『α-グルコシダーゼ阻害薬』(グルコバイ、ベイスン、セイブル)
こんにちは。

今回は、復習を兼ねて、
α(アルファ)-グルコシターゼ阻害薬剤(α-GI薬)について考えてみます。

デンプンのような多糖類は、α-アミラーゼという消化酵素の作用を得て、
二糖類(麦芽糖や蔗糖)やオリゴ糖に分解されます。

つまり、α-アミラーゼは、
穀物や芋のデンプンと呼ばれる多くの糖の集合体をまず第一段階で分解して少し大きさを小さくしています。

その後、この二糖類やオリゴ糖は、マルターゼ、スクラーゼ、グルコアミラーゼなどの酵素により、
単糖(ブドウ糖、果糖、ガラクトース等)に分解されて小腸から体内に吸収されます。

マルターゼ、スクラーゼ、グルコアミラーゼなどの酵素を総称して、α-グルコシダーゼと呼びます。

この、α-グルコシダーゼの働きを阻害することにより、腸管からの糖質の分解・吸収を遅延させて、
食後高血糖を抑制するお薬が、『α-グルコシダーゼ阻害薬』(グルコバイ、ベイスン、セイブル)です。

グルコバイ(アカルボース)はα-グルコシダーゼだけではなく、
α-アミラーゼに対する阻害作用も、もっています。

ベイスン(ボグリボース)やセイブル(ミグリトール)は、
α-グルコシダーゼの活性を阻害しますが、α-アミラーゼには影響を与えません。

従って、グルコバイの方が少し効果が強いですが、副作用もやや生じやすい。

副作用とは、ガス、腹満、腹痛、軟便などです。

それぞれ常用量で下記程度に血糖値を下げるとされています。

グルコバイ: 1時間値50mg、 2時間値40mg
ベイスン:  1時間値40mg、 2時間値30mg
セイブル:  1時間値60mg、 2時間値20mg

しかし、これほど下がらない人もあります。

セイブルは1時間値を下げるけれど、2時間値はあまり下げないのが特徴です。

いずれの薬も結構個人差が大きいですし、印象としては上記の数字ほど下がらない人のほうが多いです。

作用機序から考えて、膵臓のβ細胞には全く影響を与えないので、
SU剤のように疲れた膵臓を鞭打つといった欠点はありません。(^^)

しかし、比較的頻度の多い副作用として、分解が遅れて腸管に残った糖質が醗酵してガスがでたり、
お腹が張ったり、下痢をすることがあります。(-_-;)

ガスの貯留により、腸閉塞(イレウス)のような症状になる事があるので、
腹部手術歴の有る方は、禁忌とされています。

私自身で行った人体実験では、かなり興味深いことがありました。

グルコバイの常用量を食直前に服用して何種類かの食品を試食してみました。

蕎麦はほとんど腹満がなかったのですが、お餅は最悪で、腹満・腹痛・ガスのフルコースで、
病院に行こうか?(∵)?と思ったくらいでした。

うどんやご飯は、蕎麦に比べたらやや腹満・ガスなど出やすかったですね。

個人差はあると思いますが、参考にしていただけばと思います。

現在は、私は、食事の工夫をしてますので、内服薬は一切なしです。

糖尿人でスーパー 糖質制限食実践中の患者さんの場合は、ほとんど薬はなしですが、
お昼だけ主食ありの『スタンダード 糖質制限食』の時は、α-GI薬を食直前に内服してもらうことがあります。

従いまして、「糖尿病には糖質制限食」の高雄病院でも
比較的使用頻度の高いのが『α-グルコシダーゼ阻害薬』です。

高雄病院入院中にグルコバイ100mgを、食時開始30秒前に内服して、
昼食に例えば炊いたご飯100gなどで実験し、
食後2時間血糖値値が180mgを超えない量をリサーチすることも多いです。

炊いたご飯お茶碗一杯は約150gで、糖質を55g含んでいますが、
それでは糖質が多すぎて太刀打ちできないので、約100gに減らして実験します。

グルコバイ・ベイスン・セイブルを飲み忘れた場合、食べ始めてから飲んでもそれなりに有効です。
食事終了時に内服しても無効です。

基本的に安全性の高い薬ですが、まれに肝障害を来す例があるので、定期的な血液検査を推奨します。


朗報として、最近のCGM(Continuous Glucose Monitoring:持続ブドウ糖測定)システムの普及で、
α-GI薬が、食後高血糖と共に平均血糖変動幅増大をある程度コントロールしていることが判明し、
その有効性が見直されています。

2002年、2003年に、LancetやJAMA(米国医師会雑誌)に掲載されたSTOP-NIDDMという臨床試験(*)(**)で、
アカルボース(α-グルコシダーゼ阻害薬・グルコバイ)による治療は、
2型糖尿病の発症を36%、心血管疾患の発症を49%抑制すると報告されました。

2008年6月にヘルシンキで「第5回糖尿病とその合併症予防に関する世界会議」(WCPD)が開催され、
STOP-NIDDM試験のまとめが発表されました。

あまりにも、結果が良すぎるので、当時私は信用していなかったのですが、
近年のCGMの普及により、STOP-NIDDMの結果は、信頼できるものであったと納得がいきました。

CGMの普及により、α-GI薬のように見直される薬剤もあれば、
SU剤のように欠点がもろに暴露された薬剤もあり、栄枯盛衰ですね。

(*)
Lancet. 2002 Jun 15;359(9323):2072-7.
Acarbose for prevention of type 2 diabetes mellitus: the STOP-NIDDM randomised trial.
Chiasson JL1, Josse RG, Gomis R, Hanefeld M, Karasik A, Laakso M; STOP-NIDDM Trail Research Group.

(**)
Chiasson JL, Josse RG, Gomis R, Hanefeld M, Karasik A, Laakso M, STOP-NIDDM Trial Research Group
: Acarbose treatment and the risk of cardiovascular disease and hypertension in patients with impaired glucose tolerance: the STOP-NIDDM trial. JAMA 2003; 290: 486-494.


江部康二
コメント
ベイスン
はじめまして、当然失礼いたします。プリンと申します。つい一か月前に反応性低血糖症、境界型糖尿病、インスリン分泌過剰と診断されました。五時間のブドウ糖テストを受けた所、0分 血糖95 30分 血糖176 60分 血糖195 90分 血糖198 120分 血糖140 150分 血糖122 180分 血糖100 240分 血糖56 300分 血糖66 でした。境界型糖尿病と判断されました。この先生は機能性低血糖症の専門の先生だったので、一応糖尿病の専門の先生にいきました。そしたら境界型糖尿病の人はベイスン飲んだ方がいいよと言われました。なんか心筋梗塞を予防できると言われました。私は6週間前からスーパー糖質制限してるので、毎日自分で食後、食前血糖値をはかってますが、いつも83から130くらいまで行ったり来たりしています。色々な本やインターネットを見てますが、やはりご自身が糖尿病であり糖質制限をしている江部先生にどうしても教えていただけたらありがたいです。教えていただきたいです。お願いします
2017/10/30(Mon) 16:58 | URL | プリン | 【編集
Re: ベイスン
プリン さん

「反応性低血糖症」及び「境界型糖尿病」ですね。

ベイスンなどαGI剤は、でんぷんの分解・吸収をゆっくりさせて、食後高血糖をあるていど予防します。
スーパー糖質制限食なら、糖質摂取が少ないので、ベイスンがなくても大丈夫のことも多いです。
例えば私は内服薬なしです。

ただスーパー糖質制限食でも10~20gの糖質が含まれていますので
食後140mg/dlを超えることがあるならベイスンを内服すればいいと思います。

またスーパー糖質制限食なら「反応性低血糖」は起こらなくなると思います。
2017/11/01(Wed) 07:28 | URL | ドクター江部 | 【編集
グリコシダーゼとグルコシダーゼについて
江部先生こんばんは

本文
≪マルターゼ、スクラーゼ、グルコアミラーゼなどの酵素を総称して、α-グルコシダーゼと呼びます。この、α-グルコシダーゼの働きを阻害することにより、腸管からの糖質の分解・吸収を遅延させて、
食後高血糖を抑制するお薬が、『α-グルコシダーゼ阻害薬』(グルコバイ、ベイスン、セイブル)です。≫
について、前から疑問に思っていましたので投稿いたします。


グリコシダーゼとグルコシダーゼについて
Wikipediaを、まとめてみました。

●グリコシダーゼは、グルコースを含めた糖全般のグリコシド結合を分解する酵素の総称である。
グルコシダーゼは、グルコースとのグリコシド結合を分解する酵素の個別名である。(αグルコシダーゼやマルターゼ(マルターゼはαグルコシダーゼと同義語))

●グリコシダーゼは通常、作用する基質に基づいて命名される。例えば、グルコシド結合を加水分解する酵素はグルコシダーゼ、キシロースのホモポリマーであるキシランを分解する酵素はキシラナーゼ(xylanase)と呼ばれる。
他にも、ラクターゼ、アミラーゼ、キチナーゼ、スクラーゼ、マルターゼ、ノイラミニダーゼ、インベルターゼ、ヒアルロニダーゼ、リゾチームなどがある。

詳しく(Wikipedia以外の記事)は、こちらをご覧いただけたら幸いです。
http://wp-ostinato.eek.jp/wp/syoukakouso/

結論
【グリコシダーゼは、グルコースを含めた糖全般のグリコシド結合を分解する酵素の総称である。
そしてαグリコシダーゼを阻害する薬剤名が αグルコシダーゼ阻害薬(グルコバイ、ベイスン、セイブル)である。】

ご意見をお聞かせください、よろしくお願いいたします。
2017/11/11(Sat) 17:05 | URL | オスティナート | 【編集
Re: グリコシダーゼとグルコシダーゼについて
オスティナート さん

情報をありがとうございます。

浅学にして、グリコシダーゼというものを知りませんでした。
医学部の教科書でも、αグルコシダーゼ阻害薬の話はありますが、
グリコシターゼに関しては、全くでてきません。

オスティナートさんの結論でいいのだと思います。

この件に関しては素人の私には
以下のウィキペディアの記載が、わかりやすいと思いました。





ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%82%B7%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%BC


グルコシダーゼ
グルコシダーゼ(glucosidase)は、グリコシダーゼ(glycosidase)のうち、グルコースとのグリコシド結合を加水分解する酵素である。α-グルコシダーゼとβ-グルコシダーゼがある。
グリコシダーゼは、グルコースを含めた糖全般とのグリコシド結合を分解する酵素の総称であり、グルコシダーゼは、グルコースとのグリコシド結合を分解する酵素の個別名である。
2017/11/11(Sat) 19:49 | URL | ドクター江部 | 【編集
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