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血糖調節システム。空腹時、食後、正常人、糖尿人。2019年5月。
こんばんは。
今回は、血糖調節システムについて検討してみます。
人体の血糖調節は、なかなか精妙で複雑なシステムにより維持されています。
血糖値は、

「食事」「肝臓によるグリコーゲン分解・糖新生と糖の取り込み」「運動」「ストレス」「インスリン・グルカゴンなどホルモン」「女性の生理」・・・

などなど、いろいろな要素が合わさって調節されています。


1) 空腹時

食物吸収が終了した直後(食事開始2時間後)には、肝臓のグリコーゲン分解が、循環血液中に入るブドウ糖の主要な供給源です。
食後数時間が経過し、絶食状態が持続すると、血糖値維持のために、筋肉など多くの組織のエネルギー源は、ブドウ糖から脂肪酸やケトン体に変わります。
そして、ブドウ糖の供給源は、肝のグリコーゲン分解から糖新生(*)に切り替わります。
なお、筋肉には「グルコース6リン酸→グルコース」 とする回路がないので筋肉中のグリコーゲンからはグルコース(ブドウ糖)は作れません。

2) 主食摂食時(糖質あり)

血糖値を直接上昇させるのは、糖質・脂質・タンパク質のうち、糖質だけです。
糖質摂食時には、消化管から吸収されたブドウ糖は、門脈血からまず肝臓に約50%取り込まれ、それ以外が血液の大循環に回ります。
肝細胞でのブドウ糖取り込み自体は、糖輸送体Glut2(**)を介して行われ、インスリン追加分泌とは関係ありません。
しかし、肝に取り込まれたブドウ糖は、インスリンによりグリコーゲンとして蓄えられます。
糖質を摂取して血糖値が上昇すれば、正常人では速やかにインスリンが追加分泌されます。この場合、追加分泌は基礎分泌の数倍~30倍レベルの大量となります。
例えば基礎分泌が5μU/mlなら追加分泌は、30~150μU/mlとかです。
肝臓に取り込まれなかったブドウ糖は、肝静脈から血中に入り、動脈血中に入ったブドウ糖は、インスリン追加分泌により細胞表面に移動した糖輸送体GLUT4により、骨格筋細胞や脂肪細胞に取り込まれます。骨格筋が、約70%の血糖を取り込みます。
これにより血糖値も速やかに下がります。

筋肉中に取り込まれた血糖は、エネルギー源として使われ、残りはグリコーゲンとして蓄えられます。
取り込まれず余った血糖は、インスリンにより脂肪組織か肝臓に取り込まれ、中性脂肪に変換され蓄えられます。

インスリン濃度が高いと、脂肪細胞の毛細血管にあるリポ蛋白リパーゼが活性化されて、血液中の中性脂肪が分解されて、脂肪酸とグリセロールになります。脂肪酸は、筋肉や体細胞や脂肪細胞のエネルギー源となります。
グリセロールはほとんどエネルギー源にはなりませんが、肝臓での糖新生の原料となります。
余剰の脂肪酸は、脂肪細胞に取り込まれて、中性脂肪として蓄えられます。

インスリンは、中性脂肪の合成を促進し、中性脂肪の分解を抑制します。
インスリンが肥満ホルモンたる所以です。

糖尿人では、<肝臓のグリコーゲン分解と糖新生>が摂食時にも抑制されにくいので、食後高血糖となります。
また糖尿人は、門脈血からの肝臓のブドウ糖取り込みも低下しているので、この面でも食後高血糖を起こしやすいのです。

さらに糖尿人の場合は、血液中のブドウ糖(食後高血糖)は、
<インスリン分泌不足>と<筋肉や脂肪細胞におけるインスリン抵抗性>により、
処理されにくいので、食後高血糖が遷延します。
また、インスリン作用不足による脂質代謝異常、アミノ酸代謝異常、高血糖そのものによるインスリン作用低下、インスリン拮抗ホルモン優位など、様々な因子が重なり合って、高血糖が持続します。

さらに、糖尿人の一部においては、胃不全麻痺(***)による内容物の排出遅延があり、
吸収も遅延して通常よりかなり遅れて血糖値が上昇することがあります。


3) 糖質制限食を摂取時(糖質がごく少量)

糖質摂取が野菜分のごく少量なので、食後血糖値はほとんど上昇しません。
追加分泌インスリンもごく少量で、基礎分泌の2倍くらいです。
正常人で基礎分泌が5μU/mlなら追加分泌は、10μU/mlとかです。
糖質制限食を摂取時は、食事している最中にも脂質が常に燃えています。
また食事中にも、肝臓でアミノ酸などから糖新生も行われています。
このため糖質摂取がごく少量でも低血糖にはならないのです。
糖尿人が糖質制限食を実践すれば、食後高血糖が改善しますが、糖新生により低血糖にはなりません。
正常人が糖質制限食を実践すれば、食後血糖値は正常値の範囲で低めとなります。

例えば正常人で食後1時間のピークの血糖値は、
糖質ありでは、130~160mg/dl
糖質制限ならせいぜい110~120mg/dl
くらいです。
勿論、肝臓で糖新生しますので、低血糖にはなりません。


4) 運動時

安静時には、インスリンの基礎分泌はありますが少量なので、糖輸送体(Glut4)は細胞表面に出てこれず、筋肉細胞・脂肪細胞は血糖をほとんど取り込まめません。

運動時(筋収縮時)には筋肉細胞の糖輸送体(Glut4)がインスリン追加分泌がなくても細胞表面に移動して、
血糖を取り込むことが可能となり、血糖値が下がります。
筋肉細胞が血糖を取り込んでエネルギー源とした後、筋肉中のグリコーゲンが満杯になれば、取り込みはストップします。
脂肪細胞は、運動には無関係です。
ジョギングや歩行ていどの軽い運動が適切とされています。
糖尿人でインスリンの基礎分泌があるていど以上不足していると、
運動によりかえって血糖値が上昇することがあるので注意が必要です。
バーンスタイン医師によれば、個人差はありますが、空腹時血糖値170mg/dlを超えているような場合は、
そのような可能性があるとのことです。
また、強度の強い運動だと、アドレナリンや副腎皮質ホルモンなどのインスリン拮抗ホルモンが分泌されますので、
血糖値が上昇することがあります。


4) ストレス

急性のストレスがあると、アドレナリン、グルカゴン、副腎皮質ステロイドホルモンなど血糖値を上げるホルモンが分泌されますので血糖値が上昇します。


血糖値は、1)、2)、3)、4)などの因子が複雑に絡み合ったシステムにより調節されています。
たかが血糖値されど血糖値、なかなか一筋縄ではいきませんね。

江部康二



(*)糖新生
①脂肪組織→グリセロール(中性脂肪の分解物)→肝臓→糖新生→脂肪組織・筋肉
②筋肉→アミノ酸→肝臓→糖新生→筋肉・脂肪組織
③ブドウ糖代謝→乳酸→肝臓→糖新生→筋肉・脂肪組織

①②③はごく日常的に誰でも行っており、肝臓、筋肉、脂肪組織の間で行ったり来たり、日々糖新生の調節が行われているわけです。
糖新生の調整は、インスリンが行っています。
インスリンは、強力な糖新生抑制因子です。
インスリン不足だと肝臓がブドウ糖をつくり過ぎることになります。


(**)糖輸送体(Glut:glucose transporter)
ブドウ糖が細胞膜を通過して細胞内に取り込まれるためには、
グルコーストランスポーター(糖輸送体)と呼ばれる膜蛋白が必要です。

Glut1~Glut14が報告されています。
Glut1(脳、赤血球、網膜などの糖輸送体)はインスリン非依存性です。
Glut2(肝臓、膵臓のβ細胞などの糖輸送体)はインスリン非依存性です。
Glut4(筋肉細胞、脂肪細胞の糖輸送体)はインスリン依存性です。


(***)胃不全麻痺
バーンスタイン医師(米国の1型糖尿病の医師で糖質制限食実践中)の本にも記載されている<胃排泄遅延・胃不全麻痺>が
年期の入った糖尿人ではありえます。
欧米人には、胃不全麻痺が結構多いようですが日本人でも当然ありえます。
胃不全麻痺のある糖尿人は、夕食を午後6時頃食べても、胃からの排泄が遅延して吸収が遅くなり、
通常よりかなり遅れて血糖値が上昇することがあります。
そのため翌朝の空腹時血糖値が高値となることがあります。



コメント
糖質制限の危険性について
江部先生

いつも拝読しておりまして、
日々実践しております。
糖質制限は危険だという記事はしょっちゅう出ますがあまり気にしていませんでした。
しかしつい先日とある代替療法の専門家の方がブログでかなり具体的に糖質制限の危険性を説いておられ、健康の分野では影響力がある方なので心配になってしまいました。江部先生の見解を伺いたく思いますのでよろしくお願いします。

以下引用文

エネルギー材料の糖がなくなりました



体の油を エネルギー材料にします



その時に 飽和脂肪酸も 不飽和脂肪酸も 溶け出します



不飽和脂肪酸が 炎症を引き起こします (抜け毛他)



体内では炎症ストレスで さらに エネルギーを欲します(倦怠感・疲労感)



タンパク質の流出も始まります (歯がぐらつく。歯肉の後退、口臭。胃壁の障害)



体内の酸化を防ぐために PH調整するのに 骨を溶かします



体内のミネラルバランスが狂います (筋肉の緊張・こむら返り他)



腎機能・肝機能 壊れていきます


動悸や 頭痛が起こるのは 炎症が起こっていれば

血流を増加させますから 当たり前に起こります

体内に タンパク質のかけらも 不飽和脂肪酸も ミネラルも

全部 流出している状態が起こり

炎症のストレスで そもそも 粘膜という粘膜は 弱ります

もちろん リーキーガットになりますから 血流はますます

ゴミだらけ。

ある意味 燃えるものだらけです・・・
2019/05/20(Mon) 08:07 | URL | りょう | 【編集
ターザンの記事にがっかり
江部先生こんにちは

ターザンという雑誌のネットの記事に次のようなものがありました。
「エネルギーを知らない馬鹿者が多すぎ」運動医科学の権威に、叱ってもらう!」
https://tarzanweb.jp/post-188214

この先生は本当に権威でしょうか?
エネルギーを知らない馬鹿者は誰でしょうか?
2019/05/20(Mon) 12:05 | URL | ターザン? | 【編集
Re: 糖質制限の危険性について

りょう さん

まだ、こんなことを、言っている人がいるんですね。
この方の知識不足と情報不足には、びっくりです。

2019年4月、米国糖尿病学会は、
「成人糖尿病患者または予備軍患者への栄養療法」コンセンサス・レポート
を発表しました。
その中で『糖質制限食』がエビデンスが最も豊富であるとして
一番積極的に推奨しています。

2019/05/20(Mon) 12:55 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: ターザンの記事にがっかり

「エネルギーを知らない馬鹿者が多すぎ」 ⇒ この記事の御本人(運動医学の権威?)がその通りと思います。
2019/05/20(Mon) 12:57 | URL | ドクター江部 | 【編集
慢性腎不全と診断され・・・
お世話になっております。江部先生のブログを読ませていただくようになってから、一日の糖質量をほぼ60gに抑える、スーパー糖質制限を実行して約2ヶ月程になります。お陰様で体重こそは108キロから100キロを切るところまで減りました。私は長年の高血圧症と動脈硬化による頸動脈狭窄の為、現在ザクラスとロトリガという薬を毎日服用しております。
先日数か月ぶりに病院で血液検査をしましたが、食後4時間後だったため、中性脂肪が→291まで上昇していましたが、後日空腹時に再検査したところ→73だったので、先生のおっしゃる食事由来のキロミクロンによる高中性脂肪血症と理解しております。
一方、いままで過去の主治医には一切指摘もされていなかったので、全く気にしていませんでしたが、今回初めて腎臓の数値の悪さと,慢性腎不全状況と指摘され大変驚いております。腎臓、尿管結石は過去に数度あり、現在もエコーでは石がいくつか発見されましたが、腎機能の数値に直接原因しているかはまだわかっておりません。
今回の血液検査の数値が、
・尿素窒素14.5
・クレアチニン1.20
・eGFR 50.3
・HDL 44
・LDL 114
・HbA1c 5.6
でした。ジムでウエイトトレーニングを長年行っていますが、良く筋トレをする人は尿酸値やクレアチニンなどが高くなるとは聞いていましたので、そのせいかとずっと勝手に自己判断しておりました。
ただ、今回の数値でも善玉コレステロールも低く、eGFRは辛うじて50をキープしている状況はかなりまずいとの指摘でした。過去データも確認しましたが、以前から多少の違いはあるものの、数値は悪い状況でした。
今後の腎機能の悪化を防ぐため、また中性脂肪や、高血圧、狭窄などへの総合的影響を考えると、このままスーパー糖質制限食が望ましいのか、或いはスタンダードなどに切り替えた方が良いのか迷っております。スーパー糖質制限で肉などのたんぱく質を多めにとることが腎機能を更に悪化させるのか懸念しております。体重も減少し、慢性腎不全を指摘されたせいかはわかりませんが、ここに来て身体的に非常に息切れ、だるさ、不整脈なのか、突破的心臓のバクバク感を感じることが増えてきた気がします。
なかなか文章では伝わりにくいとは存じますが、26日の先生の講演会には参加させていただく予定です。お忙しいところ、大変恐縮ですが江部先生のコメントを頂戴できれば幸いです。
2019/05/20(Mon) 14:23 | URL | TAK | 【編集
Re: 慢性腎不全と診断され・・・
TAK さん

2019/5/26(日)朝日カルチャー湘南、糖質制限食講座へのご参加予定、ありがとうございます。

筋トレしていて、筋肉量が多いと、血清クレアチニン値は高めに出ます。

血清シスタチンCが、筋肉量などに影響されない、腎機能検査です。
血清シスタチンCが、基準値内なら、血清クレアチニンが軽度高値でも、それは
筋肉量のせいであり、腎機能は大丈夫と思います。

冠動脈狭窄のチェックをしっかりしつつ、スーパー糖質制限食実践でOKと思います。

「身体的に非常に息切れ、だるさ、不整脈なのか、突破的心臓のバクバク感」

これらの症状は、カロリー不足の可能性があります。
厚生労働省のいう『推定エネルギー必要量』を目安に低カロリーになりすぎないようにしましょう。



2019/05/20(Mon) 15:24 | URL | ドクター江部 | 【編集
消化不良について
日常的に、食べたものが何時間経っても胃に残っているように感じるのは<胃排泄遅延・胃不全麻痺>になっていると考えた方が良いのでしょうか?
その場合、糖質制限食にすることで消化はスムーズに改善されるのでしょうか?
2019/05/20(Mon) 16:18 | URL | エビ | 【編集
私は、「糖質制限理論」、「生還、覚醒、再覚醒、」証明者です!!
都内河北 鈴木です。

情報提供は、ありがたいと思います。
「糖質制限理論」批判者には、理解できません!!

何故なら私は、江部先生とは、面識無く、利害関係無い、
時代進化解明した理論
「糖質制限理論」を知り得て、「日本闘病病学会」信奉者に殺されかけた患者が
「生還、覚醒、再覚醒、」した1患者の8年目の現在が有る事を、
現在に「理論決裂だと理解無くの暴言の方々」は、
御存じないのかなと考えます!!

私は、21年間、糖尿病・重症化していた1患者が、
「糖質制限理論」をタマタマ知り、
理解把握して、実践して、
インスリン投与が3年半余り増量する状態から「自主離脱し生還しました!!」

以降は、
「眼、脳梗塞、」、「覚醒!!」
「脳梗塞」、「再覚醒!!」

*「糖質制限理論」実践での改善証明・医療デ~タ全て存在しています!!

*既得権益亡者の「日本糖尿病学会」公認・病院、担当医療者は、
 「患者の改善から反省・学習しない」どころか、
 隠蔽事実を容認する低俗な嫌がらせには、努力は惜しまないのですが!!

*私は、病院経営者、医療者の改善皆無の無知を証明する
「これが医療者かと思いたくなる隠蔽医療者・証明の複数の文書も存在所持しています!!」

いつか機会あれば、私自身が「無知証明の事実の文書」を
公共機関で読み上げたいなと考えています!!

私達の「生還、覚醒、再覚醒、」の結果が、
「糖質制限理論」の証明では無いかと考えます!!

江部先生には、「生還、覚醒、再覚醒、」でき、感謝尽きません!!
ありがとうございます。
敬具





2019/05/20(Mon) 17:37 | URL | 都内河北 鈴木 | 【編集
Re: 消化不良について
エビ さん

<胃排泄遅延・胃不全麻痺>といった症状は、あるていど年期の入った糖尿人において見られます。

<胃排泄遅延・胃不全麻痺>は糖尿病神経障害がベースにあるので、
糖質制限食でも、そう簡単には改善しないと思います。
2019/05/20(Mon) 17:43 | URL | ドクター江部 | 【編集
ありがとうございます
江部先生

お世話になっております。
大変お忙しいところ、早速のご返信頂戴し誠にありがとうございました。
次回の採血の際に、血清シスタチンCが基準値内にとどまれば、今回特に気になっているeGFR値が低いことも払拭されると考えてもよろしいものでしょうか?
カロリーについては、もしかすると体重に対しての必要量は足りていなかった可能性があるため、もう少し必要なカロリー量を計算して摂取し、様子をみたいと思います。
26日の先生の講演会を楽しみにしております。
2019/05/21(Tue) 09:51 | URL | TAK | 【編集
Re: ありがとうございます
TAK さん

血清シスタチンCの値で、eGFR値を計算しましょう。
それで基準値なら、腎障害はありません。


2019/05/21(Tue) 11:08 | URL | ドクター江部 | 【編集
再度ご回答頂戴し、厚く御礼申し上げます。
今後ともよろしくお願いいたします。
2019/05/21(Tue) 12:17 | URL | TAK | 【編集
Standards of Medical Care in Diabetes
Standards of Medical Care in Diabetes は
Consensus Report発表と同時にupdatedされています。(4月18日)

Section 5 is updated based on information provided in the ADA document titled:
"Nutrition Therapy for Adults with Diabetes or Prediabetes: A Consensus Report" per below.

http://care.diabetesjournals.org/living-standards
2019/05/21(Tue) 13:10 | URL | じゃろはち | 【編集
Re: Standards of Medical Care in Diabetes
じゃろはち さん

コメントをありがとうございます。
2019/05/21(Tue) 15:17 | URL | ドクター江部 | 【編集
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