2023年04月30日 (日)
【23/04/30
糖質制限1周年
糖質制限による耐糖能について
江部先生初めてコメントします。
夏井先生を通じて江部先生の存在を知り、依頼ブログや書籍で勉強させていただいております。
私は糖尿病ではありませんが、ストレスから自律神経症状があった時期に物は試しで糖質制限を始めたら、
それらの症状がなくなり、体調が良くなってからは1日2食、主食なしの生活を1年継続しております。
先日ある栄養の専門家?がしているyoutube動画をみていた時に、
「糖質制限をしている人が久しぶりに糖質をとると体がだるくなったり、何となく体の不調があるというのがみられるが、
これは耐糖能異常の証拠である」と言っていたのが気になりました。
確かに久しぶりに米やパンを食べると、明らかに体がだるくなったり、
胃がもたれたりといった症状がみられていたので、自分としては、
これらの症状をもって「やっぱり糖質は体によくないんだ」とポジティブに捉えていたのですが、
これが耐糖能異常を示唆する症状と言われると反論できない自分がいます。
ご面倒かと思いますが、このことについて先生のお考えを教えていただければ幸いです。】
こんにちは。
糖質制限1周年さんから、
「糖質制限食と耐糖能」について、コメント・質問を頂きました。
結論から言うと、
①糖質制限食実践者でも基礎分泌インスリンは普通に分泌されます。
②そして追加分泌インスリンは、必要最小限で済むので、インスリンを分泌するβ細胞は
休養充分で、元気いっぱいです。
従って、①②より、糖質制限食で耐糖能が低下することはありません。
以下、さらに根拠を述べます。
、糖質制限食と耐糖能についての考察です。
「糖質制限食を続けると耐糖能が落ち糖尿病になる」と
主張する医師や栄養士がいますが、これは本当でしょうか?
結論から言えば、正しくありません。
高雄病院では1999年から 江部洋一郎院長(当時)が糖質制限食を始めて、
2001年からは私、江部康二も取り組んでいますので、
2023年現在もう足かけ25年になります。
この間、下記の三点は高雄病院の1600人以上の糖尿病入院患者さん
でもしっかり確認済みです。
・糖質制限食により食後血糖値も空腹時血糖値も改善します。
・糖質制限食により膵臓のβ細胞が休養できるので、
疲弊していた β細胞が回復します。
・β細胞の回復により、耐糖能とインスリン分泌能も改善します。
糖質制限食で耐糖能が落ちるという話は、
ヒムスワースの正常人の耐糖能に関する論文(1935年発表)に
由来すると思われます。
「健康人に糖質の少ない食事を1週間与えて糖負荷試験を行った。
高糖質食を与えたときには耐糖能は正常であったのに、低糖質食に
よって糖尿病と判定されるほどに耐糖能が悪化した。」(☆)
というのが、ヒムスワースが1935年に発表した論文の結論です。
一方、 1960年、ウィルカーソン(Wilkerson)らが、
受刑者を被験者として低糖質食が耐糖能に与える影響を再検討して、
「糖質の摂取量を1日50グラムに制限しても、
耐糖能には大きな影響を及ぼさない」(☆☆)という報告を行いました。
この報告がNew England Journal of Medicineという
影響力の大きな医学誌に掲載されました。
正常人が糖質制限食をして75gブドウ糖負荷試験をした場合、
ヒムスワースとウィルカーソンで全く異なる結論です。
論文の信頼度としては、New England Journal of Medicineの
ウィルカーソンのほうが上ですが、断定することはできません。
ブログ読者さんのコメントで、「糖質制限食を実践して75gブドウ糖
負荷試験をしたら以前より悪化した。」という報告もときにありますので、
これについて検討してみます。
75g経口ブドウ糖負荷試験実施前3日間は、
150g/日以上の糖質摂取が、日本糖尿病学会の推奨となっています。
これは、糖質制限をあるていどの期間続けた正常人が、
いきなり、ブドウ糖負荷試験あるいは糖質一人前摂取で、
耐糖能低下のように見えるデータがでることが、時にあるからと思われます。
私見ですが、これは、
追加分泌インスリンを出す必要がほとんどない糖質制限食を続けていた場合には、
糖質摂取に対して、β細胞が準備ができていない状態であった可能性があります。
従って、150g/日以上の糖質を3日間摂取することで準備を整えてから検査をすると、
β細胞の準備ができているので、
もともと正常型だった人なら耐糖能が普通に戻ると思われます。
スーパー糖質制限食実践でβ細胞は休養できていて、 元気いっぱいで、
なおかつ血糖コントロール良好ですので、
高血糖によりβ細胞が障害されている可能性はありません。
ですから、β細胞のインスリン分泌能力も準備さえ整えば、
正常に作用すると考えられます。
つまり、正常人が糖質制限中にいきなり糖質摂取したとき、
一見耐糖能が低下したようなデータが出ることがありますが、
これは本当にβ細胞が障害されて耐糖能が落ちたのではないので、
心配ないということです。
糖質制限食実践者においては、食後高血糖によるβ細胞の障害はないので、
本当にインスリン分泌能が低下するということは考えられません。
一方、2型糖尿病の診断基準をしっかり満たした人が、
1年間のスーパー糖質制限食実践で血糖値もHbA1cも正常値となり、
試しに白ご飯を一人前摂取しても、
食後血糖値は140mg/dlを超えなくなった例もあります。
これは、スーパー糖質制限食で膵臓が休養できて、
β細胞が回復して耐糖能も改善したためと考えられます。
なお本ブログの読者の糖尿人の方々で、
糖質制限食で耐糖能改善されたかたは複数おられます。
(☆)
Himsworth HP. The dietetic factor determining the glucose tolerance and sensitivity to insulin of healthy men. Clin Sci 2, 67-94, 1935.
(☆☆)
Wilkerson HLC, Hyman C, Kaufman M, McCuistion AC, Francis JO. Diagnostic evaluation of oral glucose tolerance tests in nondiabetic subjects after various levels of carbohydrate intake. N Engl J Med 262, 1047-1053, 1960.
江部康二
糖質制限1周年
糖質制限による耐糖能について
江部先生初めてコメントします。
夏井先生を通じて江部先生の存在を知り、依頼ブログや書籍で勉強させていただいております。
私は糖尿病ではありませんが、ストレスから自律神経症状があった時期に物は試しで糖質制限を始めたら、
それらの症状がなくなり、体調が良くなってからは1日2食、主食なしの生活を1年継続しております。
先日ある栄養の専門家?がしているyoutube動画をみていた時に、
「糖質制限をしている人が久しぶりに糖質をとると体がだるくなったり、何となく体の不調があるというのがみられるが、
これは耐糖能異常の証拠である」と言っていたのが気になりました。
確かに久しぶりに米やパンを食べると、明らかに体がだるくなったり、
胃がもたれたりといった症状がみられていたので、自分としては、
これらの症状をもって「やっぱり糖質は体によくないんだ」とポジティブに捉えていたのですが、
これが耐糖能異常を示唆する症状と言われると反論できない自分がいます。
ご面倒かと思いますが、このことについて先生のお考えを教えていただければ幸いです。】
こんにちは。
糖質制限1周年さんから、
「糖質制限食と耐糖能」について、コメント・質問を頂きました。
結論から言うと、
①糖質制限食実践者でも基礎分泌インスリンは普通に分泌されます。
②そして追加分泌インスリンは、必要最小限で済むので、インスリンを分泌するβ細胞は
休養充分で、元気いっぱいです。
従って、①②より、糖質制限食で耐糖能が低下することはありません。
以下、さらに根拠を述べます。
、糖質制限食と耐糖能についての考察です。
「糖質制限食を続けると耐糖能が落ち糖尿病になる」と
主張する医師や栄養士がいますが、これは本当でしょうか?
結論から言えば、正しくありません。
高雄病院では1999年から 江部洋一郎院長(当時)が糖質制限食を始めて、
2001年からは私、江部康二も取り組んでいますので、
2023年現在もう足かけ25年になります。
この間、下記の三点は高雄病院の1600人以上の糖尿病入院患者さん
でもしっかり確認済みです。
・糖質制限食により食後血糖値も空腹時血糖値も改善します。
・糖質制限食により膵臓のβ細胞が休養できるので、
疲弊していた β細胞が回復します。
・β細胞の回復により、耐糖能とインスリン分泌能も改善します。
糖質制限食で耐糖能が落ちるという話は、
ヒムスワースの正常人の耐糖能に関する論文(1935年発表)に
由来すると思われます。
「健康人に糖質の少ない食事を1週間与えて糖負荷試験を行った。
高糖質食を与えたときには耐糖能は正常であったのに、低糖質食に
よって糖尿病と判定されるほどに耐糖能が悪化した。」(☆)
というのが、ヒムスワースが1935年に発表した論文の結論です。
一方、 1960年、ウィルカーソン(Wilkerson)らが、
受刑者を被験者として低糖質食が耐糖能に与える影響を再検討して、
「糖質の摂取量を1日50グラムに制限しても、
耐糖能には大きな影響を及ぼさない」(☆☆)という報告を行いました。
この報告がNew England Journal of Medicineという
影響力の大きな医学誌に掲載されました。
正常人が糖質制限食をして75gブドウ糖負荷試験をした場合、
ヒムスワースとウィルカーソンで全く異なる結論です。
論文の信頼度としては、New England Journal of Medicineの
ウィルカーソンのほうが上ですが、断定することはできません。
ブログ読者さんのコメントで、「糖質制限食を実践して75gブドウ糖
負荷試験をしたら以前より悪化した。」という報告もときにありますので、
これについて検討してみます。
75g経口ブドウ糖負荷試験実施前3日間は、
150g/日以上の糖質摂取が、日本糖尿病学会の推奨となっています。
これは、糖質制限をあるていどの期間続けた正常人が、
いきなり、ブドウ糖負荷試験あるいは糖質一人前摂取で、
耐糖能低下のように見えるデータがでることが、時にあるからと思われます。
私見ですが、これは、
追加分泌インスリンを出す必要がほとんどない糖質制限食を続けていた場合には、
糖質摂取に対して、β細胞が準備ができていない状態であった可能性があります。
従って、150g/日以上の糖質を3日間摂取することで準備を整えてから検査をすると、
β細胞の準備ができているので、
もともと正常型だった人なら耐糖能が普通に戻ると思われます。
スーパー糖質制限食実践でβ細胞は休養できていて、 元気いっぱいで、
なおかつ血糖コントロール良好ですので、
高血糖によりβ細胞が障害されている可能性はありません。
ですから、β細胞のインスリン分泌能力も準備さえ整えば、
正常に作用すると考えられます。
つまり、正常人が糖質制限中にいきなり糖質摂取したとき、
一見耐糖能が低下したようなデータが出ることがありますが、
これは本当にβ細胞が障害されて耐糖能が落ちたのではないので、
心配ないということです。
糖質制限食実践者においては、食後高血糖によるβ細胞の障害はないので、
本当にインスリン分泌能が低下するということは考えられません。
一方、2型糖尿病の診断基準をしっかり満たした人が、
1年間のスーパー糖質制限食実践で血糖値もHbA1cも正常値となり、
試しに白ご飯を一人前摂取しても、
食後血糖値は140mg/dlを超えなくなった例もあります。
これは、スーパー糖質制限食で膵臓が休養できて、
β細胞が回復して耐糖能も改善したためと考えられます。
なお本ブログの読者の糖尿人の方々で、
糖質制限食で耐糖能改善されたかたは複数おられます。
(☆)
Himsworth HP. The dietetic factor determining the glucose tolerance and sensitivity to insulin of healthy men. Clin Sci 2, 67-94, 1935.
(☆☆)
Wilkerson HLC, Hyman C, Kaufman M, McCuistion AC, Francis JO. Diagnostic evaluation of oral glucose tolerance tests in nondiabetic subjects after various levels of carbohydrate intake. N Engl J Med 262, 1047-1053, 1960.
江部康二
摂取が不要で過剰摂取が悪影響を及ぼすものにアルコールがあります。糖質も摂取不要で過剰摂取が悪影響を及ぼすと言う意味でアルコールと同じと考えられます。
お酒が弱かった人も飲み慣れるとある程度飲めるようになる場合があります。すなわち耐アルコール能が高くなったと言えます。だからと言ってアルコールを摂取しないと体に害があるなどとは誰も言いません。
では糖質はどうなのでしょう。食べないと耐糖能が悪化するから糖質制限は間違っていると主張する人が一定数います。
アルコールも糖質も摂取不要で過剰摂取が害を及ぼす事は同じなのにこの違いはなんなのでしょう。
どちらもカロリーとして利用されることも同じです。
要するに体が無理をして耐アルコール能をあげているだけで、それは耐糖能も同じで体に負担がかかっていると私は考えています。
耐糖能が悪化するから糖質を摂取しないといけないと言う考えは、酒が弱くならないようにもっと酒を飲まないといけないと言っているのと同じように感じます。
6年近く糖質制限を実践して至った思いです。
お酒が弱かった人も飲み慣れるとある程度飲めるようになる場合があります。すなわち耐アルコール能が高くなったと言えます。だからと言ってアルコールを摂取しないと体に害があるなどとは誰も言いません。
では糖質はどうなのでしょう。食べないと耐糖能が悪化するから糖質制限は間違っていると主張する人が一定数います。
アルコールも糖質も摂取不要で過剰摂取が害を及ぼす事は同じなのにこの違いはなんなのでしょう。
どちらもカロリーとして利用されることも同じです。
要するに体が無理をして耐アルコール能をあげているだけで、それは耐糖能も同じで体に負担がかかっていると私は考えています。
耐糖能が悪化するから糖質を摂取しないといけないと言う考えは、酒が弱くならないようにもっと酒を飲まないといけないと言っているのと同じように感じます。
6年近く糖質制限を実践して至った思いです。
2023/05/02(Tue) 14:39 | URL | 西村典彦 | 【編集】
西村典彦 さん
同感です。
アルコールも糖質も、嗜好品という位置づけで良いと思います。
コカインもまさに嗜好品ですね。
アルコール依存症、糖質依存症、コカイン依存症・・・
同列に論じることが可能です。
同感です。
アルコールも糖質も、嗜好品という位置づけで良いと思います。
コカインもまさに嗜好品ですね。
アルコール依存症、糖質依存症、コカイン依存症・・・
同列に論じることが可能です。
2023/05/02(Tue) 17:24 | URL | ドクター江部 | 【編集】
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