2008年09月25日 (木)
おはようございます。
お彼岸から2日間、秋晴れというに相応しいお天気が続きました。今朝は少し曇っていますが、めっきり涼しくなり、やや冷え込んだといっていいくらいの温度です。いよいよ秋本番ですね。高雄の紅葉が楽しみです。
さて今回は、norijun さんから、インスリンと食事療法について、コメント・質問をいただきました。
『08/09/18 norijun
早朝空腹時血糖値
norijunと申します。私の相方(56歳女性)が糖尿人と診断されてから20年以上たちました。主治医のすすめでいろいろ努力はしたのですが、どんどん悪化していき今では朝昼晩にインスリン17単位、夜に持続型17単位が欠かせない状態になっています。それでも詳しくは分からないのですが、空腹時1血糖80~200mHbA1cが9以上という状態です。合併症も目に出たり、指先のしびれなどもみられます。一週間ほど前に知り合いの糖尿人から「炭水化物をやめると状態が改善するよ。自分でも1ヶ月でHbA1cが1も落ちた」ということから、先生の本も含め詳しく話を聞き、即実行に移すことにしました。ただ、かなり悪い状態なので、主治医にも相談し、血糖の状態をみながら徐々にインスリンを減らしていく方向でとなりました。当人は(私もそうですが)部類の炭水化物・野菜好き(30坪ほどの家庭菜園で年間50種類ほどの無農薬有機野菜を作っています)で、今までのカロリー制限式のほとんど肉なし、脂なし生活には全く抵抗がありませんでした。しかし、炭水化物抜きの「糖質制限食」にはいささか抵抗があり、ではということで今までより半分くらいの炭水化物にすることから始めることにしました。
はじめてまだ5日目なのですが、相方の体調は目に見えて良くなり、だるい、ねむいなどなくなっようです。食後2時間の血糖は230前後で、これでも良い方だと言っています。食事前のインスリンも5単位ほど少なくしました。それと同時に夜のインスリンも5単位減らしたのですが、これがいかなかったのか早朝空腹時血糖が今日(18日)243まで上がってしまいました。かなり膵臓のダメージも大きいのかと想像されるので心配です。どうすればいいのか分からなくなっています。ご教示いただけると幸いです。長々とすみません。長いつきあいの病気ですので、あせらずにこれからも辛抱強く楽しく、美味しく改善していこうと思っております。よろしくお願い申し上げます。
千葉県在住 norijun(61歳)』
norijun さん。コメント・本のご購入ありがとうございました。
無類の炭水化物・野菜好きということであれば、仰る通り、炭水化物の摂取量を、半分くらいにすることから始められたらよいと思います。
糖質を極力減らすのが、高雄病院推奨の「糖質制限食」ですが、摂取する糖質のグラム数を計算して、事前に必要なインスリンの量を調整するのが、欧米で定着している「糖質管理食」です。
norijun さんの相方さんも、糖質制限食が無理なら、主治医とよく相談されて、まずは炭水化物を減らし気味の、糖質管理食を実践されたらよいと思います。
1gの糖質が2型糖尿病患者の血糖値を3mg上昇させます。タンパク質、脂質の計算は要りません。
摂取する糖質のg数だけカウントします。糖質の摂取量を管理してインスリンの量を調整することで、血糖値の乱高下が少なくなるので、体調も良くなってきますよ。(^_^)
インスリンの量も、血糖値を測定しながら、減らしていきます。夜のインスリンを5単位減らして、翌朝の空腹時血糖値が243mgなら、もう一回増量してみましょう。
「朝昼晩にインスリン17単位、夜に持続型17単位」は結構多い量です。インスリンの総量は、少ないほど体に与える影響も少なくてすむので、糖質管理食~糖質制限食で徐々に減らしたいですね。
まずは、
空腹時血糖値126mg未満
食後2時間血糖値180mg未満
を目指して、主治医とよく相談されてインスリンの量を調整してくださいね。
江部康二
☆☆☆以下にブログ「糖質管理食と糖質制限食」を再掲します。
Mon 07/07 2008 糖質管理食と糖質制限食
こんばんは。
ここのところ、ブログで「糖質管理食」という言葉がよく登場しました。簡単に説明して、知識の整理と参りましょう。
三大栄養素である、糖質・脂質・タンパク質のうち、血糖値を急峻に上昇させるのは糖質だけです。これは、カロリーとは無関係の、各栄養素の生理学的特質です。
このことに注目して、糖質摂取を制限して血糖コントロールするのが、高雄病院で推奨する「糖質制限食(carbohydrate restriction)」です。
一方、糖質だけが血糖値を上昇させることを前提に、一回の食事の糖質摂取量を計算して、血糖コントロールをめざすのが糖質管理食(carbohydrate counting)で、欧米では定着している食事療法です。
これには、1993年に発表された米国の1型糖尿病研究・DCCTにおいて、糖質管理食が成功を収めたことが、大きく関係しています。
また、1999年度ミス・アメリカのニコール・ジョンソンさん(1型糖尿病)の食事療法が糖質管理食であり、本も書かれたことも欧米での普及に役立ちました。
日本では残念ながら、欧米では一般的な糖質管理食もほとんど普及していないのが現状です。しかし、2005年の日本糖尿病学会総会で、米国から糖質管理食の専門医が招聘されてシンポジウムが開催されたのは、とても良いことだったと思います。
また、2006年3月に「かんたんカーボカウント」(医薬ジャーナル)という本が大阪市大の小児科グループにより出版され、日本でもやっと糖質管理食の夜明けという状況になりつつあるようです。
2008年1月の米国糖尿病協会(ADA)の栄養勧告では、「炭水化物をモニタリングすることは、炭水化物計算にしろ、炭水化物交換にしろ、経験に基づく評価にしろ、血糖コントロールを達成するための鍵となる戦略である。」と、炭水化物(糖質)を日常的に継続的に点検することを、強く推奨しています。この中の、炭水化物を計算する方法が、糖質管理食です。
糖質管理食は、基本的に3食とも主食(糖質)を摂取することを前提に、その糖質の一回の摂取量を計算します。血糖値を上昇させるのはほとんど糖質だけなので、例えば血糖コントロールに必要なインスリンの量を決めるのにはとても役に立ちます。
糖尿病というと、甘いもの(砂糖)がよくないと誰でも思いがちですが、実は、特に砂糖だけが、血糖コントロールに悪影響を与えるという事実はありません。
「ご飯もパンもせんべいもうどんもラーメンもケーキも砂糖も、その中に含まれている糖質の量に比例して、血糖値を上昇させる」ということが生理学的事実です。
糖質管理食は、糖質だけをグラム計算するシンプルな方法です。従来のカロリー制限優先の糖尿病食に比し、カロリー計算や食品交換表は不要なので、楽に実践できると思います。
いつも述べてますように、1gの糖質が2型糖尿病の人の血糖値を約3mg、1型糖尿病の人の血糖値を約5g上昇させます。糖質含有量を主体に食品を見直すと、意外なことが見えてきます。
例えば、牛乳は一般にはタンパク源とされていますが、糖尿人にとっては、糖質食品と考えたほうが安全です。牛乳100mlには約5gの糖質が含まれていますから、水代わりにガブガブ飲めば、結構血糖値を上昇させます。
ビールも糖尿人には危ない食品の一つです。350ml缶の通常のビールだと、エビスもラガーもスーパードライもおおよそ12~14gの糖質を含んでいます。ノンアルコールビールも同様です。
大ジョッキ生とか2.3杯とか軽く飲んじゃいますと、かなりの量の糖質が吸収され、血糖値値急上昇ということになりますから要注意です。 (*_*)
「糖質→血糖値上昇」というシンプルな事柄に着目した糖尿病の食事療法という意味では、欧米の「糖質管理食」と高雄病院の「糖質制限食」は親戚筋といえます。
「糖質管理食」という考え方をさらに発展させ、3食とも主食を摂取しなくても良いと徹底したのが、高雄病院の「糖質制限食」という見方もできます。
1型糖尿病、2型糖尿病でもインスリン注射をしている糖尿人は、主治医とよく相談されて、糖質制限食が無理なら、せめて糖質管理食を実践されると、血糖値の乱高下がなくなり、コントロールしやすくなりますよ。 ヾ(^▽^)
日本でも糖質管理食や糖質制限食が、糖尿病治療において、当たり前の時代がやって来る日を、心待ちにしている江部康二です。
お彼岸から2日間、秋晴れというに相応しいお天気が続きました。今朝は少し曇っていますが、めっきり涼しくなり、やや冷え込んだといっていいくらいの温度です。いよいよ秋本番ですね。高雄の紅葉が楽しみです。
さて今回は、norijun さんから、インスリンと食事療法について、コメント・質問をいただきました。
『08/09/18 norijun
早朝空腹時血糖値
norijunと申します。私の相方(56歳女性)が糖尿人と診断されてから20年以上たちました。主治医のすすめでいろいろ努力はしたのですが、どんどん悪化していき今では朝昼晩にインスリン17単位、夜に持続型17単位が欠かせない状態になっています。それでも詳しくは分からないのですが、空腹時1血糖80~200mHbA1cが9以上という状態です。合併症も目に出たり、指先のしびれなどもみられます。一週間ほど前に知り合いの糖尿人から「炭水化物をやめると状態が改善するよ。自分でも1ヶ月でHbA1cが1も落ちた」ということから、先生の本も含め詳しく話を聞き、即実行に移すことにしました。ただ、かなり悪い状態なので、主治医にも相談し、血糖の状態をみながら徐々にインスリンを減らしていく方向でとなりました。当人は(私もそうですが)部類の炭水化物・野菜好き(30坪ほどの家庭菜園で年間50種類ほどの無農薬有機野菜を作っています)で、今までのカロリー制限式のほとんど肉なし、脂なし生活には全く抵抗がありませんでした。しかし、炭水化物抜きの「糖質制限食」にはいささか抵抗があり、ではということで今までより半分くらいの炭水化物にすることから始めることにしました。
はじめてまだ5日目なのですが、相方の体調は目に見えて良くなり、だるい、ねむいなどなくなっようです。食後2時間の血糖は230前後で、これでも良い方だと言っています。食事前のインスリンも5単位ほど少なくしました。それと同時に夜のインスリンも5単位減らしたのですが、これがいかなかったのか早朝空腹時血糖が今日(18日)243まで上がってしまいました。かなり膵臓のダメージも大きいのかと想像されるので心配です。どうすればいいのか分からなくなっています。ご教示いただけると幸いです。長々とすみません。長いつきあいの病気ですので、あせらずにこれからも辛抱強く楽しく、美味しく改善していこうと思っております。よろしくお願い申し上げます。
千葉県在住 norijun(61歳)』
norijun さん。コメント・本のご購入ありがとうございました。
無類の炭水化物・野菜好きということであれば、仰る通り、炭水化物の摂取量を、半分くらいにすることから始められたらよいと思います。
糖質を極力減らすのが、高雄病院推奨の「糖質制限食」ですが、摂取する糖質のグラム数を計算して、事前に必要なインスリンの量を調整するのが、欧米で定着している「糖質管理食」です。
norijun さんの相方さんも、糖質制限食が無理なら、主治医とよく相談されて、まずは炭水化物を減らし気味の、糖質管理食を実践されたらよいと思います。
1gの糖質が2型糖尿病患者の血糖値を3mg上昇させます。タンパク質、脂質の計算は要りません。
摂取する糖質のg数だけカウントします。糖質の摂取量を管理してインスリンの量を調整することで、血糖値の乱高下が少なくなるので、体調も良くなってきますよ。(^_^)
インスリンの量も、血糖値を測定しながら、減らしていきます。夜のインスリンを5単位減らして、翌朝の空腹時血糖値が243mgなら、もう一回増量してみましょう。
「朝昼晩にインスリン17単位、夜に持続型17単位」は結構多い量です。インスリンの総量は、少ないほど体に与える影響も少なくてすむので、糖質管理食~糖質制限食で徐々に減らしたいですね。
まずは、
空腹時血糖値126mg未満
食後2時間血糖値180mg未満
を目指して、主治医とよく相談されてインスリンの量を調整してくださいね。
江部康二
☆☆☆以下にブログ「糖質管理食と糖質制限食」を再掲します。
Mon 07/07 2008 糖質管理食と糖質制限食
こんばんは。
ここのところ、ブログで「糖質管理食」という言葉がよく登場しました。簡単に説明して、知識の整理と参りましょう。
三大栄養素である、糖質・脂質・タンパク質のうち、血糖値を急峻に上昇させるのは糖質だけです。これは、カロリーとは無関係の、各栄養素の生理学的特質です。
このことに注目して、糖質摂取を制限して血糖コントロールするのが、高雄病院で推奨する「糖質制限食(carbohydrate restriction)」です。
一方、糖質だけが血糖値を上昇させることを前提に、一回の食事の糖質摂取量を計算して、血糖コントロールをめざすのが糖質管理食(carbohydrate counting)で、欧米では定着している食事療法です。
これには、1993年に発表された米国の1型糖尿病研究・DCCTにおいて、糖質管理食が成功を収めたことが、大きく関係しています。
また、1999年度ミス・アメリカのニコール・ジョンソンさん(1型糖尿病)の食事療法が糖質管理食であり、本も書かれたことも欧米での普及に役立ちました。
日本では残念ながら、欧米では一般的な糖質管理食もほとんど普及していないのが現状です。しかし、2005年の日本糖尿病学会総会で、米国から糖質管理食の専門医が招聘されてシンポジウムが開催されたのは、とても良いことだったと思います。
また、2006年3月に「かんたんカーボカウント」(医薬ジャーナル)という本が大阪市大の小児科グループにより出版され、日本でもやっと糖質管理食の夜明けという状況になりつつあるようです。
2008年1月の米国糖尿病協会(ADA)の栄養勧告では、「炭水化物をモニタリングすることは、炭水化物計算にしろ、炭水化物交換にしろ、経験に基づく評価にしろ、血糖コントロールを達成するための鍵となる戦略である。」と、炭水化物(糖質)を日常的に継続的に点検することを、強く推奨しています。この中の、炭水化物を計算する方法が、糖質管理食です。
糖質管理食は、基本的に3食とも主食(糖質)を摂取することを前提に、その糖質の一回の摂取量を計算します。血糖値を上昇させるのはほとんど糖質だけなので、例えば血糖コントロールに必要なインスリンの量を決めるのにはとても役に立ちます。
糖尿病というと、甘いもの(砂糖)がよくないと誰でも思いがちですが、実は、特に砂糖だけが、血糖コントロールに悪影響を与えるという事実はありません。
「ご飯もパンもせんべいもうどんもラーメンもケーキも砂糖も、その中に含まれている糖質の量に比例して、血糖値を上昇させる」ということが生理学的事実です。
糖質管理食は、糖質だけをグラム計算するシンプルな方法です。従来のカロリー制限優先の糖尿病食に比し、カロリー計算や食品交換表は不要なので、楽に実践できると思います。
いつも述べてますように、1gの糖質が2型糖尿病の人の血糖値を約3mg、1型糖尿病の人の血糖値を約5g上昇させます。糖質含有量を主体に食品を見直すと、意外なことが見えてきます。
例えば、牛乳は一般にはタンパク源とされていますが、糖尿人にとっては、糖質食品と考えたほうが安全です。牛乳100mlには約5gの糖質が含まれていますから、水代わりにガブガブ飲めば、結構血糖値を上昇させます。
ビールも糖尿人には危ない食品の一つです。350ml缶の通常のビールだと、エビスもラガーもスーパードライもおおよそ12~14gの糖質を含んでいます。ノンアルコールビールも同様です。
大ジョッキ生とか2.3杯とか軽く飲んじゃいますと、かなりの量の糖質が吸収され、血糖値値急上昇ということになりますから要注意です。 (*_*)
「糖質→血糖値上昇」というシンプルな事柄に着目した糖尿病の食事療法という意味では、欧米の「糖質管理食」と高雄病院の「糖質制限食」は親戚筋といえます。
「糖質管理食」という考え方をさらに発展させ、3食とも主食を摂取しなくても良いと徹底したのが、高雄病院の「糖質制限食」という見方もできます。
1型糖尿病、2型糖尿病でもインスリン注射をしている糖尿人は、主治医とよく相談されて、糖質制限食が無理なら、せめて糖質管理食を実践されると、血糖値の乱高下がなくなり、コントロールしやすくなりますよ。 ヾ(^▽^)
日本でも糖質管理食や糖質制限食が、糖尿病治療において、当たり前の時代がやって来る日を、心待ちにしている江部康二です。
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