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「急速な血糖値・HbA1c改善」と網膜症悪化。糖質制限食は?
こんばんは。
「急速な血糖値・HbA1cの改善により、
網膜症の一時的な悪化や眼底出血を起こすことがある」

という研究報告があります。

例えば
【網膜ドットコムのサイト
に以下のQ&Aが載っています

糖尿病網膜症・糖尿病黄斑浮腫のよくある質問
Q:急に血糖値を下げると糖尿病網膜症が悪化することがあると聞きました。
  本当ですか?
A:急激な血糖コントロールは一時的に糖尿病網膜症を悪化させることが
 報告されています 1)。
 このメカニズムにはまだ不明な点が多いのですが、
 一般的に、HbA1cの改善度は1ヵ月に0.5~1%を超えないようにすることが
 推奨されています。

急激な血糖コントロールで糖尿病網膜症が悪化するケースに下記があげられます。

糖尿病網膜症で糖尿病が発見されるなど、無治療期間が長い場合
血糖コントロール不良期間が長い場合
腎症の進行により透析導入が間近、あるいは透析導入直後の場合
活動性肝疾患、血液疾患、感染症などの全身疾患を有する場合
高血圧あるいは起立性低血圧を有する場合
妊娠中
高齢者 など

1)The Diabetes Control and Commplications Trial Research Group, Arch Ophthalmol. 1998; 116(7): 874-86.
監修:名古屋市立大学 視覚科学 教授 小椋祐一郎先生】



確かに、インスリン注射やSU剤などにより急速に血糖値が改善した場合、
改善速度が速いほど、網膜症の悪化率が高かったという論文報告があります。

実際に日常臨床で、糖尿病患者を診察しておられる医師においては
経験があることと思われます。
とは言え、一時的な悪化はあっても、
長期的には血糖コントロールが良い方が網膜症にも良いということも報告されています。

それでは 糖質制限食によって、血糖値が急速に改善した場合はどうなのでしょう?
網膜症の悪化や眼底出血の心配はないのでしょうか?
実は当初、私達も糖質制限食でインスリン注射以上に速やかに、
血糖コントロールが良くなるので、このことを懸念していました。
幸い、1999年、高雄病院で糖質制限食開始以来の経験で、
糖質制限食による改善では基本的に網膜症の悪化はありませんでしたので、
今は全く心配はしていません。

しかし、

(A)インスリン注射やSU剤による急速なHbA1c改善:網膜症悪化や眼底出血あり。
   何故、網膜症の悪化や眼底出血があるのか、現時点では原因不明。

(B)糖質制限によるより急速なHbA1c改善:網膜症の悪化なし
   こちらも、何故、網膜症が悪化しないのか現時点では理由は不明。


同じようにHbA1cが改善するのに、なぜこうも違うのか、疑問が残ります。

平均血糖値(HbA1c)が同じように良くなるにもかかわらず、
インスリンやSU剤の投与による場合と糖質制限食による場合で、
このように明暗がわかれるのには、必ず理由があるはずです。

それで、以下、あくまでも仮説ですが考察してみました。
以前は、長年にわたって血糖コントロールの評価基準として、
空腹時血糖値とHbA1cが使用されてきました。

しかし、近年の信頼度の高い研究により、
空腹時血糖値とHbA1cがコントロール良好でも、
糖尿病合併症は防げないことがわかってきたのです。

それどころか、糖質を普通に摂取しながら、
インスリン注射やSU剤で厳格に治療すると、
総死亡率が上昇するという信頼度の高いエビデンスが報告されました。(*)

すなわち、食後高血糖と平均血糖変動幅の増大が、最大の酸化ストレスリスクであり、
糖尿病合併症の元凶ということがわかってきたのです。
にもかかわらず、腹時血糖値とHbA1cだけによる評価では、
食後高血糖と平均血糖変動幅の増大は全く知ることができないのです。

人体は、酸化反応と抗酸化反応のバランスがとれていると、正常に機能します。
酸化反応が抗酸化反応を上まわった状態を酸化ストレスといいます。
酸化ストレスが、糖尿病合併症・動脈硬化・老化・癌・アルツハイマー・パーキンソン等、様々な疾病の元凶とされています。
このことは、世界中の医学界において、認められています。

糖質を普通に摂取しながら、インスリンやSU剤で厳格に治療してHbA1cを急速に下げると、
低血糖も生じやすくなるし、平均血糖変動幅の増大も必発となります。

つまり、(A)の場合は、見かけ上はHbA1cは急速に改善したように見えても、
その実態は、「低血糖」と「平均血糖変動幅増大」という
最大の酸化ストレスリスクをともなう『質の悪いHbA1c』だったのです。
従って、網膜症悪化や眼底出血を生じた可能性が高いのです。

世界的眼科外科医の深作秀春先生も私と同意見で、以下のコメントを頂きました。(**)

『深作眼科受診患者において、まだ、糖尿病性網膜症が軽いので、
糖尿病内科の専門医に糖尿病治療を委ねましょうと紹介します。
そして、内服薬やインシュリンなどを使って、
内科医は急速に血糖を下げようとするのです。
食事療法でカロリー制限もしていますが、糖質のご飯は同様に食べさせています。
つまり、ご飯を食べて高血糖になり、
それをインシュリンで無理やり下げると言う
「血糖のジェットコースター」状態となります。
その結果1か月もすると、糖尿病性網膜症は良くなるどころか、
どんどん悪化しているのです。』


一方、(B)の糖質制限食でHbA1cが改善した場合には、
薬も使用していないので、「低血糖」も「平均血糖変動幅増大」もない
『質のいいHbA1c』なのです。

そのため急速なHbA1c改善にもかかわらず、網膜症の悪化がないと考えられます。
これらにより、糖質制限食の場合、急速な血糖値改善にもかかわらず、
網膜症の悪化が生じにくいと考えられます。

既にインスリン注射やSU剤を内服していて、ある時に糖質制限食を開始して、
血糖値・HbA1cが急速に改善していく場合も、
インスリン注射やSU剤の量は基本的に減量されていくし、
代謝全般も改善されていくので、糖尿病網膜症悪化は起こりにくいと思います。

糖質を摂取して、インスリンやSU剤の効能だけに依存して血糖値を下げた場合と、
糖質制限食で薬物に頼らずに自然に血糖値が改善した場合との差、
すなわち「低血糖、食後高血糖、平均血糖変動幅増大」という酸化ストレスリスクが、
両者で全く異なることがお解りいただけたでしょうか。

なお、過去の高血糖のため、すでに糖尿病網膜症が存在している時は、
糖質制限食で血糖コントロール良好を維持していれば糖尿病網膜症の進行は、
徐々に止まると思います。
そして時間をかけて、ある程度改善する可能性はあります。
しかし、糖質制限食で血糖コントロール良好となっても、
既存の糖尿病網膜症が、メキメキ治るわけではありませんので、念のため。

それから、長期の糖尿病罹病期間があって、血糖コントロールが悪かったけれど、
その時点では網膜症はないと言われていた人が、
糖質制限食を開始して血糖コントロール良好となり、
数ヶ月後眼底検査をしたら軽症単純網膜症が発見された、
というようなことがまれにあります。
これは糖質制限食開始時点で既に潜在的な網膜症はあったのが、
時間的経過で顕在化したもので、高血糖の記憶(***)によるものと思われます。
すなわち糖質制限食で網膜症になったのではなく、
過去の高血糖の借金が顕在化したものと思われます。

以上、仮説の段階ではありますが、それなりに説得力のある説明と自負しています。


(*)2011/07/18 の本ブログ記事
「ACCORD試験の死亡リスクと低血糖とSMBGサブ解析2011」
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-1741.html
をご参照ください。

(**)2016年05月09日 (月)の本ブログ記事
「眼科・深作秀春先生のコメント。糖尿病専門医の治療で網膜症が悪化。」
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3791.html
をご参照ください。

(***)2010-11-14のブログ
「高血糖の記憶とAGE」
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-1432.html
をご参照ください。


江部康二


コメント
オーソモレキュラー療法のナイアシンの項目にも「網膜症」の副作用についての記述がありました。
こちらも原因不明のようですが、何か関連はあるのだろうかと素人ながら興味を持ちました。
https://isom-japan.org/news/detail?uid=bLSxj1585621576
2021/09/26(Sun) 23:01 | URL | Sato | 【編集
Re: タイトルなし
Sato さん

情報をありがとうございます。
ナイアシンの副作用、
ほてり。
肝機能障害。
網膜浮腫。

などですね。
2021/09/27(Mon) 07:45 | URL | ドクター江部 | 【編集
食後高血糖だけで若年性アルツハイマー型認知症
>しかし、近年の信頼度の高い研究により、
>空腹時血糖値とHbA1cがコントロール良好でも、
>糖尿病合併症は防げないことがわかってきたのです。

>すなわち、食後高血糖と平均血糖変動幅の増大が、最大の酸化ストレスリスクであり、
>糖尿病合併症の元凶ということがわかってきたのです。

生まれて1回も HbA1c も 空腹時血糖値も基準値を超えたことのない らこ です。

◎食後高血糖だけで49才前に若年性アルツハイマー型認知症発症

が実績です(泣
空腹時血糖値とHbA1cを健康診断で測定するのは無駄だと確信しえいます。
2021/09/27(Mon) 11:24 | URL | らこ | 【編集
インスリンによる薬害?
ご覧になった方も多いと思いますが、新井圭輔医師のこの動画も臨床に基づいた、示唆に富む見解だと思います。インスリンの薬害について検証されています。

糖尿病合併症の本質:糖尿病性腎症はインスリンによる薬害であった
https://youtu.be/5mi1jURKt6A
2021/10/10(Sun) 01:31 | URL | ジョー | 【編集
Re: インスリンによる薬害?
ジョー さん

情報をありがとうございます。
インスリンは人体に必要不可欠なホルモンの一つです。
1921年にインスリンが発見されるまでは、1型糖尿病と診断され、インスリン分泌がゼロの場合は、
平均余命は半年でした。
今では、バーンスタイン医師のように1型糖尿病でも長寿の人もおられます。

一方、過剰なインスリンは活性酸素を発生させて酸化ストレスリスクとなり、百害あって一利なしです。
以下の本ブログ記事をご参照頂ければ幸いです。

インスリンの功罪。特に「罪」について。
2019年12月22日 (日)
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-5104.html
2021/10/10(Sun) 07:03 | URL | ドクター江部 | 【編集
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