2008年10月29日 (水)
おはようございます。今日は、結構寒い京都です。
さて今回は、リュカさんからの質問を受けて、糖質制限食で耐糖能が改善するというお話しです。
『なるほど…最近、ネットの掲示板に「糖質制限食を続けていると耐糖能が低下し、たまに糖分を摂取したときに急激に血糖値が跳ね上がるのでよくない」と書きこむ人がよく見受けられるのでちょっと気になっていました。
たとえばずーっとまじめにスーパー糖質制限食を続けていて、グルコースチャレンジテストを受けても異常に高い値が出たりすることはないのでしょうか?(もしそうなったとしても、その場合HbA1cは低い値になりそうですね)
by リュカ 2008/10/19 21:01 』
リュカさん。コメントありがとうございます。
糖尿人が糖質制限食を実践すれば耐糖能は基本的に改善します。 (^_^)
一方、耐糖能の改善には、個人差があります。糖尿病発症の時点で、膵臓のβ細胞が、どの程度ダメージを受けていたかによると思います。
以下は、ある糖尿病患者Sさんのデータです。
2005年9月の健康診断で、空腹時血糖値:202mg/dl、HbA1c:6.9%
カロリー制限食と運動療法で頑張りましたが、
2007年9月の検査で、空腹時血糖値:163mg/dl、HbA1c:7.1%
完全に糖尿病の診断基準を満たしています。
2007年10月から糖質制限食を実践されて、
2007年11月高雄病院初診時、HbA1c:6.7%と改善。
2008年7月、HbA1c:5.5%と改善。
下記は、糖質制限食を約8ヶ月実践されたあとの、Sさんの2008年7月の糖質摂取時の検査です。
食前 食後30 食後60 食後90 食後120
IRI 3.8 35.2 58.5 55.1 24.9
血糖値 108 148 189 142 126
耐糖能が改善し血糖値は正常パターンとなっています。インスリン分泌指数も0.785と、正常ですね。
糖質制限食実践によりインスリンの基礎分泌が回復して、空腹時血糖値が202mg→108mgと正常化。
インスリン追加分泌第一相も回復してインスリン指数0.4以上で正常化。インスリン追加分泌第二相も回復して食後2時間血糖値126mgと正常化。
2005年に糖尿病が発見されたときは、空腹時血糖値が203mgなので、経口血糖負荷試験をすれば、食後血糖値は当然、200mg以上は確実で、完全に糖尿病パターンだったと考えられます。
このように、糖質制限食実践により、Sさんは見事に耐糖能が回復し糖尿人から正常人となられたわけです。
それではなぜ糖質制限食で耐糖能が改善するのかを考えてみましょう。
糖尿病の人は、インスリンの作用不足があります。より正確には、インスリン分泌不足とインスリン抵抗性が合わさってインスリン作用不足となり、糖尿病を発症します。日本人の場合は、インスリン分泌不足が主となることが多いとされています。
<糖質・脂質・タンパク質>のうち血糖値を急峻に上昇させるのは、糖質だけです。
糖質を摂取すると食後高血糖(ブドウ糖スパイク)を起こし、インスリンが大量に分泌されます。
1日3回以上毎日糖質を摂取して運動不足もあれば、インスリンが大量に追加分泌されることが長年続いて、遂に膵臓が疲弊していきます。
膵臓が疲弊すると、インスリン分泌能力は低下して、耐糖能も低下して糖尿病を発症します。
糖尿病を発症した時点で、膵臓のβ細胞は、「既に回復不能のダメージを受けたもの」「疲弊しているが回復可能なもの」があります。
このようなとき、糖質制限食を実践すると、インスリン必要量は極めて少量ですむので、疲弊していた膵臓のβ細胞は休養できます。そうすると、インスリン分泌能の回復が期待できます。インスリンの分泌が回復すれば、当然耐糖能も改善します。
高雄病院では1999年から糖質制限食を始めて、もう足かけ9年ですね。350人以上の糖尿病入院患者さんで確認済みですが、糖質制限食により、食後血糖値も空腹時血糖値も改善します。空腹時血糖値が改善するということは、インスリン基礎分泌もあるていど回復したということですね。
一方、糖尿人が糖質を摂取して食後高血糖が生じると
① 高血糖により膵臓のβ細胞(インスリンを分泌)が直接ダメージを受ける。
② 高血糖により、インスリンの効きが悪くなる(インスリン抵抗性の増大)
①②により高血糖→「インスリン分泌低下+インスリン抵抗性増大」→高血糖
という繰り返しを生じますが、この悪循環のことを糖毒といい、糖尿病悪化の大きな要因となっています。(=_=;)
血糖値を急峻に上昇させるのは、糖質だけです。従って、糖尿人が糖質を摂取すれば、わざわざ糖毒状態を引き起こし、糖尿病が悪化し、長引けば膵臓のβ細胞も回復不能で死滅していくのです。
糖質制限食を実践すれば、速やかに食後高血糖が改善し、きっちりこの糖毒を断ち切ることができるので、糖尿病がめきめき改善するのです。糖質制限食で糖毒が改善すれば、β細胞のインスリン分泌能も回復していき、耐糖能も改善していきます。ヾ(^▽^)
結論です。
1 糖質制限食を実践すれば必要なインスリンはごく少量ですむので、β細胞が休養できて回復し、耐糖能が改善する。
2 糖質制限食を実践すれば、「糖毒」が改善するのでβ細胞のダメージがとれて回復する。また「糖毒」が改善するのでインスリン抵抗性も改善する。この二つにより耐糖能が改善する。
最後になりますが、人類が穀物を主食とし始めて定着したのは400万年の歴史の中で、わずか4000年ていどですから1/1000の期間です。糖質制限食は穀物を常食とする以前(999/1000の期間)の人類の食生活に戻るだけです。
すなわち、農耕以前は人類皆糖質制限食です。
またイヌイットの人々は、生肉・生魚が主食です。まさにスーパー 糖質制限食を数千年食べ続けたわけですが、糖尿病や心筋梗塞やアレルギー疾患が極めて少ないことが知られていますね。
江部康二
【講演会・講座のお知らせ】
☆☆講座「糖尿病は必ず良くなる!~糖質制限食のすすめ」京都
朝日カルチャーセンター京都 http://www.asahi-culture.co.jp/www/kyoto-c.html
075-231-9693
2008年11月18日(火)13:00~14:30
☆☆ 糖質制限食講演会・東京・中野
2008年11月30日(日)9:30~11:40
申し込みは、糖質制限食ネット・リボーン 曽我部ゆかり
(T/F)03−3388−5428
(e-mail) reborn@big.or.jp
☆☆講座「糖尿病・メタボはこう予防する!~糖質制限食のすすめ」京都
朝日カルチャーセンター京都 http://www.asahi-culture.co.jp/www/kyoto-c.html
075-231-9693
2009年2月17日(火)13:00~14:30
さて今回は、リュカさんからの質問を受けて、糖質制限食で耐糖能が改善するというお話しです。
『なるほど…最近、ネットの掲示板に「糖質制限食を続けていると耐糖能が低下し、たまに糖分を摂取したときに急激に血糖値が跳ね上がるのでよくない」と書きこむ人がよく見受けられるのでちょっと気になっていました。
たとえばずーっとまじめにスーパー糖質制限食を続けていて、グルコースチャレンジテストを受けても異常に高い値が出たりすることはないのでしょうか?(もしそうなったとしても、その場合HbA1cは低い値になりそうですね)
by リュカ 2008/10/19 21:01 』
リュカさん。コメントありがとうございます。
糖尿人が糖質制限食を実践すれば耐糖能は基本的に改善します。 (^_^)
一方、耐糖能の改善には、個人差があります。糖尿病発症の時点で、膵臓のβ細胞が、どの程度ダメージを受けていたかによると思います。
以下は、ある糖尿病患者Sさんのデータです。
2005年9月の健康診断で、空腹時血糖値:202mg/dl、HbA1c:6.9%
カロリー制限食と運動療法で頑張りましたが、
2007年9月の検査で、空腹時血糖値:163mg/dl、HbA1c:7.1%
完全に糖尿病の診断基準を満たしています。
2007年10月から糖質制限食を実践されて、
2007年11月高雄病院初診時、HbA1c:6.7%と改善。
2008年7月、HbA1c:5.5%と改善。
下記は、糖質制限食を約8ヶ月実践されたあとの、Sさんの2008年7月の糖質摂取時の検査です。
食前 食後30 食後60 食後90 食後120
IRI 3.8 35.2 58.5 55.1 24.9
血糖値 108 148 189 142 126
耐糖能が改善し血糖値は正常パターンとなっています。インスリン分泌指数も0.785と、正常ですね。
糖質制限食実践によりインスリンの基礎分泌が回復して、空腹時血糖値が202mg→108mgと正常化。
インスリン追加分泌第一相も回復してインスリン指数0.4以上で正常化。インスリン追加分泌第二相も回復して食後2時間血糖値126mgと正常化。
2005年に糖尿病が発見されたときは、空腹時血糖値が203mgなので、経口血糖負荷試験をすれば、食後血糖値は当然、200mg以上は確実で、完全に糖尿病パターンだったと考えられます。
このように、糖質制限食実践により、Sさんは見事に耐糖能が回復し糖尿人から正常人となられたわけです。
それではなぜ糖質制限食で耐糖能が改善するのかを考えてみましょう。
糖尿病の人は、インスリンの作用不足があります。より正確には、インスリン分泌不足とインスリン抵抗性が合わさってインスリン作用不足となり、糖尿病を発症します。日本人の場合は、インスリン分泌不足が主となることが多いとされています。
<糖質・脂質・タンパク質>のうち血糖値を急峻に上昇させるのは、糖質だけです。
糖質を摂取すると食後高血糖(ブドウ糖スパイク)を起こし、インスリンが大量に分泌されます。
1日3回以上毎日糖質を摂取して運動不足もあれば、インスリンが大量に追加分泌されることが長年続いて、遂に膵臓が疲弊していきます。
膵臓が疲弊すると、インスリン分泌能力は低下して、耐糖能も低下して糖尿病を発症します。
糖尿病を発症した時点で、膵臓のβ細胞は、「既に回復不能のダメージを受けたもの」「疲弊しているが回復可能なもの」があります。
このようなとき、糖質制限食を実践すると、インスリン必要量は極めて少量ですむので、疲弊していた膵臓のβ細胞は休養できます。そうすると、インスリン分泌能の回復が期待できます。インスリンの分泌が回復すれば、当然耐糖能も改善します。
高雄病院では1999年から糖質制限食を始めて、もう足かけ9年ですね。350人以上の糖尿病入院患者さんで確認済みですが、糖質制限食により、食後血糖値も空腹時血糖値も改善します。空腹時血糖値が改善するということは、インスリン基礎分泌もあるていど回復したということですね。
一方、糖尿人が糖質を摂取して食後高血糖が生じると
① 高血糖により膵臓のβ細胞(インスリンを分泌)が直接ダメージを受ける。
② 高血糖により、インスリンの効きが悪くなる(インスリン抵抗性の増大)
①②により高血糖→「インスリン分泌低下+インスリン抵抗性増大」→高血糖
という繰り返しを生じますが、この悪循環のことを糖毒といい、糖尿病悪化の大きな要因となっています。(=_=;)
血糖値を急峻に上昇させるのは、糖質だけです。従って、糖尿人が糖質を摂取すれば、わざわざ糖毒状態を引き起こし、糖尿病が悪化し、長引けば膵臓のβ細胞も回復不能で死滅していくのです。
糖質制限食を実践すれば、速やかに食後高血糖が改善し、きっちりこの糖毒を断ち切ることができるので、糖尿病がめきめき改善するのです。糖質制限食で糖毒が改善すれば、β細胞のインスリン分泌能も回復していき、耐糖能も改善していきます。ヾ(^▽^)
結論です。
1 糖質制限食を実践すれば必要なインスリンはごく少量ですむので、β細胞が休養できて回復し、耐糖能が改善する。
2 糖質制限食を実践すれば、「糖毒」が改善するのでβ細胞のダメージがとれて回復する。また「糖毒」が改善するのでインスリン抵抗性も改善する。この二つにより耐糖能が改善する。
最後になりますが、人類が穀物を主食とし始めて定着したのは400万年の歴史の中で、わずか4000年ていどですから1/1000の期間です。糖質制限食は穀物を常食とする以前(999/1000の期間)の人類の食生活に戻るだけです。
すなわち、農耕以前は人類皆糖質制限食です。
またイヌイットの人々は、生肉・生魚が主食です。まさにスーパー 糖質制限食を数千年食べ続けたわけですが、糖尿病や心筋梗塞やアレルギー疾患が極めて少ないことが知られていますね。
江部康二
【講演会・講座のお知らせ】
☆☆講座「糖尿病は必ず良くなる!~糖質制限食のすすめ」京都
朝日カルチャーセンター京都 http://www.asahi-culture.co.jp/www/kyoto-c.html
075-231-9693
2008年11月18日(火)13:00~14:30
☆☆ 糖質制限食講演会・東京・中野
2008年11月30日(日)9:30~11:40
申し込みは、糖質制限食ネット・リボーン 曽我部ゆかり
(T/F)03−3388−5428
(e-mail) reborn@big.or.jp
☆☆講座「糖尿病・メタボはこう予防する!~糖質制限食のすすめ」京都
朝日カルチャーセンター京都 http://www.asahi-culture.co.jp/www/kyoto-c.html
075-231-9693
2009年2月17日(火)13:00~14:30
どうもありがとうございます。
まぁ検査はたまーにしか受けないので、そのことを心配するよりも日々の糖質制限食をきっちりやったほうが良いですよね。ありがとうございました。
まぁ検査はたまーにしか受けないので、そのことを心配するよりも日々の糖質制限食をきっちりやったほうが良いですよね。ありがとうございました。
2008/10/29(Wed) 08:58 | URL | リュカ | 【編集】
私は糖質制限を行って半年たつものですが、二週間に一度くらいはラーメンやスイーツを食べたりします。そのとき、動悸がし、全身の脈動を感じるような感覚に襲われ、もう寝るしかない状態になってしまうのですが、これでも耐糖能が正常といるのでしょうか?
先生がおっしゃる耐糖能の正常化とは、実際にブドウ糖経口負荷試験を行っての結論なのでしょうか?
先生がおっしゃる耐糖能の正常化とは、実際にブドウ糖経口負荷試験を行っての結論なのでしょうか?
2010/07/14(Wed) 12:58 | URL | たかし | 【編集】
たかしさん。
耐糖能改善に関しては個人差が大きいです。
一律に全員が正常型に戻るというわけにはいきません。
糖質制限食実践により、膵臓が休養できて、そのぶん疲弊していたβ細胞が回復するということです。
すでに壊れていたβ細胞は休養しても回復しません。
耐糖能改善に関しては個人差が大きいです。
一律に全員が正常型に戻るというわけにはいきません。
糖質制限食実践により、膵臓が休養できて、そのぶん疲弊していたβ細胞が回復するということです。
すでに壊れていたβ細胞は休養しても回復しません。
2010/07/14(Wed) 13:24 | URL | ドクター江部 | 【編集】
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