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エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン 2018と糖質制限食
こんにちは。
糖質制限食実践において、相対的にタンパク質摂取が増えます。
慢性腎臓疾患(CKD)がある場合は、どの程度のタンパク制限が必要なのですしょう?
検討してみましょう。

日本腎臓病学会のサイト
http://www.jsn.or.jp/guideline/guideline.php

の中で、
エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン 2018
をPDFファイルで閲覧することができます。

<CKD診療ガイドライン2018>
https://cdn.jsn.or.jp/data/CKD2018.pdf
CQ 2 CKDの進行を抑制するためにたんぱく質摂取量を制限することは推奨されるか?14ページ

CKDの進行を抑制するためにたんぱく質摂取量を制限することを推奨する.B1
ただし,画一的な指導は不適切であり,個々の患者の病態やリスク,アドヒアランスなどを総合的に判断し,
腎臓専門医と管理栄養士を含む医療チームの管理の下で行うことが望ましい

『・・・以前から高齢者では,たんぱく質摂取制限に伴う低栄養の懸念から,
一定のたんぱく質摂取を確保すべきとの見解がある.
たんぱく質摂取制限によってCVD発症,感染症,サルコペニア,フレイルを
増減させたことを直接示した研究はなかったが,
高齢者を中心に過度なたんぱく質摂取制限は
QOLや生命予後悪化につながる可能性もあり,
その実施においては腎臓専門医と管理栄養士を含む医療チームの管理の下で
行われることが望ましいと考えられる.・・・』


CKDの進行を抑制するために、たんぱく質摂取量を制限することを推奨していますが、
画一的な指導は不適切で、個々の患者の病態やリスク、
アドヒアランスなどを総合的に判断するとあります。
そして推奨レベルはB1ですので、あまり強くありません。
また、高齢者へのたんぱく制限は低栄養の懸念があるので、
一定量のたんぱく質を確保するほうが良いという見解です。
結局糖質制限食のその患者さんへ寄与するメリットと、高たんぱく食による腎機能悪化のリスクを天秤にかけて、一人一人、個別に対応することとなります。
糖尿病や肥満がある人には、糖質制限食のメリットは大変大きいものがあります。

第16章 糖尿病性腎臓病(DKD)
この項目では、栄養療法への言及はありません。

CQ 3 DMを伴うCKD患者にHbA1c 7.0%未満の血糖管理は推奨
されるか?

推 奨  糖尿病性腎症患者におけるHbA1c 7.0%未満の血糖管理は,
早期腎症から顕性腎症への進行を抑制するために推奨されるが,
顕性腎症期以降の進行抑制に関するエビデンスは不十分である.
HbA1c 7.0%未満の血糖管理では低血糖に注意する


こういうことなら、糖尿病性腎臓病の場合は、通常のCKDに比べて、
糖質制限食の出番が多いです。
糖質制限食なら低血糖の懸念はほぼなくて、血糖コントロールが可能なので、
大きな利点と言えます。


<日本腎臓学会編、慢性腎臓病に対する食事療法基準 2014年版>
これまで多くの研究で、CKDにおける食事タンパク質摂取量の効果が調べられた。
ガイドライン「慢性腎臓病に対する食事摂取基準 2014年版」では、
CKDステージ1および2におけるタンパク質摂取に関しては、
「過剰な摂取をしない」と記載されている。
また、その過剰を示す指示量として、進行するリスクのあるCKDにおいては、
1.3g/kg BW/日を越えない事が目安とされている。
ステージ G3aでは、0.8~1.0 g/kg BW/日、G3b以降では、
エネルギーを十分確保した上で 0.6~0.8g/kgBW/日が推奨されている。

<慢性腎臓病に対する食事療法基準 2014 年版>

表1 CKDステージによる食事療法基準

ステージ(GFR)         たんぱく質(g/kgBW/日)

ステージ1(GFR≧90)      過剰な摂取をしない
ステージ 2(GFR 60~89)     過剰な摂取をしない
ステージ 3a(GFR 45~59)     0.8~1.0
ステージ 3b(GFR 30~44)     0.6~0.8
ステージ 4(GFR 15~29)      0.6~0.8
ステージ 5(GFR<15)       0.6~0.8
     5D(透析療法中)      0.9~1.2


慢性腎臓病に対する食事療法基準では、上記の如く記載されています。
透析になると、たんぱく摂取基準量が増えますので、糖質制限食を実践しやすくなります。

CKDステージによる食事療法基準によれば、糖尿病腎症第3期で、
蛋白尿が陽性の段階でもGFRが60ml/分以上あれば、
たんぱく制限は必要ないわけです。
糖質制限食が実践しやすいです。

過剰を示す具体的な指示量としては、
進行するリスクのある CKDにおいては 1.3 g/kg 標準体重/日を
超えないことが 1 つの目安としてあります。
この量は、CKD患者さんが対象なので、CKDがない人においては
もっと食べることが可能と思われます。
例えば、私は糖尿人ですがコントロール良好で合併症もなく
腎機能にも何の問題もないので、もっと多くたんぱく摂取してもOKと
思われます。
厚生労働省も腎機能が正常な人のたんぱく質摂取の上限は設定していません。
まあ、自己責任でしっかり高たんぱく食を食べようと思います。



<米国糖尿病学会>

これに対して、米国糖尿病学会(ADA)は

Position Statement on Nutrition Therapy(栄養療法に関する声明)
Diabetes Care 2013年10月9日オンライン版

において、糖尿病腎症患者に対する蛋白質制限の意義を明確に否定しました。

『糖尿病腎症の所見のない糖尿病患者では、最適な血糖コントロール、あるいは、心血管疾患リスクの改善のための理想的な蛋白質摂取量に関しては、これを推奨するに足る十分なエビデンスは存在しない。したがって、目標は個別化されなければならない。C

糖尿病腎症(微量アルブミン尿、および、顕性蛋白尿)を有する糖尿病患者では、通常の摂取量以下に蛋白質摂取量を減量することは、血糖状態、心血管リスク、あるいは、糸球体ろ過率低下の経過に変化を与えないので、推奨されない。A』


糖尿病腎症のない糖尿病患者での理想的な蛋白質摂取量のエビデンスは、存在しないと断定しています。

さらに踏み込んで、糖尿病腎症を有する患者においても、「蛋白質制限は推奨しない」とランクAで断定しています。

根拠はランク(A)ですので、信頼度の高いRCT研究論文に基づく見解です。

その後も、この見解は踏襲されています。


<高雄病院の方針>

現時点で高雄病院では、糖尿病腎症でもeGFRが60ml/分以上の場合は、
糖尿病コントロールのためにも糖質制限食を推奨しています。

糖尿病腎症で、腎機能悪化の最大のリスクは
「食後高血糖」と「平均血糖変動幅増大」と考えられるからです。

糖尿病腎症第3期以降で、eGFRが60ml/分未満の場合も、患者さんとよく相談して、糖質制限食を実践するか否か、個別に対応するようにしています。

万一スーパー糖質制限食でクレアチニン値の悪化傾向があれば、「超低たんぱく・低糖質・高脂肪食」・・・即ちケトン食も、腎不全に一考の余地ありと現在検討中です。

<結論>

1)GFRが60ml/分以上の場合は、タンパク質制限よりも血糖コントロールを優先して、
  糖尿病腎症でも、普通にスーパー糖質制限食を実践することを推奨する。 

2)GFRが60ml/分未満の場合は、よく相談して糖質制限食を実践するかどうか個別に対応する。

3)GFRが60ml/分未満で、スーパー糖質制限食を選択開始した場合、毎月腎機能検査を実施して、
 血清クレアチニン値を測定し、その結果でスーパー糖質制限食を継続するか否かを決める。


江部康二
コメント
高血糖の記憶について
おはようございます。
いつも色々な知識を教えていただき有難うございます。

先生が高血糖の記憶と呼ばれているものについてお聞きしてよろしいでしょうか。
当方40代女性です。糖質制限歴1年弱です。
先日、心雑音を指摘され、たまに息苦しさや胸痛を感じることもあり、心臓エコーをとりました。とりあえず弁膜症ではないと言われました。
1か月後に造影剤CTをとることになっています。

検査説明で、もしプラークなどがたまっていたら手術の可能性もないことはありませんと言われ、こちらで糖尿病によりステント手術を受けたことがある方のコメントを思い出しました。
私は過去で最高ではhba1cが6.2だったことがありますが、このぐらいの数値で高血糖の記憶の可能性は十分にあるでしょうか?
検査しないとわからないのは重々承知ですが、検査日がかなり先なので不安です。
絶対は勿論ないので、確率的な観点でよいので、教えていただけませんでしょうか?
2021/10/12(Tue) 06:25 | URL |  | 【編集
渡辺昌先生のご本
2013年に糖尿病と言われ、江部先生の提唱される糖質制限でやってきました。当時渡辺昌先生の「糖尿病は薬なして治せる」も読んで勉強させていただいたのですが、最新版が出ているのに気づいて早速購入して読みました。元の本には無かった糖質制限の項がありました。そこには『10年以上の長期コホート研究では、「糖質制限、タンパク質増加」のグループは皆、心血管疾患、総死亡率などのリスかが上がる結果が出ています。』と書かれていてショックを受けています。江部先生のご見解は如何でしょうか?
2021/10/12(Tue) 12:25 | URL | ニッキのママ | 【編集
Re: 渡辺昌先生のご本
ニッキのママ さん

渡辺昌先生の「糖尿病は薬なして治せる」の新版は、2017年刊行です。

米国糖尿病学会は、
2019年4月のコンセンサス・レポートにおいて、
糖質制限食が最もエビデンスが豊富と明言しました。
糖質制限食に関しては
Low-Carbohydrate or Very Low-Carbohydrate Eating Patterns
(低炭水化物食、超低炭水化物食)
と記載してあります。
その後の2020年、2021年の米国糖尿病学会ガイドラインでも、
糖質制限食が最もエビデンスが豊富と明言しています。

現米国糖尿病学会CEOのトレーシー・ブラウン氏は
スーパー糖質制限食を実践中で、それにより
インスリンを離脱できています。

ということで、糖質制限食の長期予後に関しても、米国糖尿病学会のお墨付きということで
安心して、実践してください。
2021/10/12(Tue) 14:59 | URL | ドクター江部 | 【編集
早速のお返事有り難うございます。江部先生から太鼓判を押していただき安心しました。
渡辺先生はここ数年は血糖値が高くなってインスリン治療をしているとも書かれていました。糖質を摂取していれば、加齢と共にどうしても避けられない経過なのかもしれません。
2021/10/12(Tue) 15:14 | URL | ニッキのママ | 【編集
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