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日本の糖尿病食・糖質制限食の歴史。
<プロローグ>
こんにちは。

現在ではファミリーレストランのガストやリンガーハットでも、くら寿司でも
糖質オフメニューがあります。
ローソンやファミリーマートでも、糖質制限なパンが販売されています。
あの山崎パンも、今や、糖質制限なパンを販売しています。

2005年に日本で初めて、
糖質制限食の本「主食を抜けば糖尿病は良くなる!」(糖尿経済新報社)を刊行した頃は、
糖質制限な食品が何もなくて、とても苦労したのですが、今や、今昔の感があります。

2016/7/20(水)、NHKクローズアップ現代で糖質制限食が特集されました。
NHKによれば、糖質制限食が空前のブームだそうで、
関連の市場は当時で¥3184億円とのことでした。

今や2023年で、糖質制限市場はさらに加速して拡大しています。
中国や韓国や台湾でも、私の糖質制限の本の訳本が出版されています。

私は、糖質制限食はブームではなく、科学的な真理そのものと考えています。
従ってブームのように消え去ることはなく、今後もどんどん繁栄していくと思います。

今回は、その糖質制限食と糖尿病食の歴史を考察してみました。

<夏目漱石と糖尿病と厳重食>
文豪夏目漱石(1867~1916年)は、糖尿病でした。
大正5年(1916)正月、右の上膊(上腕)神経に強い痛みと右上膊(上腕)の不全麻痺。
薬、マッサージは無効。4月、糖尿病と診断。
教え子の医師真鍋嘉一郎により、5月から、当時の最先端治療の「厳重食」を開始。尿糖は消失。
7月終わりには、右の上膊神経に強い痛みと右上膊の不全麻痺が改善。
神経衰弱の症状も減退。糖尿病も改善。11月、胃潰瘍が再発。
12月9日、胃潰瘍による出血で死亡。
厳重食で、糖尿病と糖尿病神経障害は著明改善ですが、残念ながら胃潰瘍のために死去しています。

<厳重食=スーパー糖質制限食>

昭和13年、18年の女子栄養大学の以下の「厳重食」の解説をみると、まさに、「厳重食=スーパー糖質制限食」です。

『肉類(牛、豚、鶏、魚肉、内臓、心臓、肝臓、舌、膈、腎臓、骨髄)、貝類、卵類(鶏卵、鳥卵、魚卵)、脂肪類(バター類、豚脂、ヘッド、肝油、オリーブ油、ごま油、)、豆類(豆腐、油揚げなど)、
味噌は少量、野菜(含水炭素5%以下)小松菜、京菜、白菜、筍、レタス、蕗、大根、アスパラ、果実(含水炭素の少ないもの)びわ、すもも、苺、いちじく、メロン、パイナップル、パパイヤ、りんご、蜜柑、夏みかん・・・
*梨、ブドウ、柿、バナナはやや糖質が多いので警戒を要する。』


夏目漱石と厳重食1)2)については、
精神科医師Aこと中嶋一雄医師に資料を提供して頂きました。ありがとうございました。

<日本における糖尿病食事療法の変遷>
日本でも、昭和18年(1943年) 頃は、まだ厳重食のほうが、幅を利かせていたようです。

そして日本糖尿病学会のバイブルのような食品交換表初版が1965年に発行されました。
この時、適正なカロリーということが強調されました、。
解説には、食事療法の原則として
「①適正なカロリー②糖質量の制限③糖質、たんぱく質、脂質のバランス④ビタミンおよびミネラルの適正な補給」
と記載されています。
なんと、2番目には驚くべきことに「糖質量の制限」と明記してあります。
これが、1969年の第2版になると
「①適正なカロリー(カロリーの制限)②糖質、たんぱく質、脂質のバランス③ビタミンおよびミネラルの適正な補給」
と変更されて、
「糖質量の制限」という文言が削除されています。
糖尿病食事療法の原則から、「糖質制限」が消えて、「カロリーの制限」が登場したのが2版です。

これ以降の食品交換表は、2013年、11年ぶりに改訂された第7版にいたるまで、「カロリー制限」一辺倒でした。

2013年10月の米国糖尿病学会の「栄養療法に関する声明」では、全ての糖尿病患者に適した“one-size-fits-all(唯一無二の)”食事パターンは存在しないとの見解を表明しました。
これに対して、日本糖尿病学会は、唯一無二の糖尿病食事療法として「カロリー制限・高糖質食」を、
1969年以来、現在まで推奨し続けています。

<日本における糖質制限食の歴史>
 戦前までは、厳重食があったのですが、1969年以降はすっかり消えてしまいました。
その後の糖質制限食の臨床実践は、1999年から釜池医師が宇和島で開始し、
同時に高雄病院でも筆者の兄江部洋一郎医師が開始し有効例を重ねました。

その経験を踏まえ医学文献では、2004年に筆者が本邦初の糖質制限食有効例の報告を行いました3)。
2005年には筆者が本邦初の一般向けの本を出版しました4)。

2006年荒木医師が「断糖宣言」、2007年釜池医師が「糖質ゼロの食事術」を刊行しました。
坂東医師、中村医師は約1000人を肥満外来で治療し糖質制限食の有効性を2008年に報告しました5)。
2009年、2010年、医学雑誌に筆者が小論文を発表しました6)7)。

その後、2012年に山田悟医師、白澤医師、2013年に夏井医師、2014年に渡辺信幸医師、
2015年に宗田医師が一般向け糖質制限食の本を出版しました8)9)10)11)12)。
糖質制限食の広がり、いよいよ加速がついてきました13)14)15)。
その後もほぼ毎年、糖質制限食の本を刊行しています。16)17)18)19)20)21)22)23)。


1)香川綾: 女子栄養大学「栄養と料理」 第4巻第4号 p46
  糖尿病の手当と食餌療法、昭和13年(1938年)
2)香川昇三:女子栄養大学「栄養と料理」 第9巻第5号 p27 
  糖尿病患者の厳重食、 昭和18年(1943年)
3)江部康二他:糖尿病食事療法として糖質制限食を実施した3症例,
      京都医学会雑誌51(1):125-130、2004
4)江部康二:主食を抜けば糖尿病は良くなる!糖質制限食のすすめ、
  2005年(東洋経済新報社)
5)坂東浩,中村巧:カーボカウントと糖質制限食, 治療,90(12):3105-3111,2008
6)江部康二:主食を抜けば(糖質を制限すれば)糖尿病は良くなる!,
  治療,91(4):682-683,2009
7)江部康二:低糖質食(糖質制限食carbohydrate restriction)の意義,
  内科,105(1):100-103,2010
8)山田悟:糖質制限食のススメ、2012年(東洋経済新報社)
9)白澤卓二:<白澤式>ケトン食事法、2012年(かんき出版)
10)夏井睦:「炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学」、光文社新書、2013年
11)渡辺信幸:日本人だからこそ「ご飯」を食べるな 肉・卵・チーズが健康長寿をつくる 、2014年(講談社)
12)宗田哲男:「ケトン体が人類を救う 糖質制限でなぜ健康になるのか」、光文社新書、2015年
13)江部康二:「人類最強の『糖質制限』論 ケトン体を味方にして痩せる、健康になる」、SB新書、2016年
14)江部康二:外食でやせる! 「糖質オフ」で食べても飲んでも太らない体を手に入れる、2017年(毎日新聞出版)
15)江部康二:江部康二の糖質制限革命」2017年(東洋経済新報社)
16)「男・50代からの糖質制限」2018年(東洋経済新報社)「内臓脂肪がストン!とおちる食事術」2019年5月(ダイヤモンド社)
17)「糖質制限の大百科」2019年7月(洋泉社)
18)「糖質量&炭水化物量ポケットガイド」電子書籍、2019年8月(SBクリエイティブ)
19)「名医が考えた認知症にならない最強の食事術」2020年6月(宝島社)
20)「ダイエット・糖質制限に必携! 食品別糖質量ハンドブック 」2020年9月(宝島社)江部 康二 (監修)
21)医学的に正しい「糖質制限」見るだけノート2020年10月(宝島社)
22)「増補新版 糖質制限の大百科」2021年9月(宝島社)
23)医者が教える 正しい糖質の減らし方 (TJMOOK) ムック – 2022/5/26 江部 康二 (監修)


など多数。

コメント
この文献ですね
「夏目漱石の持病 ―糖質制限食による治療の考察―」
認知症治療研究会会誌 2022年9巻1号 p.34-37
https://doi.org/10.34574/jsdtc.9.1_34


「栄養と料理-デジタルアーカイブズ-」
https://www.eiyotoryoris.jp/keywords/573?this_row=%E3%81%9F
2023/06/08(Thu) 22:48 | URL | 中嶋一雄 | 【編集
Re: この文献ですね
中嶋一雄 先生

参考になるコメントをありがとうございます。
2023/06/09(Fri) 14:57 | URL | ドクター江部 | 【編集
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