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第60回 日本糖尿病学会 年次学術集会[名古屋] の感想
【17/05/21 しらねのぞるば
第60回 日本糖尿病学会 年次学術集会[名古屋] 感想
糖質制限食の観点では,今回の目玉は,やはりDebate #4の『食事療法について再考する~エネルギー制限か糖質制限か~』でしたので,これを聴いて参りました.
このテーマになると 相変わらず会場は満席です.

演者は,エネルギー制限が 府立医大の福井道明先生,糖質制限が 北里研究所病院の山田悟先生で,この組み合わせは これで3回目の対決となります.

まず登壇した山田先生は,
================
学会では,今に至るもカロリー制限か糖質制限かの結論が出せないので,このようなDebateが行われるわけだが,世の中ではとっくに結論が出ている. 実際この学会会場近くのイオン金山を見ると,糖質制限食コーナーがあるほど,今や糖質制限は十分に普及した.

したがって,今更 糖質制限は何かとか,その利点について述べる必要性すら感じない.よって今回はカロリー制限食を推奨することがいかに間違っているか,この点にFocusする.

★診療ガイドラインにおける食事療法エビデンス提示
学会のガイドラインでは,現在でもカロリー制限食を推奨しているが,そのエビデンスはわずか3件の文献のみ(1件は食べ順)). 世界には糖質制限食を評価した多数の文献があるのに,それらは一切採用していない.

★カロリー制限食でいう,『適正なカロリー設定』は本当に適正か
学会ガイドラインでは,『適正カロリー』を,BMI22の標準体重×25-30kcal/kg(軽労作の場合)としているが,これが本当に適正か. ベッド上安静の人であっても,これ以上のカロリーが必要とされている.

★肥満でない人にまで,極端な低カロリー食を強いることが適切か

★そもそも,毎日の食事で,患者に摂取カロリーを把握しろということが,現実的か
100gの牛肉でも,部位や産地により,そのカロリーには数倍の開きがある. この一例を見ても摂取カロリーの正確な把握など不可能.

★1年中,常に一定のP/F/C 比を厳密に守った食事ができる人がいるだろうか?

★カロリー制限食で,肥満体重が減少した,というエビデンスはあるが,血糖コントロールが改善したというエビデンスはない. しかし糖質制限食にはある(学会ガイドラインは,このエビデンス論文を無視しているが)

★糖質制限食の長期安全性は不明というが,ではカロリー制限食の長期安全性のエビデンスは?

★カロリー制限食は,糖尿病治療食として,適当でないだけでなく,危険ではないか.
=========== 以上
と,いつものように多数のスライドで列挙されました.


対して,福井先生は,
================
◇糖質制限食は,食品交換表のP/F/C比率を外れざるを得ない,だから適切ではない. なぜなら食品交換表が適切だからである.
(すみません,ここの箇所,私にはどうしてもこのような循環論法にしか聞こえなかったのですが,他に正確に理解された方がおられたら,補足願います)

◇すべての糖質制限に反対しているのではない.あまりにも炭水化物過食に偏した食事嗜好の人や,P/F/Cがどうであれ 超肥満の人に対して,糖質を制限するのは当然. これらは『糖質が多すぎる』人なのだから.

◇腎症の人には糖質制限は危険,また動物性の蛋白質・脂質に偏ると,死亡率が上昇するという報告もある.

◆ただし,植物性の蛋白質・脂質,また 動物性でも魚を多くとれば,糖質制限はむしろ 死亡率がもっとも低いというデータもある.また脂質の鎖長(中鎖・短鎖)によっても,異なる.
=========== 以上

という反論でした.福井先生は『このDebateが始まって以来,私は全くブレていない』と言われていましたが,少なくとも,◆の箇所は,初期の頃とは正反対です. なにしろ『肉と油でギトギトの糖質制限食』と連呼していたのですから.

なお,このシンポジウム以外にも,最終日午後に,他学会と合同で「シンポジウム 26 ~これからの食事療法~」があり,これも聴講しましたが,割愛します. なぜなら 『糖尿病の食事療法』を説明された 杏林大学 石田均先生が,いつもの内容を話されただけでしたから. 強いて言えば,『食品交換表は,一律・機械的にすべての人に同じ食事をしろと言っているのではない』と述べられたのが耳新しかったぐらいでしょうか. もっともそのすぐ前に『食品交換表はBibleである』とも仰ったので,どこまで本気なのかは不明です.


なお,糖質制限食と直接の関係はないトピックスですが;

(1) ストレスで血糖値上昇することが実測された
『ストレスによってアドレナリン分泌が優位となり,血糖値は上昇する』とは,従来から言われてきたことですが,実際どうなのかと探してもデータはありませんでした. ところが,CGMの普及でこういうこともわかるようになってきたのですね. CGMを装着した人の3例で,食事などに全く関係なく血糖値が急上昇している時間帯があり,聞けばその時にもめごとなどがあって,ストレスを感じていたそうです. 今回はポスター発表が広い地下駐車場だったので,じっくり読むことができ,こんな面白い発表があることに気づきました.

(2) グルカゴンは悪者か
[グルカゴン Update]の講演で,インスリンとグルカゴンとは,血糖だけでなく,アミノ酸代謝においても正反対の作用を示すという発表を受けて,会場から
『人類は農耕により多量の糖質を摂取するようになる以前は,たんぱく質から得たアミノ酸,特に必須アミノ酸以外の 糖源性アミノ酸から糖新生するルートがメインだったのではないか. グルカゴンは,現代の人間から見ると,【血糖値を上げる】だが,人類の長い歴史では,【アミノ酸から糖質を得る】が本来の役割だったのでは』
という意見が出されて,なるほどなと思いました.


以 上】



こんにちは。
しらねのぞるばさんから
第60回 日本糖尿病学会 年次学術集会[名古屋] の感想を
コメント頂きました。
しらねのぞるばさん、いつもありがとうございます。
とても参考になります。

『今や糖質制限は十分に普及した.
したがって,今更 糖質制限は何かとか,その利点について述べる必要性すら感じない.よって今回はカロリー制限食を推奨することがいかに間違っているか,
この点にFocusする.』

山田悟先生、なかなか過激な発言ですが、私も大賛成です。

そして、『エネルギー制限高糖質食』の最大のリスクは、
「食後高血糖」と「平均血糖変動幅増大」という酸化ストレスリスクを
食事のたびに、必ず生じるということです。
「食後高血糖」と「平均血糖変動幅増大」が糖尿病合併症の元凶です。

従って、従来の糖尿病食(エネルギー制限高糖質食)では
糖尿病合併症を防ぐことは、理論的に不可能です。
端的に言えば、従来の糖尿病食(エネルギー制限高糖質食)は
『合併症製造食』です。


現実に糖尿病患者さんにおいて
毎年16000の人工透析、3000人の失明、3000人の足切断が発症しています。


福井道明先生の
『糖質制限食は,食品交換表のP/F/C比率を外れざるを得ない,だから適切ではない. なぜなら食品交換表が適切だからである』

このご発言ですが、食品交換表の、P/F/C比率にエビデンスがないことは明らかです。

「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン」
2013(編集日本糖尿病学会)の食事療法の項に、

「摂取エネルギー量の決定」
「摂取成分量」

の項目で、摂取エネルギー量算定の目安や
炭水化物は指示エネルギー量の50~60%など、
グレードAで推奨してあります。

摂取エネルギー量の目安に従えば、
かなりのカロリー制限食(エネルギー制限食)となります。

まあ、結局、「食品交換表」も「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン」も、
従来の糖尿病食である、「エネルギー制限・高糖質食」を、
相変わらずグレードAで推奨しているわけです。

そして、驚くべき事に、

「摂取エネルギー量の決定」
「摂取成分量」

の項目は、グレードAの推奨なのに、
根拠はともにコンセンサスなのです。

コンセンサスというのは、根拠となる論文がないので、
ガイドライン作成に関わった医師が相談して決めたということです。

つまり、科学的根拠に基づいていないことが、
明示されているのですから、何をか言わんやです。


結論です。
エネルギー制限食(従来の糖尿病食)では、
「食後高血糖」と「平均血糖変動幅増大」、
そして糖尿病合併症を防ぐことは不可能です。

また、山田流の緩やかな糖質制限食で、糖尿人が
1回の食事の糖質量30~40gを摂取すれば、
こちらも残念ながら「食後高血糖」になる可能性が高いです。
緩やかな糖質制限食が有効なのは「境界型糖尿病」かごく軽症の糖尿病だけです。

「食後高血糖」と「平均血糖変動幅増大」を確実に予防できるのは
1回の食事の糖質量が20g以下のスーパー糖質制限食だけです。



江部康二



(1) ストレスで血糖値上昇することが実測された。
(2) グルカゴンは悪者か


こちらも大変興味深い情報です。
ありがとうございます。
コメント
糖質制限
【特集】市場規模3400億円! 低糖質ロカボダイエットとは?

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170522-10000001-mbsnews-l27

高雄病院で先生に診療して頂いている久堀です。
先生に処方して頂いたSGLT2とDPP4阻害薬で
早朝空腹時血糖値が2週間で200前後から
130まで下がりました。
次回のhba1cが楽しみです。
糖質制限の環境が整って行くのは、
嬉しいです。
2017/05/22(Mon) 19:21 | URL | 久堀 | 【編集
ロカボ市場を取り込め低糖質でダイエット!?
上記の方と被りますが、先日19日夕方に関西の毎日放送で放送された「ロカボ市場を取り込め低糖質でダイエット!?」です
http://www.mbs.jp/voice/special/archive/20170519/

民放ですがほぼ正しい内容でした!(驚)
「炭水化物」ではなく、「糖質」という言葉が普通に使われるようになってきました!(嬉)
江部先生方の啓蒙の成果が着実に出てきています(感謝)
2017/05/22(Mon) 22:33 | URL | 岸和田のセイゲニスト | 【編集
指一本で測定できる糖質モニター
江部先生、こんにちは。
さて、ネット記事で「指一本で測定できる糖質モニター「caboc」発売」との記事が出ました。

http://www.jiji.com/jc/article?k=000000003.000013154&g=prt

苦痛を伴わず、センサーも不要らしく、われわれ糖尿人にとっては夢のような器具なのでしょうか?
しかし、よく読むと血糖値が測定できるわけではないようで、検査機器でもないと書かれています。

糖質量の推定値である「caboc」の算出を行うということのようですので、血糖上昇傾向を見る一つの指標としては使えるのでしょうか。
素人には機器の仕組みがよく分かりません。
価格は非公表で問い合わせの必要があるようです。

これで血糖値測定できる機器になれば、良いですね。
2017/05/23(Tue) 07:44 | URL | まー | 【編集
糖尿病学会がもどかしい
糖尿病学会の様子を教えてくださりありがとうございました。
やはりまだ学会全体の態度変容はないんですね。


山田先生がおっしゃるように糖質制限の有益性の周知はかなり進んでいますが、学会として、第一択になるのはまだまだ先なのでしょうか?

学会のがの字も関係ない生活を送っている素人で申し訳ないのですが、学会内の古参の有力者の態度変容や引退を待つしかないのでしょうか?
2017/05/23(Tue) 08:34 | URL | なか | 【編集
Re: 糖質制限
久堀 さん

情報をありがとうございます。

早朝空腹時血糖値の改善良かったです。
2017/05/23(Tue) 14:25 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: ロカボ市場を取り込め低糖質でダイエット!?
岸和田のセイゲニスト さん

情報をありがとうございます。
糖質制限市場がどんどん広がっていますね。
2017/05/23(Tue) 14:33 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 指一本で測定できる糖質モニター
まー さん

「caboc」は、1台が、なんと10数万円のようです。ヾ(゜▽゜)

それと
・医療機器ではない。

・血糖値を測定するものではない

ということです。
2017/05/23(Tue) 14:39 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 糖尿病学会がもどかしい
なか さん

糖尿病学会トップの、門脇孝糖尿病学会理事長は、2017年2月、私や渡邊昌先生と鼎談されました。
そして東大病院では、糖質40%の糖質制限食を2015年4月から導入しておられるそうです。

糖尿病専門医の間においても、新しい事実を受け入れるだけの柔軟な頭を有す人と
旧態依然たる人とがおられるようです。

確実に糖質制限食に追い風ですが、糖尿病学会は一気にとは行かないようです。

2017/05/23(Tue) 14:45 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 糖尿病学会がもどかしい
なか 様;

>やはりまだ学会全体の態度変容はないんですね

今回の学会の最終日午後に,糖尿病学会,高血圧学会,動脈硬化学会など6学会の合同で食事療法を検討するシンポジウムが行われましたが,その席で糖尿病学会を代表して,杏林大学の石田教授が糖尿病の食事療法の『Bible』である食品交換表を説明しました.

で,私にはあまりにも当たり前のことだったので,コメントには記載しなかったのですが,冒頭 石田先生は『食品交換表にあげている P/F/C比は,これが最良であるというエビデンスはない. ただ日本人の平均摂取比率を書いたにすぎない』と言われました.
振り返ってみれば,『食品交換表は,糖尿病のみならず,健常人,他の病気の人も含めて理想の食事』と長年言い続けてきた,糖尿病学会 食事療法の大御所が,公開の席で(今回の場合 聴衆は3,000人を超えています),『食品交換表の 栄養摂取比率にエビデンスはない』と明言したのは,私の知る限りではこれが初めてではないでしょうか. もはやエビデンスがないと認めざるをえないほど,学会は追い詰められているのです.

>学会内の古参の有力者の態度変容や引退を待つしかないのでしょうか?

それもありますが,糖尿病学会は,長年食品交換表は絶対的に正しいと主張してきましたし,それを受けて管理栄養士もそのように教え込まれてきました. たとえば,昨年実施された 管理栄養士の国家試験の問題は,食品交換表が完全に正しいという前提で作られています. これをおかしいと思っても,受験生が合格するためには,『正しい』回答を選ばざるをえません.

また,上記6学会の合同シンポで,高血圧学会などは,糖尿病学会よりはさらに食事療法の専門家は手薄です.ですので,『食塩は減らすべき.あとは食品交換表通り』という,お任せ状態です.

こういう状況なので,ある日突然 糖尿病学会が食品交換表の『ちゃぶ台返し』をやると,その影響は甚大なのでしょう. ですので,学会は過去の路線から,180度転換する必要性は感じていても,ジワリジワリとやるしかない,たとえば1年ごとに30度ずつ向きを換えて,6~7年したら,あら不思議,昔とは正反対になっていた.... これを狙っているのではないかと,私は推測しています.
2017/05/23(Tue) 19:53 | URL | しらねのぞるば | 【編集
第61回 日本糖尿病学会 年次学術集会
今年の会場は,勤務先とは目と鼻の先の東京国際フォーラムだったため,仕事の合間をみて興味のある主なセミナーや口演だけに的を絞って参加してきました.

以下,出席メモは時間が前後します.

【シンポジウム31 食事療法の展望 - Evidence Based Nutritionの実践に向けて】

このシンポの座長は,杏林大学 石田均先生と京都府立医大の福井道明先生ということから,出席する前からおおよそ内容は想像できたのですが,今回集会では食事療法に関する講演はこれだけだったので参加してみました.

[S31-1 糖尿病の食事療法に関するエベデンス 福井道明先生]
食事の内容についてはサラリと流し,ほとんどは「食習慣」に関する論文の紹介でした.「朝抜き」は良くない,「夕食ドカ食いではなく3食均等に」「深夜の夕食は不可」などです.
また高齢者・糖尿病患者は筋肉がつきにくいので,若者よりもむしろ多めに蛋白質を摂取することが必要. CKD2以上の腎機能低下の場合,高蛋白食は危険だが,植物性蛋白・乳製品であればよい.

[S31-2 栄養・食習慣のエビデンス 東大 佐々木敏 先生]
腕まくりしたカッターシャツに,ジーンズという異色のいでたちで登壇した佐々木先生は,服装も型破りなら,講演内容も傑作でした.

佐々木先生は,冒頭『食事療法にエビデンスがない? この状況では当然ではないか』として,その理由を列挙しました.

1. 医者は,薬は処方できるが,食事は処方できない.

薬ならば,投薬前後で,その効果を判定できる.つまりゼロベースとの比較.しかし,食事を摂ったことのない人はいないのだから効果を判定できない. しかも「正確な食事内容把握」などおよそ不可能.実例を挙げると,あるサラリーマンの例では,ある日は2000kcal,その翌日は3500kcal以上と大きく変動している.これでも変動は小さい方で,蛋白質は日間変動が3倍以上,ビタミン類に至っては日によって1桁以上の変動がある.これほど大きく振れていては,そもそも「この人の普段の食事は...」などと言えない.

2.栄養の改善は,人によって異なり,一般論での総括は無意味.

たとえば「減塩が必要」とは言っても,塩分はあらゆる食物に入っている.漬物,味噌汁,煮物,加工肉,調味料...,これを全部減らせと言ったら,患者は食べるものがなくなってしまう.そうではなくて,その人の食事を詳しく見て,『Aさん,あなたは漬物を減らしてください』『Bさん,あなたの場合は味噌汁が多すぎます』と個別にやるのが真の栄養指導だ.一律・機械的ではない.

減量に最適な食事構成を調べるため,脂質・蛋白・炭水化物比率を4種類で比較した研究があるが( NEJM 2009 Vol.360 859-873),どの群間にも有意差が生じなかった.この論文のAbstarctだけを読んで,『だから,どれでも同じ』という人が多いが,よく本文を読んでほしい.2年間の試験期間の最後を見ると,4群の被験者の食事はすべて同じような内容に収れんしてしまっていたのだ.同じような食事になったから,減量効果も同じ,だから4群間の有意差もつかなかった. ことほどさように『食事に介入』するのはむずかしい.

3. そもそも日本には栄養学の大学は少なく,研究者も少ない.

世界で近年発表された栄養学に関する論文で,日本人研究者の出したものは1%程度.これではインパクトはない.
糖尿病の論文はどうなのか?(ここで一瞬,チラリとスライドを見せたが,やはり1%?)

ほとんどちゃぶ台返しのような講演内容でしたが,実に面白かったです.


[S31-3 糖質制限食とSGLT2阻害薬をめぐる冒険 金沢大 篁 俊成先生]

糖質制限食を批判することに徹した講演内容でした. ただ次々とあげる『エビデンス』のほとんどは動物実験. しかも,「蛋白質を多く摂ると筋肉が減る」「肝臓の糖新生亢進は蛋白質が原因」「低脂質・低蛋白・高糖質で筋肉が増強」などと,にわかには信じがたいものばかり(だから『冒険』というタイトルにしたのでしょうが). 最後には『1ヶ月に5日ほど低カロリー・低蛋白・低脂質の飢餓状態食事をするのがよい』という結論で,糖質制限食を危険と言いながら,その方がよほど危険ではないかと思いました.

[S31-4 慣習的に摂取する食事内容と糖尿病治療薬の効果 関電医学研究所 矢部 大介先生]

DPP-4阻害薬投与が奏効する人と,投与直後は体重やHbA1cが低下してもすぐにリバウンドしてしまう人との差は,その食事内容にある.魚を多く摂る人にはDPP-4阻害薬がよく効く.

A:高糖質食・高GI,B:高糖質食・低GI,C:低糖質・高GI食で3群に分け,この食事をしつつ最後の1週にSGLT2阻害薬を服用させたら,血中ケトン体は,A:で~500mmol,B:~300mmol,C:~900mmolにまで上昇した.だから糖質制限食とSGLT2阻害薬の組み合わせは危険だ.

これら2件の講演は,座長の意向を反映したものでしょうか.

なお,会場からパン屋さんが「糖質はダメ,脂質もダメ,最近は小麦グルテンは毒だなどと言われる.では私たちパン屋は,何を使ったらいいのですか?」という切実な質問が出ました.福井先生が『大豆蛋白はアルカリ性食品だからいいのでは』と回答していましたが,その『エビデンス』は???

[S31-5 糖尿病性腎症の食事療法に関するエビデンス 東京女子医大 馬場園 哲也先生]

腎症が進行した糖尿病患者に蛋白制限は必要なのか,不要なのか,これもいつまでたっても結論の出ない問題. 1年ごとに蛋白制限に対するスタンスが正反対にふれるガイドラインすらある. 佐々木先生が述べられたように,患者に極端な低蛋白を指示しても,実際には守られないことも多い. efficacy(効能がある)とeffective(実効性がある)とは異なるのだ.

[S31-6 カーボカウントのエビデンス 徳島大学 黒田 暁生先生]
ご自身も1型糖尿病35年の履歴,しかもカーボカウントの著書も多数の黒田先生の話もまた会場が抱腹絶倒の面白いものでした. 但し,糖質制限は「エビデンスがない」とバッサリ.(もっとも『食品交換表の推奨にもエビデンスはない』とも付け加えていました) 講演内容は,黒田先生独自の,『簡易糖質計算法』の解説で,なるほどこれなら,出された食事を一瞥して,おおむね正確な糖質量含有量がわかるだろうと思いました.これは糖質制限を行う上でも便利です. ただカーボカウントに関してはおそらく日本最高の黒田先生であっても,カレーライスだけは,どうにも糖質量見積りと,結果(=食後の血糖値が長時間急上昇)が合わないようで,『カレーライスだけは,経験則で見積もった糖質量を1.5倍するしかない.加えて基礎インスリンの1.2倍の追加打ちも必要』と白状しておられました.傑作だったのは,『徳島は田舎なので,ラーメンの糖質量は価格×0.17,東京の物価は高いので,価格×0.13とするのがよい』とのこと.

【リブレ ショック:FGMが急速に普及】
アボットのフリースタイル Libre(Pro)は,厚労省が,インスリン等注射薬使用の患者に限定,かつ点数を血糖自己測定器加算の範疇に無理やり収めてしまったため,実際に病院で使うと赤字になってしまうにもかかわらず,実に多くの医療機関で使われるようになってきたようです. 口演,ポスターを問わず『FGMが使えると,こんなことまでできるのか』という発表が多数ありました.
日本の糖尿病治療において,これほどインパクトのあったものは,インスリンの患者自己注射が認められた以来の出来事ではないでしょうか.

ただ,初日の コロラド大学デンバー校 Satish K. Garg博士の講演(シンポジウム1-1: Hybrid Closed Loop System and Beyond)を聞いて,日本の現状には絶望的になりました.
日本では,CGMの導入が米国より10年も後になり,ここで決定的に遅れてしまいました. たしかにハードウエアは日本メーカーの技術を持ってすれば製造できるでしょうが(実際国産1号も出たようです),結局 ステルス戦闘機やIT機器と同じで,ハードよりもソフトウエアが非常に重要なのに,この分野で重要な基本特許は既に海外メーカーが押さえてしまっています. また日本では今『FGMでこんなことがわかった』と騒いでいる段階ですが,米国ではその段階はとっくに過ぎて,使いこなしから,新しい治療法の開発にまで進んでいます.実際Garg博士は(『決してお薦めはしないが』と断って),糖尿病患者自身がFGMとインスリンポンプ,スマホとを組み合わせて,『DIYの』人工膵臓を作ってしまうプロジェクトが進行していることを紹介していました. このシステムの制御に必要なソフトは,(ちょうどオープンソフトのLinuxのように)Internet上で共同して開発しているとのことです.

2018/05/27(Sun) 11:53 | URL | しらねのぞるば | 【編集
Re: 第61回 日本糖尿病学会 年次学術集会
しらねのぞるば さん


第61回 日本糖尿病学会 年次学術集会のご報告、
ありがとうございます。
とても参考になります。
2018/05/27(Sun) 20:39 | URL | ドクター江部 | 【編集
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