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狩猟・採集民は農耕民より健康長寿。
こんにちは。

今回は
『狩猟採集民は農耕民より長命で健康だった』という古栄養学の研究を紹介します。

古代人の食生活を考察し、その食生活が当時の人間集団の存続に
どんな役割を果たしていたかを知ろうとする学問が
パレオ・ニュートリション(古栄養学)です。

骨で見分ける古代人の生活ぶり
http://www.wound-treatment.jp/dr/glucide_data/kagaku-asahi_1981.htm
科学朝日,41巻12号,1981年 記載の
カナダ・マックギル大教授/人類学 井川史子氏の論文


の要旨が以下の記事です。
本文は結構、長文ですが、興味ある人は、是非読んでみて下さい。

A)
ケンタッキー州,インディアン・ノール貝塚出土の285体の人骨
紀元前3400年から同2000年ころ
狩猟,漁労,植物採取をしていた人々の残した貝塚で出土

B)
ケンタッキー州,ハーディン・ビレッジ遺構出土の人骨296体
西暦1500年から1675年ころ
トウモロコシ,豆類,カボチャ類を栽培した人々が住んだ村落で出土


比較研究の条件として、
①一定数以上の人骨資料があること
②人種的条件が同じであること
③環境的条件が同じであること
④ヨーロッパ伝来の疾病が新しい要因として入っていな いこと

が、前提となっています。
すなわちハーディン・ビレッジの居住期間中、
ヨーロッパ人の侵入はこの地域に関する限りはなしという前提です。

米国、ケンタッキー州で出土した、上記の①②③④の条件を全て満たす
A)B)の人骨を比較した研究です。

狩猟・漁労・採集が生業の人骨285体と 、
トウモロコシ・豆類・カボチャ栽培が生業の人骨296体を比較したところ、
狩猟採集民のほうが、農耕民より長命であったことが判明しました。
男女ともにインディアン・ノールの狩猟採取民の方が長命でした。

死亡年齢で特に対照的なのは、4歳未満の小児死亡率の分布でした。
インディアン・ノールでは、70%が新生児と12ヶ月未満の乳児でしたが、
狩猟採集民は、新生児の間引きをする習慣があるので、
その影響があると考えられます。

一方ハーディン・ビレッジではその逆で、1~3歳の幼児が60%に達っしました。
すなわち、農耕民のほうは、離乳期に入ってからが危機であることが明らかです。
ハーディン・ビレッジの農耕民はトウモロコシ粉を水溶きしたようなものを
離乳食に用いたと考えられます。
それが生涯を通じての栄養的欠陥の始まりになったと思われます。

現代でも、アフリカや中央アメリカの農耕社会では
柔らかいでんぷん質の食事が離乳食として与えられると、
下痢が始まり、各種の細菌侵入による疾患が起こり、
タンパク質欠乏症を示すことが多いとされています。

ハーディン・ビレッジの農耕民でも同様のパターンが生じて、
短命に繋がった可能性があります。

また、
40歳以上はインディアン・ノールの狩猟採取民では12%くらいでしたが
ハーディン・ビレッジでは 5%しかなく、
さらに50歳以上になると前者は5%くらいあるのに対して、
後者は1.25%くらいしかいませんでした。

即ち、トウモロコシが主食の農耕民は、1~3歳の幼児が大量に死亡するだけでなく長生きの人も、
狩猟・採集民に比し、極端に少なかったのです。


近年まで狩猟・採集に頼る生活をしていたアフリカのブッシュマンやオーストラリア原住民のアボリジニについても研究が進み、
彼らの生活は、農耕民に比べて労働時間は短く、栄養上のバランスもよく、
健康状態もすぐれてい
るらしいことが明らかになりました。
ただ、狩猟採集生活の欠陥は、
一定面積内では居住可能な人口が制限される
ことです。

農耕が始まって、土地に定着する生活が始まると人口密度が上昇していきます。
その増えた人口のエネルギー源として、
最も確実に手に入り定期的に収穫できて保存もできる穀物(小麦、米、トウモロコシなど)」に依存するようになったのは
必然的なことと言えます。
しかしながら、穀物には、糖質はタップリ含まれていますが、
タンパク質や脂質が不足
しています。
必須アミノ酸や必須脂肪酸が不足することで、免疫力が低下します。
そうなると病気に対する抵抗力も低下して、病気に感染る機会も増えて、
狩猟・採取時代より不健康になっていったと考えられます。

<人体の構成成分>
水分:60~70%
タンパク質:15~20%
脂肪:13~20%
ミネラル:5~6%
糖質:1%以下


人体の構成成分として、タンパク質と脂質はとても重要ですが、
糖質はなんと1%以下です。
そして必須糖質はないのです。
摂取糖質がゼロでも、肝臓や腎臓で、アミノ酸やグリセロールや乳酸から
ブドウ糖を産生すので、大丈夫なのです。


江部康二
コメント
狩猟採取時代の運動について
いつもブログ拝見させてもらってます^^

今回の記事が「狩猟・採集民」についてだったのでふと気になったのですが、狩猟採集時代の運動習慣というのは歩行のような有酸素運動がメインで無酸素運動のようなことはあまりしなかったと思いますが、現代人の運動はというと筋力トレーニングなどの無酸素運動も多く取り入れられています。

ここで疑問に思ったのが、狩猟採集時代の食生活が健康的なら運動に関しても筋トレよりウォーキングなどの有酸素運動がメインの方が健康的になるのではないかな?と思いました。
江部先生は以前インターバル速歩を推奨されてましたが、健康にフォーカスするなら無酸素運動より有酸素運動中心にした方が良いのでしょうか?
2021/09/27(Mon) 21:13 | URL | ロカボー | 【編集
Re: 狩猟採取時代の運動について
ロカボー さん


テレビで視ましたが、現代の狩猟・採集民の狩りのスタイルは、
持久力で獲物を疲れさせてゲットするというやり方です。

例えば、一匹の草食動物を、数人で追いかけ、歩いたり、時にジョギングくらいで、
追い続けていくスタイルです。
人類は、一般的な毛皮の草食動物より、発汗能力が高いので、持久力に優れています。

持久力を武器に、ひたすら追いかけて疲れさせて、獲物をゲットします。
従って、ご指摘通り、有酸素運動が人類には合っていると思います。
有酸素運動で、筋肉の血糖値取り込み能力が向上し、容易になります。


筋トレで、筋肉量は増えますが、血糖取り込み能力には、関与しません。
筋肉量が増えた分は、血糖値取り込みに貢献はします。



自然界において、筋トレで鍛えている動物は、存在しません。
動物のしなやかな筋肉は、日常的な有酸素運動で、得ているのです。



筋トレも含めて激しい運動は、活性酸素を発生させ、
酸化ストレスリスクとなります。
抗酸化酵素が減少している中年以降は、激しい運動はしないほうがいいです。
2021/09/28(Tue) 12:33 | URL | ドクター江部 | 【編集
返信ありがとうございます。
江部先生、ご回答ありがとうございます。
やはり人類にとっては有酸素運動が適しているのですね。

私はここ数年はスーパー糖質制限を続けていて肌の調子が良かったのですが、ここ1年ほどは顔や頭皮に慢性的な湿疹ができたりしていて、原因が分からず困っていました。

今思い返せば、1年くらい前から限界まで追い込むような筋トレを週6日のペースでやっていたので、これがストレスホルモンのコルチゾールを誘発させて肌や頭皮湿疹の原因などでは?と思うようになってました。

血液検査の結果、食品のアレルギーなどは無く、普段はトランス脂肪酸は取らないようにしていて、オメガ3脂肪酸を適量摂取してオメガ6脂肪酸のみの過剰摂取はしないようにしていたので、原因が激しい運動にあるのかなと思い質問させて頂きました。

2021/09/28(Tue) 13:10 | URL | ロカボー | 【編集
Re: 返信ありがとうございます。
ロカボー さん

中年を過ぎてからの「激しい運動」は、
酸化ストレスを生じ、慢性炎症のリスクとなり、
万病の元ともなり得ます。

2021/09/28(Tue) 13:53 | URL | ドクター江部 | 【編集
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