2022年01月16日 (日)
こんにちは。
今回は、α(アルファ)-グルコシターゼ阻害薬剤(α-GI薬)について考えてみます。
糖質制限食を実践していても、旅行や外食などで、
どうしても糖質摂取せざるを得ないこともありますので
その様なときは、α-GI薬の出番なのです。
デンプンのような多糖類は、α-アミラーゼという消化酵素の作用を得て、
二糖類(麦芽糖や蔗糖)やオリゴ糖に分解されます。
つまり、α-アミラーゼは、
穀物や芋のデンプンと呼ばれる多くの糖の集合体を
まず第一段階で分解して少し大きさを小さくしています。
その後、この二糖類やオリゴ糖は、
マルターゼ、スクラーゼ、グルコアミラーゼなどの酵素により、
単糖(ブドウ糖、果糖、ガラクトース等)に分解されて小腸から体内に吸収されます。
マルターゼ、スクラーゼ、グルコアミラーゼなどの酵素を総称して、
α-グルコシダーゼと呼びます。
この、α-グルコシダーゼの働きを阻害することにより、
腸管からの糖質の分解・吸収を遅延させて、
食後高血糖を抑制するお薬が、
『α-グルコシダーゼ阻害薬』(グルコバイ、ベイスン、セイブル)です。
グルコバイ(アカルボース)はα-グルコシダーゼだけではなく、
α-アミラーゼに対する阻害作用も、もっています。
ベイスン(ボグリボース)やセイブル(ミグリトール)は、
α-グルコシダーゼの活性を阻害しますが、α-アミラーゼには影響を与えません。
従って、グルコバイの方が少し効果が強いですが、副作用もやや生じやすいです。
副作用とは、ガス、腹満、腹痛、軟便などです。
それぞれ常用量で下記程度に血糖値を下げるとされています。
グルコバイ: 1時間値50mg、 2時間値40mg
ベイスン: 1時間値40mg、 2時間値30mg
セイブル: 1時間値60mg、 2時間値20mg
しかし、これほど下がらない人もあります。
セイブルは1時間値を下げるけれど、2時間値はあまり下げないのが特徴です。
いずれの薬も結構個人差が大きいですし、
印象としては上記の数字ほど下がらない人のほうが多いです。
作用機序から考えて、膵臓のβ細胞には全く影響を与えないので、
SU剤のように疲れた膵臓を鞭打つといった欠点はありません。(^^)
しかし、比較的頻度の多い副作用として、
分解が遅れて腸管に残った糖質が醗酵してガスがでたり、
お腹が張ったり、下痢をすることがあります。(-_-;)
ガスの貯留により、腸閉塞(イレウス)のような症状になる事があるので、
腹部手術歴の有る方は、禁忌とされています。
私自身で行った人体実験では、かなり興味深いことがありました。
グルコバイの常用量を食直前に服用して何種類かの食品を試食してみました。
蕎麦はほとんど腹満がなかったのですが、
お餅は最悪で、腹満・腹痛・ガスのフルコースで、
病院に行こうか?(∵)?と思ったくらいでした。
うどんやご飯は、蕎麦に比べたらやや腹満・ガスなど出やすかったですね。
個人差はあると思いますが、参考にしていただければと思います。
現在は、私は、食事の工夫(スーパー糖質制限食)をしていますので、内服薬は一切なしです。
糖尿人でスーパー 糖質制限食実践中の患者さんの場合は、ほとんど薬はなしですが、
お昼だけ主食ありの『スタンダード 糖質制限食』の時は、
α-GI薬を食直前に内服してもらうことがあります。
従いまして、「糖尿病には糖質制限食」の高雄病院でも
比較的使用頻度の高いのが『α-グルコシダーゼ阻害薬』です。
高雄病院入院中にグルコバイ100mgを、食時開始30秒前に内服して、
昼食に例えば炊いたご飯100g摂取など少なめで実験し、
食後2時間血糖値値が180mgを超えない量をリサーチすることもあります。
炊いたご飯お茶碗一杯は約150gで、糖質を55g含んでいますが、
それでは糖質が多すぎて太刀打ちできないので、約100gに減らして実験します。
グルコバイ・ベイスン・セイブルを飲み忘れた場合、
食べ始めてからすぐに飲んでもそれなりに有効です。
食事終了時に内服しても無効です。
基本的に安全性の高い薬ですが、まれに肝障害を来す例があるので、
定期的な血液検査を推奨します。
朗報として、最近のCGM(Continuous Glucose Monitoring:持続ブドウ糖測定)システムの普及で、
α-GI薬が、食後高血糖と共に平均血糖変動幅増大を
ある程度コントロールしていることが判明し、
その有効性が見直されています。
これなら活性酸素の発生が少なくなり、酸化ストレスも減少します。
2002年、2003年に、LancetやJAMA(米国医師会雑誌)に掲載されたSTOP-NIDDMという臨床試験(*)(**)で、
アカルボース(α-グルコシダーゼ阻害薬・グルコバイ)による治療は、
2型糖尿病の発症を36%、心血管疾患の発症を49%抑制すると報告されました。
2008年6月にヘルシンキで「第5回糖尿病とその合併症予防に関する世界会議」(WCPD)が開催され、
STOP-NIDDM試験のまとめが発表されました。
あまりにも、結果が良すぎるので、当時私は信用していなかったのですが、
近年のCGMの普及により、STOP-NIDDMの結果は、
信頼できるものであったと納得がいきました。
CGMの普及により、α-GI薬のように見直される薬剤もあれば、
SU剤のように欠点がもろに暴露された薬剤もあり、栄枯盛衰ですね。
(*)
Lancet. 2002 Jun 15;359(9323):2072-7.
Acarbose for prevention of type 2 diabetes mellitus: the STOP-NIDDM randomised trial.
Chiasson JL1, Josse RG, Gomis R, Hanefeld M, Karasik A, Laakso M; STOP-NIDDM Trail Research Group.
(**)
Chiasson JL, Josse RG, Gomis R, Hanefeld M, Karasik A, Laakso M, STOP-NIDDM Trial Research Group
: Acarbose treatment and the risk of cardiovascular disease and hypertension in patients with impaired glucose tolerance: the STOP-NIDDM trial. JAMA 2003; 290: 486-494.
江部康二
今回は、α(アルファ)-グルコシターゼ阻害薬剤(α-GI薬)について考えてみます。
糖質制限食を実践していても、旅行や外食などで、
どうしても糖質摂取せざるを得ないこともありますので
その様なときは、α-GI薬の出番なのです。
デンプンのような多糖類は、α-アミラーゼという消化酵素の作用を得て、
二糖類(麦芽糖や蔗糖)やオリゴ糖に分解されます。
つまり、α-アミラーゼは、
穀物や芋のデンプンと呼ばれる多くの糖の集合体を
まず第一段階で分解して少し大きさを小さくしています。
その後、この二糖類やオリゴ糖は、
マルターゼ、スクラーゼ、グルコアミラーゼなどの酵素により、
単糖(ブドウ糖、果糖、ガラクトース等)に分解されて小腸から体内に吸収されます。
マルターゼ、スクラーゼ、グルコアミラーゼなどの酵素を総称して、
α-グルコシダーゼと呼びます。
この、α-グルコシダーゼの働きを阻害することにより、
腸管からの糖質の分解・吸収を遅延させて、
食後高血糖を抑制するお薬が、
『α-グルコシダーゼ阻害薬』(グルコバイ、ベイスン、セイブル)です。
グルコバイ(アカルボース)はα-グルコシダーゼだけではなく、
α-アミラーゼに対する阻害作用も、もっています。
ベイスン(ボグリボース)やセイブル(ミグリトール)は、
α-グルコシダーゼの活性を阻害しますが、α-アミラーゼには影響を与えません。
従って、グルコバイの方が少し効果が強いですが、副作用もやや生じやすいです。
副作用とは、ガス、腹満、腹痛、軟便などです。
それぞれ常用量で下記程度に血糖値を下げるとされています。
グルコバイ: 1時間値50mg、 2時間値40mg
ベイスン: 1時間値40mg、 2時間値30mg
セイブル: 1時間値60mg、 2時間値20mg
しかし、これほど下がらない人もあります。
セイブルは1時間値を下げるけれど、2時間値はあまり下げないのが特徴です。
いずれの薬も結構個人差が大きいですし、
印象としては上記の数字ほど下がらない人のほうが多いです。
作用機序から考えて、膵臓のβ細胞には全く影響を与えないので、
SU剤のように疲れた膵臓を鞭打つといった欠点はありません。(^^)
しかし、比較的頻度の多い副作用として、
分解が遅れて腸管に残った糖質が醗酵してガスがでたり、
お腹が張ったり、下痢をすることがあります。(-_-;)
ガスの貯留により、腸閉塞(イレウス)のような症状になる事があるので、
腹部手術歴の有る方は、禁忌とされています。
私自身で行った人体実験では、かなり興味深いことがありました。
グルコバイの常用量を食直前に服用して何種類かの食品を試食してみました。
蕎麦はほとんど腹満がなかったのですが、
お餅は最悪で、腹満・腹痛・ガスのフルコースで、
病院に行こうか?(∵)?と思ったくらいでした。
うどんやご飯は、蕎麦に比べたらやや腹満・ガスなど出やすかったですね。
個人差はあると思いますが、参考にしていただければと思います。
現在は、私は、食事の工夫(スーパー糖質制限食)をしていますので、内服薬は一切なしです。
糖尿人でスーパー 糖質制限食実践中の患者さんの場合は、ほとんど薬はなしですが、
お昼だけ主食ありの『スタンダード 糖質制限食』の時は、
α-GI薬を食直前に内服してもらうことがあります。
従いまして、「糖尿病には糖質制限食」の高雄病院でも
比較的使用頻度の高いのが『α-グルコシダーゼ阻害薬』です。
高雄病院入院中にグルコバイ100mgを、食時開始30秒前に内服して、
昼食に例えば炊いたご飯100g摂取など少なめで実験し、
食後2時間血糖値値が180mgを超えない量をリサーチすることもあります。
炊いたご飯お茶碗一杯は約150gで、糖質を55g含んでいますが、
それでは糖質が多すぎて太刀打ちできないので、約100gに減らして実験します。
グルコバイ・ベイスン・セイブルを飲み忘れた場合、
食べ始めてからすぐに飲んでもそれなりに有効です。
食事終了時に内服しても無効です。
基本的に安全性の高い薬ですが、まれに肝障害を来す例があるので、
定期的な血液検査を推奨します。
朗報として、最近のCGM(Continuous Glucose Monitoring:持続ブドウ糖測定)システムの普及で、
α-GI薬が、食後高血糖と共に平均血糖変動幅増大を
ある程度コントロールしていることが判明し、
その有効性が見直されています。
これなら活性酸素の発生が少なくなり、酸化ストレスも減少します。
2002年、2003年に、LancetやJAMA(米国医師会雑誌)に掲載されたSTOP-NIDDMという臨床試験(*)(**)で、
アカルボース(α-グルコシダーゼ阻害薬・グルコバイ)による治療は、
2型糖尿病の発症を36%、心血管疾患の発症を49%抑制すると報告されました。
2008年6月にヘルシンキで「第5回糖尿病とその合併症予防に関する世界会議」(WCPD)が開催され、
STOP-NIDDM試験のまとめが発表されました。
あまりにも、結果が良すぎるので、当時私は信用していなかったのですが、
近年のCGMの普及により、STOP-NIDDMの結果は、
信頼できるものであったと納得がいきました。
CGMの普及により、α-GI薬のように見直される薬剤もあれば、
SU剤のように欠点がもろに暴露された薬剤もあり、栄枯盛衰ですね。
(*)
Lancet. 2002 Jun 15;359(9323):2072-7.
Acarbose for prevention of type 2 diabetes mellitus: the STOP-NIDDM randomised trial.
Chiasson JL1, Josse RG, Gomis R, Hanefeld M, Karasik A, Laakso M; STOP-NIDDM Trail Research Group.
(**)
Chiasson JL, Josse RG, Gomis R, Hanefeld M, Karasik A, Laakso M, STOP-NIDDM Trial Research Group
: Acarbose treatment and the risk of cardiovascular disease and hypertension in patients with impaired glucose tolerance: the STOP-NIDDM trial. JAMA 2003; 290: 486-494.
江部康二
先生のご著書とブログにはいつもお世話になっております。
お陰様で、私自身は体調を崩すことがほとんどなく過ごしております。
70歳の義父が、手のひらにしこりの様なものができ、当たると痛いとのことで、整形外科を受診しました。診断は「デュピュイトラン拘縮」でした。
しばらく様子を見て、指の関節が曲がってきたら手術とのことでした。
私もこの病名について調べてみたところ、「原因は不明で、高齢男性と糖尿病患者に多い」とありました。義父は糖尿病ではありませんが、和菓子など甘いものが好きで、麺やパンも大好きです。HbA1cが6.0%を少し越えているので、糖質を結構摂っているのだと思います。
高齢男性と糖尿病患者に多いということは、男性ホルモンの減少か血糖値の上昇と何らかの関係があるのでしょうか。糖質制限により糖尿病が改善した患者さんで、デュピュイトラン拘縮の進行が止まった例などがあれば、頑固な義父に糖質制限を勧めるきっかけになるかと思い質問させて頂きました。宜しくお願いします。
お陰様で、私自身は体調を崩すことがほとんどなく過ごしております。
70歳の義父が、手のひらにしこりの様なものができ、当たると痛いとのことで、整形外科を受診しました。診断は「デュピュイトラン拘縮」でした。
しばらく様子を見て、指の関節が曲がってきたら手術とのことでした。
私もこの病名について調べてみたところ、「原因は不明で、高齢男性と糖尿病患者に多い」とありました。義父は糖尿病ではありませんが、和菓子など甘いものが好きで、麺やパンも大好きです。HbA1cが6.0%を少し越えているので、糖質を結構摂っているのだと思います。
高齢男性と糖尿病患者に多いということは、男性ホルモンの減少か血糖値の上昇と何らかの関係があるのでしょうか。糖質制限により糖尿病が改善した患者さんで、デュピュイトラン拘縮の進行が止まった例などがあれば、頑固な義父に糖質制限を勧めるきっかけになるかと思い質問させて頂きました。宜しくお願いします。
2022/01/16(Sun) 20:51 | URL | さゆみ | 【編集】
さゆみ さん
「デュピュイトラン拘縮」に関しては、糖質制限食で治療した経験がないので、
効果のほどはわかりません。
「デュピュイトラン拘縮」に関しては、糖質制限食で治療した経験がないので、
効果のほどはわかりません。
2022/01/17(Mon) 15:33 | URL | ドクター江部 | 【編集】
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