2018年08月13日 (月)
こんにちは。
昨日のブログ記事は
ホモ・サピエンスとネアンデルタール人のお話でした。
今日は日本人のご先祖に思いを馳せて、
縄文人と虫歯のお話です。
古人骨の調査において縄文人の虫歯率は8.2%でした。
30%を超える現代日本人や、
農耕が始まった弥生時代の16.2〜19.7%よりは低いです。
しかし、伝統的食生活の頃のイヌイットや、
7600〜3000年前のアメリカ先住民が3%未満であるのに比べると、
縄文人の虫歯の多さは際だっています。
人類史と虫歯の関係がとても興味深かったので、
「古病理学辞典」(藤田尚編、同成社)を読んでみました。
151ページの表1に古人骨における虫歯率の比較が載っていましたので、
以下一部を抜粋してみました。
縄文人:12000~2300年前 狩猟採集 虫歯率8.2%
弥生人(土井ヶ浜):2000年前 農耕 虫歯率19.7%
弥生人(三津):2000年前 農耕 虫歯率16.2%
現代日本人:1993年 虫歯率31.3%
アメリカ先住民:7600年前 狩猟採集 虫歯率0.4%
アメリカ先住民:3000年前 狩猟採集 虫歯率2.4%
オーストラリア先住民:近代 狩猟採集 虫歯率4.6%
イヌイット(グリーンランド):近代 狩猟採集 虫歯率2.2%
イヌイット(アラスカ):近代 狩猟採集 虫歯率1.9%
ちなみに、農耕を開始して穀物(糖質)を食べ始めて、
虫歯が倍以上に増加したのは日本だけではありません。
世界中で確認されています。
虫歯菌の代表として知られているのは
ストレプトコッカスミュータンス菌とラクトバチラス菌ですが、
いずれもその餌は糖質なので、さもありなんです。
縄文人は、「採集」「漁労」「狩猟」の三つの生業で食べ物を手に入れていました。
縄文時代というと、狩りで得た肉を主に食べていたというイメージが強いのですが、
実際には植物採集の割合が高かったと考えられています。
特にクリ、クルミ、トチ、ドングリ類などの木の実は主食といえるほど食べていました。
これらには糖質が一定量含まれていますので、
昔のアメリカ先住民やイヌイットよりも、虫歯率が高かったのだと考えられます。
日本の旧石器時代は、ナウマンゾウ、オオツノジカ、マンモス……
といった動物を狩る狩猟が主な生業でした。
これらには糖質はほとんどなく、
この時代の日本人は、虫歯率はほぼゼロだったとされています。
ちなみに日本の旧石器時代は、
最終氷期(ウルム氷期:約7万年前~約1万6千年前)と呼ばれるかなり寒かった時期で、
針葉樹林に覆われた地域が多く、
そこでは食料となる植物資源は極めて乏しかったのです。
暖かくなった縄文時代でも、北海道の住民には虫歯が少なく2.4%くらいでした。
これも当時の北海道の環境(青森以南に比べて寒冷)や食生活が関係していると考えられます。
北海道の縄文人は「漁労」「狩猟」の二つが主な生業で、
クリやドングリなどの「採集」がなくて、
鹿やイノシシなどの動物、魚や海獣類を好んで食べていたようです。
このため糖質摂取が少なく、虫歯率も低かったのでしょう。
日本において、つまようじを用いた歯の掃除の習慣が民衆に広まり、
需要が拡大したのは江戸時代以降と言われています。
「ようじ」というと、たちどころに私の脳裏に浮かぶのは、
『木枯らし紋次郎』ですね。
舞台は幕末の天保年間。
上州新田郡三日月村の貧しい農家に生まれた紋次郎・・・
長い楊枝を咥えて、着古して薄汚れた道中合羽を羽織り、
『あっしには関わりのねえことでござんす。』という決め台詞を吐く・・・
主演の中村敦夫さん、かっこよかったです。
1972年の元日に放送開始だそうで、いやはや古くてすみません。
現在の歯ブラシによる歯磨きは明治以降です。
旧石器時代人は、きっと、
現在のような歯磨きはしていません。 (^^)
ということは、歯磨きをしなくても、
糖質さえ取らなければ虫歯の発生率はなかったということになります。
げに、糖質恐るべしですね。
江部康二
昨日のブログ記事は
ホモ・サピエンスとネアンデルタール人のお話でした。
今日は日本人のご先祖に思いを馳せて、
縄文人と虫歯のお話です。
古人骨の調査において縄文人の虫歯率は8.2%でした。
30%を超える現代日本人や、
農耕が始まった弥生時代の16.2〜19.7%よりは低いです。
しかし、伝統的食生活の頃のイヌイットや、
7600〜3000年前のアメリカ先住民が3%未満であるのに比べると、
縄文人の虫歯の多さは際だっています。
人類史と虫歯の関係がとても興味深かったので、
「古病理学辞典」(藤田尚編、同成社)を読んでみました。
151ページの表1に古人骨における虫歯率の比較が載っていましたので、
以下一部を抜粋してみました。
縄文人:12000~2300年前 狩猟採集 虫歯率8.2%
弥生人(土井ヶ浜):2000年前 農耕 虫歯率19.7%
弥生人(三津):2000年前 農耕 虫歯率16.2%
現代日本人:1993年 虫歯率31.3%
アメリカ先住民:7600年前 狩猟採集 虫歯率0.4%
アメリカ先住民:3000年前 狩猟採集 虫歯率2.4%
オーストラリア先住民:近代 狩猟採集 虫歯率4.6%
イヌイット(グリーンランド):近代 狩猟採集 虫歯率2.2%
イヌイット(アラスカ):近代 狩猟採集 虫歯率1.9%
ちなみに、農耕を開始して穀物(糖質)を食べ始めて、
虫歯が倍以上に増加したのは日本だけではありません。
世界中で確認されています。
虫歯菌の代表として知られているのは
ストレプトコッカスミュータンス菌とラクトバチラス菌ですが、
いずれもその餌は糖質なので、さもありなんです。
縄文人は、「採集」「漁労」「狩猟」の三つの生業で食べ物を手に入れていました。
縄文時代というと、狩りで得た肉を主に食べていたというイメージが強いのですが、
実際には植物採集の割合が高かったと考えられています。
特にクリ、クルミ、トチ、ドングリ類などの木の実は主食といえるほど食べていました。
これらには糖質が一定量含まれていますので、
昔のアメリカ先住民やイヌイットよりも、虫歯率が高かったのだと考えられます。
日本の旧石器時代は、ナウマンゾウ、オオツノジカ、マンモス……
といった動物を狩る狩猟が主な生業でした。
これらには糖質はほとんどなく、
この時代の日本人は、虫歯率はほぼゼロだったとされています。
ちなみに日本の旧石器時代は、
最終氷期(ウルム氷期:約7万年前~約1万6千年前)と呼ばれるかなり寒かった時期で、
針葉樹林に覆われた地域が多く、
そこでは食料となる植物資源は極めて乏しかったのです。
暖かくなった縄文時代でも、北海道の住民には虫歯が少なく2.4%くらいでした。
これも当時の北海道の環境(青森以南に比べて寒冷)や食生活が関係していると考えられます。
北海道の縄文人は「漁労」「狩猟」の二つが主な生業で、
クリやドングリなどの「採集」がなくて、
鹿やイノシシなどの動物、魚や海獣類を好んで食べていたようです。
このため糖質摂取が少なく、虫歯率も低かったのでしょう。
日本において、つまようじを用いた歯の掃除の習慣が民衆に広まり、
需要が拡大したのは江戸時代以降と言われています。
「ようじ」というと、たちどころに私の脳裏に浮かぶのは、
『木枯らし紋次郎』ですね。
舞台は幕末の天保年間。
上州新田郡三日月村の貧しい農家に生まれた紋次郎・・・
長い楊枝を咥えて、着古して薄汚れた道中合羽を羽織り、
『あっしには関わりのねえことでござんす。』という決め台詞を吐く・・・
主演の中村敦夫さん、かっこよかったです。
1972年の元日に放送開始だそうで、いやはや古くてすみません。
現在の歯ブラシによる歯磨きは明治以降です。
旧石器時代人は、きっと、
現在のような歯磨きはしていません。 (^^)
ということは、歯磨きをしなくても、
糖質さえ取らなければ虫歯の発生率はなかったということになります。
げに、糖質恐るべしですね。
江部康二
いつも有益な情報をありがとうございます。
実は以前歯医者さんに聞いたのです
私 「虫歯の原因は砂糖だけですか?それとも、米や小麦に含まれる糖質も虫歯の原因になるのでしょうか?」
歯医者さん 「大丈夫です。虫歯の原因は砂糖だけですよ」
これは真っ赤な嘘だったのですね!
返答の前に一瞬ためらいがあったように感じたのは気のせいではなく、きっと知らなかったから適当に答えたのでしょう。
知らないなら知らないと答えてほしいものです。素人としてはプロの回答は信じてしまいますから。
その後、炭水化物は体内に入ってから糖分や食物繊維などに分解されるので、口の中ではまだ糖分としては存在しないため虫歯には影響しないのか?と勝手に解釈していたのですが、それは違かったのですね?
いずれにせよ食べませんが、メカニズムが気になるので教えていただけると嬉しいです。
実は以前歯医者さんに聞いたのです
私 「虫歯の原因は砂糖だけですか?それとも、米や小麦に含まれる糖質も虫歯の原因になるのでしょうか?」
歯医者さん 「大丈夫です。虫歯の原因は砂糖だけですよ」
これは真っ赤な嘘だったのですね!
返答の前に一瞬ためらいがあったように感じたのは気のせいではなく、きっと知らなかったから適当に答えたのでしょう。
知らないなら知らないと答えてほしいものです。素人としてはプロの回答は信じてしまいますから。
その後、炭水化物は体内に入ってから糖分や食物繊維などに分解されるので、口の中ではまだ糖分としては存在しないため虫歯には影響しないのか?と勝手に解釈していたのですが、それは違かったのですね?
いずれにせよ食べませんが、メカニズムが気になるので教えていただけると嬉しいです。
2018/08/14(Tue) 09:11 | URL | neko | 【編集】
neko さん
砂糖は勿論、ミュータンス菌などの餌になります。
しかし、ご飯やパンやうどんなどの糖質もミュータンス菌の餌になります。
むし歯とは、口の中に住みついているミュータンス菌などが
食べ物や飲み物に含まれる糖質をエサにして、分解・代謝して作られる「酸」によって歯が溶かされ、穴が空いてしまう疾患です。
砂糖は勿論、ミュータンス菌などの餌になります。
しかし、ご飯やパンやうどんなどの糖質もミュータンス菌の餌になります。
むし歯とは、口の中に住みついているミュータンス菌などが
食べ物や飲み物に含まれる糖質をエサにして、分解・代謝して作られる「酸」によって歯が溶かされ、穴が空いてしまう疾患です。
2018/08/14(Tue) 09:53 | URL | ドクター江部 | 【編集】
お忙しいところ申し訳ありません。ご相談させてください。
血液検査の結果 総コレステロールが283
中性脂肪が261 HDLが75でした。
そこでクレストールが処方されました。飲むべきか悩んでいます。 食事はゆるい糖質制限です。
血液検査の結果 総コレステロールが283
中性脂肪が261 HDLが75でした。
そこでクレストールが処方されました。飲むべきか悩んでいます。 食事はゆるい糖質制限です。
2018/08/14(Tue) 11:39 | URL | さくら | 【編集】
さくら さん
私が主治医なら、内服薬なしで経過をみると思います。
一ヶ月後か二ヶ月後に
10~12時間以上絶食で、朝に血液検査をします。
TC、TG、LDL-C、HDL-Cを測定します。
中性脂肪が60mg/dl以下なら、悪玉の小粒子LDL-Cはほとんどないので、薬は要らないと思います。
私が主治医なら、内服薬なしで経過をみると思います。
一ヶ月後か二ヶ月後に
10~12時間以上絶食で、朝に血液検査をします。
TC、TG、LDL-C、HDL-Cを測定します。
中性脂肪が60mg/dl以下なら、悪玉の小粒子LDL-Cはほとんどないので、薬は要らないと思います。
2018/08/14(Tue) 12:44 | URL | ドクター江部 | 【編集】
ありがとうございます。二か月前の検査では中性脂肪は基準値だったので驚いています。
2018/08/14(Tue) 14:11 | URL | さくら | 【編集】
さくら さん
食後の中性脂肪値は、食事由来のものを拾うので、高めにでます。
食後の中性脂肪値は、食事由来のものを拾うので、高めにでます。
2018/08/14(Tue) 14:56 | URL | ドクター江部 | 【編集】
いつも丁寧なご回答をありがとうございます。
糖質を含むものは全て影響を及ぼすのですね。
今後とも気をつけたいと思います。
糖質を含むものは全て影響を及ぼすのですね。
今後とも気をつけたいと思います。
2018/08/14(Tue) 21:39 | URL | neko | 【編集】
1) Dressler A, Reithofer E, Trimmel-Schwahofer P, Klebermasz K, Prayer D, Kasprian G, Rami B, Schober E, Feucht M (2010) Type 1 diabetes and epilepsy: efficacy and safety of the ketogenic diet. Epilepsia 51:1086-1089
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1528-1167.2010.02543.x
2) Roxana L. Aguirre Castaneda, Kenneth J. Mack, Aida Lteif (2012) Successful Treatment of Type 1 Diabetes and Seizures With Combined Ketogenic Diet and Insulin. Pediatrics 129:e511-e514
http://pediatrics.aappublications.org/content/129/2/e511
3) Aylward NM, Shah N, Sellers EA (2014) The Ketogenic Diet for the Treatment of Myoclonic Astatic Epilepsy in a Child with Type 1 Diabetes Mellitus. Can J Diabetes 38:223-224
https://www.canadianjournalofdiabetes.com/article/S1499-2671(14)00193-2/fulltext
4) Turton JL, Raab R, Rooney KB (2018) Low-carbohydrate diets for type 1 diabetes mellitus: A systematic review. PLOS ONE 13(3): e0194987.
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0194987
5) Eiswirth M, Clark E and Diamond M (2018) Low carbohydrate diet and improved glycaemic control in a patient with type one diabetes. Endocrinology, Diabetes & Metabolism Case Reports 03 2018, EDM180002
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5863244/
6) Management of Type 1 Diabetes With a Very Low–Carbohydrate Diet
Pediatrics June 2018, VOLUME 141 / ISSUE 6
http://pediatrics.aappublications.org/content/141/6/e20173349
6) へのLetter と 著者からの返事
Two Types of Very Low–Carbohydrate Diets
Bruce R. Bistrian
Pediatrics Aug 2018, 142 (2) e20181536A; DOI: 10.1542/peds.2018-1536A
Management of Type 1 Diabetes With a Very Low–Carbohydrate Diet: A Word of Caution
Elizabeth J. Mayer-Davis, Lori M. Laffel, John B. Buse
Pediatrics Aug 2018, 142 (2) e20181536B; DOI: 10.1542/peds.2018-1536B
Authors’Response
David S. Ludwig, Belinda S. Lennerz
Pediatrics Aug 2018, 142 (2) e20181536C; DOI: 10.1542/peds.2018-1536C
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1528-1167.2010.02543.x
2) Roxana L. Aguirre Castaneda, Kenneth J. Mack, Aida Lteif (2012) Successful Treatment of Type 1 Diabetes and Seizures With Combined Ketogenic Diet and Insulin. Pediatrics 129:e511-e514
http://pediatrics.aappublications.org/content/129/2/e511
3) Aylward NM, Shah N, Sellers EA (2014) The Ketogenic Diet for the Treatment of Myoclonic Astatic Epilepsy in a Child with Type 1 Diabetes Mellitus. Can J Diabetes 38:223-224
https://www.canadianjournalofdiabetes.com/article/S1499-2671(14)00193-2/fulltext
4) Turton JL, Raab R, Rooney KB (2018) Low-carbohydrate diets for type 1 diabetes mellitus: A systematic review. PLOS ONE 13(3): e0194987.
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0194987
5) Eiswirth M, Clark E and Diamond M (2018) Low carbohydrate diet and improved glycaemic control in a patient with type one diabetes. Endocrinology, Diabetes & Metabolism Case Reports 03 2018, EDM180002
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5863244/
6) Management of Type 1 Diabetes With a Very Low–Carbohydrate Diet
Pediatrics June 2018, VOLUME 141 / ISSUE 6
http://pediatrics.aappublications.org/content/141/6/e20173349
6) へのLetter と 著者からの返事
Two Types of Very Low–Carbohydrate Diets
Bruce R. Bistrian
Pediatrics Aug 2018, 142 (2) e20181536A; DOI: 10.1542/peds.2018-1536A
Management of Type 1 Diabetes With a Very Low–Carbohydrate Diet: A Word of Caution
Elizabeth J. Mayer-Davis, Lori M. Laffel, John B. Buse
Pediatrics Aug 2018, 142 (2) e20181536B; DOI: 10.1542/peds.2018-1536B
Authors’Response
David S. Ludwig, Belinda S. Lennerz
Pediatrics Aug 2018, 142 (2) e20181536C; DOI: 10.1542/peds.2018-1536C
2018/08/14(Tue) 22:44 | URL | 中嶋一雄 | 【編集】
中嶋一雄 先生
文献をご紹介頂き、ありがとうございます。
文献をご紹介頂き、ありがとうございます。
2018/08/15(Wed) 08:01 | URL | ドクター江部 | 【編集】
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