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イヌイットと高脂肪食(ω-3不飽和脂肪酸が主)への適応。人類と肉食。
【19/04/20 西村典彦
高タンパク、高脂肪食について

いつもありがとうございます。また、お知恵をお貸しください。
信憑性は分かりませんが、イヌイットの高タンパク、高脂肪食への適応について
AAASの以下の記事がありました。
https://www.eurekalert.org/pub_releases_ml/2015-09/aaft-_2091415.php

「脂肪代謝、身長、体重、コレステロールの制御に関わる多数の遺伝子が、
おそらく選択圧によって、
イヌイット集団をタンパク質と脂肪(特にω-3ポリ不飽和脂肪酸)を多く含む食事で生きられるようにしたことが判明した」


とあります。

遺伝子レベルで適応しているので可能と言うことであれば、
適応していない日本人を含む他の民族では高タンパク、高脂肪食は不適応であり
コレステロールの制御ができないと言う事にならないでしょうか。
これは、食餌中のコレステロールは血中コレステロールに影響しないと言う事と
矛盾しているように思えますが、いかがでしょうか。】



こんにちは。
西村典彦さんから、
『イヌイットと高脂肪食(ω-3不飽和脂肪酸が主)への適応』について、
コメント・質問を頂きました。
西村さん、情報をありがとうございます。

この記事の原著は、以下の緑文字のサイエンスの論文です。
Science. 2015 Sep 18;349(6254):1343-7. doi: 10.1126/science.aab2319.
Greenlandic Inuit show genetic signatures of diet and climate adaptation.(☆)


端的に言うと、
「イヌイットは、ω-3不飽和脂肪酸を大量に摂取してもいいように
遺伝的に変異して適応している。
従って、大量のω-3不飽和脂肪酸を、イヌイット以外の民族が摂取しても
意味があるかどうかわからない。」

という趣旨です。

つまり、「イヌイットは長期間、アザラシなどの海獣や魚を多く摂取していて、
それに含まれているω-3不飽和脂肪酸(EPA)が、
心血管系疾患を予防する効果があるので、心筋梗塞が極めて少ない。」

という今までの定説(EPAの心血管疾患予防効果)に対して、

このサイエンスの論文は、
イヌイットの特殊性(遺伝的に変異して、ω-3不飽和脂肪酸大量摂取に適応)
考慮する必要があるという仮説を提唱しています。
即ち、例えばEPAを沢山摂取あるいは内服しても、イヌイット以外の民族には意味がないかもしれないと
著者は述べています。
これはこれで、一つの見識であり仮説としては、あり得ます。

一方、すでにEPAは、日本でも健康保険に収載されていて、
脂質異常症閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感に対して適応がとれています。
健康保険に収載されているということは、日本人における研究において、
上記疾患に対して、EPAの有効性が確認されているということです。
従って、イヌイットのように、特殊な遺伝的変異を有していなくても
少なくとも日本人には、EPAは有効であると言えます。


最後に、人類全体の進化の歴史を考察してみます。
約700万年前にチンパンジーと分かれて以降、多くの人類が生まれては消えて
現在残っているのは、我々「ホモ・サピエンス」だけです。
最後に絶滅したネアンデルタール人は、
ヨーロッパを中心に13万年前から3万年前まで生存していました。

10万年前は、
ホモ・サピエンス、ネアンデルタール人、
デニソワ人、ホモ・フロレスエンシスが生存していました。

多くの人類が生まれては消えていきましたが、
脳が急速に大きくなったのはホモ・ハビリスやホモ・エレクトウスからです。
ホモ・ハビリスは、約200万年前に生存していて、
脳の容量は800ccくらいです。
ホモ・エレクトウスは、約190万年前に生存していて、
脳の容量がが950ccと大きくなっています。
700万年前に人類が誕生して、450万年間はは脳は大きくなりませんでした。

ちなみに、チンパンジーの脳容量は、350~400ccくらいです。
ホモ・ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人・旧人)の脳容量は1600cc、
ホモ・サピエンス(現生人類)の脳容量は1500cc
です。

脳はエネルギーを多く使うので、
エネルギー効率の良い肉を多く食べるようになって脳が大きくなったと考えられます。
脳組織の50から60%は脂質が占めていますので、肉食による高タンパク・高脂肪食が
必要だったと考えられます。

従って、700万年間の人類の進化の歴史のなかで、
当初は植物食が主だったと思われますが、250万年前頃から、
動物性食品摂取が増えていき、ホモ・ハビリスもあるていど肉を食べていたと思われます。
190万年前のホモ・エレクトウス以降は、肉をしっかり食べて、
高タンパク・高脂肪食で、脳が大きく発達していったと考えられます。



江部康二


(☆)
Science. 2015 Sep 18;349(6254):1343-7. doi: 10.1126/science.aab2319.
Greenlandic Inuit show genetic signatures of diet and climate adaptation.

Fumagalli M1, Moltke I2, Grarup N3, Racimo F4, Bjerregaard P5, Jørgensen ME6, Korneliussen TS7, Gerbault P8, Skotte L2, Linneberg A9, Christensen C10, Brandslund I11, Jørgensen T12, Huerta-Sánchez E13, Schmidt EB14, Pedersen O3, Hansen T15, Albrechtsen A16, Nielsen R17.
Author information

Abstract
The indigenous people of Greenland, the Inuit, have lived for a long time in the extreme conditions of the Arctic, including low annual temperatures, and with a specialized diet rich in protein and fatty acids, particularly omega-3 polyunsaturated fatty acids (PUFAs). A scan of Inuit genomes for signatures of adaptation revealed signals at several loci, with the strongest signal located in a cluster of fatty acid desaturases that determine PUFA levels. The selected alleles are associated with multiple metabolic and anthropometric phenotypes and have large effect sizes for weight and height, with the effect on height replicated in Europeans. By analyzing membrane lipids, we found that the selected alleles modulate fatty acid composition, which may affect the regulation of growth hormones. Thus, the Inuit have genetic and physiological adaptations to a diet rich in PUFAs.

Copyright © 2015, American Association for the Advancement of Science.
コメント
西村さん,こんにちは!
西村さん,FBで交流させて頂いている山田です。
この論点については以前FBの個人ウォールでまとめたものがあるので,以下に抜粋します。

[第3. イヌイットの研究について]
(1)オメガ3とイヌイット
これまでオメガ3の効能につき,主にイヌイットが極端な高脂肪食であるにも拘らず,心臓・循環器の疾患が少ない…との文脈で研究が進められてきた背景が存在する。

(2)イヌイットの遺伝的特殊性
①“Science”の論文
近年,イヌイットに見られるオメガ3の効能について,イヌイットの脂質代謝に特化した遺伝子変異との関連を示唆する論文が発表された。
http://science.sciencemag.org/content/349/6254/1343

②当該論文の検討
しかしながら,当該論文のコレスポンディング・オーサーであるカリフォルニア大学バークレー校のNielsen博士も,ニューヨーク・タイムズの取材に対し飽くまで遺伝的特殊性の『可能性』を示唆したに留まり,また当該研究に関与していない学者(Anthony G. Comuzzie)は,未知の部分が多く,結論付けるのは時期尚早であると警告している。
https://www.nytimes.com/2015/09/22/science/inuit-study-adds-twist-to-omega-3-fatty-acids-health-story.html

(3)アジア人の研究
近年“PLoS One”に,海洋のオメガ3がアジア人集団における2型糖尿病の予防に有益な効果を有する,とのエビデンスが報告された。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22984522

なお,上記論文は『システマティック・レビュー/メタ・アナリシス』であり,エビデンスレベルとしては最上位であることにも注目されたい。

(4)国内の研究者による最新報告
先月リリースされた日本人研究者らによるメタ・アナリシスでは,オメガ3が一部の集団において糖尿病の発症を予防する可能性がある…ことを示唆しており,前項(3)の報告内容に沿うものといえよう。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29511415

…以上,ご参考になれば幸いです。
2019/04/21(Sun) 13:53 | URL | FOCS@山田 | 【編集
Re: 西村さん,こんにちは!
FOCS@山田 さん

貴重な情報をありがとうございます。
とても参考になります。
2019/04/21(Sun) 15:08 | URL | ドクター江部 | 【編集
ωー3不飽和脂肪酸の重要性!!
都内河北 鈴木です。

本日記事は、1患者として、「糖質制限理論」実践者として、
食生活への更なる安心感への説明に、再認識し、安堵します!!

私も食生活には、ωー3の多いイワシなどを主に、動物タンパクと同等量を、
必ず同等摂取しています!!

ですが、現代の世界情勢、気候変動の現在ですが、
可能な限り時代進化解明事実を、患者へ提供できなければ、

「糖尿病専門医」と称している改善皆無の理論破綻被害者の私は、
「日本糖尿病学会」信奉者には、現在も思考変更しない医療者には、
疑問満載です!!

私は江部先生「糖質制限理論」に出会えて実践翌日より「血糖値減少」あり、
「生還、覚醒、再覚醒、」しましたが、
眼、脳梗塞、の後遺症の更なる改善目指して来月、
自身の居住区「S区役所」で、区役所の「医療問題」への会話が有りますが、
どうなる事かと楽しみです!!

私としては「糖質制限理論」は、現代医療の「五輪書」の様です!!

江部先生には、「せいかん感謝尽きません!!
ありがとうございます。
敬具


2019/04/21(Sun) 15:14 | URL | 都内河北 鈴木 | 【編集
自家中毒と糖質制限について
いつもお世話になり、ありがとうございます。
今回の質問は子供に多い自家中毒について機序を考えた場合、子供の糖質制限は問題ないのかと言う疑問にぶつかり、お知恵を拝借できれば嬉しいです。

自家中毒は10歳くらいまでの子供に多く、別名ケトン(アセトン)血性嘔吐症と言う事から、この症状にはケトン体(アセトン)が関わっており、診断には尿ケトン体を診るようですが、糖質制限では常にケトーシスですが自家中毒になることはないのでしょうか。
2019/04/22(Mon) 12:38 | URL | 西村典彦 | 【編集
チートデイ
糖質制限についてネットで見ると、よくチートデイを設けるという文言を頻繁に目にします。
糖質制限を続けると、体が飢餓状態と錯覚し、少しの糖質でも太りやすい体質、つまり痩せにくい体になるので、飢餓状態ではないと体をだますために1日は糖質を摂取する日を設けるらしいのです。それによって停滞期をなくしたり短くできるらしいのですが、これは科学的根拠があるものなのでしょうか?チートデイについて先生はどのようにお考えか教えてください。
2019/04/23(Tue) 10:33 | URL | TT | 【編集
Re: 自家中毒と糖質制限について
西村典彦 さん

考えてみます。
2019/04/23(Tue) 23:23 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: チートデイ
TT さん

そういう仮説があるようですね。
私自身の場合は、チートデイは必要ありませんでした。
高雄病院の患者さんでも、経験していませんので、あまりよくわかりません。
2019/04/24(Wed) 20:21 | URL | ドクター江部 | 【編集
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