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食後高血糖の害、国際糖尿病連合(IDF)。高インスリン血症の害。
【18/05/22 京都 あずき
糖質制限食の効果についての論文等教えていただけると嬉しいです
江部先生、いつも参考にさせていただいています。有難うございます。
夫が糖尿病を指摘され、薬を飲みましょうと言われた時に糖質制限食を開始して、数値がHbA1c=6に下がり、内服せずになんとか維持して、8年ほど経ちます。二人暮らしのため、夫婦共に実践しており、いつも参考にさせていただいてます。
私は、がんサバイバーなので、糖質制限で免疫アップすれば、私にもメリットがあるだろうと思って一緒に実践してきました。
ただ、最近、リブレを購入し、二人で測ってみたのですが、私も食後血糖値がパフェを食べたときなど250に上昇し、食後2時間値もまだ150くらいありました。
定食でご飯を半分にした時も、220を少し超えました。

これは、糖尿病の素因があるということですね。母も糖尿病です。
夫と一緒に糖質制限食を実践してきて本当に良かったです。

前置きが長くなりました。
ご相談なのですが
2016年10月09日 (日)のブログの中に
「なぜ食後の血糖値の急上昇が、動脈硬化を引き起こすのでしょうか?
イタリアの最新研究で、そのメカニズムが突き止められました。」
との記事がありましたが、その元論文がありましたら教えていただけないでしょうか。

実は私は薬剤師で、糖尿病患者さんへの食事指導にもいつもブログを参考にさせていただいています。今度糖質制限食について、自分たちの実践記録とともに勉強会で発表したいと思っております。このように素晴らしい効果のある糖質制限を少しでも広めたいと思います。

「食後高血糖(180以上)によって、血管は傷つき、動脈硬化を起こし、合併症を引き起こす。 」  
「「糖質制限」は、糖質の摂取を低く抑えることによって、インスリン不足を解消でき、食後高血糖も防ぐことで、動脈硬化、合併症も予防します」
について、そのエビデンスを示せたらと思うのですが、資料を教えていただけないでしょうか?
お忙しいところすみませんがどうぞよろしくお願いいたします。
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3969.html 】


京都 あずき さん

お連れ合い、お薬なしで、糖尿病コントロール6%と良好で、8年間とは素晴らしいです。
ご夫婦で、このまま美味しく楽しく糖質制限食をお続け頂けば幸いです。

2016年10月09日 (日)のブログの中の

「なぜ食後の血糖値の急上昇が、動脈硬化を引き起こすのでしょうか?
イタリアの最新研究で、そのメカニズムが突き止められました。」


これは、NHKの見解です。
従って、私はこの論文に関してはよくわかりません。

一方、食後高血糖が良くないことは、
2007年と2011年の国際糖尿病連合「食後血糖値の管理に関するガイドライン」
において、エビデンスが明示されています。
何故か、現時点で、IDFのサイトから、ガイドラインが消えていますが、
食後高血糖に関するエビデンスは、担保されていると思います。

以下、国際糖尿病連合・2011年発表 「食後血糖値の管理に関するガイドライン」
の内容の抜粋を紹介します。
2007年の国際糖尿病連合「食後血糖値の管理に関するガイドライン」
から、4年ぶりの改訂です。

まずは
国際糖尿病連合(International Diabetes Federation:IDF)2007年
「食後血糖値の管理に関するガイドライン」
から抜粋です。

• 食後および負荷後高血糖は大血管疾患の独立した危険因子である。
• 糖負荷(GL*)の低い食事は食後血糖値のコントロールに有益である。
• 食後血糖値をコントロールするためには、食事療法および薬物療法を考慮すべきである。
• 食後高血糖は糖尿病網膜症と関係する。
• 食後高血糖はIMT肥厚と関係する。
• 食後高血糖は、酸化ストレスを生じ、血管内皮を障害する。
• 食後高血糖は認知障害にも関係する。
• 食後高血糖は癌発症リスク上昇と関連する。
• 食後血糖と空腹時血糖を共にターゲットにすることは、血糖コントロール達成の最善の戦略である。
• HbA1cは6.5%未満が目標。
• 空腹時血糖値は100mg/dl未満をめざす。
• 食後2時間血糖値は140mg/dLを超えないようにする。


*GL(glycemic lord)
GI値を100で割り、その食品1食分に含まれる糖質のグラム数をかけた数値。
GIよりGLのほうが、実際に食事をするときの参考になりやすい。
GL値10以下の食品が、低GL食品。 

国際糖尿病連合2007年発表の「食後血糖値の管理に関するガイドライン」と比べて、
2011年のガイドラインはそれほど大きな変化はないように思います。
いずれも食後高血糖のリスクを、列挙して明示しています。
違いですが、私の発見したところでは、

*SMBG(血糖自己測定)を、食後高血糖チェックに一押しで推奨。
*食後血糖値は、食後1~2時間で測定されるべきで、
 160mg/dl未満が目標というのが追加。
*食後高血糖は心筋の血液量と血流を減らすと新たに言及。
*CGMが普及してきて、薬、食事、ストレス、運動など
 様々な要素が血糖に影響を与えるのをチェックできる。


これらが、2007年版に追加で、加わりました。


エビデンスですが

日本の熊本スタディー。Kumamoto Study。
<細小血管合併症予防>のための目標
HbA1c:6.9%未満・・・DCCTとUKPDSと合わせて、7.0%未満
空腹時血糖値:110mg/dl未満
食後2時間血糖値:180mg/dl未満
改訂第7版
糖尿病専門医研修ガイドブック
19、20ページ



以下は、 国際肥満研究連合のシステマティックレビューなので、信頼度は高いです。

体重減少、中性脂肪減少、HDL-C増加は低炭水化物食が低脂質・低カロリー食に比し有効。
13の電子データベースの2000年1月~2007年3月の低炭水化物食と低脂質食比較RCTをメタ解析。
Systematic review of randomized controlled trials of low-carbohydrate vs. low-fat/low-calorie diets in the management of obesity and its comorbidities M. Hession,et all
Obesity Reviews(国際肥満研究連合の公式ジャーナル)
Volume 10, Issue 1, pages 36–50, January 2009


以下も有名な、RCT研究論文です。
アトキンス、ゾーン、ラーン、オーニッシュダイエットのそれぞれの1年間の体重減少効果などをみた。
311人の女性を上記4グループに分けて追跡。
これら4種のダイエット法は、いずれも米国でポピュラーなものである。
アトキンスは低炭水化物食(スーパー糖質制限食)、ラーンとオーニッシュは高炭水化物、低脂肪食、ゾーンは炭水化物40%
低炭水化物食が体重を最も減少させて、HDL-CとTGを改善。
Comparison of the Atkins, Zone, Ornish, and LEARN Diets for Change in Weight and Related Risk Factors Among Overweight Premenopausal Women
The A TO Z Weight Loss Study: A Randomized Trial ,JAMA297:969-977


また、高血糖により糖化蛋白生成が亢進し、糖化蛋白は SOD などの抗酸化酵素と反応して劣化させ、活性酸素の除去が困難となり活性酸素が増え、酸化ストレスとなります。
酸化ストレスが、糖尿病合併症・動脈硬化・老化・癌・アルツハイマー・パーキンソン等の元凶とされています。


次に、食後高血糖と共に
過剰なインスリンの害にはエビデンスがあります。
たとえ基準値内でも、インスリンの血中濃度が高いほど、アルツハイマー病、がん、肥満、高血圧などのリスクとなります。
また、高インスリン血症は、酸化ストレスを増加させます。

酸化ストレスは、老化・癌・動脈硬化・その他多くの疾患の元凶とされていて、パーキンソン病、狭心症、心筋梗塞、アルツハイマー病などにも酸化ストレスの関与の可能性があります。

ロッテルダム研究によれば、インスリン使用中の糖尿人ではアルツハイマー病の相対危険度は4.3倍です。
Rotterdam研究(Neurology1999:53:1937-1942)
「高齢者糖尿病における、脳血管性痴呆(VD)の相対危険度は2.0倍。
アルツハイマー型痴呆(AD)の相対危険度は1.9倍。
インスリン使用者の相対危険度は4.3倍」


インスリン注射をしている糖尿人は、メトグルコで治療している糖尿人に比べてガンのリスクが1.9倍というカナダの研究もあります。
2005年の第65回米国糖尿病学会、
カナダのSamantha博士等が、10309名の糖尿病患者の研究成果を報告、
その後論文化。コホート研究。
 「メトフォルミン(インスリン分泌を促進させない薬)を使用しているグループに比べて、インスリンを注射しているグループは、癌死亡率が1.9倍高まる。SU剤(インスリン分泌促進剤)を内服しているグループは癌死亡率が1.3倍高まる。」 
その後、Diabetes Care February 2006 vol. 29 no. 2 254-258 、に論文掲載。


このようにインスリンの弊害を見てみると、インスリンは血糖コントロールができている限り少なければ少ないほど、身体には好ましいことがわかります。

別の言い方をすれば、農耕開始後、精製炭水化物開始後、特に第二次大戦後に世界の食糧事情が良くなってからの糖質の頻回・過剰摂取が、
インスリンの頻回・過剰分泌を招き、様々な生活習慣病の元凶となった構造が見えてきます。

スーパー糖質制限食を実践すれば、インスリンの分泌は必要最小限で済むようになり、様々な生活習慣病の予防が期待できます。

ブログ読者の皆さんも、スーパー糖質制限食実践で、必要最低限のインスリンで血糖こントロールを維持して、健康ライフを送ってくださいね。



江部康二
コメント
江部先生、お忙しい中、たくさんの資料をありがとうございました。
しっかりとした内容で発表できるようにがんばります。
2018/05/23(Wed) 20:22 | URL | 京都 あずき | 【編集
脂質異常症
いつも丁寧なご回答ありがとうございます
最近は、私の患者さんで、TGに注目して脂質データーを見ております。
TGが低値なら小粒子LDL-Cは少ないので、スタチン中止できるか、どうか考えています。
動脈硬化性変化がなく、TG70 以下ならLDL-cが高値であってもスタチンは中止しております。
先生は、TGがいくら以下ならLDL-Cが高値であっても問題ない(問題ないLDL-c)とお考えでしょうか。
教えていただければ幸いです。
2018/05/24(Thu) 14:06 | URL | としの | 【編集
血糖値と糖質の関係
先生の過去ブログ2011年05月14日 (土)付を読んでいたときに、『体重64kgの2型糖尿人で、1gの糖質が3mg血糖値を上昇、1型糖尿人で5mg上昇させます。』と記載があります。

また、2018年05月22日 (火)付のブログには、『20:00 夕食前血糖値:97mg
22:00 夕食後2時間血糖値:109mg1時間値の測定を残念ながら忘れました。
血糖値上昇は、12mgでしたので、糖質制限OKメニューでしたね。
<12mg ÷ 3mg =4.0g>ということで、結構ボリュームタップリでしたが、血糖値を上昇させる糖質は、合計で4.0gという計算でした。』と記載があります。

質問です。
例えば 食前血糖値 90 1時間後(ピークとする)120 2時間後血糖値99 とした場合に、(1)1時間後120から食前90を引いた『30』という数字により、<30mg ÷ 3mg =10.0g>が血糖値を上昇する糖質量だと、私はてっきり思っていました。

しかしながら、先生のブログの計算によると、(2)2時間後血糖99-食前90を引いた『9』という数字により、<9mg ÷ 3mg =3.0g>が血糖値を上昇させる糖質、と見受けられます。

ここで、先生のおっしゃるスーパー糖質制限の20.0グラムというのは、前者(1)の計算式か、後者(2)のどちらにより求めればよいのでしょうか。
この計算があくまでも、私にとっては参考値でしかないことは分かりますが、計算上はどうなるのでしょうか。

また、考え方が後者なのであれば、例えば食後高血糖が高くて、2時間後血糖が低い場合の、質の悪いHbA1cとなるため注意が必要との考え方でよろしいでしょうか。
質をよくするために、先生の過去ブログに記載のあった、『理想的には食後1時間血糖値180mg/dl未満』を目指す必要があるということでしょうか。

ご教示よろしくお願い申し上げます。
2018/05/24(Thu) 16:26 | URL | ででで | 【編集
イタリアの最新研究の件
NHKスペシャルで取り上げられたイタリアの研究は、PubMedのPMID:11595647で検索できますが、”Intermittent high glucose enhances apotosis in human umbilical vein endothelial cells in culture."のタイトルで2001年に発表された論文のことだと思います。最新の、というよりは食後高血糖に関する先駆けの論文ではないでしょうか。
2018/05/24(Thu) 16:45 | URL | 小児科医S | 【編集
少し質問の変更です。
下記に訂正します。
TGがいくら以下なら、LDL-Cが高値でも、スタチンなどの投薬をしないでしょうか。
2018/05/24(Thu) 19:20 | URL | としの | 【編集
Re: 血糖値と糖質の関係
ででで さん

すいません。
私の場合、食後血糖値上昇のピークは、60分です。
従って、本来は60分値を計測して、糖質量を測るのが筋でした。

食後1時間値はもっと血糖上昇があったかもしれませんので、
摂取した糖質量も、4gより多かった可能性が高いです。



2018/05/24(Thu) 20:10 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: イタリアの最新研究の件
小児科医S さん

コメントをありがとうございます。
参考になります。

「最新の、というよりは食後高血糖に関する先駆けの論文」

なるほど、勉強になります。
2018/05/24(Thu) 20:13 | URL | ドクター江部 | 【編集
江部先生のお役に立てて嬉しく思います。あの論文は血管内皮細胞を用いた基礎研究であり、一般の方々には理解が少し難しいと思います。私はそれでも「糖質制限食のすすめ」のタイトルで講演を行う際には、この論文に掲載されているグラフを示して血糖値の変動が大きいほうが細胞のダメージになることを説明しています。
2018/05/25(Fri) 09:18 | URL | 小児科医S | 【編集
Re: タイトルなし
小児科医S さん

ありがとうございます。

『血糖値スパイク』が、活性酸素を発生させて、動脈硬化の元凶になるというのは
わかりやすいと思います。

グラフを示せば、さらに視覚的にも理解しやすいですね。
2018/05/25(Fri) 17:15 | URL | ドクター江部 | 【編集
イタリアの最新研究の件で追加
血糖値スパイクと酸化ストレスの関係に言及しているというのであれば、2003年に発表された"Intermittent high glucose enhances apotosis related to oxdative stress in humaan umbilical vein endothelial cells:the role of protein kinase C and NAD(P)H-oxidase activation."という論文があります。著者は異なりますが、イタリアの同一の研究グループのものと思われます。ちなみにPMID:14578299で検索できます。
2018/05/27(Sun) 07:05 | URL | 小児科医S | 【編集
Re: イタリアの最新研究の件で追加
小児科医S さん

いつも貴重な情報をコメント頂き、ありがとうございます。
とても参考になります。
2018/05/27(Sun) 08:13 | URL | ドクター江部 | 【編集
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