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日本で実践されている各糖質制限食のスタンスと役割。
こんにちは。

1999年に高雄病院で、糖尿病入院患者さんに
糖質制限給食の供給が開始されました。

第二次大戦以降では、日本で初めてのことです。

その経験をもとに、2005年、やはり日本で初めての糖質制限食の本、
『主食を抜けば糖尿病は良くなる!』(東洋経済新報社)を上梓しました。
2006年、荒木裕医師が、「断糖宣言!」(エディットハウス)、
2007年、釜池豊秋医師が、
「医者に頼らない! 糖尿病の新常識・糖質ゼロの食事術」(実業之日本社)
を刊行されましたが、ここまでが、糖質制限食草創期の本と言えると思います。

その後、糖質制限食が徐々に広がっていきましたが、
2010年代になると、様々な医師が「糖質制限食」関連の本を
数多く出版するようになりました。
糖質制限食の日本における発展という意味では、望ましいことと言えますが、
各医師の推奨する「糖質制限食」のスタンスが一定異なっていることもあり、
糖質制限食を実践している方々に少々とまどいが見受けられるようです。
今回は、そこらあたりを整理してみたいと思います。

まず、糖質制限食は、美味しく楽しく末長く続けることが大切です。
毎日、朝昼夕と糖質(主食)を食べている場合に比べれば、
1/週とか1/月とかの糖質摂取なら、おおいにましです。

糖尿人であれば、そういうとき、可能なら、グリニド系薬かα-GI薬、
或いはその両者を食直前30秒に内服して
食後高血糖をできるだけ抑えるようにすればいいですね。

私は多数の糖尿人を診察していますが、きっちりスーパー糖質制限食を実践されて、
血液検査データ全て正常で、薬なし、合併症なしの方も、おられます。

私自身も2002年以来、焼酎飲んで、肉類や魚貝類をいろいろ食べて、
卵にチーズに豆腐に野菜・海藻・茸を食べて、
糖質制限ピザ、糖質制限ケーキ、糖質制限チョコ・・・を食べて、
美味しく楽しく、そしてきっちり長くスーパー糖質制限食を続けています。
勿論、内服薬なしで合併症もなしです。

私は全くつらくないので、末長く糖質制限食を続けることができると思います。
しかしながら、人はなかなか弱いものです。
「わかっちゃいるけど、やめられない」人もまた結構おられます。

私の患者さんでも、どうしても糖質がやめられない人もおられます。
私は糖質制限食の先達の医師として、糖尿病患者さんに、
最良の糖尿病食事療法である糖質制限食を説明して、
糖尿病のコントロールの仕方を指導するのがお仕事です。

糖尿病合併症の話もして、
それを防ぐことができるのは糖質制限食だけであることも説明します。

それを患者さんが受け止めて理解してどう実践するかは、
患者さん自身の仕事であり、私の仕事ではありません。
ですから、私は決して押しつけることはありません。

高雄病院方式の糖質制限食には3パターンがあります。

もちろん
1)スーパー糖質制限食(3食主食なし)
2)スタンダード糖質制限食(2食主食なし)
3)プチ糖質制限食(1食主食なし)

のなかで、
1)が一番効果があることは明らかですのでそれを薦めます。
しかし患者さんによっては、1)ができない人もいます。
そのようなときは、2)でも3)でもいいです。
スーパー糖質制限食では、1回の食事の糖質量は20g以下が目安です。
間食は、1日に1~2回で、1回の糖質量は5g以下が目安です。


糖質制限食は、やらないよりやった方が、例えどのタイプであれ、
糖尿病学会推奨のカロリー制限食(高糖質食)よりは、はるかにましなのです。

私は、ぬるいかもしれませんが、そういうスタンスの医師です。
皆さんが、糖質セイゲニストで優秀な患者さんだったら
糖質制限な医師はとても楽なのですが、現実はそうはいきません。

また、話のしやすい対等感覚の医師もいれば、
残念ながら上から目線の相談しにくい医師もいるのが現実です。

私に関しては、対等感覚の医師を目指しているので、
このブログへのコメント・質問も糖質制限食に関することなら、
初歩的なことも含めて大丈夫、OKです。
反復して似たような質問があっても、
またそれがブログ読者の皆さんの復習になるし新たな勉強にもなります。
糖質制限食に関する知識をインターネットで世界中で共有できて・・・。
それが、私自身の貢献感にもなりますので・・・

さて、日本で実践されている糖質制限食には

A)高雄病院のスーパー糖質制限食(1回の食事の糖質量20g以下)
B)山田悟先生の緩い糖質制限食(1回の食事の糖質量30~40g)
 最近は(1回の食事の糖質量20~40gで3食食べ、それとは別に間食を1日あたり10g)
C)釜池豊秋先生の糖質ゼロ食(1日1食で、夕食、糖質は5g以下)

α)荒木裕先生の断糖食
β)渡辺信幸先生のMEC食


などがあり、1回の糖質摂取量設定に違いがあります。
それでは、各糖質制限食のスタンスはどう違うのでしょうか?
まず、A)B)C)について検討してみます。

1)継続し易さと普及に関する配慮
継続し易さ、普及という面からは、普通に考えてB)が一番楽です。
A)はそれに、次いで楽ですし、当初から「スーパー」「スタンダード」「プチ」といったラインナップが設定されていて、
最近は「緩やかな」という選択肢もあるので、
継続し易さと普及ということを重視しているわけです。

C)は、ベストと思う食事療法をストイックに実践するという求道者のスタンスであり、
継続し易さや普及ということは、優先順位としては全く考慮されていません。
つまりC)はやりたい人やれる人が実践すればよいのであって、
やりやすくするというスタンスは皆無です。

従って、A)B)の立場の糖質セイゲニストとC)の立場の求道者とは、
いくら話し合っても折り合いがつくことは不可能ですので、
私も無駄な努力をするつもりはありません。

2)食後高血糖改善効果

食後高血糖改善効果はC)が一番高いです。
A)がその次でB)はかなり劣ります。
C)なら、食後高血糖はほとんどありません。

A)は、臨床的に合併症予防ができるレベル、
  食後1時間血糖値180mg/dl未満、食後2時間血糖値140mg/dl未満達成を
  目指していて、ほとんどの場合それが可能です。

B)は食後1時間血糖値180mg/dl未満、
  食後2時間血糖値140mg/dl未満を達成することは、
  困難な糖尿人が多いと思いますが、従来の糖尿病食(高糖質食)よりはましです。

3)追加分泌インスリン

C)は耐糖能正常型の人でも、インスリン追加分泌はごくごく少量です。
A)は耐糖能正常型の人の場合でもインスリン追加分泌は2~3倍レベルですみます。
B)は耐糖能正常型なら、追加分泌インスリンは10倍~20倍レベルでます。

インスリンは人体に絶対必要であり、基礎分泌インスリンがなければヒトは死にます。
しかし、インスリンには発ガンリスクやアルツハイマー病のリスクがあるので、
少量ですむにこしたことはないのです。

従って、B)の場合は、野放しの高糖質食に比べればましですが、
インスリン過剰のリスクがあるていどあることになります。

A)の場合は、人類700万年間の狩猟・採集時代に、
野生の果物、ナッツ類、根茎類を食べたレベルと同程度の追加分泌インスリンなので
許容範囲と思います。

4)問題点

B)は、インスリン分泌が多いこと以外にも、
食後高血糖と平均血糖変動幅増大という酸化ストレスリスクに関しては、
効果が弱いので問題と言えます。
C)は、始めにくいこと、継続しにくいこと、普及しにくいことが問題点です。

5)考察

A)の場合、C)よりは治療効果は若干劣りますが、
殆どの糖尿人において、合併症予防という観点からは、問題ないと思われます。
体重減少効果も同様であり、「継続し易さ」「普及」「治療効果」において
バランスのとれた食事療法と言えます。

B)は、「継続し易さ」「普及」は優れていますが、肝腎の治療効果が劣ることと、
食後高血糖と平均血糖変動幅増大という問題点を抱えています。

C)は、始めにくいこと・継続しにくいこと・普及しにくいことという弱点がありますが、
治療効果は抜群ですので、ビタミンCの摂取(野菜から摂取)に留意して、
個人的にやれる人はやればいいと思います。

結論として、自画自賛になりますが、
高雄病院のスーパー糖質制限食が一番バランスがいいのかなと思います。(^^) 

一方、山田悟先生の緩い糖質制限食や釜池豊秋先生の糖質ゼロ食も、
役割分担という視点に立てば、対立するというよりも、
一人一人の嗜好やニーズに応じて、相補的なものと思います。


A)B)C)の3者ともに、
日本糖尿病学会推奨の従来の糖尿病食(高糖質食)に比べれば
治療効果ははるかに高いのですから。

6) α)とβ)について
α)の荒木式は、ほぼスーパー糖質制限食に近いと思います。
ただ、ビールに関して、麦芽とホップだけの本物のビールは
呑んでもよいとされていますが、糖質含有量は、
米・コーン・スターチが含まれている普通のビールと同じだけあるので、
勿論NG食品です。

β)のMEC食も、基本的にはスーパー糖質制限食に近いと思います。
一日に摂るべき食品はM(お肉)・E(卵)・C(チーズ)の三点で、
これらをしっかり食べて、
その上でさらに食べたいと思ったら他の食品(糖質を含む)も
適度にOKということです。
あとは、一口、30回は噛んで食べようということです。
ビタミンCと食物繊維の摂取に注意すれば、MEC食もOKと思います。
ただ糖質を多く摂取すれば当然食後高血糖となるので、注意が必要です。


江部康二
コメント
適性は人それぞれ
自分自身、(糖尿病と診断はされていないものの)江部先生の著書に触れた事を切欠にスーパー糖質制限を始めた所、ダイエット効果はもちろん、食後の眠気がなくなる、空腹感を感じる事がなくなった等々、メリットばかりで感動しました。

そうなると、やはり身近な人にもこの感動を広めたいと感じて積極的に勧めてみたものの、残念ながら実践してくれる人は少数派です。また一度初めてダイエットに成功したら元の食生活に戻ってしまうという人もいます。

そういった事を見ていると、自分のようにスーパー糖質制限を簡単に身に着ける事が出来た人というのは、糖質制限適性が高かったという事なんだろうと感じています。

「こんなにメリットだらけなのに、なんでみんな実践・継続しないの?」と、自分のように糖質制限が向いていた人間は思ってしまいがちですが、やはり人それぞれ向き不向きというものはありますよね。
2021/05/05(Wed) 19:15 | URL | 織田 | 【編集
『日本医療界』は、何故進化・改善しない??!!
都内河北 鈴木です。

本日記事の『糖質』の事を、
何故『日本医療界』の糖尿病・専門組織『日本糖尿病学会』は、
何の疑問も持たず進化皆無だったのか、疑問です??!!

【江部先生『糖質制限理論』(2005年発表)】で、
『生還、覚醒、5度の再覚醒、』している私自身は、
無知の『日本医療界』に『悪化一途で、殺されかけた患者』として、
現在も『糖質・信奉』している事が、
疑問でなりません??!!

<<改善皆無の『日本医療』の既得権益医療は、
  いつまで続けるのか、疑問しか出ません!!>>

<<改善皆無の医療者ならば、反省、学習、皆無ならば、
  無能の専門医ならば、無用だなと考えます!!!>>

<<私40年居住区、都内S区内も、多少の変化があります!!>>

多少の変化は、更なる健康改善するために、専門医と称する医療者の知識が、
どの様な医療者かなと、質問満載で構えて生活しているからです!!

余りにも高慢ちきな態度の改善皆無の医療者は、
講義も参加拒否する医療者は、
辞職しろと言いたい!!!

江部先生には、『生還、覚醒、5度の再覚醒、』でき、
9年目に生活できることに、感謝尽きません!!
ありがとうございます。
敬具



2021/05/05(Wed) 23:38 | URL | 都内河北 鈴木 | 【編集
Re: 適性は人それぞれ
織田 さん

「そういった事を見ていると、自分のようにスーパー糖質制限を簡単に身に着ける事が出来た人というのは、
糖質制限適性が高かったという事なんだろうと感じています。」


その通りと思います。
私も、スーパー糖質制限食実践において、つらいと思ったことはありませんので、
向いていたのだと思います。
あとは、私は糖質を食べたら糖尿人ですから、合併症が出ます。
スーパー糖質制限食なら正常人で、健康ライフが送れます。
2021/05/06(Thu) 07:28 | URL | ドクター江部 | 【編集
江部先生、いつもありがとうございます。

それにしても山田悟医師のような方が、
「私の理論が糖質制限理論です」とメディアで表明されると

糖質制限が間違った方向にいきそうで、基本的に誤解されそうで、ちょっと危うい感じがします。

メディアを大変上手に使われる方が山田医師なので。
2021/05/06(Thu) 15:51 | URL | ジェームズ中野 | 【編集
Re: タイトルなし
通りすがり さん

情報をありがとうございます。
2021/05/06(Thu) 17:21 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: タイトルなし
ジェームズ中野 さん

戦後の糖質制限食の開始は、1999年、
江部洋一郎元高雄病院院長と釜池豊秋医師です。

2005年に私が『主食を抜けば糖尿病は良くなる!』を刊行して以降、
糖質制限食が全国に広がって行きました。

2021/05/06(Thu) 17:25 | URL | ドクター江部 | 【編集
血糖値
いつも勉強させていただいております、診療にいかしております。内科医です。

私は可能な場合は、リブレなども利用して患者さんに食事の指導をしております。
 
さて、山田先生の食事療法であっても、耐糖能正常の人でも、インスリン過剰のリスクである、とのことですが、
ということは、健常人でも糖質制限をしたほうが良い、ということになると思います(がん、アルツハイマーリスク)。

自分で勉強すべきところではありますが、誠に申し訳ありませんがよろしければご教示頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします
2021/05/07(Fri) 13:32 | URL | としの | 【編集
Re: 血糖値
としの さん

「インスリン過剰」「食後血糖値の急上昇」「血糖変動幅増大」
耐糖能正常の人でも、糖質を摂取すれば、これらが生じ酸化ストレスリスクとなります。

また、糖質制限食を実践している人に比べれば、普通に糖質を食べている人は、正常人でも
<AGEsの蓄積>が多くなります。

AGEsの蓄積は慢性炎症の元でもあります。
そして慢性炎症は、がん、アルツハイマー病など生活習慣病の元凶です。

つまり、耐糖能正常の人でも、糖質制限食を実践することで、より健康になれます。
2021/05/07(Fri) 18:38 | URL | ドクター江部 | 【編集
お返事誠にありがとうございました。
よく分かりました。
今後とも宜しくお願い申し上げます
2021/05/08(Sat) 12:52 | URL | としの | 【編集
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