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国立京都国際会館で開催された第21回 日本病態栄養学会の感想。
こんにちは。

しらねのぞるばさんから
2018年1月12日、13日、14日(日)
京都の国際会館で開催された第21回 日本病態栄養学会の感想を
コメント頂きました。
いつもありがとうございます。
とても参考になります。


【8/01/13 しらねのぞるば
第21回 日本病態栄養学会[京都]感想
今回は直前までプログラム詳細が発表されず,
参加をためらっていたのですが,
結局 初日/2日目のみ参加しました.

【1】一般口演 感想
一般口演は,糖尿病(1)~(6)をすべて聴講しました.
下記はその感想ですが,口演の件名は 私が勝手に付け直していますので,
正しい件名は抄録集でご確認ください.

[O-94] サツマイモを皮ごと食べれば血糖値は上がらないか.
結果からみれば,ほとんど関係なし. 発表者も述べていたように,皮ありの場合の食物繊維量は 2.8g,無しの場合は2.2g(いずれも100gあたり)ですから,この程度の差では結果が同じでも当たりまえでしょう. 座長がコメントしていたように,『どうせやるなら,皮ありの場合は 中身をくり抜いて,皮だらけにすればよかったのに』と,まことにその通り.

[O-99] 2型糖尿病患者の食物摂取頻度調査(FFQ)による栄養状況把握
この口演に限らないのですが,代表例として挙げました. 患者が普段どのような食事をしているのか,これを正確に把握するのに,管理栄養士さんがいかに苦労しているかが よくわかる発表でした.患者に前数日の食事を思い出してもらって,それを書き出す,あるいは 食事のたびに内容を記録してもらうという方法は,自分でやってみればわかりますが,ほとんどあてになりません. 私など昨晩の食事すら記憶にありません. また 他の口演でも触れられていましたが,『BMIの高い人,つまり太っている人ほど,自分の食事を過少申告する』という現象も世界共通です.それにくらべれば,このFFQは,『普段,どういうものをどれくらいの頻度と量で食べていますか?』と尋ねるので,まだしもBiasはかかりにくいですが,『多い』『普通』『少ない』というのも主観的判断ですから,患者同士でまるで異なっていて当たり前.統計的処理には耐えないのでしょうね.

[O-105] 食べ順と食後血糖値
Vegetable 1st というのが最初に提案された食べ順療法ですが,野菜を食べて,その15分後に主食を食べる,というのはあまりにも非現実的. そこで,この発表では,おかずファースト,つまり主食を食べ始める時刻を時間=0として,その15分前,10分前からおかずを食べ始めて(おかずは,野菜,肉など区別せず)0分までに食べきる,という方法で,食後血糖値の推移を健常者で調べたものです. 結果は予想通り,10又は15分前から,おかずを食べ,最後に主食をとれば食後血糖値変動は緩やかだったというもの. 血糖値曲線のAUCはどれであれ同じだったので,α-グルコシダーゼ阻害剤(α-GI)を食前服用したのとほぼ同等になるということです.α-GIは,かなり高価なので,これでもいいかもしれませんね.

[O-172] グルカゴン分泌と摂取栄養素の関係
グルカゴンの精密定量法(=サンドイッチELISA法)を開発された群馬大学 北村忠弘先生の研究室からの発表です.予め薬物で膵臓β細胞を破壊しておいたマウス(=したがって,血糖上昇に対してインスリン応答できない)に,脂質又は蛋白質負荷試験したところ,蛋白質の場合には,グルカゴン分泌亢進が見られた,という結果です.血糖値が上昇も下降もしていないのに,グルカゴンが応答する,というこの結果は,インスリンとグルカゴンが互いに拮抗するホルモンであるという従来の定説では説明できません.前回の糖尿病学会でも,これに関する議論がありましたが,ひょっとしたら,数百万年前の発生当初の人類は,糖質ではなくアミノ酸代謝で筋肉活動エネルギーを得ていた,という仮説の正しさを証明するものかもしれません.

[O-173] 19日間にわたる食べ順療法の効果
食べる順を変えて食後血糖値を調べる,というのは,ほとんどが単回の試験なのに対して,これは19日間にわたり,[主食の10分前おかず完食]と[主食をまず完食して10分後におかず]という2つのパターンを,それぞれ9日間,10日間実行してもらった例で,いわば食べ順の再現性を検証したもの.結果は単回試験とほぼ同じで,おかずファーストの方が血糖値上昇は緩やか,但しAUCはどちらでも同じ.

[O-177] 高齢でも元気な糖尿人の秘訣
ビルの2階にあるが,エレベーターはないので階段を使わないと通院できないというクリニックに,外来で長年通っている80歳以上の患者の特徴を調べたもの.平均HbA1cは 7.3ですから,年齢を考えれば極めて優秀な人達ばかりです.この方たちの食事をみると,蛋白質摂取量は1.36g/kgと若者以上に蛋白質を積極的に摂っています.Ca摂取量も多い.唯一食塩摂取量が多い(~10g)ですが,かけ醤油はほとんどしない,とのことなので,モリモリとおかずを沢山食べるので,それにつられて食塩が増えた模様.また 運動量は80歳未満の人と変わりません. つまりは,高蛋白のおかずを沢山食べてよく動いていれば,それだけで 80歳を越えても血糖コントロールは可能だということを示してくれています.

[O-179] 低周波ベルトは 運動の代わりになるか
リハビリに使われる,低周波電気刺激で両脚の筋肉を強制的に動かすベルトは,食後の運動の代わりになるかという,無精者の私には思わず身を乗り出す発表でした.対象は糖尿病患者ではなく、元気一杯の女子大生9名だったのですが,このベルトで刺激しながらOGTTを行ったところ,かなり強度の刺激であれば,トレッドミルで運動したのに近い結果が得られていました.今後は 糖尿病予備軍も対象にして調べてみるとの事なので期待されます.


【2】シンポジウム#4 「糖尿病薬物治療と栄養管理」感想
今回 参加の決め手になったのは,このシンポジウムがあったからです.
興味をひいた部分のみご報告します.

演題 S4-2
『薬物治療中の高齢糖尿病患者の栄養管理を考える』東大医学部附属病院 澤田実佳 先生

東大病院でも,入院患者の半数以上が65歳以上となり,高齢者への治療がメインになってきたようです. 中年より若い肥満の糖尿病患者にSGLT2iを投与すると,体脂肪率が低下して,体重も減少,かつ骨格筋はほとんど変わらないか微減なのですが,これが肥満・高齢の糖尿病患では,体重の低下と共に,骨格筋まで減少してサルコペニアの恐れがあるとのこと.(サルコペニア判定の基準は 握力<26kg,SMI<7.0) そこで高齢者に対しては,投薬と同時に筋低下を引き起こさない食事療法も必須,とりわけ高蛋白食の提供が重要との内容でした.そのために,通常の炭水化物カロリー比60%の,いわゆる糖尿病食だけではなく,50%,40%の病院食も行っているとのこと. 私の知る限りでは,公の場で,【炭水化物カロリー比率 40%(つまり糖質は40%未満)の糖尿病病院食】の存在を明確に紹介されたのは,これが初めてではないかと思います.さすがに門脇先生のおられる東大病院だからでしょう.

演題 S4-3
『低炭水化物食はSGLT2阻害薬と同じ?』京都府立医大 福井道明先生

学会のDebateなどで最初に登場した頃は,糖質制限食を全面否定しておられた福井先生ですが,その後徐々に軌道修正(全否定→短期間なら許容...)して,現在では糖質制限食を行うのであれば一定の注意が必要,という立場での発表でした.

概要は;
- 糖尿病患者の多くに見られるのは,糖質過多の食事.これを『適正』に戻すのは糖質制限でも何でもない,ごく当然の栄養指導.
- 糖質制限は,高蛋白・高脂質食となるが,蛋白では,魚や植物性のものを取り入れる,また 脂質では飽和脂肪酸を控えれば,むしろ総死亡リスクは低くなる.
- ただし,腎症3期以上には勧められない.
- 一方 SGLT2iは食事内容が極端にならないので適応が広い.
- ただし 糖質制限食を実行している患者にSGLT2i投与はリスクが高い.

というものでしたが,現時点で学会が最大限許容できるのは,この線までだという意思表明なのでしょう.ただ それならそれで構わないので,糖尿病ガイドラインに これを早く明記していただきたいものです.日本中の内科一般の先生方は,ガイドラインに糖質制限食という言葉がない以上,効果はあるだろうと思ってはいても,実際に患者に指示するのは躊躇わざるをえないでしょうから.】



以下、特に興味深い話題を検討してみます。

[O-105] 食べ順と食後血糖値
『10又は15分前から、おかずを食べ、
最後に主食をとれば食後血糖値変動は緩やかだった。
血糖値曲線のAUCはどれであれ同じだったので、
α-グルコシダーゼ阻害剤(α-GI)を食前服用したのとほぼ同等。』

そういうことなら、食後高血糖(グルコーススパイク)は防げるので
インスリン分泌もやや少なくなり、お指摘通り
それなりに意味があると言えますね。
私もどうしても糖質がやめられない糖尿人には、
「フルコースのイメージで、最初におかずばかり食べて、
最後に少量のご飯摂取に」
と指導することもあります。



[O-172] グルカゴン分泌と摂取栄養素の関係

予め薬物で膵臓β細胞を破壊しておいたマウス(インスリン分泌不能)での
実験ですね。
脂質摂取ではグルカゴン分泌はなしで
蛋白質摂取ではグルカゴン分泌ありです。

1型糖尿病で、内因性インスリンゼロ(β細胞破壊され、存在せず)の患者さんの場合、
脂質摂取ではグルカゴン分泌はなしで
蛋白質摂取ではグルカゴン分泌ありで、上記のマウスと同様です。

ガイトン臨床生理学(早川弘一監訳、第1版、第1刷、医学書院)990ページに、
「アラニンやアルギニンなどのアミノ酸はグルカゴン分泌を刺激する。」
988ページに、
「アルギニンやリジンなどのアミノ酸はインスリン分泌を刺激する」
という記載があります。

インスリンとグルカゴンは、血糖値とは無関係に、
単純に蛋白質の摂取で、共に分泌されるのだと思います。



[O-177] 高齢でも元気な糖尿人の秘訣

『つまりは,高蛋白のおかずを沢山食べてよく動いていれば,それだけで 80歳を越えても血糖コントロールは可能だということを示してくれています。』
これは、とても嬉しい発表です。
私も、高齢者ほど、高タンパク食、特に動物性蛋白質を充分量摂取することが
健康長寿に大切と思います。


[O-179] 低周波ベルトは 運動の代わりになるか
『リハビリ用の低周波ベルトで刺激しながらOGTTを行ったところ,かなり強度の刺激であれば,トレッドミルで運動したのに近い結果が得られた。』
これはおっしゃる通り、興味深いですね。
テレビのCM でも、似たような器具があって、減量効果をうたってますが、
もしかしたら有用なのかもしれませんね。
運動不足の糖尿人やメタボ人には、朗報かもしれません。


【2】シンポジウム#4 「糖尿病薬物治療と栄養管理」

演題 S4-2
『薬物治療中の高齢糖尿病患者の栄養管理を考える』東大医学部附属病院 澤田実佳 先生
『高齢者に対しては,投薬と同時に筋低下を引き起こさない食事療法も必須,とりわけ高蛋白食の提供が重要との内容でした.そのために,通常の炭水化物カロリー比60%の,いわゆる糖尿病食だけではなく,50%,40%の病院食も行っているとのこと. 私の知る限りでは,公の場で,【炭水化物カロリー比率 40%(つまり糖質は40%未満)の糖尿病病院食】の存在を明確に紹介されたのは,これが初めてではないかと思います。』
確かに、門脇孝日本糖尿病学会理事長が
「東大病院では、2015年4月から、糖質40%の糖質制限食を供給している。」
と、2016/7/1(金)東洋経済オンライン http://toyokeizai.net/articles/-/125237
で述べておられますが、学会など公的な場所では初めてと思います。
また高蛋白食の必要性を強調されたのも、とても好ましい変化ですね。


演題 S4-3
『低炭水化物食はSGLT2阻害薬と同じ?』京都府立医大 福井道明先生
『糖尿病患者の多くに見られるのは,糖質過多の食事.これを『適正』に戻すのは糖質制限でも何でもない,ごく当然の栄養指導。』
これは、福井先生なかなか、興味深いご発言ですね。
糖質過多の食事というのは、
糖質60%のことなのでしょうか?糖質70~80%のことなのでしょうか?
糖尿病患者に多くに見られるということなら、
日本人の摂取カロリー比率の平均が約60%が糖質ですから
糖尿病患者もそんなもんと思いますが・・・。
『糖質過多』という概念を、日本糖尿病学会の重鎮の一人の
京都府立医大 福井道明教授が認めたのは大きな進歩と言えますね。

米国糖尿病学会が、2013年10月の「栄養療法に関する声明」の中で
糖質制限食を正式に容認しましたが、
日本糖尿病学会はいつこれに追いつくのでしょう?


江部康二
コメント
日本医療界の現在の程度!!
都内河北 鈴木

本日記事内容読み、日本医療界の程度知るたびに、被害者として呆れます!!

私は江部先生「糖質制限理論」理解把握して
2010,1、より実践!!
糖尿病重症化してゆく21年が3か月足らずで、インスリン自主離脱しヘモグロビン数値正常化!!
以降2年足らずで糖尿病服用薬自主離脱!!

現在6年目迄に、
糖尿病悪化により右目眼圧破裂失明!!
脳梗塞発症、救急搬送!!
等の後遺症も「改善覚醒」しています!!

私事上記を考えても、
「日本医療は何を研究しているのかと考えます!!」

「日本医療の権威肩書の無能さを証明している専門医とは何なんだと、怒り再燃します!!」

私の「糖質制限理論」での「生還、覚醒資料」を渡したポジティブ思考の各院長方々、知人達も私の資料より、
「時代進化解明対応事実」を実感しているようです。

私の所持している「東京都病院協会会長K・H」経営病院強制転院紹介状の文章にもあるように、

「2012年夏ころより御本人の判断と独学により糖質制限食療法を導入され、血糖コントロールが改善した経過があります。
御本人は糖質制限食療法の継続を希望されておりますが、当院のスタッフは必ずしもこれに明るくなく、貴院での診療をお願いできればと思った次第です。」

と書かれる事に疑問わきませんか??

「糖尿病専門医」として「患者より改善への知識不足」を堂々と書く、
開き直りの「杉並区最大病院」と「日本糖尿病学会信者達!!」

このような事を書いたのも、いまだに「糖質制限理論」に対して否定的な本日記事内容者達へ「改善証明する患者自身」として「改善事実」だと、
怒り再燃したからです。

江部先生の御陰で私他知人達も改善目覚ましいです。
江部先生には、感謝尽きません!!
ありがとうございます。
敬具

2018/01/17(Wed) 15:11 | URL | 都内河北 鈴木 | 【編集
糖質制限と便秘
https://balance7.jp/blog/low-carbs-constipation/

こちらは糖質制限と便秘について説明した記事です。

元々便秘気味だったのですが、1年前から糖質制限を始めて更に便通が悪くなりました。
現在は、週1~2回です。しかし、苦しさはないのでそんなに悩んではいません。

糖質制限開始前、リハビリ病院に半年間入院している間は苦しい便秘に悩まされました。
2018/01/18(Thu) 08:18 | URL | yanosono | 【編集
Re: 糖質制限と便秘
yanosono さん


糖質制限食賛成派の栄養士さんのブログですね。
良い内容と思います。
2018/01/18(Thu) 18:12 | URL | ドクター江部 | 【編集
便秘について
江部先生、横から失礼いたします。
yanosonoさん、便秘を改善するには絶対にこれだと思います。私、ストレスからくる便秘に悩まされていましたがこれで改善しました。ニチエーのオリゴ糖です。純度が98%、残り2%がショ糖です。ラフィノースオリゴ糖は胃や小腸で消化吸収されないでそのまま大腸に届いてビフィズス菌の餌になるそうですよ。どうしようもなく硬い便が不思議な位柔らかくなりました。出口で詰まらずスムーズになると思います。アマゾンで500グラムが2,000円で売られています。私、4回ほどリピートしています。純度の低い商品もあるので注意が必要です。 1日1回だけ、最大10グラムの摂取です。500グラムを購入して、2ヶ月以上は持つ計算ですね。仮に毎日便通がなくても便は硬くなりません。きっと苦しみからは解放されると思います。オリゴ糖98%は、糖質セイゲニストには歓迎する食品です。
2018/01/18(Thu) 18:41 | URL | ジェームズ中野 | 【編集
御礼
ジェームス中野さん

ありがとうございました。
探してみます。
2018/01/19(Fri) 12:59 | URL | yanosono | 【編集
便秘ではなくその逆ですが
糖質制限も5年生になりますが、最近は、

① 糖質の摂取で軟便or下痢しやい。
② マルチトールのチョコで下痢しやすい。
③ アスコルビン酸+重曹の炭酸水で下痢気味(不確定)
④多量の脂質摂取で軟便or下痢しやすい。

こんな感じですが、そんなときはミヤリサンで良くなります。
2018/01/19(Fri) 14:41 | URL | 福助 | 【編集
Re: 便秘について
ジェームズ中野 さん

ラフィノース、便秘の人に、なかなか良さそうですね。
2018/01/19(Fri) 19:49 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 便秘ではなくその逆ですが
福助 さん

私も「ミヤBM」よく処方します。
2018/01/19(Fri) 20:00 | URL | ドクター江部 | 【編集
[予想]来月の日本病態栄養学会
日本糖尿病学会が,来年5月の糖尿病診療ガイドライン改訂で,糖質摂取率の推奨範囲をこれまでの50-60%から拡大するのではないかという情報があります. そうだとしたら,もっとも影響を受けるのは管理栄養士です. なにしろいままで食品交換表を絶対のものであると患者に言い続けてきたわけですから.

そこで,年明け早々の1月11日から開催される第22回日本病態栄養学会年次学術集会[横浜]が注目されるので,プログラムの発表を待ち続けていたところ,12月25日夕刻になってやっとホームページに公開されました. 例年よりかなり遅いです.

たぶんこのテーマがとりあげられるであろう「シンポジウム4:日本人2型糖尿病の食事の現状と大規模臨床エビデンス」では,「2型糖尿病における軽度糖質制限食の効果」「2型糖尿病患者の食事内容調査から明らかになったこと - 3大栄養素接種比率と血糖コントロール -」などという演題もみられます.

京都府立医大の福井先生は,1年ほど前から,「糖質制限食は危険だ」という論調から「糖質過剰はよくない」「糖質制限食でも植物性蛋白・脂質を多くすれば大丈夫」などと,雑誌記事や学会講演などで強調して路線修正を行っています.

また,栄養学分野では大きな影響力を持つ女子栄養大学が発行する月刊誌「栄養と料理」は,毎年年末になると「血糖値を上げないレシピ」を特集するのが恒例ですが,今年(2019年1月号)は 東大の佐々木敏先生の連載記事で,やはり上記と同様に
【糖質制限食をおこなうのであれば】
植物性主体にすべき」という記事が出ています. これまでは香川先生が「糖質制限食は危険だ.決してやってはいけない」という趣旨の記事を何度も出していたのですから,これも路線修正の前兆かと思われます.

以上の符合する動きから.今年の日本病態栄養学会を予想しますと,

【従来の商品交換表で推奨してきた,カロリー制限食,および 炭水化物摂取比率50-60%は,何も間違っていない.しかし,人によっては 多少炭水化物摂取比率を調節してもよい.ただしその場合は蛋白質・脂質は植物性主体にすべきである】

こういう路線を打ち出して,従来の高糖質食一辺倒からの微修正をめざすのではないでしょうか.

以前 このブログへのコメントで;

http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-4202.html

>こういう状況なので,ある日突然 糖尿病学会が食品交換表の『ちゃぶ台返し』をやると,
>その影響は甚大なのでしょう.
>ですので,学会は過去の路線から,180度転換する必要性は感じていても,
>ジワリジワリとやるしかない,
>たとえば1年ごとに30度ずつ向きを換えて,
>6~7年したら,あら不思議,昔とは正反対になっていた
>これを狙っているのではないかと,私は推測しています.

と書いたことがありますが,来年は30度だけ方向をジワリと変えるのかも.
そうだとしたら気の長い話です.
2018/12/29(Sat) 15:20 | URL | しらねのぞるば | 【編集
Re: [予想]来月の日本病態栄養学会
しらねのぞるば さん

興味深い情報をありがとうございます。
私も、来年5月の糖尿病診療ガイドライン改訂を楽しみにしています。
2018/12/29(Sat) 18:48 | URL | ドクター江部 | 【編集
第22回 日本病態栄養学会年次学術集会の感想 ~夜明けは遠いのか~
横浜で開催されている第22回 日本病態栄養学会年次学術集会に参加してきました.今回の参加の目的はただ一つ,5月に予定されている「糖尿病診療ガイドライン」改訂で食事療法変更の方向が示唆されるのではないか,これを見極めることです.
なぜなら,もしも1月のこの学会で『従来の食品交換表による高糖質糖尿病食は最適である. 何も変える必要はない』としておいて,それを5月の糖尿病学会でひっくり返せるでしょうか? そんなことをしたら,なによりも全国の管理栄養士が怒るでしょう.
したがって,5月に糖尿病の食事療法で方針変更が発表されるのであれば,それは4か月前のこの病態栄養学会においても,少なくとも示唆くらいはなされるのではないかと考えました.

振り返れば,前兆は既にいくつか見られます.

第1の前兆は,長らく「食品交換表」編集委員会委員長であった石田均 杏林大学教授が,順天堂大学の綿田裕孝教授に交代したことです.石田先生は『和食に優る食事療法はない 食品交換表は糖尿病食事療法のバイブルだ』と公言されるほど糖質制限食に終始ネガティブでしたから,ひょっとしたら今回の委員長交代で路線が変わるのでは,という予想です[※後述].

第2の前兆は,昨年11月に日本糖尿病学会が5年ぶりに開催した「食事療法に関するシンポジウム」 で,現行カロリー制限食の妥当性に疑問が出されたこと.

第3の前兆は,今回の病態栄養学会の抄録集から 講演抄録が一切消えたこと[★].こんなことは初めてです.
単に手が回らなかっただけなのか,それとも直前になっても議論が紛糾して講演内容が定まらなかったのか,ひょっとしたら後者ではないのかと推測したからです.
[★]総会の席でも,「どうして廃止したのか 納得できない」という意見が出ておりました.

以上の前兆をみたうえで,今回の病態栄養学会で 関連しそうな講演・シンポジウムに参加してみました.

【1】会長講演 1/12 8:40-9:00 横浜市大 寺内康夫 教授
病態栄養学会は,糖尿病だけが専門ではないのですが,会長講演の時間の半分以上は,糖尿病・食事療法にあてていました.
「糖尿病の治療は,この20年間に大きく進歩したが,反面 治療の効果のみを重視して,糖尿病患者の負担・ストレスを押し付けるものであってはならない. 厚労省のデータを見ても,現在の1600kcalという設定は過少ではないか.また昨年11月の食事療法シンポジウムでも,これまでは特に肥満の糖尿病患者には,あまりにも厳しい低カロリーを強要していたのではないかという問題提起もなされている.医師は栄養学に疎く,栄養士は病態の理解は不十分,よって両者が協力して病態栄養学確立が必要.まだまだ科学的に検証されたことは少ない」

【2】理事長講演 1/12 10:00-10:30 関電病院 清野裕 総長
がん病態専門の話がほとんどで,糖尿病への言及はほとんどなし.懐石料理で米飯が最後に出るという点は食べ順療法と似ているなど.

【3】合同パネルディスカッション #1 ~疾患を踏まえた高齢者の栄養管理~
高齢者は複数の疾病を持つことが多いが,全身症状であるサルコペニアが近年問題になっている. これまで各種のガイドラインでは,食事の脂質・蛋白質の摂りすぎを戒めてきたが,高齢者はむしろ1g/kgよりももっと多くの蛋白質を摂取することがサルコペニア防止に有効なのではないか,関連学会でコンセンサスをとりつつある.

【4】シンポジウム #4 ~日本人2型糖尿病患者の食事の現状と大規模臨床エビデンス~
現在のカロリー制限食では,なによりも患者に許容するカロリーをどう算出するかがもっとも重要なポイントであるはずだが,その根拠がおかしいという,その点では深刻な問題であり,これを今回見直す方向.

適正エネルギー = [BMI22から算出した標準体重] ×[活動度係数(25~35)]

右辺で BMI=22を理想とすること,及び 活動係数では従来25kcal/kgを標準としていたが,そのどちらも過少ではないのか,と昨年11月のシンポジウムで提議された.

特に高齢者でもっとも総死亡率が低いのはBMI=25と言われており,これをBMI=22に誘導することは『死にやすくなる食事療法』を指導していることになる
また最近の精密測定結果では,通常の成人がデスクワーク主体の軽労作であっても,活動度は30以上であり,実態と乖離しているのでこれも見直すべきか検討中.
実体重をベースにし,「普通の」活動度を30とすれば,現状摂取カロリーと設定カロリーとで極端な乖離はなくなる.

もちろんそうするとそれはそれで不都合も出てきて反対もある. 例えばBMI20をはるかに下回る「痩せすぎ」の人には,実体重基準にするとますます痩せてしまうだろう.逆に高度肥満の人の場合は実体重基準では肥満解消は望めない.今後議論を進めていきたい.

まあたしかに結構なことですが,しかし『それに今頃気づいたのですか?』というのが正直な感想です. 多くの糖尿病患者が病院で出された食事を見て「先生,これでは少なぎます. 腹が減ってたまりません」と何十年も言い続けてきたのに聞く耳を持たず,今になって『ちょっとおかしいかな』とは.
そもそも「糖尿病患者は健常人に比べて基礎代謝が低い」ということには何の根拠もなかったはず.「2型糖尿病患者はぐうたらの怠け者なのだから,基礎代謝だって低いだろう」という偏見だけで決めつけてきたととしか思えません.

私が 改訂委員長なら「実体重と活動度30に決定する. それで著しい不都合があるなら適宜Adjustせよ.それくらい自分で考えろ」とガイドラインに書くのですが.

なお,このシンポジウムでは『食後高血糖』という言葉は一切出ませんでした.

【5】シンポジウム #10 ~カーボカウントによる食事指導の有用性と課題~
カーボカウントを患者の栄養指導にどう活用しているか,というテーマですが,聞いていて感じたのは「いまだにこんなクラシックな世界があるのか」という印象です.
「カーボカウントと糖質制限は違う.一緒にするな」というベースがあるのでしょうが,もはや糖質制限反対派の人ですらあまり引用しなくなった BMJ論文やPNAS論文を根拠にして,患者に糖質制限を行わないように指導しているとか,血糖値の上昇を心配する妊婦が糖質を控えていると,間食におにぎりやパンを食べさせて,その分インスリンを増量するなど,呆れました.妊娠糖尿病では,生まれてくる赤ちゃんを人質に取られているようなものですから妊婦は反論できません.男性は絶対に立ち入れない世界ですが,いまだにこんなことが行われているのはどうにかならないものでしょうか.


今回の学会を私なりに総括すると,

[1]カロリー制限食の設定カロリー計算のベースとなるBMIと体重が,これまでは不合理であったことを認めて,今後BMI=22をかたくなに守ることはしない.
[2]従来GLで蛋白質摂取[量ではなく]率を年齢無視で一律にしていたのを,高齢者には望ましくないと認めたこと,1g/kg以上の蛋白質摂取[量]を認める方向にしたこと

この2つを事前アナウンスすることだけが目的であったと思われます.ただしいずれも「現在 検討中」とのことで,これですら確定ではないようです.
カロリー制限食の算定基準数値を見直し,また高齢者への適用を考慮して,多少柔軟性を持たせるという方向ですが,これは逆にいえば,カロリー制限食の枠組みは変えない,と宣言しているように聞こえます.

また 高齢者の例などあげて,「個別化医療にシフトすべき」を打ち出してはいますが,そうは言いつつ,その個別化医療をこまかく規定しようとしているのは矛盾しています. 2日目午後のシンポジウム#4の締めくくりの一言で新潟大学の曽根先生が「日本人は何事もこまかく規則で決めようとする. この感覚からすると『欧米の食事療法はいい加減だ,荒っぽい』と感じるのだろう.しかし,そもそも食事療法に何らかの共通規則を求めるのは不合理だと,欧米はとっくに気づいているのではないか.だからここそ『病態をみて個別に決定』を最高のガイドラインとしている」と言われましたが,本当にそう思います.個々の患者を見ずに統計で丸められた数値だけを見て,【個別化医療のやり方を一律に規定しようとする】のは本質的に矛盾している行為です.

[※]最終日のランチョンセミナーで綿田先生は,『食品交換表は,初版の前書きでは「手軽に使えること」とあったのだが,版を重ねるにつれて,完璧をめざすあまり複雑になりすぎた.今後は初心に立ち返りたい』とも述べておられました. 期待します.

以上
2019/01/13(Sun) 14:39 | URL | しらねのぞるば | 【編集
Re: 第22回 日本病態栄養学会年次学術集会の感想 ~夜明けは遠いのか~
しらねのぞるば さん

詳しいコメントをありがとうございます。
明日記事にしたいと思います。
2019/01/14(Mon) 18:10 | URL | ドクター江部 | 【編集
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