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「急速な血糖値・HbA1c改善」と網膜症悪化。糖質制限食ならOK。
おはようございます。

「急速な血糖値・HbA1cの改善により、網膜症の一時的な悪化や眼底出血を起こすことがある」

という従来からの定説があります。

確かに、インスリン注射やSU剤などにより急速に血糖値が改善した場合、改善速度が速いほど、網膜症の悪化率が高かったという論文報告があります。

実際に日常臨床上、糖尿人を診察しておられる医師においては経験があることと思われます。

とは言え、一時的な悪化はあっても、長期的には血糖コントロールが良い方が網膜症にも良いということも報告されています。

それでは 糖質制限食によって、血糖値が急速に改善した場合はどうなのでしょう?

網膜症の悪化や眼底出血の心配はないのでしょうか?

実は当初、私達も糖質制限食でインスリン注射以上に速やかに血糖コントロールが良くなるので、このことを懸念していました。

幸い、1999年、高雄病院で糖質制限食開始以来の経験で、糖質制限食による改善では基本的に網膜症の悪化はありませんでしたので、今は全く心配はしていません。

しかし、

(A)インスリン注射やSU剤による急速なHbA1c改善:網膜症悪化や眼底出血あり。
何故、網膜症の悪化や眼底出血があるのか、現時点では原因不明。

(B)糖質制限によるより急速なHbA1c改善:網膜症の悪化なし
こちらも、何故、網膜症が悪化しないのか現時点では理由は不明。


同じようにHbA1cが改善するのに、なぜこうも違うのか、疑問が残ります。

平均血糖値(HbA1c)が同じように良くなるにもかかわらず、インスリンやSU剤の投与による場合と糖質制限食による場合で、このように明暗がわかれるのには、必ず理由があるはずです。

それで、以下、あくまでも仮説ですが考察してみました。

以前は、長年にわたって血糖コントロールの評価基準として、空腹時血糖値とHbA1cが使用されてきました。

しかし、近年の信頼度の高い研究により、空腹時血糖値とHbA1cがコントロール良好でも、糖尿病合併症は防げないことがわかってきたのです。

それどころか、糖質を普通に摂取しながら、インスリン注射やSU剤で厳格に治療すると、総死亡率が上昇するという信頼度の高いエビデンスが報告されました。(*)

すなわち、食後高血糖と平均血糖変動幅の増大が、最大の酸化ストレスリスクであり、糖尿病合併症の元凶ということがわかってきたのです。

空腹時血糖値とHbA1cだけによる評価では、食後高血糖と平均血糖変動幅の増大は全く知ることができないのです。

人体は、酸化反応と抗酸化反応のバランスがとれていると、正常に機能します。

酸化反応が抗酸化反応を上まわった状態を酸化ストレスといいます。

酸化ストレスが、糖尿病合併症・動脈硬化・老化・癌・アルツハイマー・パーキンソン等、様々な疾病の元凶とされています。

このことは、世界中の医学界において、認められています。

糖質を普通に摂取しながら、インスリンやSU剤で厳格に治療してHbA1cを急速に下げると、低血糖も生じやすくなるし、平均血糖変動幅の増大も必発となります。

つまり、(A)の場合は、見かけ上はHbA1cは急速に改善したように見えても、その実態は、「低血糖」と「平均血糖変動幅増大」という最大の酸化ストレスリスクをともなう『質の悪いHbA1c』だったのです。

従って、網膜症悪化や眼底出血を生じた可能性が高いのです。

世界的眼科外科医の深作秀春先生も私と同意見で、以下のコメントを頂きました。(**)

『まだ、糖尿病性網膜症が軽いので、糖尿病内科の専門医に糖尿病治療を委ねましょうと紹介します。
そして、内服薬やインシュリンなどを使って、内科医は急速に血糖を下げようとするのです。
食事療法でカロリー制限もしていますが、糖質のご飯は同様に食べさせています。
つまり、ご飯を食べて高血糖になり、それをインシュリンで無理やり下げると言う「血糖のジェットコースター」状態となります。
その結果1か月もすると、糖尿病性網膜症は良くなるどころか、どんどん悪化しているのです。』


一方、(B)糖質制限食でHbA1cが改善した場合には、薬も使用していないので、「低血糖」も「平均血糖変動幅増大」もない『質のいいHbA1c』なのです。

そのため急速なHbA1c改善にもかかわらず、網膜症の悪化がないと考えられます。

これらにより、糖質制限食の場合、急速な血糖値改善にもかかわらず、網膜症の悪化が生じにくいと考えられます。

既にインスリン注射やSU剤を内服していて、ある時に糖質制限食を開始して、血糖値・HbA1cが急速に改善していく場合も、インスリン注射やSU剤の量は基本的に減量されていくし、代謝全般も改善されていくので、糖尿病網膜症は起こりにくいと思います。

糖質を摂取して、インスリンやSU剤の効能だけに依存して血糖値を下げた場合と、糖質制限食で薬物に頼らずに自然に血糖値が改善した場合との差、すなわち「低血糖、食後高血糖、平均血糖変動幅増大」の酸化ストレスリスクが、両者で全く異なることがお解りいただけたでしょうか。

なお、過去の高血糖のため、すでに糖尿病網膜症が存在している時は、糖質制限食で血糖コントロール良好を維持していれば糖尿病網膜症の進行は、徐々に止まると思います。

そして時間をかけて、ある程度改善する可能性はあります。

しかし、糖質制限食で血糖コントロール良好となっても、既存の糖尿病網膜症が、メキメキ治るわけではありませんので、念のため。

それから、一定の糖尿病罹病期間があって、血糖コントロールが悪かったけれど、その時点では網膜症はないと言われていた人が、糖質制限食を開始して血糖コントロール良好となり、数ヶ月後眼底検査をしたら軽症単純網膜症が発見された、というようなことがまれにあります。

これは糖質制限食開始時点で既に潜在的な網膜症はあったのが、時間的経過で顕在化したもので、高血糖の記憶(***)によるものと思われます。

すなわち糖質制限食で網膜症になったのではなく、過去の高血糖の借金が顕在化したものと思われます。

以上、仮説の段階ではありますが、それなりに説得力のある説明と自負しています。


(*)2011/07/18 の本ブログ記事
「ACCORD試験の死亡リスクと低血糖とSMBGサブ解析2011」
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-1741.html
をご参照ください。

(**)2016年05月09日 (月)の本ブログ記事
「眼科・深作秀春先生のコメント。糖尿病専門医の治療で網膜症が悪化。」
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3791.html
をご参照ください。

(***)2010-11-14のブログ
「高血糖の記憶とAGE」
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-1432.html
をご参照ください。



江部康二



テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
あまりに酷い批判はやっつける
江部先生、お久しぶりです。
以前コメ欄におじゃましていた50代糖尿人おばさんです(目と腎臓と神経に合併症有り)。

糖質制限で5年位うまくコントロールしていましたが(旧HbA1c12.6でしたが5.3~6に)、自分でも思いがけなく糖質を摂り糖毒に陥り、HbA1cが9や11まで悪くなってはまたやり直し、です。ここ1年半の間です。
先生の著書にありますように、やはりだんだん元に戻るのが難しくなりますね。反省というより、「お前(自分)は阿呆か」という気持ちです。
元々体が弱いですし、AGEも相当高いと思うので、悪い例になって申し訳ない気持ちですが、まだ正常に近くなるように実践してます。

目は最初は視力がガタ落ちで、モザイクをかけたように見えたり、ほとんど見えない日もありましたが、なぜか「大丈夫」と思えて、3か月位で落ち着きました。検査で網膜症そのものは酷くなく、近視が酷くなっただけでした(白内障もあり)。

腎臓の数値は悪くなってません。時々蛋白が出ますが、これは子供の頃からで元々腎臓は強くないのでしょう。
神経障害は、足もですが体のあちこちが痛くて、更年期もありますし、よくわかりません。糖毒で痛みが酷くなるのはあるでしょうけど。

病院の担当医は私が何度「糖質制限してます」と言っても「ご飯を250グラム食べなさい」と言います(笑)。検査結果以外は諦めてます。が、今月末に行ったら「日本糖尿病学会の権威が糖質制限やってるそうですね」と言ってやろうと思ってます。


ところで、先生の著書のAmazonレビューで酷いのがありますね。
目にあまる理不尽なレビューは情報公開請求や削除依頼、誹謗中傷や名誉毀損で訴えた方がいいと思います。
先生がそのおつもりがなくても、糖質制限で命が救われた方々は、もっと批判するべきです。

2016/09/16(Fri) 19:19 | URL | mon | 【編集
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