2021年10月10日 (日)
【日付 名前
21/10/09 ロカボー
ビタミンCについて
いつも貴重な情報をありがとうございます。
ビタミンCの摂取量について質問させてください。
厚生労働省から推奨されている成人の1日のビタミンC摂取量は100㎎とされていますが、スーパー糖質制限を行っている場合もこの推奨量は食事から摂取した方が良いのでしょうか?
私の知り合いで2人ほどスーパー糖質制限を実践している知人がいるのですが、
彼らの話だとブロッコリーや葉物野菜はほとんど食べていないそうで、
ビタミンCの摂取を意識していないと言っていました。
もちろん果物も全く食べてないそうです。
それでも健康的に生活を送れているので、
ビタミンCはそれほど意識して摂取する必要は無いのかな?
と思い質問させて頂きました。
私自身は普段から葉物野菜やブロッコリーは食べているので、
1日に50~100㎎程度はビタミンCを摂取していると思いますが、
以前一か月くらい実験的にビタミンCを摂取せず過ごしてみても
体調の変化は特にみられませんでした。】
こんにちは。
ロカボーさんから、
糖質セイゲニストは、ビタミンCの必要量が少なくてすむのではないかと
コメント・質問をいただきました。
我が畏友、夏井睦先生のブログに、以下の記述がありました。http://www.wound-treatment.jp/title_new_2019-08.htm
(ここから引用)
私はここ数年,野菜は意識して食べていませんが,それでも体調は大丈夫みたいです。
ビタミンC摂取量はほぼゼロと思われますが,未だに壊血病は発症していません。
先史時代には野菜は単なる雑草で,そのままでは食べられない代物でした。
ヒトがそういう「煮ても焼いても食えない」雑草を品種改良して,
今日の「野菜」にしたのです。
つまり,ヒトが野菜を食べるようになったのは過去数千年です。
それ以前のヒト属は野菜は食べずに暮らしていて,
しかも絶滅していなかったのですから,ヒトの健康に野菜は必要ないのかも。
(引用終わり)
夏井先生、食物繊維は大腸での腸内細菌による短鎖脂肪酸生成に必要らしいので
海藻や青汁で摂取しているそうです。
ビタミンCは、抗酸化作用などがあります。
糖質セイゲニストの場合は、酸化ストレスが少ないので、
ビタミンCの必要量はかなり少なくてすむ可能性があります。
従って、夏井流でOKの人もいると思います。
一方で、個人差があるので、一般的な糖質セイゲニストは
まあ、安全率をかけて、
野菜から「ビタミンC+食物繊維」を摂取するのがよいと思います。
実は、マサイ族もビタミンC摂取量は極めて少なく、
血中濃度は壊血病レベルですが、健康です。
マサイ族も夏井先生と同様に糖質制限食です。
ビタミンCは、抗酸化作用などがあります。
糖質セイゲニストの場合は、酸化ストレスが少ないので、
マサイ族と同様に、ビタミンCの必要量はかなり少なくてすむ可能性があります。
マサイ族も野菜や果物は全く食べません。
一方で、一般的な糖質セイゲニストは
まあ、安全率をかけて、野菜から「ビタミンC+食物繊維」を摂取するのがよいと思います。
<マサイ族と牛乳とヨーグルトとビタミンC>
東アフリカ、ケニアからタンザニアにかけて住むマサイ族は、主たる食事として牛乳、ヨーグルト、牛の生き血を取る伝統的食生活を送ってきました。
これらの食事では、ビタミンC摂取が非常に少なくなりますが、彼らの健康度は良好でした。
サバンナの民、マサイ族の独特な食生活から「ヒトにとって必要な栄養素」について考えてみます。
マサイ族の主食は現在でも牛乳とヨーグルトです。牛乳、ヨーグルト合わせて1日に2〜3Lも摂取します。
毎日、牛の放牧をしながら何kmも歩き、その間、牛乳を入れた「キブユ」というひょうたんを腰にぶら下げ続けているので、数日間で牛乳は自然発酵し、ヨーグルトになります。
長時間歩いていますから、主に摂取するのは新鮮な牛乳より、搾乳してから2〜3日が経過したものや、さらに時間がたってヨーグルトになったものの方が主となります。
この主食だけで不足する鉄分は、牛の生き血を週に数回、牛乳に混ぜて飲むことで補います。
<野菜や果物を食べないマサイ族のビタミンC摂取量は>
彼らの伝統的食生活では、野菜や果物は一切食べないそうです。となるとビタミンCをいかに摂取しているのかが不思議です。
ヒトはビタミンCを体内で合成できず、必ず食物から摂取せねばなりません。マサイ族にとって牛は財産であり、殺して牛肉を食べることはありません。
ヤギやヒツジも飼っていて、こちらはお祝いごとや家族に病人が出て栄養をつけたい時には食べるといいます。この時、ヤギやヒツジの生レバーや生の小腸も食用になります。
「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」で、野菜や果物に含まれるビタミンCを調べてみると、
100gあたり赤ピーマン170mg、パセリ120mg、甘ガキ70mg、イチゴ62mg、ゆでブロッコリー54mgなどとなります。
牛の生レバーのビタミンC含有量は100g中30mg、生の小腸は同じく15mgです。
ヤギやヒツジの生レバー、生小腸のデータは載っていないのですが、牛に準ずる程度でしょう。
しかしマサイ族は日常的に生レバーや生小腸を食べているわけではありません。
一方、牛の血漿(けっしょう)に含まれるビタミンCは1.4〜3.6mg/dLで、人の血漿(0.6〜1.4mg/dL)より高いそうです。
しかしそれでも、牛の血を1L飲んだところで摂取できるビタミンCはせいぜい30mgです。やはり十分な量とは言えません。
彼らの主食である牛乳はどうでしょうか。彼らが飲む新鮮な牛乳の中には、ビタミンCが2.2mg/dL含まれています。
ひょうたんに入れて、数日間発酵させてから飲む場合、この量は減少します。
例えばひょうたんの中で4日間経過すると、0.4mg/dLにまで減ってしまいます。
つまり牛乳、ヨーグルト、牛の生き血から得られる日々のビタミンC摂取量は、せいぜい1日30mg程度。
厚生労働省の推奨量である1日100mgに到底足りません。
<極端に低い血中ビタミンC濃度>
マサイ族と居住エリアが重なり、主に農耕生活を行うバンツー族という人々がいます。バンツー族は穀物、野菜など何でも食べます。
ケニアの研究者が、この二つの種族の食生活と血液検査データを比較検討した論文があります。(注1)
前述のマサイ族が飲む牛乳のビタミンC含有量を調べたのもこの論文です。
マサイ族21人、バンツー族24人を対象に調べた論文のデータによると、伝統的な食事をしているマサイ族の血清ビタミンC濃度は、0.16mg/dLです。バンツー族は0.56mg/dL。
厚労省の「日本人の食事摂取基準2015年」は、日本人に1日100mgのビタミンC摂取を推奨し、日本の大手検査会社エスアールエルは日本人の血清ビタミンC濃度の基準値を0.55〜1.68mg/dL としています。
つまりバンツー族では日本人の基準値の正常下限であり、マサイ族に至っては極端に低値ということです。
白血球の中に含まれるビタミンCの濃度でも、マサイ族はバンツー族の半分以下だと言います。
<なぜマサイ族やイヌイットに壊血病が起きないのか>
マサイ族、バンツー族ともに総じて身体に異常はないそうです。
論文では結論として、マサイ族の血清ビタミンC濃度が低いのは、単純に食物から摂取するビタミンCが少ないからと考えられるとし、
これほど低いのに(ビタミンC不足で起きる)壊血病や貧血などは見られない理由については、さらなる研究が必要と締めくくっています。
アラスカのイヌイットが生肉、生魚を主食とする伝統的食生活を送っていた頃は、野菜と果物の摂取が極めて少なかったため、ビタミンC摂取不足による壊血病のリスクが指摘されていました。
イヌイットのビタミンC摂取量は、カナダの白人と比較してかなり少量でした。
イヌイットの妊娠中の女性の平均ビタミンC摂取量は28mg/日で、血清ビタミンC濃度は0.25mg/dL。一方、カナダ全国の白人の妊婦になるとそれぞれ平均133mg/日、1.01mg/dLでした。
イヌイットの血清ビタミンC濃度は、壊血病になる危険ラインの0.2mg/dL未満の場合も多いのです。(注2)
しかし、そういうイヌイットには歯肉出血が高率に見られたそうですが、死に至るような重症の壊血病が多発しているというデータはありません。
壊血病は、15世紀から17世紀の大航海時代、船員の間に死者が続出して、非常に恐れられた病気でした。
ビタミンCと壊血病の関係が明らかになったのは、1932年のことです。
血清ビタミンC濃度が同レベルに低いイヌイットとマサイ族ですが、イヌイットは歯肉出血のリスクが生じていた程度、
マサイ族にいたってはビタミンC不足の影響が感じられない健康な状態でした。
イヌイットにおいても壊血病のリスクはあるものの、死者が出るような事態はありませんでした。
<糖質制限食の徹底でビタミンCは少量で済む?>
大航海時代の船員にビタミンC不足による壊血病の死者が続出したのに対して、イヌイットやマサイ族にはそれが無かった理由について、
私は「糖質制限食を実践している者は、ビタミンCの必要量が少なくて済むのではないか」という仮説を持っています。
糖質制限食実践中の人は、高血糖や高インスリン血症という酸化ストレスリスクが極めて少なくなります。
ビタミンCの主要な作用の一つは抗酸化作用で、体内の活性酸素を消去してくれます。
伝統的食生活を送っていた頃のイヌイットやマサイ族は、「スーパー糖質制限食」を実践している状態なので、酸化ストレスが極めて少なくなります。
結果としてビタミンCの必要量も、糖質を食べている人(大航海時代の白人の船員たちのような)に比べるとかなり少量で済んだ可能性があります。
全く健康なマサイ族と、多少のリスクがあるイヌイットの差は、生活している環境からくる酸化ストレスの差が多少あったためかもしれません。
例えばイヌイットの暮らす北極圏は、太陽からの強力な紫外線にさらされており、紫外線は酸化ストレスリスクです。
<ビタミンCの必須量を探ると人類の食生活史が見えるかも…>
あくまでも仮説ですが、このように考察すると、人類の本当の血清ビタミンC基準値はどの程度に設定すべきなのかという疑問が浮かびます。
本当のビタミンC摂取必要量はどのくらいなのでしょう?
人類が700万年の進化の過程でいったい何を食べてきたのかを考察するのに、人体で合成できないビタミンCの必須量を考えることは非常に重要だと思われます。
ヒトはアスコルビン酸合成能、つまり体内でビタミンCを合成する機能を進化の過程で失いました。
アスコルビン酸を作り出すプロセスの中で、重要な役割を果たす酵素、L-グロノラクトンオキシダーゼが霊長類と一部の哺乳類では突然変異により失われているのです。
その時期は3500万〜5500万年前と推定されています。(注3)
「人類」と一口にいっても、人類史の中では多くの「種」の人類が生まれては消え、現在残っているのは現生人類(ホモ・サピエンス)だけです。
他の種も含めて人類はすべてビタミンCを合成できなかったと考えられています。
そのため、すべての人類は野草や果実からビタミンCを摂取していたはずです。
現生人類においても、伝統的食生活を営んでいたマサイ族やイヌイット以外は、野草や果実からビタミンCを摂取していたと考えられます。
マサイ族やイヌイットの研究から、糖質制限食実践者においてはビタミンC必要量がかなり少なくて済む可能性が見えてきた、と私は考えています。
しかしながら、我々はマサイ族ではありませんので、現時点では糖質制限食を実践しつつ、
葉野菜、ブロッコリー、ゴーヤーなどからしっかりビタミンCを摂取することを推奨します。
注1:"Low ascorbate status in the Masai of Kenya" The American Journal of Clinical Nutrition 27: MARCH 1974, pp. 310-314.
http://www.ajcn.org/cgi/reprint/27/3/310.pdf
注2:"Neonatal hypertyrosinemia and evidence of deficiency of ascorbic acid in Arctic and subarctic peoples" 624-626 CMA JOURNAL/OCTOBER 4,1975/VOL.113
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1956727/pdf/canmedaj01544-0034.pdf
注3:井村裕夫「進化医学 人への進化が生んだ疾患」:19ページ、2012年、羊土社
江部康二
21/10/09 ロカボー
ビタミンCについて
いつも貴重な情報をありがとうございます。
ビタミンCの摂取量について質問させてください。
厚生労働省から推奨されている成人の1日のビタミンC摂取量は100㎎とされていますが、スーパー糖質制限を行っている場合もこの推奨量は食事から摂取した方が良いのでしょうか?
私の知り合いで2人ほどスーパー糖質制限を実践している知人がいるのですが、
彼らの話だとブロッコリーや葉物野菜はほとんど食べていないそうで、
ビタミンCの摂取を意識していないと言っていました。
もちろん果物も全く食べてないそうです。
それでも健康的に生活を送れているので、
ビタミンCはそれほど意識して摂取する必要は無いのかな?
と思い質問させて頂きました。
私自身は普段から葉物野菜やブロッコリーは食べているので、
1日に50~100㎎程度はビタミンCを摂取していると思いますが、
以前一か月くらい実験的にビタミンCを摂取せず過ごしてみても
体調の変化は特にみられませんでした。】
こんにちは。
ロカボーさんから、
糖質セイゲニストは、ビタミンCの必要量が少なくてすむのではないかと
コメント・質問をいただきました。
我が畏友、夏井睦先生のブログに、以下の記述がありました。http://www.wound-treatment.jp/title_new_2019-08.htm
(ここから引用)
私はここ数年,野菜は意識して食べていませんが,それでも体調は大丈夫みたいです。
ビタミンC摂取量はほぼゼロと思われますが,未だに壊血病は発症していません。
先史時代には野菜は単なる雑草で,そのままでは食べられない代物でした。
ヒトがそういう「煮ても焼いても食えない」雑草を品種改良して,
今日の「野菜」にしたのです。
つまり,ヒトが野菜を食べるようになったのは過去数千年です。
それ以前のヒト属は野菜は食べずに暮らしていて,
しかも絶滅していなかったのですから,ヒトの健康に野菜は必要ないのかも。
(引用終わり)
夏井先生、食物繊維は大腸での腸内細菌による短鎖脂肪酸生成に必要らしいので
海藻や青汁で摂取しているそうです。
ビタミンCは、抗酸化作用などがあります。
糖質セイゲニストの場合は、酸化ストレスが少ないので、
ビタミンCの必要量はかなり少なくてすむ可能性があります。
従って、夏井流でOKの人もいると思います。
一方で、個人差があるので、一般的な糖質セイゲニストは
まあ、安全率をかけて、
野菜から「ビタミンC+食物繊維」を摂取するのがよいと思います。
実は、マサイ族もビタミンC摂取量は極めて少なく、
血中濃度は壊血病レベルですが、健康です。
マサイ族も夏井先生と同様に糖質制限食です。
ビタミンCは、抗酸化作用などがあります。
糖質セイゲニストの場合は、酸化ストレスが少ないので、
マサイ族と同様に、ビタミンCの必要量はかなり少なくてすむ可能性があります。
マサイ族も野菜や果物は全く食べません。
一方で、一般的な糖質セイゲニストは
まあ、安全率をかけて、野菜から「ビタミンC+食物繊維」を摂取するのがよいと思います。
<マサイ族と牛乳とヨーグルトとビタミンC>
東アフリカ、ケニアからタンザニアにかけて住むマサイ族は、主たる食事として牛乳、ヨーグルト、牛の生き血を取る伝統的食生活を送ってきました。
これらの食事では、ビタミンC摂取が非常に少なくなりますが、彼らの健康度は良好でした。
サバンナの民、マサイ族の独特な食生活から「ヒトにとって必要な栄養素」について考えてみます。
マサイ族の主食は現在でも牛乳とヨーグルトです。牛乳、ヨーグルト合わせて1日に2〜3Lも摂取します。
毎日、牛の放牧をしながら何kmも歩き、その間、牛乳を入れた「キブユ」というひょうたんを腰にぶら下げ続けているので、数日間で牛乳は自然発酵し、ヨーグルトになります。
長時間歩いていますから、主に摂取するのは新鮮な牛乳より、搾乳してから2〜3日が経過したものや、さらに時間がたってヨーグルトになったものの方が主となります。
この主食だけで不足する鉄分は、牛の生き血を週に数回、牛乳に混ぜて飲むことで補います。
<野菜や果物を食べないマサイ族のビタミンC摂取量は>
彼らの伝統的食生活では、野菜や果物は一切食べないそうです。となるとビタミンCをいかに摂取しているのかが不思議です。
ヒトはビタミンCを体内で合成できず、必ず食物から摂取せねばなりません。マサイ族にとって牛は財産であり、殺して牛肉を食べることはありません。
ヤギやヒツジも飼っていて、こちらはお祝いごとや家族に病人が出て栄養をつけたい時には食べるといいます。この時、ヤギやヒツジの生レバーや生の小腸も食用になります。
「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」で、野菜や果物に含まれるビタミンCを調べてみると、
100gあたり赤ピーマン170mg、パセリ120mg、甘ガキ70mg、イチゴ62mg、ゆでブロッコリー54mgなどとなります。
牛の生レバーのビタミンC含有量は100g中30mg、生の小腸は同じく15mgです。
ヤギやヒツジの生レバー、生小腸のデータは載っていないのですが、牛に準ずる程度でしょう。
しかしマサイ族は日常的に生レバーや生小腸を食べているわけではありません。
一方、牛の血漿(けっしょう)に含まれるビタミンCは1.4〜3.6mg/dLで、人の血漿(0.6〜1.4mg/dL)より高いそうです。
しかしそれでも、牛の血を1L飲んだところで摂取できるビタミンCはせいぜい30mgです。やはり十分な量とは言えません。
彼らの主食である牛乳はどうでしょうか。彼らが飲む新鮮な牛乳の中には、ビタミンCが2.2mg/dL含まれています。
ひょうたんに入れて、数日間発酵させてから飲む場合、この量は減少します。
例えばひょうたんの中で4日間経過すると、0.4mg/dLにまで減ってしまいます。
つまり牛乳、ヨーグルト、牛の生き血から得られる日々のビタミンC摂取量は、せいぜい1日30mg程度。
厚生労働省の推奨量である1日100mgに到底足りません。
<極端に低い血中ビタミンC濃度>
マサイ族と居住エリアが重なり、主に農耕生活を行うバンツー族という人々がいます。バンツー族は穀物、野菜など何でも食べます。
ケニアの研究者が、この二つの種族の食生活と血液検査データを比較検討した論文があります。(注1)
前述のマサイ族が飲む牛乳のビタミンC含有量を調べたのもこの論文です。
マサイ族21人、バンツー族24人を対象に調べた論文のデータによると、伝統的な食事をしているマサイ族の血清ビタミンC濃度は、0.16mg/dLです。バンツー族は0.56mg/dL。
厚労省の「日本人の食事摂取基準2015年」は、日本人に1日100mgのビタミンC摂取を推奨し、日本の大手検査会社エスアールエルは日本人の血清ビタミンC濃度の基準値を0.55〜1.68mg/dL としています。
つまりバンツー族では日本人の基準値の正常下限であり、マサイ族に至っては極端に低値ということです。
白血球の中に含まれるビタミンCの濃度でも、マサイ族はバンツー族の半分以下だと言います。
<なぜマサイ族やイヌイットに壊血病が起きないのか>
マサイ族、バンツー族ともに総じて身体に異常はないそうです。
論文では結論として、マサイ族の血清ビタミンC濃度が低いのは、単純に食物から摂取するビタミンCが少ないからと考えられるとし、
これほど低いのに(ビタミンC不足で起きる)壊血病や貧血などは見られない理由については、さらなる研究が必要と締めくくっています。
アラスカのイヌイットが生肉、生魚を主食とする伝統的食生活を送っていた頃は、野菜と果物の摂取が極めて少なかったため、ビタミンC摂取不足による壊血病のリスクが指摘されていました。
イヌイットのビタミンC摂取量は、カナダの白人と比較してかなり少量でした。
イヌイットの妊娠中の女性の平均ビタミンC摂取量は28mg/日で、血清ビタミンC濃度は0.25mg/dL。一方、カナダ全国の白人の妊婦になるとそれぞれ平均133mg/日、1.01mg/dLでした。
イヌイットの血清ビタミンC濃度は、壊血病になる危険ラインの0.2mg/dL未満の場合も多いのです。(注2)
しかし、そういうイヌイットには歯肉出血が高率に見られたそうですが、死に至るような重症の壊血病が多発しているというデータはありません。
壊血病は、15世紀から17世紀の大航海時代、船員の間に死者が続出して、非常に恐れられた病気でした。
ビタミンCと壊血病の関係が明らかになったのは、1932年のことです。
血清ビタミンC濃度が同レベルに低いイヌイットとマサイ族ですが、イヌイットは歯肉出血のリスクが生じていた程度、
マサイ族にいたってはビタミンC不足の影響が感じられない健康な状態でした。
イヌイットにおいても壊血病のリスクはあるものの、死者が出るような事態はありませんでした。
<糖質制限食の徹底でビタミンCは少量で済む?>
大航海時代の船員にビタミンC不足による壊血病の死者が続出したのに対して、イヌイットやマサイ族にはそれが無かった理由について、
私は「糖質制限食を実践している者は、ビタミンCの必要量が少なくて済むのではないか」という仮説を持っています。
糖質制限食実践中の人は、高血糖や高インスリン血症という酸化ストレスリスクが極めて少なくなります。
ビタミンCの主要な作用の一つは抗酸化作用で、体内の活性酸素を消去してくれます。
伝統的食生活を送っていた頃のイヌイットやマサイ族は、「スーパー糖質制限食」を実践している状態なので、酸化ストレスが極めて少なくなります。
結果としてビタミンCの必要量も、糖質を食べている人(大航海時代の白人の船員たちのような)に比べるとかなり少量で済んだ可能性があります。
全く健康なマサイ族と、多少のリスクがあるイヌイットの差は、生活している環境からくる酸化ストレスの差が多少あったためかもしれません。
例えばイヌイットの暮らす北極圏は、太陽からの強力な紫外線にさらされており、紫外線は酸化ストレスリスクです。
<ビタミンCの必須量を探ると人類の食生活史が見えるかも…>
あくまでも仮説ですが、このように考察すると、人類の本当の血清ビタミンC基準値はどの程度に設定すべきなのかという疑問が浮かびます。
本当のビタミンC摂取必要量はどのくらいなのでしょう?
人類が700万年の進化の過程でいったい何を食べてきたのかを考察するのに、人体で合成できないビタミンCの必須量を考えることは非常に重要だと思われます。
ヒトはアスコルビン酸合成能、つまり体内でビタミンCを合成する機能を進化の過程で失いました。
アスコルビン酸を作り出すプロセスの中で、重要な役割を果たす酵素、L-グロノラクトンオキシダーゼが霊長類と一部の哺乳類では突然変異により失われているのです。
その時期は3500万〜5500万年前と推定されています。(注3)
「人類」と一口にいっても、人類史の中では多くの「種」の人類が生まれては消え、現在残っているのは現生人類(ホモ・サピエンス)だけです。
他の種も含めて人類はすべてビタミンCを合成できなかったと考えられています。
そのため、すべての人類は野草や果実からビタミンCを摂取していたはずです。
現生人類においても、伝統的食生活を営んでいたマサイ族やイヌイット以外は、野草や果実からビタミンCを摂取していたと考えられます。
マサイ族やイヌイットの研究から、糖質制限食実践者においてはビタミンC必要量がかなり少なくて済む可能性が見えてきた、と私は考えています。
しかしながら、我々はマサイ族ではありませんので、現時点では糖質制限食を実践しつつ、
葉野菜、ブロッコリー、ゴーヤーなどからしっかりビタミンCを摂取することを推奨します。
注1:"Low ascorbate status in the Masai of Kenya" The American Journal of Clinical Nutrition 27: MARCH 1974, pp. 310-314.
http://www.ajcn.org/cgi/reprint/27/3/310.pdf
注2:"Neonatal hypertyrosinemia and evidence of deficiency of ascorbic acid in Arctic and subarctic peoples" 624-626 CMA JOURNAL/OCTOBER 4,1975/VOL.113
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1956727/pdf/canmedaj01544-0034.pdf
注3:井村裕夫「進化医学 人への進化が生んだ疾患」:19ページ、2012年、羊土社
江部康二
江部先生、私の質問を記事にして頂きありがとうございます。
とても参考になりました。
江部先生が過去に書かれたイヌイットとマサイ族の記事も読んでいたのでとても興味深い内容でした。
スーパー糖質制限を行うにあたっては酸化ストレスが少なくなるので、ビタミンCの摂取量が少なくても済むという説は確かにあると思いました。
仮にアスリートのような強度の高い運動を行う人に限っては大量の酸化ストレスが発生するので、その場合はスーパー糖質制限をしていたとしてもビタミンCは多めに必要になるのかな?とも思いました。
以前、江部先生に運動量に関してご回答いただいた時に、狩猟採集民は歩くのが基本で狩りをするときにジョギングのように動くとも聞いていたので、当時の狩猟採集民は筋肉が破壊されるほどの強度の高い運動はしてなかっただろうから酸化ストレスも少なく、ビタミンCもそこまで必要では無かったのでは無いか?と感じました。
とても参考になりました。
江部先生が過去に書かれたイヌイットとマサイ族の記事も読んでいたのでとても興味深い内容でした。
スーパー糖質制限を行うにあたっては酸化ストレスが少なくなるので、ビタミンCの摂取量が少なくても済むという説は確かにあると思いました。
仮にアスリートのような強度の高い運動を行う人に限っては大量の酸化ストレスが発生するので、その場合はスーパー糖質制限をしていたとしてもビタミンCは多めに必要になるのかな?とも思いました。
以前、江部先生に運動量に関してご回答いただいた時に、狩猟採集民は歩くのが基本で狩りをするときにジョギングのように動くとも聞いていたので、当時の狩猟採集民は筋肉が破壊されるほどの強度の高い運動はしてなかっただろうから酸化ストレスも少なく、ビタミンCもそこまで必要では無かったのでは無いか?と感じました。
2021/10/10(Sun) 20:21 | URL | ロカボー | 【編集】
現在市場(スーパー、コンビニ等)で出回る加工済み食品の多くに食品添加物として酸化防止目的のアスコルビン酸(ビタミンC)が利用されております。現代では自身が意識せずともビタミンCを摂取している食生活と思われます。
2021/10/11(Mon) 09:56 | URL | tama | 【編集】
tama さん
コメントありがとうございます。
『市場で出回る加工済み食品の多くに食品添加物として酸化防止目的のアスコルビン酸(ビタミンC)が利用されている』
なるほどです。
ただ夏井先生は少食であり、ナッツや昆虫は食べるけれど、加工品はほとんど食べないと思います。
コメントありがとうございます。
『市場で出回る加工済み食品の多くに食品添加物として酸化防止目的のアスコルビン酸(ビタミンC)が利用されている』
なるほどです。
ただ夏井先生は少食であり、ナッツや昆虫は食べるけれど、加工品はほとんど食べないと思います。
2021/10/11(Mon) 15:59 | URL | ドクター江部 | 【編集】
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