FC2ブログ
インスリンの功罪。2018年8月。
1)
基礎分泌インスリンは、ヒトの生命維持に必要不可欠。

2)
スーパー糖質制限食でも、基礎分泌の2~3倍レベルのインスリンは追加分泌される。

3)
インスリン注射で、1型糖尿病患者の命が助かるようになり、近年、1型糖尿病患者の平均寿命が延びた。


4)
過剰なインスリンは活性酸素を発生させ、酸化ストレスとなり、がん、老化、動脈硬化、糖尿病合併症、アルツハイマー病などのリスクとなる。



こんにちは。

今回はインスリンの功罪について考察してみます。

インスリンには、24時間継続して少量出続けている基礎分泌と、
糖質を摂取したときに大量に出る追加分泌の2種類があります。

タンパク質摂取でも少量のインスリンが追加分泌されますが、
脂質摂取では、インスリンは追加分泌されません。
<糖質+蛋白質>だと、一番多くのインスリンが追加分泌されます。

これでまず解るのは、食物を摂取していないときでも、
人体の代謝には、少量のインスリンが必須ということです。

このインスリンの基礎分泌がなくなったら、人体の代謝全体が崩壊していきます。
つまり、基礎分泌のインスリンがないと、全身の高度な代謝失調が生じ、生命の危険があります。
実際1921年インスリンが発見され、1922年から臨床応用されるまでは、
1型糖尿病で内因性インスリンがゼロの場合は平均余命は、僅か半年でした。

例えば「運動をしたらインスリン非依存的に血糖値がさがる」といっても、
インスリン基礎分泌が確保されているのが前提のお話です。
もし、基礎インスリンが不足している状態で運動すれば、
運動で血糖値はかえって上昇します。

また、肝臓で行っている糖新生も、基礎インスリンが分泌されていなければ制御不能となり、
空腹時血糖値が300mg/dl~400mg/dl、或いはこれ以上にもなります。

また、糖質を食べて血糖値が上昇したとき、
追加分泌のインスリンがでなければ、高血糖が持続します。
高血糖の持続は糖毒といわれ、膵臓のβ細胞を傷害し、インスリン抵抗性を悪化させます。

さてブドウ糖が、細胞膜を通過するためには、特別な膜輸送タンパク質が必要です。
それが糖輸送体(GLUT)であり、現在GLUT1~GLUT14まで確認されています。
GLUT1は赤血球・脳・網膜などの糖輸送体で常に細胞の表面にあり、
血流さえあれば即血糖を取り込めます。

これに対して筋肉細胞と脂肪細胞に特異的なのがGLUT4で、
基礎分泌のインスリンレベルだと、通常は細胞内部に沈んでいます。
GLUT1~GLUT14の中で、インスリンに依存しているのはGLUT4だけで特殊です。
筋肉細胞と脂肪細胞にあるGLUT-4は、
インスリン追加分泌がないと細胞内に沈んでいるのでブドウ糖を取り込めません。
インスリンが追加分泌されるとGLUT-4は細胞表面に移動して血糖を取り込むのです。

このようにインスリンは、生命の維持に必須の重要なホルモンであることが確認できました。

また近年、1型糖尿病患者の寿命は延びています。
以下、糖尿病ネットワークから一部抜粋。
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2016/024725.php
1975年に米国で行われた調査では1型糖尿病患者の寿命は、
健康人に比べて27年短いとされていました。

スコットランドのダンディー大学が2万4,691人の1型糖尿病患者を対象に行った調査では、
20代前半の糖尿病患者の予想される平均余命は、
健康な人に比べ男性で11.1年、女性で12.9年短いという結果になりました(2015年1月報告)。


このようにインスリンの使用法や種類が改善されたことで、
1型糖尿病患者の寿命はかなり改善されてきています。
インスリン注射が、おおいに役に立っているわけです。


一方で過剰なインスリンの害にはエビデンスがあります。
たとえ基準値内でも、インスリンの血中濃度が高いほど、
アルツハイマー病、がん、肥満、高血圧などのリスクとなります。
これは内部で産生したインスリンでも外部から注射したインスリンでも同じことです。

また、高インスリン血症は活性酸素を発生させ、酸化ストレスを増加させます。
酸化ストレスは、老化・癌・動脈硬化・その他多くの疾患の元凶とされていて、
パーキンソン病、狭心症、心筋梗塞、アルツハイマー病などにも関与しています。
つまり、過剰なインスリンは『百害あって一利なし』ということです。


ロッテルダム研究によれば、
インスリン使用中の糖尿人ではアルツハイマー病の相対危険度は4.3倍です。

Rotterdam研究(Neurology1999:53:1937-1942)
「高齢者糖尿病における、脳血管性痴呆(VD)の相対危険度は2.0倍。
アルツハイマー型痴呆(AD)の相対危険度は1.9倍。
インスリン使用者の相対危険度は4.3倍」



インスリン注射をしている糖尿人は、メトグルコで治療している糖尿人に比べて
ガンのリスクが1.9倍というカナダの研究もあります。

2005年の第65回米国糖尿病学会、
カナダのSamantha博士等が、10309名の糖尿病患者の研究成果を報告、
その後論文化。コホート研究。
 「メトフォルミン(インスリン分泌を促進させない薬)を使用しているグループに比べて、
インスリンを注射しているグループは、癌死亡率が1.9倍高まる。
SU剤(インスリン分泌促進剤)を内服しているグループは癌死亡率が1.3倍高まる。」 
Diabetes Care February 2006 vol. 29 no. 2 254-258


このようにインスリンの弊害を見てみると、
インスリンは血糖コントロールができている限り少なければ少ないほど、
身体には好ましいことがわかります。

別の言い方をすれば、農耕開始後、精製炭水化物開始後、
特に第二次大戦後に世界の食糧事情が良くなってからの
糖質の頻回・過剰摂取が、インスリンの頻回・過剰分泌を招き、
様々な生活習慣病の元凶
となった構造が見えてきます。

スーパー糖質制限食を実践すれば、
血糖コントロール・体重コントロールは勿論のこと
インスリンの分泌が必要最小限で済むようになり、
様々な生活習慣病の予防・改善が期待できます。

ブログ読者の皆さんも、スーパー糖質制限食実践で、
必要最低限のインスリンで血糖こントロールを維持して、健康ライフを送ってくださいね。

インスリンは糖質代謝の調整が主作用ですが、
それ以外にも下記のごとくいろいろな働きがあります。


☆☆☆インスリンの作用

インスリンは、グリコーゲン合成・タンパク質合成・脂肪合成など、
栄養素の同化を促進し、筋肉、脂肪組織、肝臓に取り込む。
インスリンが作用するのは、主として、筋肉(骨格筋、心筋)、脂肪組織、肝臓である。

A)糖質代謝
*ブドウ糖の筋肉細胞・脂肪細胞内への取り込みを促進させる。
*グリコーゲン合成を促進させる。
*グリコーゲン分解を抑制する。
*肝臓の糖新生を抑制し、ブドウ糖の血中放出を抑制する。

B)タンパク質代謝
*骨格筋に作用してタンパク質合成を促進させる。
*骨格筋に作用してタンパク質の異化を抑制する。

C)脂質代謝
*脂肪の合成を促進する。
*脂肪の分解を抑制する。



江部康二
コメント
インスリン
先生のブログと出会って人生変わった五十代女性です。ありがとうございます。
お伺いしたいのですが…

仕事上や、お付き合いなどで、糖質の多い食事を取る時に、食前にナテグリニドを服用しています。週に1回から多くて3回程です(昼食と夕食で2回服用という場合もあり)
服用しない場合と比べると、数値は20〜30は低いですが、食事内容や状況(メニューを選べない、お断りができない等)は200を超えてしまう時もあり、そんな時はドキドキ、ヒヤヒヤです。

そんな中で感じているのは、食後2〜3時間後の数値は、糖質を摂取したわけなので、ナテグリニド服用の効果も少しありながらもやはり高いです。
しかし4〜5時間後の数値は普段の空腹血糖値よりも少し低くなります。
(普段の夕食前辺りは100〜110位ですが、90前後になる)
たまたまかな?と思ってましたが、ほぼいつもそうなるのです。

私のインスリンの出方?はどういう状況なのでしょうか?
基礎インスリンが少ない?追加インスリンの出るのが遅い?
服用のタイミングを食事直前ではなくもう少し前に服用した方がいいのか?
とか色々思っているのですが。

日常、スーパー糖質制限をしている時は、2時間後は高くても140前後です。
HbA1cは糖質制限を始めて3年(糖尿病発覚してから4年)、5.6前後で安定してます。

お時間のある時にお答えいただけたら嬉しいです。
2018/08/20(Mon) 18:55 | URL | ゆう | 【編集
こんばんは。いつも楽しく読ませていただいています。
今日、Twitterで気になる記事が取り上げられていました。
取り上げられてたツイートのリンクを貼っていいものか判断がつかなかったので、そこからリンクされてた記事?のURLを貼らせていただきます。

https://t.co/nkCJs3tydK

リンク先は英語で自分は読めないのですが、ツイートでは「糖質摂取量は総摂取カロリー量の50-55%で最も死亡リスクが低く,高くても低くても死亡リスクは増加する」と言われています。もう知っておられるかもしれませんが、ご連絡差し上げます。
2018/08/20(Mon) 21:26 | URL | たかみ | 【編集
低炭水化物の食事は寿命を縮める可能性 米研究が示唆
江別先生、こんばんは。

気になる記事がありました。
今日のYAHOO JAPANニュースでの記事です。

この記事では、低炭水化物の食事は、寿命を最大4年縮める可能性があると示唆する研究が16日、発表されたとのことです。

この記事では、この調査の限界にも触れていますが、超低炭水化物グループでは中程度グループよりも寿命が短くなるとしています。

記憶に頼った調査なのでかなりのバイアスがあるとは思いますが、すくなくとも超低炭水化物グループの方がたは、糖質制限をかなり強く意識しているからこそ、そう回答したように思います。そういう意味で、他のグループよりいい結果であって欲しかったと思います。

原著を読んでいないので、この報告の問題などはわからないので、この記事だけからはなんとも言えないのかもしれませんが、気にはなります。

どのように考えればいいでしょうか?
2018/08/20(Mon) 21:31 | URL | じょん | 【編集
Re: 低炭水化物の食事は寿命を縮める可能性 米研究が示唆
ドクターシミズのブログでは既に論破されています。チェックしてから投稿するようにしましょう。
2018/08/21(Tue) 09:10 | URL |  | 【編集
Re: インスリン
ゆう さん

ナテグリニドは追加分泌インスリンの第1相(初期相)を主に刺激します。
追加分泌第1相は、β細胞にプールされているインスリンです。

その後、追加分泌第2相にもあるていど作用します。
4~5時間後の血糖値が90前後というのは、
追加分泌第2相の影響かと思います。

通常、ゆうさんのように、4~5時間後のデータを測定しませんので
よくわからかったのかもしれませんが、
他の人も測定したら同様の結果の可能性があります。
勿論、グリニドの効果には個人差もあると思います。
2018/08/21(Tue) 09:50 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: Re: 低炭水化物の食事は寿命を縮める可能性 米研究が示唆
情報をありがとうございます。
「ドクターしみずのひとりごと」での反論、
私も知らなかったので、
とても助かります。
2018/08/21(Tue) 09:54 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: タイトルなし
たかみ さん

私もこの論文に反論しようと、つたない英語力で四苦八苦してましたが
「ドクターしみずのひとりごと」
http://promea2014.com/blog/?p=5383

で、清水先生が、キッチリ論破しておられます。
2018/08/21(Tue) 09:55 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 低炭水化物の食事は寿命を縮める可能性 米研究が示唆
じょん  さん

情報をありがとうございます。
この論文
「ドクターしみずのひとりごと」
http://promea2014.com/blog/?p=5383

で、清水先生が、キッチリ論破しておられます。
2018/08/21(Tue) 09:56 | URL | ドクター江部 | 【編集
こんにちは。いつも楽しく拝見しております。
親子で糖質制限していますが話を聞いた両親も興味が湧きぜひ糖質制限をと勧めましたが母78才が糖尿病性合併症なしの糖尿病でメトホルミンとトラゼンタを服用しております。主治医は理解のないひとなので相談できず(私が病院勤務、母はうちにかかっていますので先生の性格、方針はよく知っています)伺いたいのですがメトホルミンは以前の記事でも問題ないということを確認しましたがトラゼンタはいかがですか?こちらも低血糖を起こすリスクはないので大丈夫じゃないですか?と薬剤部に問い合わせたら返答がありましたが…つい最近の血液検査結果はFBS124、HbA1c6.3です。よろしくお願いします。
2018/08/21(Tue) 10:21 | URL | 登山好きのランナー | 【編集
Re: タイトルなし
登山好きのランナー さん

メトホルミンは欧米では、第一選択剤です。
腎機能低下がなければ、副作用は少ないです。
せいぜい内服量が多いと下痢するくらいです。
腎機能が低下しているとまれとはいえ「乳酸アシドーシス」のリスクがあるので飲まない方がいいです。

トラゼンタはDPP-4阻害剤で、日本では最もよく処方されている系統の内服薬です。
低血糖も生じにくいし、比較的安全性が高いので一番多く処方されているのだと思います。

「つい最近の血液検査結果はFBS124、HbA1c6.3」

78歳でこのデータならとても良いコントロールと思います。
FBSが124mgと境界型(IFG)レベルですが、食後高血糖(IGT)タイプの境界型に比し、リスクはあまりないです。
2018/08/21(Tue) 10:54 | URL | ドクター江部 | 【編集
コメントを投稿
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可