2022年12月23日 (金)
【2022/12/21 いしはら
妊娠糖尿病の朝の血糖値について
はじめまして。血糖値のことで悩んでおり、どうしても江部先生に質問したく、
どこにメッセージを送ればよいかわからなかったのでこちらにコメント致します。
私は現在妊娠7ヶ月の妊婦(第二子)です。
糖負荷試験により妊娠糖尿病と診断されています。
私は妊娠前に2型糖尿病境界型(遺伝と思われます)と診断されていますので、
糖尿病妊娠と言った方がいいのかもしれません。
妊娠していない時のA1Cは毎年はかっていて5.2〜5.5です。
体内から出るインスリンの量はじゅんぶんだが、出るタイミングが遅いタイプ。
と言われています。
普段から糖質を一気にたくさん摂らない、食後なるべく動く、などを実践しており、
A1Cが今のところ正常値なため、とくに治療などはしていません。
第一子のときも妊娠糖尿病と言われ、
その際は江部先生と宗田マタニティクリニックの宗田先生の本を参考に、
自己流で糖質制限を行いました。
産婦人科の指導の通りに食べていては到底血糖値の上昇を抑えられないためです。
なんとか薬を使わずに出産に至り、無事元気な子供が生まれました。
今回第二子を妊娠し、年齢のせいもあるのか?(現在39歳です)
さらに血糖値が上がりやすくなっている気がします。
産婦人科からは1日6回に分けた分食と1日4回の血糖測定を言われています
(朝イチ、朝食後2時間、昼食後2時間、夕食後2時間の4回)。
今回も勝手にハードな糖質制限をしています。
前置きが長くなりましたが、本題の質問です。
食後2時間後血糖は糖質を制限すれば必ず血糖値120までにおさまるのですが、
朝イチの血糖値を病院の許容基準である「95以下」に抑えることがなかなかできません。
例えば前の日の夕飯2時間後血糖が110程度でも、
次の日の朝イチ血糖値が100くらいです。
スーパー糖質制限を行なっているつもりでも、
朝イチの数値だけは基準を超えてしまうんです。
よく糖尿病の人は暁現象といって朝の血糖値が上がりやすいと聞きますが、
関連あるのでしょうか。なんとか朝の数値を下げる良い方法はあるでしょうか?
また、朝100〜105程度の日が多いのですが、
このくらいなら妊婦として問題ないでしょうか?
いま産婦人科には計測数値を少しごまかしていますが…、
主治医から「朝の数値が96以上が3日連続したら即入院、即インスリン!」と
言われているため、悩んでいます。
妊娠糖尿病とは、
「インスリンが分泌されていても効かなくなってしまう状態 」と聞きますが、
それなのにインスリンを投与するという治療に激しく疑問を持っており、
なんとか薬の投与はさけたいと考えています。
何かアドバイスがあればよろしくお願いいたします。】
こんばんは。
いしはらさんから、妊娠糖尿病と糖質制限食について、
コメント・質問を頂きました。
【第一子のときも妊娠糖尿病と言われ、
その際は江部先生と宗田マタニティクリニックの宗田先生の本を参考に、
自己流で糖質制限を行いました。
産婦人科の指導の通りに食べていては到底血糖値の上昇を抑えられないためです。
なんとか薬を使わずに出産に至り、無事元気な子供が生まれました。】
良かったです。
妊娠中は、治療薬としてインスリン注射しか使えないのですが
糖質制限食で乗り切れたのはおおいに正解の選択でした。
【食後2時間後血糖は糖質を制限すれば必ず血糖値120までにおさまるのですが、
朝イチの血糖値を病院の許容基準である「95以下」に抑えることがなかなかできません。
例えば前の日の夕飯2時間後血糖が110程度でも、
次の日の朝イチ血糖値が100くらいです。】
<朝食前血糖値:70~100mg/dl未満>が、
日本糖尿病・妊娠学会の、妊娠中の目標基準ですので、
99mg/dl以下を目指せば良いです。
スーパー糖質制限食を実践して、1日3食でよいです。
1日6回の分食など必要ないです。
1日3食、スーパー糖質制限食で、満腹・満足いくまで充分量を食べてよいです。
夕食を午後6時とか7時とか、早めにすれば、翌朝の空腹時血糖値が下りやすくなり
99mg/dl以下が達成できると思います。
とくに安静とかの指導がないなら、
良く歩くことで、空腹時血糖値が下がりますので、
一番簡便な
<インターバル速歩>http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-5007.html
をお奨めします。
アメリカスポーツ医学協会(ACSM)[8]は2000年に、
ウォーキング、ジョギング、低強度のエアロビクス等の運動が妊婦の健康に役立つとしていますので、
有酸素運動は良いと思います。
【妊娠糖尿病とは、
「インスリンが分泌されていても効かなくなってしまう状態 」と聞きますが、
それなのにインスリンを投与するという治療に激しく疑問を持っており、
なんとか薬の投与はさけたいと考えています。】
仰る通りです。
妊娠糖尿病は、妊娠をきっかけに「インスリン抵抗性」が増大したために、
血糖値が高くなる病気です。
従って、インスリン抵抗性に対抗するために、
自分自身のインスリンは過剰に分泌されています。
従って、そもそもインスリン分泌過剰状態のところに
さらにインンスリン注射をするのは、矛盾しているのです。
スーパー糖質制限食実践あるのみです。
「妊娠糖尿病」に関して、よく質問があります。
今回は
「妊娠糖尿病」
と
『糖質制限食』『従来の糖尿病食』について、考えてみました。
日本糖尿病・妊娠学会
http://www.dm-net.co.jp/jsdp/information/024273.php
のサイトと
科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013
を参考にしました。
<診断基準>
1)妊娠糖尿病
糖尿病ではなかった人が、
妊娠後初めて妊娠糖尿病の基準をみたした場合は「妊娠糖尿病」です。
妊娠糖尿病は、糖尿病にいたっていない糖代謝異常であり、
妊娠時に診断された明らかな糖尿病は含まれません。
妊娠糖尿病は75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)によって診断されます。
負荷前値が92mg/dl以上、
1時間値180mg/dl以上、
2時間値153mg/dl以上、
のいずれかがあれば、
妊娠糖尿病(GDM)と診断されます。
妊婦さんの7〜9%は妊娠糖尿病と診断されます。
特に肥満がある人、糖尿病の家族歴のある人、
高齢妊娠、巨大児出産既往のある人などは
ハイリスクですので必ず検査をうけましょう。
<妊娠中の血糖値コントロール目標>
朝食前血糖値:70~100mg/dl未満
食後2時間血糖値:120mg/dl未満
GA(グリコアルブミン)15.8%未満
妊娠中の血糖値コントロール目標は
「妊娠糖尿病」「妊娠中の明らかな糖尿病」「糖尿病合併妊娠」
の3つとも上記となります。
できれば、食後1時間血糖値:140mg/dl未満もクリアすることが望ましいです。
HbA1c6.2%未満も目標なのですが、
妊婦で鉄欠乏状態があると、HbA1cは正確な数値を示さないので、
GA(グリコアルブミン)の方が頼りになるのです。
<妊婦の高血糖によるリスクと弊害>
高血糖による母体、胎児への合併症として
【胎児への影響】
・流産、奇形、巨大児、未熟児、低血糖児、心臓病、胎児死亡 など
【母体への影響】
・糖尿病腎症の悪化、糖尿病網膜症の悪化
・早産、
・尿路感染症
・妊娠高血圧症候群、羊水過多
・赤ちゃんが巨大児になることにより、難産になったり、帝王切開になるリスクの増加などがあります。
高血糖により、これだけのリスクが母体と胎児に生じます。
<従来の糖尿病食(高糖質食)の欠陥>
そして、直接高血糖を生じるのは、糖質摂取時だけであり、
タンパク質・脂質摂取時は、血糖値が直接上昇することはありません。
従って日本糖尿病学会推奨の糖尿病食(カロリー制限・高糖質食)で
食後高血糖を防ぐことは、インスリン注射をしていても至難の業です。
さらに、食後高血糖を防ごうとして、インスリンの量を増やせば、
今度は母体は低血糖のリスクが大きく増加します。
そして、普通に糖質を摂取して、インスリン注射で厳格にコントロールしようとすると、一日の血糖値の変動幅が、増大します。
食後高血糖と平均血糖変動幅の増大が一番大きな酸化ストレスリスクとなります。(*)
酸化ストレスは、母体にも胎児にも当然、悪影響を及ぼします。
「妊娠糖尿病」「妊娠中の明らかな糖尿病」「糖尿病合併妊娠」で、
糖質を普通に食べてインスリン注射を打っている場合は、
上記のリスクは常にあるわけです。
糖尿病妊娠で糖質を普通に食べてインスリンを注射して、
無事出産されている方も多いと思いますが、このように見てくると、
それはある意味運が良い人と言えるのかもしれません。
(*)
酸化ストレスに関しては、
2014年07月14日 (月)の本ブログ記事
酸化ストレス・・・て何?食後高血糖と平均血糖変動幅増大がリスク!
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3030.html
をご参照いただけば幸いです。
<スーパー糖質制限食の利点>
スーパー糖質制限食に切り替えると、
「妊娠糖尿病」ならインスリンフリーになり、
血糖コントロールが一日を通して、とても良好となります。
そして、食後高血糖、低血糖、
平均血糖変動幅増大、酸化ストレス増大といった母体と胎児に悪影響を及ぼす要因が、
全てなくなります。
「妊娠中の明らかな糖尿病」「糖尿病合併妊娠」の場合も、
食前インスリンの単位は1/3以下になりますし、
フリーになることもあります。
インスリンフリーが一番良いのですが、インスリンの量が減ったなら
低血糖のリスクは確実に減るので好ましいのです。
また妊婦体重コントロールも、糖質制限食なら、ほとんど苦労はいりません。
その結果、安産で、元気な赤ちゃん誕生の可能性がとても高いということとなります。
<βヒドロキシ酪酸(ケトン体)の安全性>
2014年1月12日(日)第17回日本病態栄養学会年次学術集会(大阪国際会議場)で、宗田哲男先生が、画期的な研究成果を発表されました。
人工流産胎児(58検体)の絨毛の組織間液のβヒドロキシ酪酸値の測定です。
何と平均1730μmol/Lとかなりの高値です。
成人の基準値は76~85μmol/L以下くらいなのですが、胎児の絨毛間液においては、
1730μmol/L程度が基準値ということになります。
糖質を普通に摂取している成人の基準値の、約20~30倍です。
その後、宗田先生はさらに研究を積み重ねられて、2016年
胎盤・臍帯・新生児のケトン体値に関する研究を英文で発表されました。(☆)
胎児、新生児は、ケトン体を主たるエネルギー源として利用している可能性が高いことを示唆する、画期的な研究です。
胎盤・臍帯のケトン体値論文は、世界初と思われますが、私もも共著者の一人です。
胎盤のケトン体値は基準値の20~30倍、 平均2235.0μmol/L(60検体)
臍帯のケトン体値は基準値の数倍~10倍、平均779.2μmol/L(60検体)
新生児のケトン体値は、基準値の3倍~数倍、
平均240.4μmol/L(312例、生後4日) 基準値は85 μmol/L以下。
胎盤と臍帯と新生児では、ケトン体は高値が当たり前であることが
確認できて、ケトン体の安全性の担保となりました。
このように、胎盤、新生児のケトン体の基準値は、
現行の基準値よりはるかに高値であることが確認されたわけですから、
妊婦のケトン体が少々高値でも胎児へ悪影響などあるはずもないのです。
スーパー糖質制限食で、妊婦のケトン体が、一般的基準値より高値になりますが、
妊婦においても、胎児においても、
ケトン体の安全性(基準値より高値でも)が確認されたと言えます。
(☆)Ketone body elevation in placenta, umbilical cord,newborn and mother in normal delivery Glycative Stress Research 2016; 3 (3): 133-140
Tetsuo Muneta 1), Eri Kawaguchi 1), Yasushi Nagai 2), Momoyo Matsumoto 2), Koji Ebe 3),Hiroko Watanabe 4), Hiroshi Bando 5)
江部康二
妊娠糖尿病の朝の血糖値について
はじめまして。血糖値のことで悩んでおり、どうしても江部先生に質問したく、
どこにメッセージを送ればよいかわからなかったのでこちらにコメント致します。
私は現在妊娠7ヶ月の妊婦(第二子)です。
糖負荷試験により妊娠糖尿病と診断されています。
私は妊娠前に2型糖尿病境界型(遺伝と思われます)と診断されていますので、
糖尿病妊娠と言った方がいいのかもしれません。
妊娠していない時のA1Cは毎年はかっていて5.2〜5.5です。
体内から出るインスリンの量はじゅんぶんだが、出るタイミングが遅いタイプ。
と言われています。
普段から糖質を一気にたくさん摂らない、食後なるべく動く、などを実践しており、
A1Cが今のところ正常値なため、とくに治療などはしていません。
第一子のときも妊娠糖尿病と言われ、
その際は江部先生と宗田マタニティクリニックの宗田先生の本を参考に、
自己流で糖質制限を行いました。
産婦人科の指導の通りに食べていては到底血糖値の上昇を抑えられないためです。
なんとか薬を使わずに出産に至り、無事元気な子供が生まれました。
今回第二子を妊娠し、年齢のせいもあるのか?(現在39歳です)
さらに血糖値が上がりやすくなっている気がします。
産婦人科からは1日6回に分けた分食と1日4回の血糖測定を言われています
(朝イチ、朝食後2時間、昼食後2時間、夕食後2時間の4回)。
今回も勝手にハードな糖質制限をしています。
前置きが長くなりましたが、本題の質問です。
食後2時間後血糖は糖質を制限すれば必ず血糖値120までにおさまるのですが、
朝イチの血糖値を病院の許容基準である「95以下」に抑えることがなかなかできません。
例えば前の日の夕飯2時間後血糖が110程度でも、
次の日の朝イチ血糖値が100くらいです。
スーパー糖質制限を行なっているつもりでも、
朝イチの数値だけは基準を超えてしまうんです。
よく糖尿病の人は暁現象といって朝の血糖値が上がりやすいと聞きますが、
関連あるのでしょうか。なんとか朝の数値を下げる良い方法はあるでしょうか?
また、朝100〜105程度の日が多いのですが、
このくらいなら妊婦として問題ないでしょうか?
いま産婦人科には計測数値を少しごまかしていますが…、
主治医から「朝の数値が96以上が3日連続したら即入院、即インスリン!」と
言われているため、悩んでいます。
妊娠糖尿病とは、
「インスリンが分泌されていても効かなくなってしまう状態 」と聞きますが、
それなのにインスリンを投与するという治療に激しく疑問を持っており、
なんとか薬の投与はさけたいと考えています。
何かアドバイスがあればよろしくお願いいたします。】
こんばんは。
いしはらさんから、妊娠糖尿病と糖質制限食について、
コメント・質問を頂きました。
【第一子のときも妊娠糖尿病と言われ、
その際は江部先生と宗田マタニティクリニックの宗田先生の本を参考に、
自己流で糖質制限を行いました。
産婦人科の指導の通りに食べていては到底血糖値の上昇を抑えられないためです。
なんとか薬を使わずに出産に至り、無事元気な子供が生まれました。】
良かったです。
妊娠中は、治療薬としてインスリン注射しか使えないのですが
糖質制限食で乗り切れたのはおおいに正解の選択でした。
【食後2時間後血糖は糖質を制限すれば必ず血糖値120までにおさまるのですが、
朝イチの血糖値を病院の許容基準である「95以下」に抑えることがなかなかできません。
例えば前の日の夕飯2時間後血糖が110程度でも、
次の日の朝イチ血糖値が100くらいです。】
<朝食前血糖値:70~100mg/dl未満>が、
日本糖尿病・妊娠学会の、妊娠中の目標基準ですので、
99mg/dl以下を目指せば良いです。
スーパー糖質制限食を実践して、1日3食でよいです。
1日6回の分食など必要ないです。
1日3食、スーパー糖質制限食で、満腹・満足いくまで充分量を食べてよいです。
夕食を午後6時とか7時とか、早めにすれば、翌朝の空腹時血糖値が下りやすくなり
99mg/dl以下が達成できると思います。
とくに安静とかの指導がないなら、
良く歩くことで、空腹時血糖値が下がりますので、
一番簡便な
<インターバル速歩>http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-5007.html
をお奨めします。
アメリカスポーツ医学協会(ACSM)[8]は2000年に、
ウォーキング、ジョギング、低強度のエアロビクス等の運動が妊婦の健康に役立つとしていますので、
有酸素運動は良いと思います。
【妊娠糖尿病とは、
「インスリンが分泌されていても効かなくなってしまう状態 」と聞きますが、
それなのにインスリンを投与するという治療に激しく疑問を持っており、
なんとか薬の投与はさけたいと考えています。】
仰る通りです。
妊娠糖尿病は、妊娠をきっかけに「インスリン抵抗性」が増大したために、
血糖値が高くなる病気です。
従って、インスリン抵抗性に対抗するために、
自分自身のインスリンは過剰に分泌されています。
従って、そもそもインスリン分泌過剰状態のところに
さらにインンスリン注射をするのは、矛盾しているのです。
スーパー糖質制限食実践あるのみです。
「妊娠糖尿病」に関して、よく質問があります。
今回は
「妊娠糖尿病」
と
『糖質制限食』『従来の糖尿病食』について、考えてみました。
日本糖尿病・妊娠学会
http://www.dm-net.co.jp/jsdp/information/024273.php
のサイトと
科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013
を参考にしました。
<診断基準>
1)妊娠糖尿病
糖尿病ではなかった人が、
妊娠後初めて妊娠糖尿病の基準をみたした場合は「妊娠糖尿病」です。
妊娠糖尿病は、糖尿病にいたっていない糖代謝異常であり、
妊娠時に診断された明らかな糖尿病は含まれません。
妊娠糖尿病は75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)によって診断されます。
負荷前値が92mg/dl以上、
1時間値180mg/dl以上、
2時間値153mg/dl以上、
のいずれかがあれば、
妊娠糖尿病(GDM)と診断されます。
妊婦さんの7〜9%は妊娠糖尿病と診断されます。
特に肥満がある人、糖尿病の家族歴のある人、
高齢妊娠、巨大児出産既往のある人などは
ハイリスクですので必ず検査をうけましょう。
<妊娠中の血糖値コントロール目標>
朝食前血糖値:70~100mg/dl未満
食後2時間血糖値:120mg/dl未満
GA(グリコアルブミン)15.8%未満
妊娠中の血糖値コントロール目標は
「妊娠糖尿病」「妊娠中の明らかな糖尿病」「糖尿病合併妊娠」
の3つとも上記となります。
できれば、食後1時間血糖値:140mg/dl未満もクリアすることが望ましいです。
HbA1c6.2%未満も目標なのですが、
妊婦で鉄欠乏状態があると、HbA1cは正確な数値を示さないので、
GA(グリコアルブミン)の方が頼りになるのです。
<妊婦の高血糖によるリスクと弊害>
高血糖による母体、胎児への合併症として
【胎児への影響】
・流産、奇形、巨大児、未熟児、低血糖児、心臓病、胎児死亡 など
【母体への影響】
・糖尿病腎症の悪化、糖尿病網膜症の悪化
・早産、
・尿路感染症
・妊娠高血圧症候群、羊水過多
・赤ちゃんが巨大児になることにより、難産になったり、帝王切開になるリスクの増加などがあります。
高血糖により、これだけのリスクが母体と胎児に生じます。
<従来の糖尿病食(高糖質食)の欠陥>
そして、直接高血糖を生じるのは、糖質摂取時だけであり、
タンパク質・脂質摂取時は、血糖値が直接上昇することはありません。
従って日本糖尿病学会推奨の糖尿病食(カロリー制限・高糖質食)で
食後高血糖を防ぐことは、インスリン注射をしていても至難の業です。
さらに、食後高血糖を防ごうとして、インスリンの量を増やせば、
今度は母体は低血糖のリスクが大きく増加します。
そして、普通に糖質を摂取して、インスリン注射で厳格にコントロールしようとすると、一日の血糖値の変動幅が、増大します。
食後高血糖と平均血糖変動幅の増大が一番大きな酸化ストレスリスクとなります。(*)
酸化ストレスは、母体にも胎児にも当然、悪影響を及ぼします。
「妊娠糖尿病」「妊娠中の明らかな糖尿病」「糖尿病合併妊娠」で、
糖質を普通に食べてインスリン注射を打っている場合は、
上記のリスクは常にあるわけです。
糖尿病妊娠で糖質を普通に食べてインスリンを注射して、
無事出産されている方も多いと思いますが、このように見てくると、
それはある意味運が良い人と言えるのかもしれません。
(*)
酸化ストレスに関しては、
2014年07月14日 (月)の本ブログ記事
酸化ストレス・・・て何?食後高血糖と平均血糖変動幅増大がリスク!
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3030.html
をご参照いただけば幸いです。
<スーパー糖質制限食の利点>
スーパー糖質制限食に切り替えると、
「妊娠糖尿病」ならインスリンフリーになり、
血糖コントロールが一日を通して、とても良好となります。
そして、食後高血糖、低血糖、
平均血糖変動幅増大、酸化ストレス増大といった母体と胎児に悪影響を及ぼす要因が、
全てなくなります。
「妊娠中の明らかな糖尿病」「糖尿病合併妊娠」の場合も、
食前インスリンの単位は1/3以下になりますし、
フリーになることもあります。
インスリンフリーが一番良いのですが、インスリンの量が減ったなら
低血糖のリスクは確実に減るので好ましいのです。
また妊婦体重コントロールも、糖質制限食なら、ほとんど苦労はいりません。
その結果、安産で、元気な赤ちゃん誕生の可能性がとても高いということとなります。
<βヒドロキシ酪酸(ケトン体)の安全性>
2014年1月12日(日)第17回日本病態栄養学会年次学術集会(大阪国際会議場)で、宗田哲男先生が、画期的な研究成果を発表されました。
人工流産胎児(58検体)の絨毛の組織間液のβヒドロキシ酪酸値の測定です。
何と平均1730μmol/Lとかなりの高値です。
成人の基準値は76~85μmol/L以下くらいなのですが、胎児の絨毛間液においては、
1730μmol/L程度が基準値ということになります。
糖質を普通に摂取している成人の基準値の、約20~30倍です。
その後、宗田先生はさらに研究を積み重ねられて、2016年
胎盤・臍帯・新生児のケトン体値に関する研究を英文で発表されました。(☆)
胎児、新生児は、ケトン体を主たるエネルギー源として利用している可能性が高いことを示唆する、画期的な研究です。
胎盤・臍帯のケトン体値論文は、世界初と思われますが、私もも共著者の一人です。
胎盤のケトン体値は基準値の20~30倍、 平均2235.0μmol/L(60検体)
臍帯のケトン体値は基準値の数倍~10倍、平均779.2μmol/L(60検体)
新生児のケトン体値は、基準値の3倍~数倍、
平均240.4μmol/L(312例、生後4日) 基準値は85 μmol/L以下。
胎盤と臍帯と新生児では、ケトン体は高値が当たり前であることが
確認できて、ケトン体の安全性の担保となりました。
このように、胎盤、新生児のケトン体の基準値は、
現行の基準値よりはるかに高値であることが確認されたわけですから、
妊婦のケトン体が少々高値でも胎児へ悪影響などあるはずもないのです。
スーパー糖質制限食で、妊婦のケトン体が、一般的基準値より高値になりますが、
妊婦においても、胎児においても、
ケトン体の安全性(基準値より高値でも)が確認されたと言えます。
(☆)Ketone body elevation in placenta, umbilical cord,newborn and mother in normal delivery Glycative Stress Research 2016; 3 (3): 133-140
Tetsuo Muneta 1), Eri Kawaguchi 1), Yasushi Nagai 2), Momoyo Matsumoto 2), Koji Ebe 3),Hiroko Watanabe 4), Hiroshi Bando 5)
江部康二
そもそも妊娠糖尿病とはどういう状態なのか素人なりに考えてみました。
胎児は成長のために莫大なエネルギーを必要としているので、
このエネルギー需要に対応するために、母体は、食料からのブドウ糖に依存するより、いつでも利用可能な体内の脂肪を分解して、胎盤でケトン体を作り出しているのではないでしょうか?
妊娠糖尿病は、妊娠後にインスリン抵抗性により、血糖値が高くなる病態ですが、では、何故インスリン抵抗性になるのでしょうか?
本来ならば血中の糖を脂肪として蓄積する働きのインスリンが効かなくなるのは、ケトン体の産生を妨げないようにしているのだと思います。
インスリンは脂肪を合成し、ケトン体は脂肪の分解によってつくられる。
脂肪の合成と分解は同時に進行しないので、インスリンが効いている時は
ケトン体が作られなくなり、胎児の成長にとって危機的状況となる。
つまり、ケトン体の産生を確保して胎児を守るために、母体は敢えて
インスリンが効かないようにしているのではないでしょうか?
にもかかわらず、妊娠糖尿病の治療のためにインスリン注射が使われているのは
本末転倒ではないでしょうか。
ケトン体を作るためにインスリン抵抗性になっているのだから、さらにインスリンを注射しても、血糖値があまり下がらないのは当然のことだと思います。
糖質制限ですべて解決!だと思うのですが・・・
胎児は成長のために莫大なエネルギーを必要としているので、
このエネルギー需要に対応するために、母体は、食料からのブドウ糖に依存するより、いつでも利用可能な体内の脂肪を分解して、胎盤でケトン体を作り出しているのではないでしょうか?
妊娠糖尿病は、妊娠後にインスリン抵抗性により、血糖値が高くなる病態ですが、では、何故インスリン抵抗性になるのでしょうか?
本来ならば血中の糖を脂肪として蓄積する働きのインスリンが効かなくなるのは、ケトン体の産生を妨げないようにしているのだと思います。
インスリンは脂肪を合成し、ケトン体は脂肪の分解によってつくられる。
脂肪の合成と分解は同時に進行しないので、インスリンが効いている時は
ケトン体が作られなくなり、胎児の成長にとって危機的状況となる。
つまり、ケトン体の産生を確保して胎児を守るために、母体は敢えて
インスリンが効かないようにしているのではないでしょうか?
にもかかわらず、妊娠糖尿病の治療のためにインスリン注射が使われているのは
本末転倒ではないでしょうか。
ケトン体を作るためにインスリン抵抗性になっているのだから、さらにインスリンを注射しても、血糖値があまり下がらないのは当然のことだと思います。
糖質制限ですべて解決!だと思うのですが・・・
2022/12/24(Sat) 06:52 | URL | あきにゃん | 【編集】
あきにゃん さん
仰る通りと思います。
以下は追加です。
子宮の中にいる胎児の血液には、
成熟する前の幼若な赤血球である「赤芽球」がたくさんあります(健康な成人には骨髄の中にしかありません)。
この赤芽球はミトコンドリアを豊富に持っており、その生み出すエネルギーによってヘモグロビンが合成されます。
赤芽球が成熟して赤血球になるにつれて、細胞質はヘモグロビンで満たされていき、
その分、ミトコンドリアは減ってきます。
完全に成熟した赤血球では、ミトコンドリアは消失して
赤血球は酸素運搬に特化した機能を得ることになります。
そのため、ブドウ糖しかエネルギー源にできなくなります。
仰る通りと思います。
以下は追加です。
子宮の中にいる胎児の血液には、
成熟する前の幼若な赤血球である「赤芽球」がたくさんあります(健康な成人には骨髄の中にしかありません)。
この赤芽球はミトコンドリアを豊富に持っており、その生み出すエネルギーによってヘモグロビンが合成されます。
赤芽球が成熟して赤血球になるにつれて、細胞質はヘモグロビンで満たされていき、
その分、ミトコンドリアは減ってきます。
完全に成熟した赤血球では、ミトコンドリアは消失して
赤血球は酸素運搬に特化した機能を得ることになります。
そのため、ブドウ糖しかエネルギー源にできなくなります。
2022/12/24(Sat) 15:51 | URL | ドクター江部 | 【編集】
| ホーム |