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1900年代初期からの米国糖尿病食事療法の変遷。
こんにちは。
今回は、<1900年代初期からの米国糖尿病食事療法の変遷>
について考察してみます。

米国糖尿病食事療法の変遷 

<インスリン発見前>

1900年代初期までは米国では糖尿病治療食としては、糖質制限食が主流でし た。
それも、ほぼスーパー糖質制限食です。
おそら くヨーロッパでも同様で あった思われます。
この頃すでに、食後血糖値を上昇させるのは、
3大栄養素 のなかで主として糖質であるという ことが、認識されていたからです。
例えば、糖尿病学の父と呼ばれるエリオット・ジョスリン医師が執筆した
「ジョスリン糖尿病学」の初版は1916年出版ですが、
炭水化物は総摂取カロリーの20%が標準と記載してあります。

当時 は血糖値の測定はまだあまり一般的でなかったたので、
もっぱら尿糖を検査し ていました。
尿糖が でない食事療法が糖尿病治療において優れているとさ れ、
それが糖質制限食でした。
個人差はありますが尿に糖が出始めるのは、
血 糖値が 170~180mg/dLを超えたときですので、
当時としてはなかなか良い指標 でした。

このころ1型糖尿病は、診断後平均余命6ヶ月の致命的な病気でした。
その1型糖尿病患者に、フレデリック・アレ ン医師の考案した
「飢餓療法(炭水化物をほとんど含まない400kcal/日てい どの食 事)」が適用されて、
極端な低カロリー食で、寿命を数ヶ月から1~2 年、まれに3年延ばしましたが、
結局は致命的な疾患でした。
飢餓療法が一定の 効果をあげたのは、
内因性インスリンゼロの1型糖尿病においては、
糖質が直接血糖値を上昇させると共に、
タンパク質も間接的に糖新生により血糖値を上昇させることが
関与していたと考えられます。
ちなみにジョスリン医師とア レン医師は、
ハーバード大学医学 部の同窓生で良い友人でした。

<インスリン抽出以後>

1921年にカナダの整形外科医フレデリック・バンティングと
医学生チャール ズ・ベストがインスリンの抽出に初めて成功しまし た。
トロント総合病院に おいて、
1922年に当時14才の1型糖尿病患者(レナード・トンプスン少年)に 初めて注射し、血糖コント ロールに成功しました。
1型糖尿病はインスリン の登場までは、致命的な病気でしたが、
インスリンにより生命を保つことが可能となりました。

その後、インスリンを注射しておけば糖質を摂取しても血 糖値が上昇しないことが、
徐々に周知されるようになりました。
その結果、 正常人なみに糖質を食べても、
インスリンさえ打っておけばいいという流れと なっていき、
1型においても2型においても、米国糖尿人の糖質摂取量は徐々に増えていきました。

<ADA(米国糖尿病学会)食事療法ガイドラインの変遷など>

ADA(米国糖尿病学会)ガイドラインが初めて制定されたのが1950年です。
上 述の流れを受けて、第一回目のガイドライン制 定時には、
ADAは総摂取カロリーに対して、炭水化物の摂取量を以前より増やしました。

1950年のガイドラ インでは炭水化物40% を推奨。
1971年のガイドラインでは炭水化物45%に増えました。
1986年のガイドライン でさらに炭水化物60%と増加。

1994 年のガイドラインでは、
総摂取カロリー に対してタンパク質10~20%という規定がありますが、
炭水化物・脂質の規定 はなくなりまし た。
1994年のガイドラインの時、
オリーブオイルたっぷりの 地中海食も選択肢に加わわりました。
1994年以降、ガイドラインでは 炭水化 物と脂肪のカロリー比を固定しなくなりました。

1993年に発表された米国の1 型糖尿病研究・DCCTにおいて、
糖質管理食 (カーボカウント)が成功を収め たことから、
欧米では、糖質管理食が、1型糖尿病患者を中心に広まっていき ました。

1997年版米国 糖尿病学会の患者用テキストブックには
「糖質は 100%、タンパク質が50%、脂質が10%未満血糖に変わる」
とされていましたが、 2004年版では
「血糖値を上昇させるのは、糖質だけで、タンパク質・脂 質は上昇させない」
という記載に変更されました。

2005年、ボストンのジョ スリン糖尿病センターは、
炭水化物の推奨量を40%に下げました。
(Joslin Diabetes Mellitus 第14版、2005年、616ページ)。

ジョスリン糖尿病セン ターは、全米で最も評価の高い糖尿病治療センターの一つです。

<近年のADA(米国糖尿病学会)の、「食事療法に関する声明」の変遷>

2007年までは、ADA(米国糖尿病学会)は、
食事療法において、糖質制限食は 推奨しないとしていました。

ADA(米国糖尿 病学会)の「食事療法に関する声 明2008」において
「糖質のモニタリングは血糖管理の鍵となる」とランクAで 推奨され、
「減量が望 まれる糖尿病患者には低カロリー食、
もしくは低炭水化物食によるダイエットが推奨される」
と低糖質食を一定支持する見解が初めてだされました。

さらに2013年10月のADA(米国糖尿病学会)の、
成人糖尿病患者の食事療法に関する声明(Position Statement on Nutrition Therapy)では、
全ての糖尿病患者に適した唯一無二の食事パターンは
存在しないとの見 解を表明しました。

そして、患者ごとにさまざまな食事パターン
〔地中海 食,ベジタリアン食,糖質制限食,低脂質食,DASH食(高血圧食))食〕が受容可能であるとしています。
*DASH食は、Dietary Approaches to Stop Hypertensionの略称です。

糖質制限食も正式 に認められています。

このADAの見解は、1969年の食品交換表第2版 以降 2013年の第7版まで、
40年以上一貫して唯一無二のカロリー制限食を推奨し続 けている日本糖尿病学会への
痛烈な批判となっ ています。

ADAの「食事療法に 関する声明2013」は、日本の糖質制限食にとって、
大きな追い風となりました。

さらに、米国糖尿病学会は、
2019年4月「コンセンサス・リコメンデーション」において
「糖質制限食(超低炭水化物食も含めて)は最も研究されている食事療法の一つである」
と明言して、一推しで推奨しました。
2020年、2021年、2022年、2023年のガイドラインでも同様の見解です。
このことは、日本の糖質制限食推進派医師にとって
これ以上ない強力な援軍となりました。


江部康二

コメント
肉中心の糖質制限食とコレステロール
江部先生、いつもお世話になっています。

スーパー糖質制限は、タンパク質・脂質無制限食とされていますが、肉や卵を無制限に食べた場合も、コレステロールに影響はないのでしょうか。近所の内科医は、コレステロールが高い場合、肉や卵を控えて、魚と野菜をしっかり食べるようにと言っています。

私は、江部先生が説明されている縄文時代の肉を中心とした食事については理解していますが、それでも、コレステロールとの関係はどうなのか、コレステロール値を下げるには、肉より魚のほうが良いのか、という点がよく分かりません。その点は、どうなのでしょうか。

また、その点がどうであれ、私が特にお尋ねしたいのは、LDLの基準値は140mg未満とされていますが、140mg以上であった場合は、薬で下げたほうが良いのかどうかということです。
2024/02/20(Tue) 08:02 | URL | 倉田 | 【編集
回答ありがとうございました
江部先生の回答と清水先生の解説を読みましたが、説明されている数値の関係性や意味を理解するのがなかなか難しいです。
私の数値は、BMI20、中性脂肪165、総コレステロール233、HDL50、LDL150です。BMIが20の割には中性脂肪が多いといえるのでしょうか。
医師からはLDL値が高いという理由で、内服薬を勧められていますが、この数値の状態をどのように考えればよいのでしょうか、あるいは、薬はのんだほうが良いのでしょうか。
2024/02/20(Tue) 21:04 | URL | 倉田 | 【編集
Re: 回答ありがとうございました
倉田 さん

10時間以上の絶食で、朝の空腹時で検査しましょう。
それで、中性脂肪が60~80mg/dl以下、HDLコレステロールが60mg/dl以上なら

LDLコレステロールが140mg/dl以上あっても、ほとんどが標準の大きさの善玉LDLコレステロールなので
問題はなく、内服薬も必要ありません。
2024/02/21(Wed) 13:28 | URL | ドクター江部 | 【編集
米国眼科学会のNewsでも、糖質制限食でいい結果を報告しています

https://www.aao.org/education/headline/week-in-review-glaucoma-diet-paralysis-surgery-nov
2024/03/01(Fri) 01:09 | URL | 中嶋一雄 | 【編集
Re: タイトルなし
中嶋 先生

ありがとうございます。
明日の記事にしたいと思います。

2024/03/01(Fri) 15:27 | URL | ドクター江部 | 【編集
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