2022年10月21日 (金)
【22/10/19 たがしゅう
PD-1の下げ方の違い
江部先生
ご無沙汰しております。
今回の記事、大変興味深く拝見しました。
特に気になったのは「BHB補充によりin vitroおよびin vivoでT細胞のPD-1の発現が低下することを示しました」の部分です。
PD-1と言いますと、ご存知のように「PD-1」というのは新規抗がん剤「免疫チェックポイント阻害剤」でブロックされるターゲットの一つです。
T細胞表面に発現しているPD-1は本来、抗原提示細胞の表面や血管内皮等に発現しているPD-L1と結合することで、T細胞がこれを攻撃することを抑制される働き、つまり「自己の名札」としての働くことが示されています。
一方でなぜか一部の進行がんの患者さんのがん細胞にもこのPD-L1が過剰発現していて、T細胞ががん細胞を攻撃できなくなっている状況があると、この状況でPD-1の働きをブロックすることでT細胞に再びがんを攻撃させることを可能にし、抗がん剤としての効果を発揮することが言われています。
つまり今回のブログ記事で書かれていた「BHB(ケトン体)でのT細胞のPD-1の発現低下」は、
免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体)の作用の仕方と同じだということです。
ところが免疫チェックポイント阻害剤は、PD-L1を過剰発現しているがん細胞だけではなく、もともとPD-L1を発現している正常細胞(抗原提示細胞、血管内皮細胞など)も攻撃してしまうように仕向けられるため、副作用として自己免疫疾患が誘発されるということも問題となっている薬です。
ですがBHB(ケトン体)で同じように自己免疫疾患が起こるかと言われたら、むしろ逆でケトン体には抗炎症作用があることもすでに先生の別記事で示されていたと思います(http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3626.html)。
この話はHbA1cが高い状態をインスリンで急に血糖値を下げたら網膜症が悪化するけれど、糖質制限食で下げた場合にはそのような現象は起こらないという話と似ているように思えます。
いかに人間がもともと持っているシステムを活用することが大事であるかということを物語っている話であるように私には思えます。
ちなみに拙ブログでもT細胞の疲弊について取り上げたことがございます。T細胞の疲弊は解糖系の過剰亢進の結果であり、これを脂質代謝へ切り替えるとT細胞は活動的なエフェクターT細胞から休眠的なメモリーT細胞に変わるということを学びました。今回の話とも整合性が取れるように思います。参考になれば幸いに存じます。
参考:
2021年1月28日(木)たがしゅうブログ記事
「細胞性免疫」が最も適切に働く条件
https://tagashuu.jp/blog-entry-1874.html】
こんにちは。
たがしゅう先生からとても参考になるコメントを頂きました。
ありがとうございます。
医学用語もあるので少し解説しながら、
私の意見を述べようと思います。
【特に気になったのは「BHB補充によりin vitroおよびin vivoでT細胞のPD-1の発現が低下することを示しました」の部分です。】
in vitroというのは、試験管内という意味で、
in vivo というのは、生体内という意味です。
【「PD-1」というのは新規抗がん剤「免疫チェックポイント阻害剤」でブロックされるターゲットの一つです。
T細胞表面に発現しているPD-1は本来、抗原提示細胞の表面や血管内皮等に発現しているPD-L1と結合することで、T細胞がこれを攻撃することを抑制される働き、つまり「自己の名札」としての働くことが示されています。
一方でなぜか一部の進行がんの患者さんのがん細胞にもこのPD-L1が過剰発現していて、T細胞ががん細胞を攻撃できなくなっている状況があると、この状況でPD-1の働きをブロックすることでT細胞に再びがんを攻撃させることを可能にし、抗がん剤としての効果を発揮することが言われています。】
免疫チェックポイント阻害薬は、免疫ががん細胞を攻撃する力を保つ薬です。
T細胞の表面には、
「攻撃するな」という命令を受け取るためのアンテナ(PD-1)があります。
体細胞や血管内皮細胞にあるアンテナ(PD-L1)と結合することで、
自己の名札として働きT細胞が、攻撃しなくなります。
一方、がん細胞表面にもアンテナ(PD-L1)が多くあり、
T細胞のアンテナに結合して、「攻撃するな」というサインをだします。
すると、T細胞の攻撃ににブレーキがかかり、
がん細胞は排除されなくなります。
このように、T細胞にブレーキがかかる仕組みを
「免疫チェックポイント」といいます。
免疫チェックポイント阻害薬は、
T細胞やがん細胞に作用して、
免疫にブレーキがかかるのを防ぎます。
【つまり今回のブログ記事で書かれていた
「BHB(ケトン体)でのT細胞のPD-1の発現低下」は、
免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体)の作用の仕方と
同じだということです。
ところが免疫チェックポイント阻害剤は、
PD-L1を過剰発現しているがん細胞だけではなく、
もともとPD-L1を発現している正常細胞(抗原提示細胞、血管内皮細胞など)も攻撃してしまうように仕向けられるため、
副作用として自己免疫疾患が誘発されるということも
問題となっている薬です。
ですがBHB(ケトン体)で同じように自己免疫疾患が起こるかと言われたら、むしろ逆でケトン体には抗炎症作用があることもすでに先生の別記事で示されていたと思います(http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3626.html)。】
たがしゅう先生がご指摘のように、免疫チェックポイント阻害剤が
がん細胞のアンテナ(PD-L1)だけに作用してくれたらいいのですが、
正常なT細胞のアンテナ(PD-1)にも作用してしまうのが大きな欠点です。
免疫チェックポイント阻害剤のその欠点により、副作用として
自己免疫疾患などが誘発されるのです。
PD-1阻害薬で有名なのはオプジーボ(二ポルマブ)です。
オプジーボの開発で、本庶佑京都大特別教授が
ノーベル生理学・医学賞を受賞されましね。
大きな欠点のある免疫チェックポイント阻害剤に対して、
BHB(ケトン体)は、
がん細胞のアンテナにだけ作用して正常細胞のアンテナには作用しないので
いいとこ取りが可能なのです。
【この話はHbA1cが高い状態をインスリンで急に血糖値を下げたら網膜症が悪化するけれど、糖質制限食で下げた場合にはそのような現象は起こらないという話と似ているように思えます。
いかに人間がもともと持っているシステムを活用することが大事であるかということを物語っている話であるように私には思えます。】
まったく同感です。
【ちなみに拙ブログでもT細胞の疲弊について取り上げたことがございます。T細胞の疲弊は解糖系の過剰亢進の結果であり、これを脂質代謝へ切り替えるとT細胞は活動的なエフェクターT細胞から休眠的なメモリーT細胞に変わるということを学びました。今回の話とも整合性が取れるように思います。参考になれば幸いに存じます。
参考:
2021年1月28日(木)たがしゅうブログ記事
「細胞性免疫」が最も適切に働く条件
https://tagashuu.jp/blog-entry-1874.html】
がん組織内に潜り込んだ「T細胞」の実に半分以上が本来の機能を失っていると言われています。
このような機能が失われた状態を一般には「T細胞の疲弊」と呼びます。
2021年1月28日(木)たがしゅうブログ記事
では、たがしゅう先生が
『T細胞が無理に酷使され過ぎたことによって、
T細胞が不可逆的に機能を停止させてしまった状態だと
言うことができるかもしれません。』
と仮説を述べておられます。
詳しくは、たがしゅうブロクをご参照ください。
江部康二
PD-1の下げ方の違い
江部先生
ご無沙汰しております。
今回の記事、大変興味深く拝見しました。
特に気になったのは「BHB補充によりin vitroおよびin vivoでT細胞のPD-1の発現が低下することを示しました」の部分です。
PD-1と言いますと、ご存知のように「PD-1」というのは新規抗がん剤「免疫チェックポイント阻害剤」でブロックされるターゲットの一つです。
T細胞表面に発現しているPD-1は本来、抗原提示細胞の表面や血管内皮等に発現しているPD-L1と結合することで、T細胞がこれを攻撃することを抑制される働き、つまり「自己の名札」としての働くことが示されています。
一方でなぜか一部の進行がんの患者さんのがん細胞にもこのPD-L1が過剰発現していて、T細胞ががん細胞を攻撃できなくなっている状況があると、この状況でPD-1の働きをブロックすることでT細胞に再びがんを攻撃させることを可能にし、抗がん剤としての効果を発揮することが言われています。
つまり今回のブログ記事で書かれていた「BHB(ケトン体)でのT細胞のPD-1の発現低下」は、
免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体)の作用の仕方と同じだということです。
ところが免疫チェックポイント阻害剤は、PD-L1を過剰発現しているがん細胞だけではなく、もともとPD-L1を発現している正常細胞(抗原提示細胞、血管内皮細胞など)も攻撃してしまうように仕向けられるため、副作用として自己免疫疾患が誘発されるということも問題となっている薬です。
ですがBHB(ケトン体)で同じように自己免疫疾患が起こるかと言われたら、むしろ逆でケトン体には抗炎症作用があることもすでに先生の別記事で示されていたと思います(http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3626.html)。
この話はHbA1cが高い状態をインスリンで急に血糖値を下げたら網膜症が悪化するけれど、糖質制限食で下げた場合にはそのような現象は起こらないという話と似ているように思えます。
いかに人間がもともと持っているシステムを活用することが大事であるかということを物語っている話であるように私には思えます。
ちなみに拙ブログでもT細胞の疲弊について取り上げたことがございます。T細胞の疲弊は解糖系の過剰亢進の結果であり、これを脂質代謝へ切り替えるとT細胞は活動的なエフェクターT細胞から休眠的なメモリーT細胞に変わるということを学びました。今回の話とも整合性が取れるように思います。参考になれば幸いに存じます。
参考:
2021年1月28日(木)たがしゅうブログ記事
「細胞性免疫」が最も適切に働く条件
https://tagashuu.jp/blog-entry-1874.html】
こんにちは。
たがしゅう先生からとても参考になるコメントを頂きました。
ありがとうございます。
医学用語もあるので少し解説しながら、
私の意見を述べようと思います。
【特に気になったのは「BHB補充によりin vitroおよびin vivoでT細胞のPD-1の発現が低下することを示しました」の部分です。】
in vitroというのは、試験管内という意味で、
in vivo というのは、生体内という意味です。
【「PD-1」というのは新規抗がん剤「免疫チェックポイント阻害剤」でブロックされるターゲットの一つです。
T細胞表面に発現しているPD-1は本来、抗原提示細胞の表面や血管内皮等に発現しているPD-L1と結合することで、T細胞がこれを攻撃することを抑制される働き、つまり「自己の名札」としての働くことが示されています。
一方でなぜか一部の進行がんの患者さんのがん細胞にもこのPD-L1が過剰発現していて、T細胞ががん細胞を攻撃できなくなっている状況があると、この状況でPD-1の働きをブロックすることでT細胞に再びがんを攻撃させることを可能にし、抗がん剤としての効果を発揮することが言われています。】
免疫チェックポイント阻害薬は、免疫ががん細胞を攻撃する力を保つ薬です。
T細胞の表面には、
「攻撃するな」という命令を受け取るためのアンテナ(PD-1)があります。
体細胞や血管内皮細胞にあるアンテナ(PD-L1)と結合することで、
自己の名札として働きT細胞が、攻撃しなくなります。
一方、がん細胞表面にもアンテナ(PD-L1)が多くあり、
T細胞のアンテナに結合して、「攻撃するな」というサインをだします。
すると、T細胞の攻撃ににブレーキがかかり、
がん細胞は排除されなくなります。
このように、T細胞にブレーキがかかる仕組みを
「免疫チェックポイント」といいます。
免疫チェックポイント阻害薬は、
T細胞やがん細胞に作用して、
免疫にブレーキがかかるのを防ぎます。
【つまり今回のブログ記事で書かれていた
「BHB(ケトン体)でのT細胞のPD-1の発現低下」は、
免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体)の作用の仕方と
同じだということです。
ところが免疫チェックポイント阻害剤は、
PD-L1を過剰発現しているがん細胞だけではなく、
もともとPD-L1を発現している正常細胞(抗原提示細胞、血管内皮細胞など)も攻撃してしまうように仕向けられるため、
副作用として自己免疫疾患が誘発されるということも
問題となっている薬です。
ですがBHB(ケトン体)で同じように自己免疫疾患が起こるかと言われたら、むしろ逆でケトン体には抗炎症作用があることもすでに先生の別記事で示されていたと思います(http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3626.html)。】
たがしゅう先生がご指摘のように、免疫チェックポイント阻害剤が
がん細胞のアンテナ(PD-L1)だけに作用してくれたらいいのですが、
正常なT細胞のアンテナ(PD-1)にも作用してしまうのが大きな欠点です。
免疫チェックポイント阻害剤のその欠点により、副作用として
自己免疫疾患などが誘発されるのです。
PD-1阻害薬で有名なのはオプジーボ(二ポルマブ)です。
オプジーボの開発で、本庶佑京都大特別教授が
ノーベル生理学・医学賞を受賞されましね。
大きな欠点のある免疫チェックポイント阻害剤に対して、
BHB(ケトン体)は、
がん細胞のアンテナにだけ作用して正常細胞のアンテナには作用しないので
いいとこ取りが可能なのです。
【この話はHbA1cが高い状態をインスリンで急に血糖値を下げたら網膜症が悪化するけれど、糖質制限食で下げた場合にはそのような現象は起こらないという話と似ているように思えます。
いかに人間がもともと持っているシステムを活用することが大事であるかということを物語っている話であるように私には思えます。】
まったく同感です。
【ちなみに拙ブログでもT細胞の疲弊について取り上げたことがございます。T細胞の疲弊は解糖系の過剰亢進の結果であり、これを脂質代謝へ切り替えるとT細胞は活動的なエフェクターT細胞から休眠的なメモリーT細胞に変わるということを学びました。今回の話とも整合性が取れるように思います。参考になれば幸いに存じます。
参考:
2021年1月28日(木)たがしゅうブログ記事
「細胞性免疫」が最も適切に働く条件
https://tagashuu.jp/blog-entry-1874.html】
がん組織内に潜り込んだ「T細胞」の実に半分以上が本来の機能を失っていると言われています。
このような機能が失われた状態を一般には「T細胞の疲弊」と呼びます。
2021年1月28日(木)たがしゅうブログ記事
では、たがしゅう先生が
『T細胞が無理に酷使され過ぎたことによって、
T細胞が不可逆的に機能を停止させてしまった状態だと
言うことができるかもしれません。』
と仮説を述べておられます。
詳しくは、たがしゅうブロクをご参照ください。
江部康二
江部先生
コメントを記事に取り上げて下さり有難うございます。
ご同意頂けて安心致しました。
また一つ糖質制限食のすごさが明らかになった形ですね。
ケトン体を起点にオートファジー活性化、抗酸化作用、サーチュインなどの後天的遺伝子変化などこれほど良い働きが重なるのは決して偶然ではないでしょう。
これからも糖質制限食の良さがもっと多くの人に伝わるよう微力を尽くさせて頂きます。
実は白状しますと、ここしばらく糖質制限食の実践ぐらいが随分緩んでしまっていて、先生に合わせる顔がない状態でした。今は心を入れ替えて再び糖質制限食を厳格に実施し、その良さを再体験しているところです。またいつか先生にお目にかかれる日を楽しみにしています。今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。
コメントを記事に取り上げて下さり有難うございます。
ご同意頂けて安心致しました。
また一つ糖質制限食のすごさが明らかになった形ですね。
ケトン体を起点にオートファジー活性化、抗酸化作用、サーチュインなどの後天的遺伝子変化などこれほど良い働きが重なるのは決して偶然ではないでしょう。
これからも糖質制限食の良さがもっと多くの人に伝わるよう微力を尽くさせて頂きます。
実は白状しますと、ここしばらく糖質制限食の実践ぐらいが随分緩んでしまっていて、先生に合わせる顔がない状態でした。今は心を入れ替えて再び糖質制限食を厳格に実施し、その良さを再体験しているところです。またいつか先生にお目にかかれる日を楽しみにしています。今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。
都内河北 鈴木です。
たがしゅう先生の講義に参加して面識ありますが、
私は、江部先生『糖質制限理論』食生活で、
<<『生還、覚醒、5度の再覚醒、』>>している事実現実があります!!!
私は、江部先生『糖質制限理論』食生活で、
希少な改善効果を出したのですから、
11年目の安堵の日々の食生活をしています!!
今月末に2か所の都内S区役所主催の『認知症』、『糖尿病』の
講義参加希望しました、
この結果は、受講終了号に報告します!!
江部先生には、<<『生還、覚醒、5度の再覚醒、』>>でき、
更なる改善を期待できる状況で、11年目に生活できる事に、
感謝尽きません!!
ありがとうございます。
敬具
たがしゅう先生の講義に参加して面識ありますが、
私は、江部先生『糖質制限理論』食生活で、
<<『生還、覚醒、5度の再覚醒、』>>している事実現実があります!!!
私は、江部先生『糖質制限理論』食生活で、
希少な改善効果を出したのですから、
11年目の安堵の日々の食生活をしています!!
今月末に2か所の都内S区役所主催の『認知症』、『糖尿病』の
講義参加希望しました、
この結果は、受講終了号に報告します!!
江部先生には、<<『生還、覚醒、5度の再覚醒、』>>でき、
更なる改善を期待できる状況で、11年目に生活できる事に、
感謝尽きません!!
ありがとうございます。
敬具
2022/10/22(Sat) 20:28 | URL | 都内河北 鈴木 | 【編集】
たがしゅう 先生
コメント、ありがとうございます。
ケトン体を起点にオートファジー活性化、抗酸化作用、サーチュインなどの後天的遺伝子変化などこれほど良い働きが重なるのは決して偶然ではないでしょう。
やはり、糖質制限食が、人類本来の食事であり人類の健康食なのだと思います。
コメント、ありがとうございます。
ケトン体を起点にオートファジー活性化、抗酸化作用、サーチュインなどの後天的遺伝子変化などこれほど良い働きが重なるのは決して偶然ではないでしょう。
やはり、糖質制限食が、人類本来の食事であり人類の健康食なのだと思います。
2022/10/23(Sun) 12:39 | URL | ドクター江部 | 【編集】
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