2016年10月02日 (日)
【16/10/02 コンタ
まだ先生が言及なさっていない、糖質制限を否定する根拠の一つについて
江部先生
はじめまして。
桐山秀樹さんが亡くなった際、先生の「高血糖の記憶」の説明を「言い訳」と断定し、聞く耳を持たなかった人が居たことは記憶に新しいです(そして、その人が桐山秀樹さんが糖質制限を中止していたことを知っているかも疑問です)。
どうかそのような人達が、ケトン体の安全性を確認する日が来てほしいものですね。
さて、本日は一つ先生に確認して頂きたいことがございましてコメントを投稿させて頂きました。「糖質制限とコルチゾールの関係について」です。ブログ内を探してみたところ、まだ言及をなさっていないことに気付いたので、よい機会なのでお伺いしてみようかと思ったのです。
糖質制限を否定する方の中に「糖質制限をすると糖新生のためにコルチゾールが分泌され、インスリン抵抗性が上がり、かえって糖尿病を発症するリスクが高まる」と主張する人が散見されます。しかし、高校で生物を少し学んだことのある私は、この主張に強い疑問を覚え、以下のような推測をしました。
(今回のお伺いとは無関係ですが、「糖質制限や食事回数の削減を行うと、少量の糖質に対しても過剰にインスリンが分泌されるようになり、結果膵臓のランゲルハンス島β細胞が疲弊し、糖尿病に至る」と主張する方もおられました)
・確かに血糖値が下がると糖質コルチコイドの一つとしてコルチゾールが分泌されるが、血糖値が安定すればコルチゾールの分泌は抑制され、元のホルモンバランスに戻る。
・コルチゾールが分泌されるとインスリン抵抗性が上がるというのは、コルチゾール自体がインスリンの働きを抑制するのであって、コルチゾール自体が直接インスリン感受性にダメージを与えるのではないため、上の通りに血糖値とホルモンバランスが安定すれば全くの無問題である。
上記の私の推測は正しいでしょうか。そして結局、糖質制限を行うことががかえって糖尿病のリスクを上げることになるのでしょうか。
この、「糖質制限とコルチゾールの関係について」がはっきりしないために、糖質制限を断念するという方は多いはずですので、是非先生の意見をお聞きしたいです。
失礼致しました。】
コンタ さん
副腎皮質からのコルチゾール分泌は、視床下部-下垂体-副腎皮質系のnegative feedback機構により調節されています。
例えば生体は、ストレス(飢餓、寒冷、外傷など)があると、下垂体のACTH分泌を介して、副腎皮質からのコルチゾール分泌を促し、
糖新生で血糖値が上昇します。コルチゾールには糖新生作用があります。
『・確かに血糖値が下がると糖質コルチコイドの一つとしてコルチゾールが分泌されるが、血糖値が安定すればコルチゾールの分泌は抑制され、元のホルモンバランスに戻る。
・コルチゾールが分泌されるとインスリン抵抗性が上がるというのは、コルチゾール自体がインスリンの働きを抑制するのであって、コルチゾール自体が直接インスリン感受性にダメージを与えるのではないため、上の通りに血糖値とホルモンバランスが安定すれば全くの無問題である。』
コンタ さんのお考えに、私も賛成です。
糖質制限食で、血糖変動幅が極めて少なくなり、全身の代謝が安定するので、コルチゾールをはじめ全身のホルモンバランスも安定すると考えられます。
糖質制限食を続けている場合、インスリン基礎分泌は普通に必要ですが、インスリン追加分泌は少量で済みます。
従って、膵臓のβ細胞は休養できるので疲弊はしません。
糖質制限食は、人類700万年間の狩猟・採集時代の食生活であり、人類本来の食事で、人類の健康食と言えます。
狩猟・採集時代は、やはりインスリンの基礎分泌は必要ですが、追加分泌は時々程度だったと考えられます。
ブドウ糖しかエネルギー源にできない赤血球のために、人体には血糖値確保のためのバックアップシステムが複数あります。
これに対して、血糖値を下げるのは唯一インスリンのみであり、バックアップシステムがありません。狩猟・採集時代の700万年間は血糖が上がるのは、時々手に入った野生の果物、ナッツ類、根茎類を摂取したときくらいであり、このときに追加分泌インスリンが必要だった程度です。
このように、700万年間、インスリン追加分泌は時々必要だった程度なので、わざわざバックアップシステムを構築する必然性がなかったと考えられます。
<血糖値確保のためのバックアップシステム>
1)グルカゴン
2)アドレナリン→ストレスで分泌増加
3)コルチゾール→ストレスで分泌増加
4)成長ホルモン
5)アミノ酸からの糖新生
6)グリセロール(中性脂肪の分解産物)からの糖新生
7)乳酸から糖新生
<血糖値を下げるのはインスリンだけ>
現代のように糖質を、頻回に摂取し、「血糖値上昇とインスリン大量分泌」を頻回に生じるとβ細胞は疲弊していき、インスリン分泌能力が低下して、40年、50年経過していくとで糖尿病発症となると考えられます。
700万年間、さほど働いていなかったβ細胞が、農耕開始後1万年間は、結構、毎日稼働し始めて、とくに精製炭水化物摂取後のこの200~300年は、朝昼晩、3時のおやつ、夜食のラーメンと、馬車馬の如く働きづめです。
現代の食生活は、膵臓のβ細胞にとって、まさに受難の時代と言えます。
2型糖尿病は、狩猟・採集時代の700万年間は存在しなかった病気であり、農耕開始(穀物食開始)以降に生じた新しい病気と考えられます。
江部康二
まだ先生が言及なさっていない、糖質制限を否定する根拠の一つについて
江部先生
はじめまして。
桐山秀樹さんが亡くなった際、先生の「高血糖の記憶」の説明を「言い訳」と断定し、聞く耳を持たなかった人が居たことは記憶に新しいです(そして、その人が桐山秀樹さんが糖質制限を中止していたことを知っているかも疑問です)。
どうかそのような人達が、ケトン体の安全性を確認する日が来てほしいものですね。
さて、本日は一つ先生に確認して頂きたいことがございましてコメントを投稿させて頂きました。「糖質制限とコルチゾールの関係について」です。ブログ内を探してみたところ、まだ言及をなさっていないことに気付いたので、よい機会なのでお伺いしてみようかと思ったのです。
糖質制限を否定する方の中に「糖質制限をすると糖新生のためにコルチゾールが分泌され、インスリン抵抗性が上がり、かえって糖尿病を発症するリスクが高まる」と主張する人が散見されます。しかし、高校で生物を少し学んだことのある私は、この主張に強い疑問を覚え、以下のような推測をしました。
(今回のお伺いとは無関係ですが、「糖質制限や食事回数の削減を行うと、少量の糖質に対しても過剰にインスリンが分泌されるようになり、結果膵臓のランゲルハンス島β細胞が疲弊し、糖尿病に至る」と主張する方もおられました)
・確かに血糖値が下がると糖質コルチコイドの一つとしてコルチゾールが分泌されるが、血糖値が安定すればコルチゾールの分泌は抑制され、元のホルモンバランスに戻る。
・コルチゾールが分泌されるとインスリン抵抗性が上がるというのは、コルチゾール自体がインスリンの働きを抑制するのであって、コルチゾール自体が直接インスリン感受性にダメージを与えるのではないため、上の通りに血糖値とホルモンバランスが安定すれば全くの無問題である。
上記の私の推測は正しいでしょうか。そして結局、糖質制限を行うことががかえって糖尿病のリスクを上げることになるのでしょうか。
この、「糖質制限とコルチゾールの関係について」がはっきりしないために、糖質制限を断念するという方は多いはずですので、是非先生の意見をお聞きしたいです。
失礼致しました。】
コンタ さん
副腎皮質からのコルチゾール分泌は、視床下部-下垂体-副腎皮質系のnegative feedback機構により調節されています。
例えば生体は、ストレス(飢餓、寒冷、外傷など)があると、下垂体のACTH分泌を介して、副腎皮質からのコルチゾール分泌を促し、
糖新生で血糖値が上昇します。コルチゾールには糖新生作用があります。
『・確かに血糖値が下がると糖質コルチコイドの一つとしてコルチゾールが分泌されるが、血糖値が安定すればコルチゾールの分泌は抑制され、元のホルモンバランスに戻る。
・コルチゾールが分泌されるとインスリン抵抗性が上がるというのは、コルチゾール自体がインスリンの働きを抑制するのであって、コルチゾール自体が直接インスリン感受性にダメージを与えるのではないため、上の通りに血糖値とホルモンバランスが安定すれば全くの無問題である。』
コンタ さんのお考えに、私も賛成です。
糖質制限食で、血糖変動幅が極めて少なくなり、全身の代謝が安定するので、コルチゾールをはじめ全身のホルモンバランスも安定すると考えられます。
糖質制限食を続けている場合、インスリン基礎分泌は普通に必要ですが、インスリン追加分泌は少量で済みます。
従って、膵臓のβ細胞は休養できるので疲弊はしません。
糖質制限食は、人類700万年間の狩猟・採集時代の食生活であり、人類本来の食事で、人類の健康食と言えます。
狩猟・採集時代は、やはりインスリンの基礎分泌は必要ですが、追加分泌は時々程度だったと考えられます。
ブドウ糖しかエネルギー源にできない赤血球のために、人体には血糖値確保のためのバックアップシステムが複数あります。
これに対して、血糖値を下げるのは唯一インスリンのみであり、バックアップシステムがありません。狩猟・採集時代の700万年間は血糖が上がるのは、時々手に入った野生の果物、ナッツ類、根茎類を摂取したときくらいであり、このときに追加分泌インスリンが必要だった程度です。
このように、700万年間、インスリン追加分泌は時々必要だった程度なので、わざわざバックアップシステムを構築する必然性がなかったと考えられます。
<血糖値確保のためのバックアップシステム>
1)グルカゴン
2)アドレナリン→ストレスで分泌増加
3)コルチゾール→ストレスで分泌増加
4)成長ホルモン
5)アミノ酸からの糖新生
6)グリセロール(中性脂肪の分解産物)からの糖新生
7)乳酸から糖新生
<血糖値を下げるのはインスリンだけ>
現代のように糖質を、頻回に摂取し、「血糖値上昇とインスリン大量分泌」を頻回に生じるとβ細胞は疲弊していき、インスリン分泌能力が低下して、40年、50年経過していくとで糖尿病発症となると考えられます。
700万年間、さほど働いていなかったβ細胞が、農耕開始後1万年間は、結構、毎日稼働し始めて、とくに精製炭水化物摂取後のこの200~300年は、朝昼晩、3時のおやつ、夜食のラーメンと、馬車馬の如く働きづめです。
現代の食生活は、膵臓のβ細胞にとって、まさに受難の時代と言えます。
2型糖尿病は、狩猟・採集時代の700万年間は存在しなかった病気であり、農耕開始(穀物食開始)以降に生じた新しい病気と考えられます。
江部康二
番組表を見ていたら、8日(土)午後7時半からのNHKスペシャル「血糖値スパイク が危ない~見えた!糖尿病・脳梗塞の新対策」とありました。(日にち、時刻は愛知県のもの)
2016/10/03(Mon) 00:56 | URL | デュピュイ取るモバイル | 【編集】
先生、こんばんは。先ほど投稿した、NHKスペシャルについては、既にコメントありましたね。失礼しました。
2016/10/03(Mon) 01:49 | URL | デュピュイ取るモバイル | 【編集】
はじめまして、妊娠7週目の妊婦です。私は、妊娠前から妊娠5周目まで、糖質量を1日30gに押さえていました。今妊婦がわかり、子供の脳の形成時期に糖質を制限したことが、脳の形成上、問題があるのではと不安になっています。。脳に異常等起こる可能性はありますか?
2016/10/03(Mon) 03:17 | URL | | 【編集】
妊娠おめでとうございます。
妊婦が糖質制限しても何の問題もありません。
すでに多くの妊婦が「宗田マタニティークリニック」や「永井マザースホスピタル」で
糖質制限食で出産しています。
人類は、700万年間の狩猟・採集時代は、糖質制限食で、妊娠・出産・子育てをしていたことをお忘れなく。
妊婦が糖質制限しても何の問題もありません。
すでに多くの妊婦が「宗田マタニティークリニック」や「永井マザースホスピタル」で
糖質制限食で出産しています。
人類は、700万年間の狩猟・採集時代は、糖質制限食で、妊娠・出産・子育てをしていたことをお忘れなく。
2016/10/03(Mon) 07:10 | URL | ドクター江部 | 【編集】
江部先生
懇切丁寧な回答ありがとうございます。
おかげで自分の推測がおかしくはないことをより一層確信することが出来ました。
今後先生が益々ご活躍なさることをお祈り致します。
懇切丁寧な回答ありがとうございます。
おかげで自分の推測がおかしくはないことをより一層確信することが出来ました。
今後先生が益々ご活躍なさることをお祈り致します。
2016/10/04(Tue) 01:21 | URL | コンタ | 【編集】
| ホーム |