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イヌイットと糖質制限食とがん
おはようございます。

炭水化物の摂取比率が増え、ジャンクフードを食べるようになるといった食生活の変化は、イヌイットの健康、特にがんについてどのような変化をもたらしたのでしょうか。

イヌイットと糖質制限食とがん

このテーマを調べていると、「ランセット・オンコロジー」2008年9月号に掲載された信頼度の高い論文にたどり着きました(**)。以下はランセット・オンコロジー掲載論文の要約です。

 『イヌイットは、アラスカ、カナダ北西、グリーンランドの極地に住んでいる。20世紀初頭まで、イヌイットには悪性腫瘍(がん)はほとんど存在しないと考えられてきた。しかし平均余命が延びることに伴い、ある特徴的なパターンが表れてきた。それは、EBウィルスに関連する鼻咽頭と唾液腺のがんのリスクが高く、白人に多い前立腺がん、精巣がん、造血器腫瘍(血液のがん)のリスクが低いというパターンだ。背景には、イヌイットの遺伝的・環境的要因が関係していると考えられる。

20世紀後半、イヌイットの社会はライフスタイル、生活環境に大きな変化が生じた。喫煙、食事、生殖に関わる要因が変化し、それに続いて肺がん、大腸がん、乳がんなどライフスタイルに関連するがんが大幅に増加した。このレビュー論文は、イヌイット集団におけるがん疫学に関する現在の知識を、イヌイット型のがんの特徴に重点を置いて要約したものである。』

 
ランセットは、英国の権威ある医学雑誌で、掲載誌は腫瘍学に特化したその姉妹誌です。この論文を基に、イヌイットとがんについて、糖質制限食の視点から考えてみたいと思います。

イヌイットの多くは、アラスカやカナダ、グリーンランドなどの極北地域に住んでいます。20世紀初頭まで約4000年間、小麦などの穀物や野菜はなく、糖質をほとんど取らない伝統的食生活を送っていました。まさにスーパー糖質制限食の実践例そのものと言えると思います。そしてそのころまでは、イヌイットには、がんはほとんど存在しなかったと考えられています。

その後の変化について、さらに(A)1950〜74年(B)75〜87年(C)88〜97年の三つの期間に分けて見てみたいと思います。

(A)、(B)、(C)の期間で、イヌイットの遺伝的、環境的要因から伝統的に多いがん「鼻咽頭(びいんとう)がん、唾液腺がん」と、生活習慣に関係のあるがん「肺がん、大腸がん、乳がん」の発生率を比較してみました。

「鼻咽頭がんと唾液腺がん」は、女性はあまり変化がなく、男性は少しだけ増加していました。一方、「肺がん、大腸がん、乳がん」は、(A)から(B)にかけて、男女共に倍以上に増加し、(B)から(C)にかけても、3〜4割増加していたのです。

 「イヌイットとがん」に関して、整理してみます。

(1)イヌイットが伝統的食生活(スーパー糖質制限食)を守っている時は、がんは少なかった。
(2)EBウイルス初感染以後、鼻とのどと唾液腺のがんが急速に増加した。
(3)食生活や社会生活などのライフスタイルの変化と共に、急速に生活習慣に関係のあるがん(肺がん、乳がん、大腸がんなど)が増えていった。

糖質制限食という視点から見ると、イヌイットが伝統的食生活(スーパー糖質制限食)を守っていたときは、生活習慣に関係のあるがんはほとんど見られませんでした。

一方、小麦などの穀物が入ってきて約50年経過したころ、今までイヌイットにほとんどなかった、肺がん、大腸がん、乳がんなど生活習慣に関係のあるがんが増えてきました。

もちろん、たばこや飲酒の浸透も大きく影響したと思われます。しかし重要な鍵の一つである日常的な食生活について、最も大きな変化は、炭水化物の摂取比率の大幅な上昇だと思います。

近年の研究から、がん細胞のエネルギー源はブドウ糖だけであり、正常細胞のように脂肪酸やケトン体をエネルギー源にできないということが分かってきました。

そしてイヌイットとがんの歴史を振り返ってみると、生活習慣と関係のあるがんに関してはスーパー糖質制限食で予防できる可能性が高いと思われます。スーパー糖質制限食なら食後血糖値の上昇と高インスリン血症という酸化ストレスリスクが生じないのもがん予防において大きな利点です。

酸化ストレスは、糖尿病合併症・動脈硬化・老化・がん・アルツハイマー病・パーキンソン病・白内障などの元凶とされ、糖質セイゲニストにおいてはこれらの病気の予防も期待できるので、糖質制限食はまさに人類本来の食事、人類の健康食と言えます。


参考:
(**)Lancet Oncol. 2008 Sep;9(9):892-900.Cancer patterns in Inuit populations.Friborg JT, Melbye M.Department of Epidemiology Research, Statens Serum Institut, Copenhagen, Denmark.

テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
ちょっと疑問です
体質的に?EBウィルスに免疫が少なかったイヌイットが初感染後、上咽頭癌等が増えた事は理解出来ます。EBウィルス等のウィルス由来のガンも他の癌同様、糖質を餌にしていることには変わりないですよね?

生活習慣病的な癌の様に、未然に防ぐ事は難しくとも、糖質が少ないイヌイットの様な生活は、癌の進行を妨げる効果はあると感じるのですが如何ですか?




2016/11/11(Fri) 08:27 | URL | さわ | 【編集
食後高血糖と運動についてお伺いいたします。食後一時間が190になることがあるので、境界型と診断されました。そこで週に三回、水中ウオーキングを1時間(合計週3時間)行うようにして3ヶ月たちました。今日、久しぶりに白米を食べて血糖値を計ったところ、170はいくだろうと思いましたが、125でした。運動を継続することで血糖値の上昇を抑えられるのでしょうか。
2016/11/11(Fri) 12:56 | URL | ココア | 【編集
Re: ちょっと疑問です
サワさん

感染症型のがんに関しては、糖質制限食でも予防はできません。

子宮頸がん(ヒトパピローマウィルス)、肝がん(B型肝炎ウィルス)、胃がん(Hピロリ菌)などです。

糖質制限食でも、ウィルスやピロリ菌は、駆逐できないからです。
ウィルスや細菌による慢性炎症が細胞を壊しそれを修復するたびに遺伝子のエラーが生じやすく、
それが蓄積して発がんとなります。

一方、例えば、胃がんを発症して末期と言われても、ケトン食で生存しているヒトはいます。
「こたろうのブログ」を参照してみてください。

2016/11/11(Fri) 16:08 | URL | ドクター江部 | 【編集
面白いです。
江部先生こんちちは!2型糖尿病42歳2児の母ぷーさんと言います。
5歳になる長男は、幼稚園に入るまではほぼスーパー糖質制限で、幼稚園に入ってからは給食の関係でプチかスタンダードになりました。うちの家系には大きな体格の人は一人もいないのですが、長男は年中で一番大きです。6歳児の平均だと言われています。糖質制限だとあまり大きく育たないかも!?と聞いた覚えがあるのですが、うちの場合は糖質制限で大きくなった気がします。7ヶ月の娘は母乳と離乳食ですが、スーパー糖質制限です。私と同様爪の伸びが早いです。
今まで夜泣きを一度もしたことが無くとても助かっています。因みに主人は昼のみこんにゃくラーメンでメタボ脱出です。
江部先生のお陰で家族皆健康です、有り難うございます。
寒くなって来たのでお体ご自愛ください。

2016/11/11(Fri) 16:09 | URL | ぷーさん | 【編集
Re: タイトルなし
ココア さん

運動を継続することで、
筋肉細胞のブドウ糖の取り込みが良くなります。

今までと同じ量のインスリンが分泌されても、より多くのブドウ糖が取り込めます。
2016/11/11(Fri) 16:10 | URL | ドクター江部 | 【編集
ありがとうございます。継続していきます。
2016/11/11(Fri) 16:16 | URL | ココア | 【編集
誤解があってはいけないので
こたろうさんは末期だったのではなく、胃癌の全摘手術後の再発予防の為にケトン食を頑張っておられる方です。
2016/11/11(Fri) 16:49 | URL |  | 【編集
つまり
ピロリ菌などの感染が原因のガンは予防は出来ないが、増幅は抑える可能性があると言う事でしょうか?
2016/11/11(Fri) 17:54 | URL | サワ | 【編集
Re: 誤解があってはいけないので
以下、こたろうさんのブログの記載です。

http://ameblo.jp/yujikiyokotaro003/
こたろうのブログ
胃癌で手術後に予後不良との宣告を受けてから5年経過し、なんとかサバイバーになれました。
せっかくケトン食で成功したのだから、これからもそのことを中心に書いていこうと思います。

2016/11/12(Sat) 08:06 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: つまり
サワ さん

あくまでも仮説ですがそのように思います。

こたろうさんは、胃癌で手術後に、予後不良と宣告されてますので、
転移の可能性が高かったのだと推測されます。

その後、ケトン食で5年間経過ですので、サバイバーということになります。
転移がんが、ケトン食でコントロールできた可能性があります。
2016/11/12(Sat) 08:12 | URL | ドクター江部 | 【編集
どちらにせよ
糖質制限で免疫力アップすれば、感染にも強くなりますし、様々な意味で癌予防になりますね。
癌になるまでは、しっかり糖質制限。
万が一、なってしまったら、ケトン食!ですねヽ(o´∀`o)ノ
2016/11/12(Sat) 08:32 | URL | サワ | 【編集
糖質制限(高タンパク高脂肪食)と子宮頸癌死亡率に関して
医薬ビジランスセンターの浜六郎理事長が
「性の健康財団市民講座における講演記録(2015年6月)」
http://npojip.org/chk_tip/No65-file10.pdf
において、次のようなデータを書かれています。

p.57スライド16
『子宮頸がん死亡率は脂質摂取で減る:「スライド 16」
このスライドは脂質の摂取量の推移です。戦後、脂質の摂取量は増えました。脂質の摂取量が増えるにしたがって子宮頸癌死が減ってきたのです。この相関係数を求めると 20代から 50 代までは軒並み 0.95 以上。非常にきれいな相関を示しています。とかく若い女性は極端なダイエットで野菜だけ、脂質もタンパク質も極端に少なくしがちですが、それは極めて危険です。栄養不良のために持続感染になり、子宮頸がんに罹ってしまう。したがって、最良の予防手段は、感染に強くなること。そのためには十分な脂質、タンパク質の摂取と睡眠です。
脂質とタンパク質が低下すると細胞の機能や構造が劣化します。細胞膜はリン脂質やコレステロールなどの脂質とタンパク質でできています。むしろ、ほとんどが脂質でできていると言っても過言ではありません。したがって、脂質が足りなくなればウイルスの侵入を許してしまうことになります。脂質やタンパク質を摂取すると細菌やウイルスの侵入をブロックしてくれる。』
2016/11/12(Sat) 09:28 | URL |  | 【編集
はじめまして
 はじめまして。こたろうと申します。先生の仰る解釈がまさにピッタリです。

 私は胃の全摘出手術を受けた時に、ステージは3Aと診断されました。理由は、悪性度の高い低分化腺癌であることと、残胃癌の摘出手術だったからということでした。

 私は若い頃に、胃穿孔の緊急手術をしたことがあり、血管の再結合も大雑把だった(ちぐはぐに結びついた)らしいのです。こういったケースで胃癌ができると、近くから順番でなく、とんでもなく遠く(遠隔転移)まで転移することがあるそうなのです。実際に私と似たケースで、首の付け根のリンパ節まで転移した例があると、主治医が仰っていました。予後は不良であるという手術前の説明書は今でも手元にあります。

 執刀医(主治医)の手術の腕は抜群で、すべて手術時に取りきれたのかもしれません。しかし微小な転移細胞をケトンが抑えている可能性も充分あると思っています。主治医も5年間無事に過ぎるまではとても警戒していました。

 私は経過観察の1年め頃に、腫瘍マーカー(CEA)が基準値を越えて上昇してきてしまい、それから先生のブログを読み糖質制限食を始めました(先生の本を参考に) そうしたら驚くことにマーカーが下ってきたのです。結局、グルコーススパイクが原因の偽陽性だったようです。それが糖質制限で安定し、膵臓の細胞も落ち着いたからだと私は解釈しています。

 私は状況上、このままずっとケトン食を続けることになりそうです。長期のケトン食は、先例があまり見つからないので不安もありますが、副作用などに気を付けながら是非成功していきたいです。幸いに現在の体調はとても良く、異常はどこにもありません。先生もいつまでも頑張って、生涯現役でいてください。長文失礼いたしました。
2016/11/12(Sat) 09:35 | URL | こたろう | 【編集
Re: 糖質制限(高タンパク高脂肪食)と子宮頸癌死亡率に関して
貴重な情報をありがとうございます。
2016/11/12(Sat) 17:33 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: はじめまして
こたろう さん

コメントをありがとうございます。

「こたろうのブログ」
視ています。
とても参考になります。

胃がんステージ3A期の5年生存率は50%程度とされているので
サバイバー、おめでとうございます。

私の本が参考になったとは、嬉しいです。

2016/11/12(Sat) 17:38 | URL | ドクター江部 | 【編集
ありがとうございます
 私が糖質制限を知るきっかけとなった江部先生には、命の恩人だと思って感謝しております。当時、先生の著書を必死で繰り返し読んだものです。現在はケトン食に移行していますが、saikoさんとともに必ず成功させるつもりです。先生もお体を大切に、これからも頑張ってください。
2016/11/12(Sat) 18:58 | URL | こたろう | 【編集
Re: ありがとうございます
こたろう さん

お互い、ケトン体回路で、元気に生きていきましょう。
2016/11/13(Sun) 07:39 | URL | ドクター江部 | 【編集
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