「妊娠糖尿病」「妊娠中の明らかな糖尿病」「糖尿病合併妊娠」と糖質制限食
こんばんは。
「妊娠糖尿病」に関して、よく質問があります。

今回は
「妊娠糖尿病」「妊娠中の明らかな糖尿病」「糖尿病合併妊娠」

『糖質制限食』『従来の糖尿病食』について、考えてみました。

日本糖尿病・妊娠学会
http://www.dm-net.co.jp/jsdp/information/024273.php

糖尿病診療ガイドライン2016 妊婦の糖代謝異常
http://www.fa.kyorin.co.jp/jds/uploads/GL2016-17.pdf


のサイトを参考にしました。

<診断基準>
1)妊娠糖尿病
糖尿病ではなかった人が、
妊娠後初めて妊娠糖尿病の基準をみたした場合は「妊娠糖尿病」です。
妊娠糖尿病は、糖尿病にいたっていない糖代謝異常であり、
妊娠時に診断された明らかな糖尿病は含まれません。
妊娠糖尿病は75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)によって診断されます。

負荷前値が92mg/dl以上、
1時間値180mg/dl以上、
2時間値153mg/dl以上、

のいずれかがあれば、
妊娠糖尿病(GDM)と診断されます。

妊婦さんの7〜9%は妊娠糖尿病と診断されます。
特に肥満がある人、糖尿病の家族歴のある人、
高齢妊娠、巨大児出産既往のある人などは
ハイリスクですので必ず検査をうけましょう。


2)妊娠中の明らかな糖尿病 (註1)
以下のいずれかを満たした場合に診断する。

空腹時血糖値 ≧126 mg/dl
HbA1c値 ≧6.5%


*随時血糖値≧200 mg/dlあるいは75gOGTTで2時間値≧200 mg/dlの場合は、
妊娠中の明らかな糖尿病の存在を念頭に置き、
1)または2)の基準を満たすかどうか確認します。(註2)


3)糖尿病合併妊娠

妊娠前にすでに診断されている糖尿病患者の妊娠。
確実な糖尿病網膜症があるものの妊娠。
妊娠前のHbA1c:7.0未満が目標です。

(註1).妊娠中の明らかな糖尿病には、妊娠前に見逃されていた糖尿病と、
妊娠中の糖代謝の変化の影響を受けた糖代謝異常、
および妊娠中に発症した1型糖尿病が含まれる。
いずれも分娩後は診断の再確認が必要である。

(註2).妊娠中、特に妊娠後期は妊娠による生理的なインスリン抵抗性の増大を反映して
糖負荷後血糖値は非妊時よりも高値を示す。
そのため、随時血糖値や75gOGTT負荷後血糖値は
非妊時の糖尿病診断基準をそのまま当てはめることはできない。


<妊娠中の血糖値コントロール目標>


朝食前血糖値:70~100mg/dl未満
食後2時間血糖値:120mg/dl未満
GA(グリコアルブミン)15.8%未満


妊娠中の血糖値コントロール目標は
「妊娠糖尿病」「妊娠中の明らかな糖尿病」「糖尿病合併妊娠」
の3つとも上記となります。
できれば、食後1時間血糖値:140mg/dl未満もクリアすることが望ましいです。

HbA1c6.2%未満も目標なのですが、
妊婦で鉄欠乏状態があると、HbA1cは正確な数値を示さないので、
GA(グリコアルブミン)の方が頼りになるのです。


<妊婦の高血糖によるリスクと弊害>

高血糖による母体、胎児への合併症として

【胎児への影響】
・流産、奇形、巨大児、未熟児、低血糖児、心臓病、胎児死亡 など

【母体への影響】
・糖尿病腎症の悪化、糖尿病網膜症の悪化
・早産、
・尿路感染症
・妊娠高血圧症候群、羊水過多
・赤ちゃんが巨大児になることにより、難産になったり、帝王切開になるリスクの増加などがあります。

高血糖により、これだけのリスクが母体と胎児に生じます。


<従来の糖尿病食(高糖質食)の欠陥>

そして、直接高血糖を生じるのは、糖質摂取時だけであり、
タンパク質・脂質摂取時は、血糖値が直接上昇することはありません。
従って日本糖尿病学会推奨の糖尿病食(カロリー制限・高糖質食)で
食後高血糖を防ぐことは、インスリン注射をしていても至難の業です。

さらに、食後高血糖を防ごうとして、インスリンの量を増やせば、
今度は母体は低血糖のリスクが大きく増加します。

そして、普通に糖質を摂取して、インスリン注射で厳格にコントロールしようとすると、一日の血糖値の変動幅が、増大します。

食後高血糖と平均血糖変動幅の増大が一番大きな酸化ストレスリスクとなります。(*)

酸化ストレスは、母体にも胎児にも当然、悪影響を及ぼします。

「妊娠糖尿病」「妊娠中の明らかな糖尿病」「糖尿病合併妊娠」で、
糖質を普通に食べてインスリン注射を打っている場合は、
上記のリスクは常にあるわけです。

糖尿病妊娠で糖質を普通に食べてインスリンを注射して、
無事出産されている方も多いと思いますが、このように見てくると、
それはある意味運が良い人と言えるのかもしれません。

(*)
酸化ストレスに関しては、
2014年07月14日 (月)の本ブログ記事
酸化ストレス・・・て何?食後高血糖と平均血糖変動幅増大がリスク!
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3030.html
をご参照いただけば幸いです。


<スーパー糖質制限食の利点>

スーパー糖質制限食に切り替えると、
「妊娠糖尿病」ならインスリンフリーになり、
血糖コントロールが一日を通して、とても良好となります。
そして、食後高血糖、低血糖、
平均血糖変動幅増大、酸化ストレス増大といった母体と胎児に悪影響を及ぼす要因が、
全てなくなります。

「妊娠中の明らかな糖尿病」「糖尿病合併妊娠」の場合も、
食前インスリンの単位は1/3以下になりますし、
フリーになることもあります。
インスリンフリーが一番良いのですが、インスリンの量が減ったなら
低血糖のリスクは確実に減るので好ましいのです。

また妊婦体重コントロールも、糖質制限食なら、ほとんど苦労はいりません。
その結果、安産で、元気な赤ちゃん誕生の可能性がとても高いということとなります。


<βヒドロキシ酪酸(ケトン体)の安全性>

2014年1月12日(日)第17回日本病態栄養学会年次学術集会(大阪国際会議場)で、宗田哲男先生が、画期的な研究成果を発表されました。
人工流産胎児(58検体)の絨毛の組織間液のβヒドロキシ酪酸値の測定です。
何と平均1730μmol/Lとかなりの高値です。
成人の基準値は76~85μmol/L以下くらいなのですが、胎児の絨毛間液においては、
1730μmol/L程度が基準値ということになります。
糖質を普通に摂取している成人の基準値の、約20~30倍です。

その後、宗田先生はさらに研究を積み重ねられて、2016年
胎盤・臍帯・新生児のケトン体値に関する研究を英文で発表されました。(☆)
胎児、新生児は、ケトン体を主たるエネルギー源として利用している可能性が高いことを示唆する、画期的な研究です。
胎盤・臍帯のケトン体値論文は、世界初と思われますが、私もも共著者の一人です。
胎盤のケトン体値は基準値の20~30倍、 平均2235.0μmol/L(60検体)
臍帯のケトン体値は基準値の数倍~10倍、平均779.2μmol/L(60検体)
新生児のケトン体値は、基準値の3倍~数倍、
平均240.4μmol/L(312例、生後4日)  基準値は85 μmol/L以下。
胎盤と臍帯と新生児では、ケトン体は高値が当たり前であることが
確認できて、ケトン体の安全性の担保となりました。
このように、胎盤、新生児のケトン体の基準値は、
現行の基準値よりはるかに高値であることが確認されたわけですから、
妊婦のケトン体が少々高値でも胎児へ悪影響などあるはずもないのです。
スーパー糖質制限食で、妊婦のケトン体が、一般的基準値より高値になりますが、
妊婦においても、胎児においても、
ケトン体の安全性(基準値より高値でも)が確認されたと言えます。

(☆)Ketone body elevation in placenta, umbilical cord,newborn and mother in normal delivery  Glycative Stress Research 2016; 3 (3): 133-140
Tetsuo Muneta 1), Eri Kawaguchi 1), Yasushi Nagai 2), Momoyo Matsumoto 2), Koji Ebe 3),Hiroko Watanabe 4), Hiroshi Bando 5)


江部康二
コメント
初めまして。
私は現在第二子を妊娠中で、26週目です。5歳で1型糖尿病を発症し罹患歴29年の34歳です。ヘモグロビンは1ヶ月前の検診で4.8%でした。血液検査で異常な数値は今のところありません。5ヶ月前にポンプに変更しました。
第一子の出産時は前もって日にちを決め、前日から入院して翌日出産という形をとりました。
今回も自分はそのつもりだったのですが、前回の妊婦検診の際、先生に聞いてみると「陣痛を待って出産する方が赤ちゃんにもお母さんにもいいですから。そもそもなんで前回は誘発分娩だったんですっけ?」と言われ、びっくりしてしまいました。私の第一子の出産は今から3年前のことなので、3年の間にいろいろと変化があり、1型糖尿病妊婦でも通常通りの出産をするのが当たり前になったのかなと思い、帰宅後インターネットで調べてみたのですが、要領を得る答えは見つかりませんでした。その他の1型妊婦さん達のブログも網羅してみたのですが、1番最近出産された方もやはり事前に入院してから出産されていました。第一子の時と病院は同じ総合病院です。
心配なのは、自分が低血糖の時に破水してしまい、2歳の子どもを連れて病院まで落ち着いて行けるのかということです。
恐らく無理です。ですから、その旨を伝えたのですが、「やっぱり陣痛を待って云々…」となるので、次の妊婦検診の際にもう一度話してみようとは思っています。
教えていただきたいことは、糖尿病合併妊娠の妊婦でも最近は健康な妊婦さん達と同じように陣痛を待って出産するのがよいとされているのか、日程を決めて誘発分娩を行った場合とのリスクの差です。
低血糖を起こさず、常に血糖値を安定させて健康な人と同じように出産にのぞむことが自分に出来るだろうかと、前回の妊婦検診以来不安で不安で仕方がありません。
長々と申し訳ありませんでした。可能な範囲で先生の意見を聞かせていただけると嬉しいです。
2018/06/09(Sat) 16:22 | URL | みほ | 【編集
糖質制限と中性脂肪低値について
糖質制限を始めてから中性脂肪が低値(30)位になり大変疲れやすくなりました。動機や息切れもして困っています。血糖値は上がらなくてよいのですが...どうすれば炭水化物以外で中性脂肪が上がりますか?
江部先生は差し支えなければ中性脂肪の数値を教えて頂きたいです。宜しくお願い致します。
2018/06/10(Sun) 00:01 | URL |  | 【編集
酵素ドリンクについて
初めまして。
現在行っている方法が正しいのか不安になったので、相談させていただきました。
身長155cm、体重44,2㎏、祖母が糖尿病でした。検診では問題なしです。
ですが、度々低血糖症状が出ることがあり、血糖値を測ると50台でした。不安になり、自分で測定器を購入し、食後2時間と低血糖症状が出た時に測定するようにしました。高い時には227で、その後は56という日もあり、ゆるい糖質制限から始め、現在は1日1食を1ヶ月前から続けています。その際の空腹対策として、酵素ドリンクを利用しています。一応、血糖値を上げない、糖尿病の人でも大丈夫という説明を信じて飲んでいるのですが、これを飲むと、血糖値が170台に上がります。1食はお昼に食べて、糖質を少なめにして、食後2時間で110くらいです。
朝:大豆プロティン+アマニ油+ビタミン剤
  MCTオイル入りのコーヒー
  酵素ドリンク20ml
昼:主食少な目でたんぱく質多めのランチ
夕方:酵素ドリンク60mlを数回に分けて
夜:酵素ドリンク40ml
  大豆プロティン+オリーブオイル+ビタミン剤
酵素ドリンクは、100gで糖質56,91gになっています。
このままこのやり方で問題ないでしょうか?それとも、酵素ドリンクをやめて食事回数を増やした方がいいでしょうか?
朝の空腹時血糖が最近は110台なのも気になります(以前は80~90台でした)。
長文、失礼しました。よろしくお願いします。
2018/06/10(Sun) 11:01 | URL | ナースのひよこ | 【編集
Re: タイトルなし
みほ さん

「教えていただきたいことは、糖尿病合併妊娠の妊婦でも最近は健康な妊婦さん達と同じように陣痛を待って出産するのがよいとされているのか、日程を決めて誘発分娩を行った場合とのリスクの差です。」

基本的には私は産婦人科医ではないのでよくわかりません。
もう一度、産婦人科主治医とよく相談されるとよいと思います。

個人的には、1型糖尿病でインスリン注射を打っている人と2型でインスリン注射なしの人では
リスクは違うと思います。
2型糖尿病や妊娠糖尿病で血糖コントロール良好なら、通常妊婦と同様で良いと思います。
2018/06/10(Sun) 12:26 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 糖質制限と中性脂肪低値について

「糖質制限を始めてから中性脂肪が低値(30)位になり大変疲れやすくなりました。動機や息切れもして困っています」

この症状は、摂取エネルギー不足によるものの可能性が高いです。
糖質制限による症状ではありません。
動物性脂質、動物性たんぱく質を中心に、充分量食べて、摂取エネルギーを増やしましょう。
摂取カロリーが厚生労働省のいう「推定エネルギー必要量」をみたせば、上記の症状は改善すると思います。

また、中性脂肪値が低くても、症状がでることはありません。
私の中性脂肪値は、40~50mg/dlくらいです。
2018/06/10(Sun) 12:32 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 酵素ドリンクについて
ナースのひよこ さん

「高い時には227で、その後は56」

このデータは、既に境界型の食後高血糖があると思われます。
糖質摂取により、血糖値の乱高下が生じ、機能性低血糖の症状もでています。

酵素ドリンクは糖質が多いようですので血糖が上昇します。
必要性はないと思います。
大豆プロテインとか酵素ドリンクは止めて、
普通に魚、魚介類、肉類、卵、卵製品、野菜、海藻、豆腐・納豆など大豆製品、チーズ、ナッツ類など
糖質制限OK食材を満遍なく食べて、食事から必要な物を摂取するのが王道です。

それで、必須脂肪酸、必須アミノ酸、ビタミン、ミネラル、食物繊維が摂取できると思います。
2018/06/10(Sun) 12:42 | URL | ドクター江部 | 【編集
早々のお返事、ありがとうございました!

やはり、今のやり方は良くないと分かったので、スーパー糖質制限食を頑張ってみたいと思います。
2018/06/10(Sun) 13:35 | URL | ナースのひよこ | 【編集
バターコーヒー
単純な質問で申し訳ないのですが、皆さんがここで言っているバターコーヒーは自作しているのですか?
それとも通販で購入しているのでしょうか?
作り方をネットで検索したら、材料を用意するのも大変そうでしたし、どうされてるのか気になったので。
2018/06/10(Sun) 16:28 | URL | チルチル | 【編集
返信ありがとうございました。
次回の妊婦検診の際に再度確認してみようと思います。
2018/06/11(Mon) 00:09 | URL | みほ | 【編集
バターコーヒー
初期投資は材料以外泡立て器くらいでしょうか。
監修 宗田哲男先生 「ケトン体でやせる!バターコーヒーダイエット」 わかりやすくていいですよ。
2018/06/11(Mon) 22:22 | URL | 通りすがり | 【編集
通りすがりさん、情報ありがとうございます。
まずは宗田先生の本探してみます。
2018/06/12(Tue) 12:51 | URL | チルチル | 【編集
質問です
今妊娠中で、つわりがひどく甘いものはうけつけず、食事もまともに食べれていない中で、糖負荷検査で、2時間後少し超え妊娠糖尿病という診断になりました。
妊娠糖尿病だと1日糖質摂取量どれくらいが目安でしょうか?
2018/06/13(Wed) 12:04 | URL | ゆう | 【編集
Re: 質問です
ゆう さん

妊娠糖尿病ですので、本格的糖尿病ではありません。


朝食前血糖値:70~100mg/dl未満
食後2時間血糖値:120mg/dl未満


この目標を満たす範囲の、一回の食事の糖質量を目指せばいいと思います。
おそらく一回の食事の糖質量「30~40g」くらいの緩やかな糖質制限食でOKと思います。
2018/06/13(Wed) 13:36 | URL | ドクター江部 | 【編集
返信ありがとうございます‼︎なるほど
1日80〜90目安目標でゆるく楽しくがんばりたいと思います(^^)
2018/06/13(Wed) 14:50 | URL | ゆう | 【編集
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