2021年12月05日 (日)
こんにちは。
麻疹ウイルスに関して、勘違いしていました。
済みません。
中嶋一雄先生にご教示頂きました。
ありがとうございます。
以下の青字は、感染症情報センターにある記載です。
http://idsc.nih.go.jp/vaccine/b-measles.html
「・・・麻疹とは強い感染力を有する急性熱性発疹性疾患であり、ヒトを自然宿主とする。
原因ウイルスである麻疹ウイルスはParamyxovirus 科Morbillivirus 属に属し、直径100~250nmのエンベロープを有する一本鎖RNAウイルスである。・・・」
「・・・感染症研究所ウイルス製剤部で実施した遺伝子解析の結果、
現在日本で流行しているウイルスは、
WHOの遺伝子型分類によるD3およびD5タイプが主流であることがわかった 。
ウイルス粒子には6つの構造蛋白が存在し、3つはウイルスRNAとコンプレックスを形成し、他の3つはエンベロープに存在する。エンベロープ蛋白のうち、F(fusion)蛋白とH(hemagglutinin)蛋白がその病原性に大きくかかわっており、F蛋白はウイルスと宿主細胞の膜融合を引き起こし、宿主細胞へのウイルスの侵入を可能にすることが知られている 8)。1980年代の流行から始まったH遺伝子の変異は1990年代になってF遺伝子に及んでいる。最近の流行ウイルスは1950年代の流行ウイルスとの間にH遺伝子で50~60塩基(アミノ酸では16~18カ所)、F遺伝子では30~33塩基(アミノ酸で2~3カ所)に置換が起こっている。H蛋白、F蛋白は感染防御抗体を作らせる蛋白なので、これらの部位での変異を注視する必要がある。幸い、現在までのところ現行ワクチンによる感染防御効果には変化は見られない。・・・」
すなわち、麻疹ウイルスもRNAウイルスでした。
従って変異も結構していますが、幸い、現行のワクチンが継続して有効です。
何故、インフルエンザや新型コロナウイルスのように、
ワクチンが効かない変異株が登場しないのか不思議と言えば不思議です。 (∵)?
今回は、麻疹とインフルエンザの違いと、
ワクチンの有効性の違いを再検討してみます。
まず、麻疹に関する
厚生労働省のサイトhttp://www.mhlw.go.jp/qa/kenkou/hashika/
を読んでみました。
それによると、平成19・20年に10~20代を中心に大きな流行がみられましたが、
平成20年より5年間、中学1年相当、高校3年相当の年代に2回目の麻しんワクチン接種を受ける機会を設けたことなどで、
平成21年以降10~20代の患者数は激減しました。
またウイルス分離・検出状況からは、平成22年11月以降は海外由来型のみであり、
平成19・20年に国内で大流行の原因となった遺伝子型D5は見られません。
平成27年3月27日、世界保健機関西太平洋地域事務局により、
日本が麻しんの排除状態にあることが認定されました。
つまり、麻疹ワクチンを2回摂取することを徹底した結果、平成22年11月以降は、
日本発の麻疹は消滅したわけで、劇的な効果を示しています。
そして、平成27年3月27日、WHOにより「日本が麻疹の排除状態」にあることが認定されたわけです。
毎年、流行を繰り返しているインフルエンザに対して、毎年インフルエンザワクチンを多くの日本人が接種していますが、
流行は防げていません。
麻疹とインフルエンザで、何が違うのでしょう?
麻疹ワクチンもインフルエンザワクチンも、IgG抗体は作るけれど、粘膜面のIgA抗体は作れませんので、
粘膜表面での感染防御は困難なのは同一なのに、何故効果にこれほどの差があるのでしょう?
検討してみます。
インフルエンザワクチンを注射することにより、IgG抗体が血液・体液中に産生されますが、
粘膜面を防御しているIgA抗体は全くできません。
従って、インフルエンザウイルスが、
咽や鼻の粘膜を突破して細胞内に侵入した後(感染が成立した後)、
はじめてIgG抗体がかけつけて戦うことになります。
ワクチンで産生されるIgG抗体は呼吸器粘膜面に滲出して、
細胞外でウイルスと戦うこととなります。
普通のインフルエンザウィルス(弱毒型)は、
呼吸器と消化器でだけ生存できて、
血中には入れません。
一方、麻疹は、麻疹ウイルスへの曝露から、発症まで7~14日間程度かかります。
その後カタル期(口腔粘膜症状と37~38度前後の風邪症状)が3~4日間続き、
いったん解熱したあと半日で39~40度の発熱と全身の発疹がでます。
麻疹ウィルスが口腔粘膜から血中に入って全身にばらまかれるので、
カタル期のあと「39~40度の発熱と全身の発疹」が出現すると考えられます。
麻疹ワクチンを接種している場合、麻疹ウィルスが口腔粘膜内に侵入したら、
粘膜細胞外の血液中のIgG抗体が、麻疹ウィルスとの戦いの準備を開始します。
実は、現在のIgG抗体は細胞内では不安定で、
その作用は細胞外の標的に限定されています。
従って、カタル期には、すでに麻疹ウィルスを駆逐すべく、
IgG抗体が活躍の準備をしているので、
血中に入ってもすぐに抗原抗体反応が開始され、
高熱や発疹の発症を予防できる可能性が高いのです。
インフルエンザウィルスと違って発病までが長いし、
血中に入るまでに一定の期間があるので、
粘膜細胞外の血中のIgG抗体が間に合うのです。
この時点で、ほぼ防衛成功と考えられます。
麻疹ウィルスが血中で増えることを防ぐことができれば、
「39~40度の発熱と全身の発疹」が防げるので、
感染源となることが激減して、流行もしないと考えられます。
結論です。
1)麻疹ウィルスは血中に侵入して全身に播種されるが、麻疹ワクチン接種によるIgG抗体がそれを防ぐ。従って高熱や発疹が予防できる。それにより発症予防・流行予防が可能である。
2)インフルエンザワクチン接種によるIgG抗体では、感染防御は困難である。インフルエンザウイルスは呼吸器粘膜や腸管粘膜で増殖する。インフルエンザウィルスは血中に侵入できないので、麻疹ワクチンほどのIgG抗体による顕著な効果は期待できない。
江部康二
麻疹ウイルスに関して、勘違いしていました。
済みません。
中嶋一雄先生にご教示頂きました。
ありがとうございます。
以下の青字は、感染症情報センターにある記載です。
http://idsc.nih.go.jp/vaccine/b-measles.html
「・・・麻疹とは強い感染力を有する急性熱性発疹性疾患であり、ヒトを自然宿主とする。
原因ウイルスである麻疹ウイルスはParamyxovirus 科Morbillivirus 属に属し、直径100~250nmのエンベロープを有する一本鎖RNAウイルスである。・・・」
「・・・感染症研究所ウイルス製剤部で実施した遺伝子解析の結果、
現在日本で流行しているウイルスは、
WHOの遺伝子型分類によるD3およびD5タイプが主流であることがわかった 。
ウイルス粒子には6つの構造蛋白が存在し、3つはウイルスRNAとコンプレックスを形成し、他の3つはエンベロープに存在する。エンベロープ蛋白のうち、F(fusion)蛋白とH(hemagglutinin)蛋白がその病原性に大きくかかわっており、F蛋白はウイルスと宿主細胞の膜融合を引き起こし、宿主細胞へのウイルスの侵入を可能にすることが知られている 8)。1980年代の流行から始まったH遺伝子の変異は1990年代になってF遺伝子に及んでいる。最近の流行ウイルスは1950年代の流行ウイルスとの間にH遺伝子で50~60塩基(アミノ酸では16~18カ所)、F遺伝子では30~33塩基(アミノ酸で2~3カ所)に置換が起こっている。H蛋白、F蛋白は感染防御抗体を作らせる蛋白なので、これらの部位での変異を注視する必要がある。幸い、現在までのところ現行ワクチンによる感染防御効果には変化は見られない。・・・」
すなわち、麻疹ウイルスもRNAウイルスでした。
従って変異も結構していますが、幸い、現行のワクチンが継続して有効です。
何故、インフルエンザや新型コロナウイルスのように、
ワクチンが効かない変異株が登場しないのか不思議と言えば不思議です。 (∵)?
今回は、麻疹とインフルエンザの違いと、
ワクチンの有効性の違いを再検討してみます。
まず、麻疹に関する
厚生労働省のサイトhttp://www.mhlw.go.jp/qa/kenkou/hashika/
を読んでみました。
それによると、平成19・20年に10~20代を中心に大きな流行がみられましたが、
平成20年より5年間、中学1年相当、高校3年相当の年代に2回目の麻しんワクチン接種を受ける機会を設けたことなどで、
平成21年以降10~20代の患者数は激減しました。
またウイルス分離・検出状況からは、平成22年11月以降は海外由来型のみであり、
平成19・20年に国内で大流行の原因となった遺伝子型D5は見られません。
平成27年3月27日、世界保健機関西太平洋地域事務局により、
日本が麻しんの排除状態にあることが認定されました。
つまり、麻疹ワクチンを2回摂取することを徹底した結果、平成22年11月以降は、
日本発の麻疹は消滅したわけで、劇的な効果を示しています。
そして、平成27年3月27日、WHOにより「日本が麻疹の排除状態」にあることが認定されたわけです。
毎年、流行を繰り返しているインフルエンザに対して、毎年インフルエンザワクチンを多くの日本人が接種していますが、
流行は防げていません。
麻疹とインフルエンザで、何が違うのでしょう?
麻疹ワクチンもインフルエンザワクチンも、IgG抗体は作るけれど、粘膜面のIgA抗体は作れませんので、
粘膜表面での感染防御は困難なのは同一なのに、何故効果にこれほどの差があるのでしょう?
検討してみます。
インフルエンザワクチンを注射することにより、IgG抗体が血液・体液中に産生されますが、
粘膜面を防御しているIgA抗体は全くできません。
従って、インフルエンザウイルスが、
咽や鼻の粘膜を突破して細胞内に侵入した後(感染が成立した後)、
はじめてIgG抗体がかけつけて戦うことになります。
ワクチンで産生されるIgG抗体は呼吸器粘膜面に滲出して、
細胞外でウイルスと戦うこととなります。
普通のインフルエンザウィルス(弱毒型)は、
呼吸器と消化器でだけ生存できて、
血中には入れません。
一方、麻疹は、麻疹ウイルスへの曝露から、発症まで7~14日間程度かかります。
その後カタル期(口腔粘膜症状と37~38度前後の風邪症状)が3~4日間続き、
いったん解熱したあと半日で39~40度の発熱と全身の発疹がでます。
麻疹ウィルスが口腔粘膜から血中に入って全身にばらまかれるので、
カタル期のあと「39~40度の発熱と全身の発疹」が出現すると考えられます。
麻疹ワクチンを接種している場合、麻疹ウィルスが口腔粘膜内に侵入したら、
粘膜細胞外の血液中のIgG抗体が、麻疹ウィルスとの戦いの準備を開始します。
実は、現在のIgG抗体は細胞内では不安定で、
その作用は細胞外の標的に限定されています。
従って、カタル期には、すでに麻疹ウィルスを駆逐すべく、
IgG抗体が活躍の準備をしているので、
血中に入ってもすぐに抗原抗体反応が開始され、
高熱や発疹の発症を予防できる可能性が高いのです。
インフルエンザウィルスと違って発病までが長いし、
血中に入るまでに一定の期間があるので、
粘膜細胞外の血中のIgG抗体が間に合うのです。
この時点で、ほぼ防衛成功と考えられます。
麻疹ウィルスが血中で増えることを防ぐことができれば、
「39~40度の発熱と全身の発疹」が防げるので、
感染源となることが激減して、流行もしないと考えられます。
結論です。
1)麻疹ウィルスは血中に侵入して全身に播種されるが、麻疹ワクチン接種によるIgG抗体がそれを防ぐ。従って高熱や発疹が予防できる。それにより発症予防・流行予防が可能である。
2)インフルエンザワクチン接種によるIgG抗体では、感染防御は困難である。インフルエンザウイルスは呼吸器粘膜や腸管粘膜で増殖する。インフルエンザウィルスは血中に侵入できないので、麻疹ワクチンほどのIgG抗体による顕著な効果は期待できない。
江部康二
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