加分泌されます。
肝臓に取り込まれなかったブドウ糖は、肝静脈から血中に入り、動脈血中に入ったブドウ糖は、インスリン追加分泌により細胞表面に移動した糖輸送体GLUT4により骨格筋や脂肪細胞に取り込まれます。骨格筋が、約70%の血糖を取り込みます。
これにより血糖値も速やかに下がります。取り込まれず余った血糖は、インスリンにより中性脂肪に変換されます。
しかし、糖尿人の場合は、血液中のブドウ糖(食後高血糖)は<インスリン分泌不足>と<筋肉や脂肪細胞におけるインスリン抵抗性>により処理されにくいので、食後高血糖が遷延します。
また、インスリン作用不足による脂質代謝異常、アミノ酸代謝異常、高血糖そのものによるインスリン作用低下、インスリン拮抗ホルモン優位、など様々な因子が重なり合って、高血糖が持続するのですね。
さらに糖尿人の一部においては、胃不全麻痺**による内容物の排出遅延があり、吸収も遅延して通常よりかなり遅れて血糖値が上昇することがあります。
③ 運動時
安静時には、インスリンの基礎分泌はありますが少量なので、糖輸送体(Glut4)は細胞表面にでてこれず、筋肉細胞・脂肪細胞は血糖をほとんど取り込まめません。
運動時(筋収縮時)には筋肉細胞の糖輸送体(Glut4)がインスリン追加分泌がなくても細胞表面に移動して、血糖を取り込むことが可能となり、血糖値が下がります。筋肉細胞が血糖を取り込んでエネルギー源とした後、筋肉中のグリコーゲンが満杯になれば、取り込みはストップします。脂肪細胞は運動には無関係です。ジョギングや歩行ていどの軽い運動が適切とされています。
糖尿人でインスリンの基礎分泌があるていど以上不足していると、運動によりかえって血糖値が上昇することがあるので注意が必要です。
バーンスタイン医師によれば、個人差はありますが空腹時血糖値170mg/dlを超えているような場合はそのような可能性があるとのことです。
また強度の強い運動だと、アドレナリンや副腎皮質ホルモンなどのインスリン拮抗ホルモンが分泌されますので、血糖値が上昇することがあります。
④ ストレス
急性のストレスがあると、アドレナリン、グルカゴン、副腎皮質ステロイドホルモンなど血糖値を上げるホルモンが分泌されますので血糖値が上昇します。
血糖値は、①.②.③.④などの因子が複雑に絡み合ったシステムにより調節されています。たかが血糖値されど血糖値、なかなか一筋縄ではいきませんね。
*
糖輸送体(Glut:glucose transporter)
ブドウ糖が細胞膜を通過して細胞内に取り込まれるためには、グルコーストランスポーター(糖輸送体)と呼ばれる膜蛋白が必要です。
Glut1~Glut12と HMITが報告されています。
Glut1(脳、赤血球、網膜などの糖輸送体)はインスリン非依存性です。
Glut2(肝臓、膵臓のβ細胞などの糖輸送体)はインスリン非依存性です。
Glut4(筋肉細胞、脂肪細胞の糖輸送体)はインスリン依存性です。
**胃不全麻痺
バーンスタイン医師(米国の1型糖尿病の医師で糖質制限食実践中)の本にも記載されている<胃排泄遅延・胃不全麻痺>が年期の入った糖尿人ではありえます。欧米人には胃不全麻痺が結構多いようですが日本人でも当然ありえます。
胃不全麻痺のある糖尿人は、夕食を午後6時頃食べても、胃からの排泄が遅延して吸収が遅くなり、通常よりかなり遅れて血糖値が上昇することがあります。そのため翌朝の空腹時血糖値が高値となることがあります。
江部康二
先生
いつかつレンダーを作ってください。先生の十ヶ条やいろいろな教えを書いてあるカレンダーや日めくり帳があったらいいな~と思います。食卓において食事をするときに気をつけるように…私は先生の十か条を大きくコピーして張っています。今朝は血糖値86でした。ありがとうございます。
いつかつレンダーを作ってください。先生の十ヶ条やいろいろな教えを書いてあるカレンダーや日めくり帳があったらいいな~と思います。食卓において食事をするときに気をつけるように…私は先生の十か条を大きくコピーして張っています。今朝は血糖値86でした。ありがとうございます。
中部甲信地区に住みますDM患者です。DM関連探していてたどり着きました。ご面倒でなければ、質問よろしいでしょうか?
長くなりますが、申し訳ありません。
私PKからの2次性DMを患っております(pPPD後4年半、LNrev後1年3月)、服用は現在ノボ30を13+10+13、他エクセラーゼ、ガスモチン、タガメットを食後服用しております。ケモは昨年9月にCRだった為打ち切りしています(S1+GEMでした)
さて、昨年6月頃まではノボ30を3+3+3で空腹時110-140、A1C6.7程度にコントロールできていたのですが、その後制御出来なくなり、5+5+5、7+7+7、10+10+10、ときて現在昼食前に160-200、昼食後2時間値400越え、夕食前に70-60、ひどい時には48程度となりA1Cも8.5と悪化しております(座り仕事のため、運動は15分程度のウォーキングです)。朝はセンサの温度上がらず測定できておりません。ちなみに身長・体重は165・62、BMI22-23といったところです。
先生でしたら、どんな治療メニューをお考えになるでしょう?この手の悪化するだけの患者、主治医から見放されると困ってしまい、なんとかしたいのですが。
PSはまだ0、普通に仕事が出来ています。血中アルブミン3.9、まだ踏ん張れるかと思っているのですが。
長くなりますが、申し訳ありません。
私PKからの2次性DMを患っております(pPPD後4年半、LNrev後1年3月)、服用は現在ノボ30を13+10+13、他エクセラーゼ、ガスモチン、タガメットを食後服用しております。ケモは昨年9月にCRだった為打ち切りしています(S1+GEMでした)
さて、昨年6月頃まではノボ30を3+3+3で空腹時110-140、A1C6.7程度にコントロールできていたのですが、その後制御出来なくなり、5+5+5、7+7+7、10+10+10、ときて現在昼食前に160-200、昼食後2時間値400越え、夕食前に70-60、ひどい時には48程度となりA1Cも8.5と悪化しております(座り仕事のため、運動は15分程度のウォーキングです)。朝はセンサの温度上がらず測定できておりません。ちなみに身長・体重は165・62、BMI22-23といったところです。
先生でしたら、どんな治療メニューをお考えになるでしょう?この手の悪化するだけの患者、主治医から見放されると困ってしまい、なんとかしたいのですが。
PSはまだ0、普通に仕事が出来ています。血中アルブミン3.9、まだ踏ん張れるかと思っているのですが。
2009/01/12(Mon) 23:46 | URL | wanwa | 【編集】
wanwaさん。
糖質制限食と糖尿病について
諏訪中央病院東洋医学センター長坂和彦先生にご相談ください。
諏訪中央病院 長野県茅野市玉川4300番地 TEL 0266-72-1000(代)
糖質制限食と糖尿病について
諏訪中央病院東洋医学センター長坂和彦先生にご相談ください。
諏訪中央病院 長野県茅野市玉川4300番地 TEL 0266-72-1000(代)
2009/01/13(Tue) 16:30 | URL | 江部康二 | 【編集】
先生、レスありがとうございます。
諏訪までなら、車で1時間ほど。セカンド申し込んでみます。
諏訪までなら、車で1時間ほど。セカンド申し込んでみます。
2009/01/13(Tue) 23:01 | URL | wanwa | 【編集】
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