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脂肪摂取は乳ガン発症のリスクではなかった。
こんにちは。
昨日(2022/11/8)のブログ記事は、乳ガンの話題でした。
本日は、脂肪摂取と乳がん発症に関する信頼度の高い大規模研究を紹介します。
 
戦後ずっと長い間、『脂肪悪玉説』が、先進国を席巻して、
「大腸ガン、乳ガン、心筋梗塞などの元凶は脂肪摂取過剰である。」
という(根拠のない)定説がまことしやかに信じられてきたと思います。
 
これに対して、大変興味深い研究結果が発表されました。
米国医師会雑誌、2006年2月8日号に掲載された3本の論文において
「<低脂肪+野菜豊富な食生活>は
乳癌、大腸癌、心血管疾患リスクを下げないし、
総コレステロール値も不変であった。」

という報告がなされたのです。(*)
米国医師会雑誌は、インパクトファクターが高く、
ニューイングランドジャーナルに次ぐ権威ある医学雑誌です。
RCT研究論文ですので、エビデンスレベルも一番高いです。
 
5万人弱の閉経女性を対象に、
対照群を置き、平均8年間にわたって追跡した結果です。
高額の費用をつぎ込んだ大規模臨床試験で、二度とできない高いレベルの研究です。
2万5千人ずつにグループ分けをして、
一方は、脂肪熱量比率20%で強力に低脂肪食を指導しました。
残るグループは脂肪制限なしなので、米国女性平均なら30数%の脂肪摂取比率です。
平均的米国女性に対して、約半分近くまで、
脂肪摂取比率を厳格に減らして臨床試験を実施したわけです。
 
研究をデザインした医師は、
「高脂肪食が大腸ガン、乳ガン、心血管疾患のリスクを増大させる」=『脂肪悪玉説』
という従来の定説を掲げて、
それを証明するためにこのRCTを実施した可能性があります。
すなわち、
「低脂肪食実践により、大腸ガン、乳ガン、心血管疾患のリスクが減少する」
と信じてこのRCTを開始したと考えられます。
 
ところが、豈図らんや、
『低脂肪食は、乳癌、大腸癌、心血管疾患リスクを全く下げなかった』
のです。
これは、即ち、脂肪悪玉説が根底から否定されたということです。
人数といい期間とといい、二度とできないレベルの大規模試験ですので
これが、最終結論といっても過言ではないと思います。
 
<結論>
 
「5万人を8年間追跡したJAMA掲載のRCT研究論文で、少なくとも乳ガン・大腸ガン・心血管疾患に関しては、脂肪悪玉説は否定された。」
ということになります。
脂肪悪玉説を根底から覆す、良質の信頼度の高いエビデンスです。
 
<肥満とがん>

なお、世界ガン研究基金は2007年の報告で、
肥満があると、大腸・食道・膵臓・腎臓・子宮内膜(子宮)・乳房のガンになるリスクが高まるとしています。
これら6つのガンに関しては、はっきり肥満がリスクになるということです。
また、胆のうに関しては、肥満がおそらく発ガンのリスクを高めるとしています。
美味しく楽しく楽に長く続けられるという意味でも、
糖質制限食が肥満にはもっとも有効な治療法であり、
ガン予防にもなりますね。 (^_^)
 
 
(*)Journal of American Medical Association(JAMA)誌
2006年2月8日号の疾患ごとにまとめられた3本の論文で報告。
 
  Low-Fat Dietary Pattern and Risk of Invasive Breast Cancer
  Low-Fat Dietary Pattern and Risk of Colorectal Cancer
  Low-Fat Dietary Pattern and Risk of Cardiovascular Disease
  : The Women's Health Initiative Randomized Controlled Dietary Modification Trial
JAMA ,295(6):629-642.  643-654.   655-666.
 

 
江部康二
コメント
糖質悪玉説
「肥満があると癌のリスクが高まる」
これが脂肪悪玉説の源のように思えます。
これまで脂肪=肥満の原因とされていましたから、このような説が生まれたのではないでしょうか。
肥満の原因は脂肪ではなく、肥満ホルモンであるインスリンを分泌する糖質なので肥満が癌のリスク因子であるなら「糖質悪玉説」を唱えなければいけないですね。
2022/11/09(Wed) 18:23 | URL | 西村 典彦 | 【編集
Re: 糖質悪玉説
西村 典彦 さん

仰る通りと思います。
この真実を、一般の皆さんが納得するまで、
あと一歩なのか?
二歩なのか?
三歩なのか?
2022/11/09(Wed) 23:05 | URL | ドクター江部 | 【編集
糖質悪玉設
こんにちは。いつも貴重な情報をありがとうございます。
確かに糖質悪玉説は、まだまだ糖は疲れや脳に良いという固定観念がある人が多く、必要なものだという考えがあって糖質を制限すると「食事のかたより」が問題であると言われることが多いですね…
2022/11/10(Thu) 07:41 | URL | hanamizuki | 【編集
体重が減りません
こんにちは。
10年程前、糖質制限で40kgダイエットしました。
10年程前までの体重にはなってないのですが、リバウンドしてしまったので、再び糖質制限を始めています。
スタートが10月26日で87.6kg、3週間弱が過ぎようとしていますが、最初の数日で2kg(以前先生が水分だとおっしゃっていたような…)落ちてから、停滞しています。
200g減ったら300g増えてたり、その逆もあったりして減りません。
カロリーも1日1200〜1400にしていて、1日おきに4km歩いて(時々ゆっくり走る)います。

そこで質問なのですが
糖質制限に年齢による代謝は関係ありますか?
年齢を重ねると代謝が落ちると言われていますが、それは糖質制限にもあてはまるのでしょうか?
あわせて、体重が減るコツなどもあったら
教えてください。
よろしくお願いします。
2022/11/10(Thu) 14:16 | URL | もち | 【編集
Re: 体重が減りません
もち さん

身長、体重、年齢、性別は如何でしょう。

10年前の40kg減量のときの
具体的な数値は、どんなものでしょう。
2022/11/10(Thu) 17:09 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 糖質悪玉設
hanamizuki さん


必須脂肪酸、必須アミノ酸はあるけれど、必須糖質はありません。


日本人は、38000年前から、日本列島に居住していますが
当時は氷期で寒かったので、木の実や果物もほとんどなしでした。
従って、旧石器時代22000年間は、ナウマン象。マンモス、シカ、イノシシなど
肉ばかり食べていました。
この22000間で日本人の身体は形作られているので、肉食に特化して適合した身体と考えられます。
氷期が終わり、間氷期となり16000年前から縄文時代が始まり、13000年続きました。
縄文時代は、狩猟・採集・漁労の三者が生業でした。
その後稲作が始まり、2500前から弥生時代が始まります。
2022/11/10(Thu) 17:31 | URL | ドクター江部 | 【編集
返信ありがとうございます
現在身長160.5cm、体重85.1kg、43歳の女です。

10年前は103kgありました。
その時は1年で40kg減量し、カロリーは今と同じ1200〜1400、1日ないし数日おきに歩いたり走ったりしていました。

今回も10年前と同じやり方です。
食べた物の糖質とカロリーを毎食ノートに書き出し、1日の合計が1200〜1400kcal、糖質は60g以下のスーパー糖質制限です。
当時と今で違うのは加齢です。
あと、10年前の糖質制限を始めた頃に2週間入院していたことです。
入院期間の食事は糖質を残し、カマンベールチーズをつまんでいました。
2022/11/10(Thu) 17:32 | URL | もち | 【編集
もちさんへ
そのまま続ければもう直ぐ減るのではないでしょうか。
私が糖質制限を始めた時、脂肪酸代謝になるのに3週間超かかりました。やはり最初に2kg程はすぐに減りましたが、そこで停滞し、かつエネルギー不足で体がだるくなってきましたが、3週間を超える頃から体力も次第に回復していき、再び体重も減り始めました。2kg程度減量して維持しているならもうすぐ再び減り始めるのではないかと思います。
どれ位で脂肪酸代謝に変わるかは個人差もあるので一概には言えませんが参考まで。
焦ってカロリーを落としすぎると失敗するリスクが高くなると思いますので気をつけてください。
江部先生からアドバイスを頂けると思いますのでそれに従って焦らずに続けてください。
2022/11/10(Thu) 18:46 | URL | 西村 典彦 | 【編集
>旧石器時代22000年間は、ナウマン象、マンモス、シカ、イノシシなど肉ばかり食べていました。
>この22000間で日本人の身体は形作られているので、肉食に特化して適合した身体と考えられます。

この件りを読んで、ふと疑問を感じたのですが、
日本人と欧米人の体質を比べると、日本人は速筋が弱く、腸が長いという特徴があります。
欧米人も同じ肉食の歴史があると思うのですが、どうしてこのような違いが生まれたのでしょうか?
江部先生はどのように推察されますか、ご教示お願いします。
2022/11/11(Fri) 14:56 | URL | 国道367号線 | 【編集
Re: 返信ありがとうございます
もち  さん

基礎代謝は、10年前より少し低下していると思われますが、
西村典彦さんの仰るように、もう少し、経過をみてみましょう。
2022/11/11(Fri) 16:33 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: タイトルなし
国道367号線 さん

「日本人と欧米人の体質を比べると、日本人は速筋が弱く」・・・これはその通りと思います。

「日本人と欧米人の体質を比べると、日本人は腸が長い」・・・これは研究論文により否定されています。
                                     つまり欧米人も日本人も腸の長さは一緒です。

なお速筋が一番強いのは黒人であり、その分短距離走は、有利です。
日本人は、短距離走は人種的に苦手なのです。
速筋の特徴は、食生活よりも、人種の遺伝的特徴と考えられます。

速筋の強さ: 黒人 > 白人 > アジア人 
となります。
2022/11/11(Fri) 16:50 | URL | ドクター江部 | 【編集
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