2022年11月19日 (土)
こんばんは。
貧血があるとHbA1cの値は上がるのでしょうか?
それとも下がるのでしょうか?
貧血とHbA1cの関係を説明する前に、
HbA1c(ヘモグロビンA1c)とは何かを考えてみましょう。
赤血球の中に含まれているヘモグロビンは、鉄を含む赤色の色素部分のヘムと、
蛋白部分のグロビンでできています。
ヘモグロビンはグロビン部分の違いによりHbA、HbA2、HbFの3種類に分けられます。
成人では、HbAが97%を占めています。
血液中には、赤血球や糖類やその代謝産物が流れていて、
お互いに結合する傾向があります。
赤血球中のヘモグロビンと、血中のブドウ糖など単糖類が結合したものが、
グリケーティッドヘモグロビンです。
これを略してグリコヘモグロビンですが、
HbA1とほぼ同義語として使用されています。
グリコヘモグロビンは、元のヘモグロビンとは電気的性質が異なるため、
検査により識別することができます。
HbA1は、さらにHbA1a、HbA1b、HbA1cなどに分けることができます。
このうち糖尿病の検査の指標として汎用されているHbA1cは、
ヘモグロビンA(HbA)にグルコース(ブドウ糖)が結合したものです。
当然、血糖値が高値であるほど、ヘモグロビンと結合しやすいのです。
HbA1cの生産量は、Hb(ヘモグロビン)の寿命と血糖値に依存します。
赤血球は骨髄で作られて血液中を循環し、寿命は約120日間ですから、
HbA1cは過去4ヶ月(120日間)の血糖値の動きを示しています。
より詳しく分析すると、HbA1c値の約50%は過去1ヶ月間の間に作られ、
約25%が過去2ヶ月、残りの約25%が過去3~4ヶ月で作られます。
従いまして、HbA1cの値は通常は過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映していると、
考えればよいことになります。
さて、溶血性貧血、腎性貧血など、
赤血球の寿命が短縮するような病態のときは、
HbA1cの生産量がその分蓄積されずに減りますので、
実際の値よりも低くなります。
肝硬変に伴う脾機能亢進による貧血も赤血球の寿命が短縮します。
鉄欠乏性貧血の場合、鉄不足で貧血で未治療のときは、
代償性に赤血球の寿命が延びるので、
HbA1cは寿命が延びた分蓄積して、高値にシフトします。
鉄剤投与を開始して、鉄欠乏性貧血が回復している時期は、
幼弱赤血球が増えて、赤血球の寿命が短くなり、HbA1cは低値となります。
従いまして、糖尿病腎症から透析になった糖尿人の場合は、
腎性貧血で赤血球の寿命が短くなっているので、
見かけ上はHbA1cが改善して、低下したようにみえますが、
実態を反映していないことになります。
それで日本透析医学会では透析患者の血糖指標としては、グリコアルブミン(GA)を推奨しています。
血液中のタンパク質の一種であるアルブミンにブドウ糖がくっついたものをグリコアルブミン(GA)といいます。
GAは、過去約2週間の血糖状態をもっとも鋭敏に反映すると言われています。
そして、アルブミンは赤血球の寿命とは無関係なので、貧血にも影響されないので、
日本透析医学会が推奨しているわけですね。
【22/11/19 もも
Hba1cと貧血の関係について。
いつもブログを拝読させて頂いています。
今年の5月から貧血の治療で鉄剤を1日1回服用し、
8月の貧血検査で数値がHbは10→12.5に改善しました。
9月からは1日おきに鉄剤を服用し、
現在はほぼ服用していません。(医師の指示による)
10月初めの特定健診でHbA1cが5.9で高値でした。(空腹時血糖値90)
最近、薬局で血糖検査が出来ると聞き、
検査した所、HbA1cは5.3でした。
1ヶ月でこの様に下がる事はあるのでしょうか?
体重は変わりません。
貧血が改善し、HbA1cが基準値になったと考えて良いのでしょうか?
または、病院と薬局との検査方法による誤差でしょうか?
母親が糖尿なので、心配です。】
ももさんの場合は、上述した<鉄欠乏性貧血とHbA1c>の
一般的なパターンとは異なるパターンです。
2022年5月は貧血(Hb:10g/dl)でしたが、
2022年8月は貧血が治って、Hb:12.5g/dlと正常値になっています。
そして
2022年10月の検査で、HbA1cが5.9%、
2022年11月の検査で、HbA1cが5.3%
貧血はすでに治っているので、HbA1cへの影響はありません。
10月から、新たに糖質制限食を開始したということなら
11月に、HbA1c5.9 ⇒ 5.3% はあり得ます。
食生活がとくに変わりないなら、
病院と薬局との検査機器による差と思います。
江部康二
貧血があるとHbA1cの値は上がるのでしょうか?
それとも下がるのでしょうか?
貧血とHbA1cの関係を説明する前に、
HbA1c(ヘモグロビンA1c)とは何かを考えてみましょう。
赤血球の中に含まれているヘモグロビンは、鉄を含む赤色の色素部分のヘムと、
蛋白部分のグロビンでできています。
ヘモグロビンはグロビン部分の違いによりHbA、HbA2、HbFの3種類に分けられます。
成人では、HbAが97%を占めています。
血液中には、赤血球や糖類やその代謝産物が流れていて、
お互いに結合する傾向があります。
赤血球中のヘモグロビンと、血中のブドウ糖など単糖類が結合したものが、
グリケーティッドヘモグロビンです。
これを略してグリコヘモグロビンですが、
HbA1とほぼ同義語として使用されています。
グリコヘモグロビンは、元のヘモグロビンとは電気的性質が異なるため、
検査により識別することができます。
HbA1は、さらにHbA1a、HbA1b、HbA1cなどに分けることができます。
このうち糖尿病の検査の指標として汎用されているHbA1cは、
ヘモグロビンA(HbA)にグルコース(ブドウ糖)が結合したものです。
当然、血糖値が高値であるほど、ヘモグロビンと結合しやすいのです。
HbA1cの生産量は、Hb(ヘモグロビン)の寿命と血糖値に依存します。
赤血球は骨髄で作られて血液中を循環し、寿命は約120日間ですから、
HbA1cは過去4ヶ月(120日間)の血糖値の動きを示しています。
より詳しく分析すると、HbA1c値の約50%は過去1ヶ月間の間に作られ、
約25%が過去2ヶ月、残りの約25%が過去3~4ヶ月で作られます。
従いまして、HbA1cの値は通常は過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映していると、
考えればよいことになります。
さて、溶血性貧血、腎性貧血など、
赤血球の寿命が短縮するような病態のときは、
HbA1cの生産量がその分蓄積されずに減りますので、
実際の値よりも低くなります。
肝硬変に伴う脾機能亢進による貧血も赤血球の寿命が短縮します。
鉄欠乏性貧血の場合、鉄不足で貧血で未治療のときは、
代償性に赤血球の寿命が延びるので、
HbA1cは寿命が延びた分蓄積して、高値にシフトします。
鉄剤投与を開始して、鉄欠乏性貧血が回復している時期は、
幼弱赤血球が増えて、赤血球の寿命が短くなり、HbA1cは低値となります。
従いまして、糖尿病腎症から透析になった糖尿人の場合は、
腎性貧血で赤血球の寿命が短くなっているので、
見かけ上はHbA1cが改善して、低下したようにみえますが、
実態を反映していないことになります。
それで日本透析医学会では透析患者の血糖指標としては、グリコアルブミン(GA)を推奨しています。
血液中のタンパク質の一種であるアルブミンにブドウ糖がくっついたものをグリコアルブミン(GA)といいます。
GAは、過去約2週間の血糖状態をもっとも鋭敏に反映すると言われています。
そして、アルブミンは赤血球の寿命とは無関係なので、貧血にも影響されないので、
日本透析医学会が推奨しているわけですね。
【22/11/19 もも
Hba1cと貧血の関係について。
いつもブログを拝読させて頂いています。
今年の5月から貧血の治療で鉄剤を1日1回服用し、
8月の貧血検査で数値がHbは10→12.5に改善しました。
9月からは1日おきに鉄剤を服用し、
現在はほぼ服用していません。(医師の指示による)
10月初めの特定健診でHbA1cが5.9で高値でした。(空腹時血糖値90)
最近、薬局で血糖検査が出来ると聞き、
検査した所、HbA1cは5.3でした。
1ヶ月でこの様に下がる事はあるのでしょうか?
体重は変わりません。
貧血が改善し、HbA1cが基準値になったと考えて良いのでしょうか?
または、病院と薬局との検査方法による誤差でしょうか?
母親が糖尿なので、心配です。】
ももさんの場合は、上述した<鉄欠乏性貧血とHbA1c>の
一般的なパターンとは異なるパターンです。
2022年5月は貧血(Hb:10g/dl)でしたが、
2022年8月は貧血が治って、Hb:12.5g/dlと正常値になっています。
そして
2022年10月の検査で、HbA1cが5.9%、
2022年11月の検査で、HbA1cが5.3%
貧血はすでに治っているので、HbA1cへの影響はありません。
10月から、新たに糖質制限食を開始したということなら
11月に、HbA1c5.9 ⇒ 5.3% はあり得ます。
食生活がとくに変わりないなら、
病院と薬局との検査機器による差と思います。
江部康二
お忙しい中、詳しいご回答有り難く思います。
先生の本やブログを参考に、緩いですが糖質制限を数年前から行っております。
最近、活動力が増えた為、体重が少し落ちました。
引き続き、生活習慣に気を付けて、元気に過ごしていきたいです。
ありがとうございました。
先生の本やブログを参考に、緩いですが糖質制限を数年前から行っております。
最近、活動力が増えた為、体重が少し落ちました。
引き続き、生活習慣に気を付けて、元気に過ごしていきたいです。
ありがとうございました。
2022/11/19(Sat) 18:20 | URL | もも | 【編集】
和田秀樹医師の本を読んでいて、気になる箇所があったので、江部先生はどう考えられるか、お聞きできないかと思い連絡してみました。
それは、「米国国立衛生研究所が2001年に開始したアコード(ACCORD)試験で、計1万人の糖尿病患者に対して調査が行われた。HA1cを正常値6%に抑える<強化療法>と、それよりも緩い7.0~7.9%に抑える<標準療法群>に分けて調査したところ、わずか3年半の観察期間で死亡率に有意な差がでた。正常値が6%に抑えた<強化療法群>のほうが、死亡率が高かいという結果がでた。」という箇所です。
これだけでは情報が不十分かもしれませんが、A1cが6%ということ自体は、適正な数値なので良いのではないかと思います。それなのに、そのほうが、死亡率が高いというのはどういうことでしょうか。
この試験の場合、血糖値を抑えたのは糖質制限によるのではなく、インスリン投与によるものではないかと思われますが、とすると、インスリンで血糖値を無理に下げたら、死亡率が高くなるということを示していると理解できるのでしょうか。
それは、「米国国立衛生研究所が2001年に開始したアコード(ACCORD)試験で、計1万人の糖尿病患者に対して調査が行われた。HA1cを正常値6%に抑える<強化療法>と、それよりも緩い7.0~7.9%に抑える<標準療法群>に分けて調査したところ、わずか3年半の観察期間で死亡率に有意な差がでた。正常値が6%に抑えた<強化療法群>のほうが、死亡率が高かいという結果がでた。」という箇所です。
これだけでは情報が不十分かもしれませんが、A1cが6%ということ自体は、適正な数値なので良いのではないかと思います。それなのに、そのほうが、死亡率が高いというのはどういうことでしょうか。
この試験の場合、血糖値を抑えたのは糖質制限によるのではなく、インスリン投与によるものではないかと思われますが、とすると、インスリンで血糖値を無理に下げたら、死亡率が高くなるということを示していると理解できるのでしょうか。
2022/11/21(Mon) 08:53 | URL | 倉田 | 【編集】
倉田 さん
インスリン注射やSU薬を使用して、血糖値を厳格に管理してHbA1cを低下させようとすると、
結果として、低血糖発作が、通常治療群に比較すると頻回に生じます。
厳格治療群の死能率増加の一番の要因は低血糖の増加とされています。
低血糖頻発だと、血糖平均値の指標であるHbA1cは低下しますが、極めて質の悪いHbA1cと言えます。
結論としては、ご指摘通りです。
『ACCORD』試験は、糖質を摂取して、インスリンやSU薬で血糖値を厳格に下げようとすると
死亡率が高くなることを証明した信頼度の高い研究と言えます。
インスリン注射やSU薬を使用して、血糖値を厳格に管理してHbA1cを低下させようとすると、
結果として、低血糖発作が、通常治療群に比較すると頻回に生じます。
厳格治療群の死能率増加の一番の要因は低血糖の増加とされています。
低血糖頻発だと、血糖平均値の指標であるHbA1cは低下しますが、極めて質の悪いHbA1cと言えます。
結論としては、ご指摘通りです。
『ACCORD』試験は、糖質を摂取して、インスリンやSU薬で血糖値を厳格に下げようとすると
死亡率が高くなることを証明した信頼度の高い研究と言えます。
2022/11/21(Mon) 17:44 | URL | ドクター江部 | 【編集】
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