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 糖質制限食とアトキンス式ダイエット(低インスリンダイエット)
おはようございます。

「糖質制限食とアトキンス式ダイエットは同じなのか、違うのか?」

よくある質問ですが、今回はこれについて検討してみます。

「低炭水化物ダイエット」「ローカーボダイエット」という言葉も、アトキンス式ダイエット(低インスリンダイエット)と同じ意味で使用されています。

まずは言葉の定義からですが、「炭水化物=糖質+食物繊維」です。

食物繊維は、1gあたり、0kcal、1kcal、2kcalの3タイプにわかれます。

大腸内の細菌が食物繊維を餌にして短鎖脂肪酸産生するので、カロリーがあるのです。

しかし短鎖脂肪酸なので、血糖値は上げません。

即ち、血糖値を直接上昇させるのは糖質ですので、本ブログではもっぱら糖質を使用します。

糖質を摂取すると、消化管から吸収されたブドウ糖は、門脈血からまず肝臓に約50%取り込まれて、それ以外が血液の大循環に回ります。

また、糖質を摂食して血糖値が上昇すれば、正常人では速やかにインスリンが大量に追加分泌されます。

肝臓に取り込まれなかったブドウ糖は、肝静脈から血中に入り、動脈血中に入ったブドウ糖は、インスリン追加分泌により骨格筋細胞や脂肪細胞に取り込まれます。

肝に取り込まれたブドウ糖は、インスリンによりグリコーゲンとして蓄えられます。

筋肉細胞に取り込まれたブドウ糖は、エネルギー源として利用されたあとグリコーゲンとして蓄えられます。

しかし、余った血糖はインスリンにより中性脂肪に変えられ、脂肪組織(皮下脂肪と内臓脂肪)に貯蔵され肥満につながりますので、インスリンは、肥満ホルモンと呼ばれるわけです。

ここで大切なのは、血糖値を直接上昇させるのは、糖質・タンパク質・脂質の3大栄養素のうち、糖質だけという生理学的事実です。

糖質を摂取しなければ、血糖値は上昇せず、インスリンの分泌も少量ですむので、肥満もしません。

ちなみに脂質はインスリンを分泌させません。
タンパク質は少量のインスリを分泌させます。

この基本的な考えは、アトキンス式ダイエット(低インスリンダイエット)と高雄病院の糖質制限食の理論は同一であり、両者共に、糖尿病治療にもダイエットにも、著明な効果があります。

違う点で言うと、糖質制限食は、糖尿病治療のために考え出されたものです。

2016年現在まで高雄病院で800人以上の入院患者さん、3000人以上の外来患者さんのデータを検証し積み重ね、学術的な立場で糖質制限食の治療効果を確立させました。

従って、糖尿病患者さんと糖質制限食という観点においては、高雄病院には世界で最も多くのデータが揃っていると思います。

アトキンス式低炭水化物ダイエットは、文字通りダイエットを目的に考え出されたもので、外来通院患者さんのデータや、肥満改善のデータは豊富にありますが、高雄病院のように、糖尿病入院患者さんの詳細な学術的データはありません。

1999年に私の兄、江部洋一郎が高雄病院で初めて糖質制限食を開始した時は、「シュガーバスター」「砂糖病―甘い麻薬の正体」といった本や、探検家の植村直己さんのイヌイットの村での食生活体験記、愛媛の同級生釜池豊秋先生との会談などを参考にして出発したようです。

その後しばらくして、私が「アトキンス博士のローカーボダイエット」同朋舎 (2000/10)のことを知り、2002年頃に手に入れて読んでみました。

その結果、サプリメントや病原性イースト菌の話など、一部内容は、高雄病院の糖質制限食とは乖離していますが、基本線は同じであると思いましたし、参考にもなりました。

米国で「Dr. Atkins DietRevolution」の原本が出版されたのは1970年代初頭です。

さらに「バーンスタイン医師の糖尿病の解決」メディカル・トリビューン(2005/12)が、翻訳本として出版され、こちらは著者が1型糖尿病ということもあり、糖尿病治療食としての糖質制限食という意味で、非常に参考になりました。

バーンスタイン医師は、1972年頃から糖質制限食を始められて、1999年に米国で原本を出版されています。

アトキンス医師とバーンスタイン医師は、米国の近年の糖質制限食(低糖質食)の先駆者といえます。

糖質制限食を実践していく中で、糖尿病のみならず、肥満、メタボリックシンドローム、脂質異常症、アレルギー疾患など、様々な生活習慣病全般に効果があることがわかりました。

私自身、2002年の糖尿病発覚時には、メタボリック・シンドロームの基準をしっかり満たしていましたが、スーパー糖質制限食実践半年で10kg減量して、全ての検査データが正常となりました。

それ以後2016年現在まで、スーパー糖質制限食を続けていますが、糖尿病合併症は皆無で、血液・尿検査も正常です。

66歳現在、歯は全て残り、聴力低下はなく、身長も縮んでいませんし、夜間尿もなく、目は裸眼で広辞苑が読めます。

糖質制限食により、糖化が防げるので、老化もあるていど防げる可能性があります。

糖質制限食により、代謝全てが改善するので、人体の自然治癒力も高まると考えられます。

また血糖値、脂質がコントロール良好となるので、血流が毛細血管にいたるまで改善すると考えられます。


江部康二

テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
お世話になっております
江部先生

九州の学生(博論執筆中)です.

以前に以下の記事で江部先生が紹介してくださった者です.
>機能性低血糖の症状が、糖質制限食で速やかに改善。
>2015年11月25日 (水)

度々,江部先生のブログにはお世話になっております.
昨年から糖質制限に取組み,現在も経過良好でございます.

糖質制限食とアトキンス式ダイエットの共通点と相違点を整理くださり,ありがとうございます.大変興味深い内容でした.是非,引用及び参考にさせてください.両者の基本概念は共通ですが,「糖尿病患者のため」と「ダイエットのため」という概念の発想起点が異なるのですね.

私が糖質制限食を始めた当初,両者の違いについて聞かれたことがあり答えに詰まった経験があります.その人は知った風に「糖質制限食ってアトキンス式ダイエットと同じものでしょ?アトキンスさんってそれやったあとにガンで死んだらしいよ.だから危険だよ.」という具合に言われました.当時はまだ勉強不足でしたので,正しく取り組めば危険どころか健康になるということを特に主張せずその会話は終えました.物事の実態を知ろうともせずに危険と決めつける現在の豊洲移転問題と重なりますね^^;


P. S. 私は材料工学の者なので分野は異なりますが,糖質制限食の効果をテーマにした研究は非常に興味深く,論文になるようなデータがたくさん眠っているのだろうなと思います.多くの学者,研究者,医者がこのテーマに取り組むことを願います.国際的なジャーナルにどんどん掲載されていけばその認知度・信頼度も高まっていくのではないでしょうか.
2016/12/10(Sat) 13:25 | URL | 九州の学生(博論執筆中) | 【編集
Re: お世話になっております
九州の学生(博論執筆中) さん

お久しぶりです。
お元気そうで何よりです。

博士論文、頑張って下さい。
2016/12/10(Sat) 16:16 | URL | ドクター江部 | 【編集
このまま続けていいのでしょうか...
江部先生
はじめまして、いつも先生のブログで勉強させて頂いております。
私は19歳の男性で、身長は179cm、体重は
87kgあります。
以前からメタボ体型にコンプレックスがあり、様々なダイエットを試すも失敗する日々の中で、1ヶ月ほど前に、江部先生のブログと出会いました。
先生が提案されているスーパー糖質制限を試してみたところ、はじめの1週間で2kgほど減量することに成功(水分が抜けたんですよね)し、続けること1ヶ月が経過しました。
しかし、2kg減量したあとは体重が全く上下せず、ネットなどで見かける人たちには1ヶ月も経過すればかなり減量している人の声もあがっており、自分にはスーパー糖質制限が合っていないのではないかと不安に感じております(個人差が大きいでしょうか?)。
私自身、体重が減らない原因として思い当たる点は3つあります。1つは、カロリーを摂り過ぎているのではないかということです。私の体重と身長から基礎代謝を調べてみると、2100kcalほどの数値になります。しかし、糖質制限ダイエットでは、極端でなければ摂取カロリーは気にしなくても良いとのことでしたので、私は毎日およそ2500kcalほど摂取してきました(タンパク質と脂質をを十分に摂ろうと思うと、それほどのカロリーになってしまうんです)。やはり、カロリーにも配慮するべきでしょうか。2つめは、運動不足です。私は通学と買い物などでしか歩くことはなく、毎日平均で2kmほどしか歩いていません。毎週3日は、自宅で自重トレーニングをすることにしていますが、やはり運動量が少ないのでしょうか。
3つめは、極端に糖質を制限しすぎたのではないかということです。わたしはスーパー糖質制限を実践してきた1ヶ月間、糖質は徹底的に排除するつもりで、毎日およそ5g以下の糖質量に抑えてきました。糖質は少ないことに越したことは無い、と考えた上でのことですが、これは正しい判断なのでしょうか。
長文失礼しました。これからも先生のブログを応援させていただきます。
よろしくお願いします。
2016/12/10(Sat) 20:40 | URL | 大学生 | 【編集
都内糖尿病教室参加して、、、。
都内河北 鈴木です。

本日参加した
東京都病院協会 公開講座
第10回 城西ブロック糖尿病教室
平成28年12月10日(土)
慶応義塾大学医学部 新教育棟 4階講堂
無料(どなたでも参加できます)

上記糖尿病教室参加したのは、糖質制限理論肯定論文を伊藤裕教授と発表している、
入江潤一郎医師の講義を聴く為でしたが、なんと的外れな講義内容でした。

他医師2人・管理栄養士なども既存の糖尿病知識講義でした。

私の糖尿病重症化した21年が3ヶ月足らずでインスリン離脱正常化、以降眼・脳に後遺症残しながらも糖尿病服用薬不要に生還できたのは江部先生・糖質制限理論食生活を実践したからです。

江部先生糖質制限理論は日本人なら日本の食生活に気付くべき事ばかりで、実践翌日から血糖自己測定器で即開眼しました。

私自身和食調理師で食材知識あり尚更理解早かったかと思います。

本日の糖尿病講義は病態改善への可能性ありません。
何故なら、世界解明された血糖値上昇根本原因・解明エビデンスなど一切説明しませんでした!!

江部先生ブログ・著書で学び、確認学習し改善以上、生還できた私だから明言できます!!

私からすれば病態苦しみ改善目指す患者へ、狂気の糖尿病教室講義でした!!

ハンナ・ア~レント
「凡庸なる悪」では説明できない、アイヒマン以上の犯罪です。
敬具










2016/12/10(Sat) 23:07 | URL | 都内河北 鈴木 | 【編集
先生、いつも情報発信ありがとうございます。
先日、とあるブログにて糖質制限における人体への悪影響が示されておりました。
たんぱく質の過剰摂取から腎機能の悪化、そして透析。
また糖質制限をすることによるAGEの発症など様々な記述がされていたので、不安になる方もいるのではないかと思いました。

私も何が本当なのかはわかりませんが、先生のご意見を聞かせて頂ければ幸いです。

ブログを貼っておきます。
http://ameblo.jp/hisayacchi/entry-12223638394.html
2016/12/11(Sun) 08:53 | URL | Taka | 【編集
Re: このまま続けていいのでしょうか...
大学生 さん

スーパー糖質制限食は、カロリー無制限ではありません。
厚生労働省のいう「推定エネルギー必要量」が目安です。

推定エネルギー必要量
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000041955.pdf


ビタミンCの摂取と食物繊維の摂取も必要なので、スーパー糖質制限食では野菜も食べます。
野菜分の糖質を主に、1回の食事の糖質量が、「10~20g」くらいになります。
2016/12/11(Sun) 09:39 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 都内糖尿病教室参加して、、、。
都内河北 鈴木 さん

それは、残念でした。
2016/12/11(Sun) 09:40 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: タイトルなし
Taka さん

ご指摘のサイトは、無根拠な内容です。

2013年10月、米国糖尿病学会は
「栄養療法に関する声明」において、糖質制限食を、地中海食やベジタリアン食などと共に
正式に容認しています。

このことにより、糖質制限食の有効性と安全性は、担保されたと言えます。
つまり米国糖尿病学会のお墨付きがあるということですね。
2016/12/11(Sun) 10:20 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: タイトルなし
http://ameblo.jp/hisayacchi/entry-12223638394.html


私もこの先生のご高説を承るべく,じっくりと読んでみました.
冷静に記述しようとしている努力は評価しますが,時々沸騰していますね.


> 糖質制限の記事は,「脅し」「恫喝」による言葉を使って,
> 糖質制限を推奨するものが多いです.
> そして全員が糖質制限をしなさい!,
> それ以外はダメだという内容の場合も多々あります.

では,カロリー制限はどうなのですか?
上記の文章の「糖質制限」を「カロリー制限食」に置き換えたものが,正に現状ではありませんか.


>国立国際医療研究センター研究所のホームページからです.
>⇒ 『糖質制限食による死亡リスク – メタアナリシスによる検証 』
>こちらは,全9件の論文,何と27万人以上を対象とした結果です.
>結論として低炭水化物食による長期的な効用は認めず,死亡リスクが有意に増加することが示唆されました.

例のPlosOne 能登論文ですね. エビデンスレベルが問題と言いながら,
全世界から袋叩きにあったBMJ論文を含むこのメタアナリシスをもって;

『27万人で検証された』

=だから最高のエビデンスだ,と言い切るのは,
果たして公正無私なドクターのすることでしょうか?
だってこの論文の著者 ご自身が『エビデンスレベルは低い』と認めているのですよ.
2016/12/11(Sun) 16:08 | URL | しらねのぞるば | 【編集
先生のご見解が聞けて安心致しました。
ありがとうございます。
2016/12/11(Sun) 20:51 | URL | Taka | 【編集
Re: Re: タイトルなし
しらねのぞるば さん

同感です。
ありがとうございます。
2016/12/12(Mon) 07:23 | URL | ドクター江部 | 【編集
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