ケトン体の有用性と安全性に関する考察。
こんばんは。

ケトン体は、「糖尿病ケトアシドーシス」のイメージのため、長い間悪者にされてきました。

しかし、近年、悪者どころか、効率のよいエネルギー源となるだけでなくシグナル伝達因子の役割を果たしていることが明らかとなりました。(*)

またケトン体の一種である「βヒドロキシ酪酸」は、抗酸化ストレス作用を有すという知見も示されました。

そして、マウスを用いた研究では、ケトン体に抗老化作用があることが認められています。(*)

さらに、
イタリア・ピサ大学のFerranniniらと
米・カリフォルニア大学サンディエゴ校のMudaliarらは、
「Diabetes Care 2016;39:1108-1114、Diabetes Care 2016;39:1115-1122」)において
ケトン体に、臓器保護作用があるという説を提唱しました。

今回は、ケトン体の有用性と安全性について考察してみます。


A)
胎盤・臍帯のケトン体値英文論文


宗田らは、胎盤・臍帯・新生児のケトン体値に関する研究を英文で発表。
  胎盤・臍帯のケトン体値論文は、世界初と思われる。江部も共著者の一人。
胎盤のケトン体値は基準値の20~30倍、 平均2235.0μmol/L(60検体)
臍帯のケトン体値は基準値の数倍~10倍、平均779.2μmol/L(60検体)
新生児のケトン体値は、基準値の3倍~数倍、
  平均240.4μmol/L(312例、生後4日)  基準値は85 μmol/L以下。
胎盤と臍帯と新生児では、ケトン体は高値が当たり前である→安全性の担保

*Ketone body elevation in placenta, umbilical cord,newborn and mother in normal delivery  Glycative Stress Research 2016; 3 (3): 133-140
Tetsuo Muneta 1), Eri Kawaguchi 1), Yasushi Nagai 2), Momoyo Matsumoto 2), Koji Ebe 3),Hiroko Watanabe 4), Hiroshi Bando 5)


この世界初の胎盤・臍帯のケトン体値論文は、ケトン体の安全性に関するエビデンスと言えます。

B)
ヒューマン・ニュートリション第10版(医歯薬出版)2004年、P748

脳の代謝の項目に
「・・・母乳は脂肪含有量が高くケトン体生成に必要な基質を供給することができる。発達中の脳では血中からケトン体を取り込み利用できるという特殊な能力があり、新生児においてはケトン体は脳における重要なエネルギー源となっている。・・・」 
との記載がある。


ヒューマン・ニュートリションは、英国で最も権威のある人間栄養学の教科書です。

新生児においては、ケトン体は脳の重要なエネルギー源ということを明記してあるのはさすがです。

新生児において重要なエネルギー源ということは、胎児においてもケトン体が重要なエネルギー源である可能性が高いです。


ただ特殊な能力という記載ですが、小児ケトン食や絶食療法やスーパー糖質制限食実践者においては、ごく日常的に脳はケトン体を利用しています。

新生児だけでなく、小児も成人も、ごく普通に脳はケトン体を利用できると思います。


2015年2月に高雄病院に入院されて超少食療法を実践された男性は、断食(超少食期)あけの朝で

空腹時血糖値:41mg/dl
βヒドロキシ酪酸:5562μM/

というデータでしたが、全く普通に喋って歩いて問題なく元気でした。

脳は、ケトン体を主なエネルギー源としていたと考えられます。

βヒドロキシ酪酸が5562μM/Lあったことにより、血糖値が41mg/dlでも、元気に過ごせたと考えられます。


1984年に、私は本断食を行いました。水だけ摂取で、カロリーゼロで、塩ゼロです。
断食あけの朝で空腹時血糖値:35mg/dlでした。
やはり脳はケトン体を主なエネルギー源としいたと考えられます。


C)
EMPA-REG outcome trial

対象患者 心血管疾患のある2型糖尿病患者7,028例。
結論 心血管イベントのリスクが高い2型糖尿病患者において, 
標準治療へのempagliflozinの追加は心血管疾患による死亡,心血管イベント,
および全死亡の発症率を低下させた。
糖尿病治療薬ではじめての効果。
 
Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes.
N Engl J Med. 2015 Nov 26;373(22):2117-28.


ケトン体値上昇による心保護作用が
EMPA-REG outcome trialにおける好結果を生んだという仮説は、
魅力的であり、上述のようにDiabetes Careに掲載されました。


<考察>
A)B)C)を合わせて考察すると、ケトン体の安全性は、確立されたと言えます。

また
A)B)C)に加えて
『糖尿病 医師・医療スタッフの プラクティス』(*)
の記事や参考文献を考慮するとどんどん新しい知見が示され、ケトン体の有用性もほぼ確立されたと思われます。


(*)
参考
糖尿病 医師・医療スタッフの プラクティス
2017年Vol.34 No.1 医歯薬出版株式会社


江部康二

テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
ケトン体:敵か,味方か?
江部先生こんばんは

プラクティス 34巻1号

2016年12月29日 (木) の精神科医師A さんの投稿による情報を得て
早速購入し、何度も読み返しています。

プラクティス 34巻1号 2017年1・2月号
特集 知って得するケトン体の不思議
-ケトン体:敵か,味方か?-
https://www.ishiyaku.co.jp/magazines/practice/PracticeBookDetail.aspx?BC=003401


○ケトン体産生のメカニズム(p15)

東京大学先端科学技術研究センター
代謝医学分野  酒井 寿郎

ケトン体は糖尿病治療における重篤な副作用のもとになる悪玉的な印象があり,低糖質ダイエットやSGLT2 阻害薬による薬物療法ではケトン体が発生することが知られ,懸念されていた.しかし,近年,ケトン体はエネルギー制限に伴う抗老化作用に関与することも見出され,あらためてそのメカニズムと生理的役割に関心が高まっている.本稿ではケトン体の合成と代謝そして生理的役割について概説する.……(雑誌本文は続きます)

○HDAC活性阻害を介したケトン体の抗老化作用(p81)

順天堂大学医学部付属練馬病院
糖尿病・内分泌内科
西田 友哉

 ケトン体は従来,飢餓や激しい運動時において末梢組織にエネルギーを供給する物質としてはたらくと考えられてきた.一方で,ケトン体の一種であるβヒドロキシ酪酸(βOHB)は,特定の受容体を介して細胞にシグナルを伝達し,またヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の阻害作用を有するなど,多様な作用をもっていることが報告されている.特に後者は,ケトン体がヒストンの修飾を介して,栄養や代謝の状態に応じて遺伝子発現を調節する橋渡しを演じているという点で重要である.本稿では,ケトン体によるHDAC 阻害作用を通じた抗酸化ストレス作用に関する報告を中心に,ケトン体の抗老化における意義に関して概説する.……(雑誌本文は続きます)

※ケトン体特集の他にも FORUM 食事 Dietでも糖質制限の記事がありました。

○FORUM 食事 Diet(p63)

第1回 糖質制限食の有効性と課題
順天堂大学大学院
代謝内分泌内科 金澤 昭雄

一部抜粋
何度も栄養指導を行うものの血統コントロールが改善しないケースも日々、遭遇する。
こういった状況を鑑みると本当によいのかどうか疑問も残る。
近年、糖質制限食に関する情報がインターネットや書籍でもはんらんしている状況ともいえる。
糖尿病患者に限らず一般の人たちの関心も高くなっており、食事療法というものが大きな転換期を迎え、今まさにトピックといえるのではないでしょうか。
本稿では、我々の教室で日本人2型糖尿病を対象にし、糖質制限食の血統コントロールに対する効果を無作為比較試験¹⁾で検討したので紹介する。……(雑誌本文は続きます)


勉強されている本ブログ読者にお勧めの本だと思います。

※アマゾン
goo.gl/aHZDck (urlはGoogle URL Shortenerで短縮しています)
2017/03/12(Sun) 21:26 | URL | オスティナート | 【編集
ケトン体の安全性
ケトン体がAGEを生成し、老化を促進するという論文と、逆にケトン体がAGEの生成を抑制するという論文を見つけました。どちらもin vitroで信頼性は低いですが。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20117096
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24535268

アセトンはAGEを生むが、βヒドロキシ酪酸がAGEを抑制するするようですし、アセトンはあまりケトーシスで生じないと聞いています。アセトンの生成量が少量ならばあまり心配する必要はないかと思っていますが、どうなのでしょうか?
2017/03/12(Sun) 22:31 | URL | HSG | 【編集
脳とケトン体
ケトン体とタンパク質の糖化の問題より、気になるのは、
「ケトン体は神経を養うグリア細胞のエネルギー源にはなれないのである。従って、ケトン体のみでは長期間、脳の活動を維持できない。」という浜松医科大学名誉教授 高田明和氏の見解です。高田氏は脳医学の専門家です。
https://www.alic.go.jp/joho-d/joho08_000539.html

端的にいうと、厳格糖質制限を長期間続けると頭の動きが鈍くなりませんかという話です。
2017/03/12(Sun) 22:38 | URL | HSG | 【編集
1日糖質20g以下にて5ヶ月経過
主食抜き→スーパー糖質制限→40g以下→20g以下にて人体実験中の者です。

1日糖質20g以下(飲み会や食べ放題で月1、2回程度は糖質摂取)にて5ヶ月以上経過しました。
ケトン体が糖尿病医の言うように危険なものならばそろそろ死んでる頃だと思うのですが、ぴんぴんしております。

それどころか逆に健康過ぎてヤバイぐらいです。
本日糖質2g以下のスポーツドリンクのみでロードバイク3時間走ってきましたが、今でも軽い筋肉痛がある程度で疲れも眠くもありません。しかもそのあとジムに行って45分有酸素運動してさらにまだ余力があります。あとこれから仕事しようと思います。

中毒を抜け出せず実践出来ない人には分からないと思うのですが、糖質に弱い人間ほど糖質減は効果が大きいです。
糖質過多で自分が中毒で苦しんでいることにすら気づけなかった頃を思うと、つくづく肥満、鬱、慢性疾患の元は糖質だったのだと感じます。
2017/03/12(Sun) 23:04 | URL | ぷろていん | 【編集
加齢臭とケトン臭
先生おはようございます

糖質制限生活を始めてからなんか家族が臭いに気をつけなさいよ、っていうようになりました。ケトンが臭っているのでしょうか?
2017/03/13(Mon) 05:53 | URL | 50過ぎのおやじ | 【編集
Re: ケトン体:敵か,味方か?
オスティナート さん

コメントをありがとうございます。

プラクティス 34巻1号 2017年1・2月号
特集 知って得するケトン体の不思議
-ケトン体:敵か,味方か?-
https://www.ishiyaku.co.jp/magazines/practice/PracticeBookDetail.aspx?BC=003401


参考になりますね。
2017/03/13(Mon) 07:36 | URL | ドクター江部 | 【編集
週刊新潮
週刊新潮2017年3月16日号 2017/3/9発売
http://www.dailyshincho.jp/shukanshincho_index/

「愛子さま」の拒食症が打ち砕く 陛下「生前退位」構想

 愛知みずほ大学の佐藤祐造学長が、「糖質制限を半年以上続けるのはよくない」と中傷している
2017/03/13(Mon) 11:40 | URL | 精神科医師A | 【編集
HSG さん

その論述の最初の段落にある、「砂糖も脳の活動に必要」というセンテンスの時点で論評に値しないのではないでしょうか?

人類が砂糖をふんだんに利用できるようになったのはせいぜいここ数百年の話で、
それ以前は金の価値にも匹敵する貴重品だったわけです。

そして約2500年前以前には、そもそも砂糖は存在しなかったようです。

脳の活動に砂糖が必要であるなら、人類とその文明はなぜ約2500年前以前から存在できたのでしょうか?
2017/03/13(Mon) 15:31 | URL | ジュビー | 【編集
Re: ケトン体の安全性
HSG さん

宗田先生の論文により、胎児、新生児のケトン体は高値が当たり前ということが明らかとなりました。

ケトン体がAGEを生成なら、ヒトは、胎児、新生児の段階から、AGEsの害にさらされていることとなります。
臨床的には、そのようなことはあり得ないと思います。

昔はともかくとして、近年の論文では、多くがが、『ケトン体はいいやつ』という論調ですね。
2017/03/13(Mon) 18:19 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 脳とケトン体
HSG さん

脂肪酸は血液脳関門を通過します。
そして「アストログリア」という、神経細胞を周囲で支えている細胞のエネルギー源になります。
そのグリア細胞で、ケトン体を産生し、ケトン体は脳の神経細胞のエネルギー源となります。

以下の報告もご参照頂けば幸いです。

http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php/KAKEN_22689028seika.pdf?file_id=75471
慶応義塾大学学術情報リポジトリ
科学研究費補助金研究成果報告書(2012)

アストロサイトによるin vivo ケトン体生合成機構の解明

・・・脳の発生や再生、神経疾患の病態において、
ケトン体が脳代謝の要として機能し、
神経保護的に作用しているいことが示唆されている。・・・

色付きの文字
2017/03/13(Mon) 19:02 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 1日糖質20g以下にて5ヶ月経過
ぷろていん さん

コメントありがとうございます。

1日に」20g以下の糖質摂取なら、
さぞかし「ケトン体質」になっておられることと思います。

サッカーの長友佑都選手以上のケトン体質ですから、スタミナは抜群と思います。
2017/03/13(Mon) 19:04 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 加齢臭とケトン臭
50過ぎのおやじ さん

アセトン臭という甘酸っぱい臭いが、糖質制限初期の段階で発生することがあります。

ケトン体のうちのアセトンが揮発性で呼気から排泄されるとそうなりますが
そのうち消えますのでご心配なく。

水をどんどん飲んで、尿からどんどん、アセトンを排泄してしまえば、
呼気から出るアセトン臭は減りますし、体臭も減ると思います。
2017/03/13(Mon) 19:10 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 週刊新潮
精神科医師A さん

情報をありがとうございます。

「愛子さま」は拒食症と考えられますので、糖質制限食とは無関係ですね。
2017/03/13(Mon) 19:12 | URL | ドクター江部 | 【編集
妊娠糖尿病と糖質摂取
 妊娠糖尿病と診断されたのをきっかけに、最近から、糖質制限食(といっても主食をとりすぎないようにしているユルい制限)を実践し始めた内科医の妊婦です。
 私の場合、ご飯を食べると血糖値がガンと上がるのがわかったので、内科主治医・栄養士に「私の場合、必要カロリーの50%も糖質からとる必要ないんじゃないですか?糖質からとる分を減らしてその分脂肪・タンパク質からのカロリーで補ったらいいんじゃないですか」と言いましたが、「糖尿病学会のガイドラインでは50-60%を糖質からとるようにとなってます」「脂肪をとりすぎたら体重が増えます」とのお返事でした。
 いやいや、糖質制限して、体重はうまくコントロールできているのですが、、。糖質からのカロリーを脂肪・タンパク質でとったら体重が増えるって根拠あるんでしょうか?
 糖質50%食で、妊婦の血糖値がガンガン上がっても、インスリン注射を打とうが打つまいが他人事、なんでしょうね。医療従事者にももうちょっと柔軟に考えようという態度が必要じゃないかと思いました(今までの私もそうでしたが、、)。今のところ、高血圧や腎障害などなんのほかの併存症もありませんので、このまま糖質制限食をしていこうと思います。引き続きブログを読ませていただきます。
2017/03/14(Tue) 15:16 | URL | タマゴ | 【編集
Re: Re: 脳とケトン体
次の解説を見ても分かるとおり、脂肪酸をエネルギー源にできます。

「アストロサイトは脂肪酸を取込んでエネルギー源として利用できますが、神経細胞は脂肪酸を利用できません。」

「漢方がん治療」を考える
482)認知症とケトン体(その2):脳のエネルギー代謝の特徴
(2016年03月25日) 
2017/03/14(Tue) 18:41 | URL | OGT | 【編集
Re: Re: Re: 脳とケトン体
OGT さん

そうですね。
アストロサイトが、ケトン体を産生して、ケトン体が脳の神経細胞のエネルギー源になります。
2017/03/14(Tue) 21:26 | URL | ドクター江部 | 【編集
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