脳はケトン体をエネルギー源にできるのに、何故低血糖症になる?
こんにちは。

赤血球だけは、ミトコンドリアがないので、
身体で唯一、ブドウ糖しかエネルギー源にできません。

一方、脳を始めとして赤血球以外の他の組織は、
ケトン体をエネルギーとして利用できるはずなのに、
何故、低血糖になると、意識障害を生じるのでしょう?

脳がケトン体をいくらでも利用できるなら、50~60mg/dl以下の低血糖になっても
意識障害とかなくてすみそうな気もしますよね。
今回はそこら辺の理由を検討してみます。

さて
糖質を普通に食べている人の、総ケトン体の基準値は、「26~122μM/L」
その中でβヒドロキシ酪酸の基準値は、「76μM/L以下」です。

宗田先生のご研究で、
正常分娩胎盤組織液の、βヒドロキシ酪酸は、
60検体の平均値で2235.0μM/Lと、基準値より、30~40倍の高値です。

私が34才のとき、本断食(カロリーゼロ、塩ゼロ)をしましたが、
極期の血糖値は35mg/dlしかありませんでした。
しかし、外来診察もこなしていました。

このときのβヒドロキシ酪酸は5000μM/Lくらいはあったと思います。

1991年に
甲田光雄先生推奨のすまし汁断食(210kcalの黒砂糖、3gの塩)
を行った時のデータが以下です。

3日間の漸減食
3日間の210kcal/日の超少食期
3日間の漸増食

というパターンです。

1991年
3/4   1200kcal/日
3/5   1200
3/6   1200
3/7   1000
3/8    700
3/9    330
3/10    210
3/11    210
3/12    210
3/13   350
3/14   600
3/15  1000
3/16  1200
3/17  1600
3/18  1600

3/13、断食(超少食期)あけの朝で
βヒドロキシ酪酸:3507μM/L
空腹時血糖値:52mg/dl
でした。

すまし汁断食中は、外来業務、病棟業務、テニスクラブでテニス・・・要するに、
ごく普通の日常を送っていました。

私以外にも、2015年2月に
高雄病院に入院されて超少食療法を実践された男性のデータも示します。
この男性は、スーパー糖質制限食流の超少食療法を実践されました。
すなわち、甲田式の黒砂糖はなしで、豆腐を主として超少食療法です。
甲田式すまし汁断食に比べて、スーパー糖質制限食流の超少食療法のほうが
ケトン体は高値となります。

断食(超少食期:210kcal/日)あけの朝で

空腹時血糖値:41mg/dl
βヒドロキシ酪酸:5562μM/L

というデータでしたが、全く普通に喋って歩いて問題なしでした。

つまり、ケトン体(βヒドロキシ酪酸)が、
2000~3000~4000~5000レベルあれば、
血糖値が35mg/dlとか41mg/dlとか52mg/dlとかでも、
脳はケトン体をエネルギー源として普通に活動できるわけです。

米ハーバード大のDr.Cahillはその論文で「多くの研究により、
ヒトの脳はブドウ糖なしでケトン体だけでも生存できると思われるが、
実験的にも倫理的にも証明は難しい」
としています。(注1)

血糖値35mg/dlは、ブドウ糖しかエネルギー源として使えない赤血球のために、
肝臓が糖新生して確保していると考えられます。

日頃糖質を摂取している人は、「ブドウ糖-グリコーゲンエネルギーシステム」を主に使っていますので、
脳はもっぱらブドウ糖をエネルギー源として利用しています。

このときインスリン注射やSU剤で急に低血糖になったら、
総ケトン体は「26~122」、βヒドロキシ酪酸は「76以下」しかないので、
脳のエネルギー源としてはまったく足らないのです。

脳が低血糖発作を生じないレベルのケトン体数値の目安は、
胎児の胎盤組織液の、
βヒドロキシ酪酸濃度の2235.0μM/Lくらいかなと推測しています。


注1:Annu. Rev. Nutr. 2006. 26:1-22 FUEL METABOLISM IN STARVATION George F. Cahill, Jr.


江部康二


☆☆☆Glut1(糖輸送体1)欠損症とケトン食

Glut1(糖輸送体1)欠損症による難治性てんかんや成長障害にケトン食が有効です。
というか、ケトン食が唯一無二の治療法なのです。

ケトン食は、脂質が87%で糖質はほとんどなしです。

ケトン食の場合は、尿中にケトン体が出続けますので、
血中ケトン体濃度は3000~5000μM/Lレベルと考えられます。

血中総ケトン体の基準値は26~122μM/Lですので30~50倍レベルです。

脳細胞の糖輸送体はGlut1で細胞表面にあり、
通常は血流さえあれば常に血糖を取り込めるはずです。

しかし、Glut1欠損症では、糖輸送体が上手く機能していないので、
脳細胞は血中ブドウ糖を取り込めずに、
「脳細胞内低血糖+難治性てんかん」を発症すると考えられます。

ケトン食実践により、血中ケトン体が3000~5000レベルになれば、
脳細胞のエネルギー源は、ほとんど全てケトン体でまかなわれます。

従って、脳細胞はブドウ糖をあまり利用できなくても、
ケトン体をエネルギー源として正常な活動を続けることができるのです。

通常の糖質ありの食事でケトン体が26~122μM/L程度であれば、
Glut1欠損症で脳が低血糖になったとき、脳細胞はケトン体を充分量供給されていないので、
正常の活動を営むことができずに低血糖症状がでます。
その結果、てんかん発作や成長障害が出現します。
強調文
コメント
ご返事頂きありがとうございます。

今日は急遽予定がはいり、75g糖負荷試験はできませんでしたので、後日してみたいと思います。
自宅でするのは、簡易版とのことでしたが、病院でするのとどのような違いがあるのでしょうか?


また、本日昼に自己測定してみました。
少し糖質は控えましたが、あんまり深く考えずに食事しました。
その結果、1時間後167、2時間後140でした。ギリギリセーフかなと思ったんですが、ちょうど2時間後にどうしても付き合いで間食してしまいました。 血糖値が140だったので不安でしたが、やはり1時間後は230と高値でした。すごく動揺しましたが、2時間後は103となっていました。2時間値が基準内だったので、安心したんですが…
1時間で127も血糖値が変動しているのは、糖尿病ということになるんでしょうか?

素人質問で申し訳ありませんが、よければ教えてください。
お忙しい中ごめんなさい。
2017/04/13(Thu) 20:14 | URL | まさる | 【編集
Re: タイトルなし
まさる  さん

医学論文などにするときには、正式の75g経口ブドウ糖負荷試験が必要です。
この時、インスリン値も調べます。

個人的に自分の耐糖能を調べたいだけなら、簡易版でもOKと思います。

血糖変動が大きく、1時間後が230ですので、
将来糖尿病になりやすいタイプです。

現時点で糖尿病かどうかは、血液検査をして糖尿病学会の診断基準によることとなります。

2017/04/14(Fri) 08:07 | URL | ドクター江部 | 【編集
初めまして
1996年に膵臓に腫瘍が見つかり胆のう、脾臓と膵臓3/1(尾部)を切除しました。
その後約5年で糖尿病となり薬からインスリン投与としてまいりました。

腫瘍の病名は膵内分泌腫瘍で私の場合、肝臓に再発を繰り返しています。そのたびに手術で取りましたが最近また新たに再発腫瘍が数個見つかりました。
これまでの切除部位と重なることや位置がバラバラな事などから今後の治療法は内科的なものでと強いお薬を使い方法を何種か試しました。

けれど副作用が強く中止、また別の方法をするべきという状況です。

以前から糖尿病とがんの治療を別々に考えることに違和感を覚えておりましたところ 糖質制限という食事法を知り飛びつくように始めてしまいました。

今年の2月までは朝食前の血糖値が150以上高いときは180くらいありインスリンは毎食前にノボラピッド朝4昼4夜5単位、寝る前にトレシーバ7~8単位でやっていました。

インスリンを打つために食事をするような感じでしたし朝食後からだるさがひどく横になるような日も多かったのです。

糖質制限を自分なりの解釈で3月から始めてみましたら驚くほど血糖値が下がり朝食前100~120くらい、いいときは88にもなりました。体調も良くなって午前中のだるさもなくなったため糖質制制限をサポートしてもらえる病院を近くに見つけ相談に行きました。

初診でしたがその場でノボラピッドは中止、トレシーバは6単位、フォシーガ錠を一日一回という処方に変更になりました。
そのまま続けていれば良かったのかもしれませんが がんのような病気を治すことが目的ならば糖質をゼロにする必要があるとSNSで読み自己判断ですぐに始めてしまったため朝から血糖値55で低血糖症状が出てしまいました。

このままではまずいと仕方なく糖分を摂り回復しましたがこのまま糖質ゼロを続けていて大丈夫なのか?心配です。
夕べはまた低血糖になるのが怖くてレモンにお湯を合わせ羅漢果糖を少し入れたものを飲んでから寝ました。
起床時の血糖値は134でした。
夕食後は86しかなかったのにとても不思議です。
身体的には足のしびれはずっとあります。

がんの治療にも活かしたいと思っているけれども切除した臓器の関係とかもわからないため江部先生のお考えを伺えればと思います。

いきなり大変長いコメントになってしまい申し訳ありません。
2017/04/14(Fri) 08:51 | URL | naomi | 【編集
よろしくお願い致します
御無沙汰しております。
先生にお尋ねします。この赤血球がブトウ糖を消費するのは、平均体重の人で一日あたり(安静時)どれ位なのでしょうか?

豚皮揚げを食べる会in京都、2週間余りとなりました。江部先生と夏井先生のセッションを聴けると思うと幹事業務に俄然やる気が出ます!
また今回は公私多忙の心先生にも、クッキングの大役を引き受けて頂きました(嬉)
江部先生からもよろしくお伝え下さいませ。
たがしゅう先生も遠路鹿児島から来て頂ける予定です(嬉)

配慮が足らず、またご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくご来場お願い致します。
2017/04/14(Fri) 16:20 | URL | 岸和田のセイゲニスト | 【編集
Re: 初めまして
naomi さん

ビタミンCや食物繊維も人体には必要なので、現実には糖質ゼロは無理と思います。

ケトン食レベルなら、がんにも糖尿病にも有効と思います。

朝起床時の血糖値が眠前より高値となるのは、暁現象です。

詳しくは、糖質制制限をサポートしてもらえる病院で主治医とご相談下さい。


2017/04/14(Fri) 19:17 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: よろしくお願い致します
岸和田のセイゲニスト さん

豚皮揚げを食べる会in京都の幹事、ご苦労様です。

「赤血球がブトウ糖を消費するのは、平均体重の人で一日あたり(安静時)どれ位なのでしょうか?」

体重50キロの人の血液量は4リットル(4kg)程度です。
血糖値が100mg/dlとして、循環血液中のブドウ糖は4g程度ですから、意外に少ないです。
空腹時や睡眠時も血糖値100mg程度を維持するために、肝臓が糖新生しています。

ここら辺まではわかっていますが、一日あたり(安静時)どれ位ブドウ糖を消費するかまではよくわかりません。




2017/04/14(Fri) 19:29 | URL | ドクター江部 | 【編集
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