2016年03月22日 (火)
おはようございます。
今回は、質問もありましたので
DPP-4阻害剤(ジャヌビア、トラゼンタ、ネシーナ、エクアなど)と
SU剤(アマリール、グリミクロン、オイグルコンなど)の
作用機序の違いについて、考えて見ます。
さて、インクレチンがインスリン分泌を促す仕組みと、SU剤がインスリン分泌を促す仕組み(☆)は、異なっています。
まず、SU剤の作用機序です。
難しい箇所は省いて、超簡単に言うと、SU剤はβ細胞表面のSU受容体と結合して、カリウムチャンネルを閉じっぱなしにしてしまい、その結果カルシウムが細胞内に流入してインスリンを分泌させます。
この場合、SU剤の作用時間(12~24時間)の間は、血糖が高かろうが低かろうが関係なく、ずっとインスリンはだだ漏れ状態です。
だから低血糖が生じやすいのですね。
そして、インスリンを分泌しっぱなしのβ細胞が、疲弊していく可能性があるわけです。
まあ、人為的に無理矢理カリウムチャンネルを閉じて、β細胞を騙しているようなものですかね。
次にインクレチンです。
インクレチンは、食事摂取により消化管から分泌され、インスリン分泌を促進するホルモンで、上部小腸にあるK細胞から分泌されるGIPと、下部小腸にあるL細胞から分泌されるGlp1があります。
Glp1の主な生理作用はインスリン分泌促進作用ですが、それ以外に膵グルカゴン分泌抑制作用、消化管運動抑制作用、インスリン感受性亢進作用、そして膵β細胞保護・増殖作用が認められています。
GIPはGlp1に比べると作用は弱いとされています。
そして、Glp1やGIPを分解するDPP-4という酵素を阻害して分解を抑制し、血中濃度を上昇させて保つのがDPP-4阻害剤です。
つまり、通常の食事では半減期が2分で失活が早いインクレチンというホルモンを、DPP-4阻害薬によりDPP-4をブロックすることで、血中に保つわけです。
インクレチンは糖質や脂質を摂取すると消化管から分泌されて、β細胞のインクレチン受容体に作用してβ細胞内のサイクリックAMPを上昇させ、インスリン分泌の増幅経路に働きます。
こちらは、糖質を食べて血糖値が上昇し、β細胞内にとりこまれてATPが産生されて、カリウムチャンネルが閉じてカルシウムが細胞内に入ってきたときだけ、増幅経路に働いてインスリンを分泌させます。
血糖値が下がって108mg/dlくらいになると、β細胞はブドウ糖を取り込まなくなり細胞内カルシウムは増加しないので、インクレチン濃度が高くても増幅経路は作用せず、インスリンは分泌されません。
はてさて、どうころんでも、結構難しいお話しですね。 ε-(-Д-)
<糖質摂取後、インスリン分泌に到る流れ>
以下は、糖質摂取後、インスリン分泌に到る一連の流れです。
①糖質摂取→血糖値上昇→糖輸送体でβ細胞内にブドウ糖取り込み→β細胞内ATP上昇→Kチャンネル閉鎖→脱分極→カルシウムチャンネル活性化→細胞内カルシウム濃度上昇→インスリン分泌
上記の一連の流れの過程において、インクレチンによる「β細胞内サイクリックAMP上昇」が加わると『Kチャンネル閉鎖』や『カルシウムチャンネル活性化』が促進されインスリン分泌が増幅されます。
さらにサイクリックAMP上昇はインスリン分泌を直接促進させるとされています。
このようにインクレチンは、β細胞内サイクリックAMP上昇を増幅させてブドウ糖濃度が高いときにだけインスリン分泌を促します。
こういう作用機序なので、インクレチンは血糖値が高いときのみにインスリン分泌作用を有し、108mg/dl以下に血糖値が下がってきたらインスリン分泌作用がなくなるわけなので、単独使用では低血糖は理論的には起こりません。
またSU剤のように、24時間β細胞を鞭打つといった側面は皆無なので、β細胞も疲弊しないのだと思います。
なお2型糖尿人では、血中Glp1濃度の低下が認められ、膵β細胞におけるGlp1によるインスリン分泌の感受性も低いと言われています。
その意味では、DPP-4阻害剤は、初期の糖尿病患者には特に有効性が高い可能性があります。
江部康二
(☆)<SU剤の作用機序とブドウ糖刺激による一般的なインスリンの分泌経路>
血液中のブドウ糖濃度が上昇すると、ブドウ糖は膵臓のβ細胞の表面に発現するGLUT2(糖輸送体2)により、
細胞の中に取り込まれます。
取り込まれたブドウ糖は代謝を受け、ミトコンドリアでATP(エネルギー)が産生されます。
このATP濃度が増すと、β細胞表面のカリウムチャンネルが閉じます。
そうするとKが細胞外にでなくなり、細胞膜の脱分極が起こり細胞内外で電位差が生じます。
その結果、カルシウムチャンネルが活性化しカルシウムが細胞内に流入します。
カルシウム濃度が上昇すると、β細胞は活発になり、インスリンを分泌します。
この一連の流れが、ブドウ糖刺激による一般的なインスリンの分泌経路です。
SU剤は、カリウムチャンネルの一部を構成するSU受容体と結合して、ATP濃度とは無関係にカリウムチャンネルを閉じてしまいます。
SU剤によりカリウムチャンネルが閉じてしまえば、上述の一般的なインスリン分泌経路の一連の流れと同様に、
(Kが細胞外にでなくなり、細胞膜の脱分極が起こり細胞内外で電位差が生じ、カルシウムチャンネルが活性化し)
カルシウムが細胞内に流入しカルシウム濃度が上昇し、β細胞は活発になりインスリンを分泌します。
この場合、SU剤の作用時間(12~24時間)の間は、血糖が高かろうが低かろうが関係なく、ずっとインスリンはだだ漏れ状態です。
だから低血糖が生じやすいのです。
今回は、質問もありましたので
DPP-4阻害剤(ジャヌビア、トラゼンタ、ネシーナ、エクアなど)と
SU剤(アマリール、グリミクロン、オイグルコンなど)の
作用機序の違いについて、考えて見ます。
さて、インクレチンがインスリン分泌を促す仕組みと、SU剤がインスリン分泌を促す仕組み(☆)は、異なっています。
まず、SU剤の作用機序です。
難しい箇所は省いて、超簡単に言うと、SU剤はβ細胞表面のSU受容体と結合して、カリウムチャンネルを閉じっぱなしにしてしまい、その結果カルシウムが細胞内に流入してインスリンを分泌させます。
この場合、SU剤の作用時間(12~24時間)の間は、血糖が高かろうが低かろうが関係なく、ずっとインスリンはだだ漏れ状態です。
だから低血糖が生じやすいのですね。
そして、インスリンを分泌しっぱなしのβ細胞が、疲弊していく可能性があるわけです。
まあ、人為的に無理矢理カリウムチャンネルを閉じて、β細胞を騙しているようなものですかね。
次にインクレチンです。
インクレチンは、食事摂取により消化管から分泌され、インスリン分泌を促進するホルモンで、上部小腸にあるK細胞から分泌されるGIPと、下部小腸にあるL細胞から分泌されるGlp1があります。
Glp1の主な生理作用はインスリン分泌促進作用ですが、それ以外に膵グルカゴン分泌抑制作用、消化管運動抑制作用、インスリン感受性亢進作用、そして膵β細胞保護・増殖作用が認められています。
GIPはGlp1に比べると作用は弱いとされています。
そして、Glp1やGIPを分解するDPP-4という酵素を阻害して分解を抑制し、血中濃度を上昇させて保つのがDPP-4阻害剤です。
つまり、通常の食事では半減期が2分で失活が早いインクレチンというホルモンを、DPP-4阻害薬によりDPP-4をブロックすることで、血中に保つわけです。
インクレチンは糖質や脂質を摂取すると消化管から分泌されて、β細胞のインクレチン受容体に作用してβ細胞内のサイクリックAMPを上昇させ、インスリン分泌の増幅経路に働きます。
こちらは、糖質を食べて血糖値が上昇し、β細胞内にとりこまれてATPが産生されて、カリウムチャンネルが閉じてカルシウムが細胞内に入ってきたときだけ、増幅経路に働いてインスリンを分泌させます。
血糖値が下がって108mg/dlくらいになると、β細胞はブドウ糖を取り込まなくなり細胞内カルシウムは増加しないので、インクレチン濃度が高くても増幅経路は作用せず、インスリンは分泌されません。
はてさて、どうころんでも、結構難しいお話しですね。 ε-(-Д-)
<糖質摂取後、インスリン分泌に到る流れ>
以下は、糖質摂取後、インスリン分泌に到る一連の流れです。
①糖質摂取→血糖値上昇→糖輸送体でβ細胞内にブドウ糖取り込み→β細胞内ATP上昇→Kチャンネル閉鎖→脱分極→カルシウムチャンネル活性化→細胞内カルシウム濃度上昇→インスリン分泌
上記の一連の流れの過程において、インクレチンによる「β細胞内サイクリックAMP上昇」が加わると『Kチャンネル閉鎖』や『カルシウムチャンネル活性化』が促進されインスリン分泌が増幅されます。
さらにサイクリックAMP上昇はインスリン分泌を直接促進させるとされています。
このようにインクレチンは、β細胞内サイクリックAMP上昇を増幅させてブドウ糖濃度が高いときにだけインスリン分泌を促します。
こういう作用機序なので、インクレチンは血糖値が高いときのみにインスリン分泌作用を有し、108mg/dl以下に血糖値が下がってきたらインスリン分泌作用がなくなるわけなので、単独使用では低血糖は理論的には起こりません。
またSU剤のように、24時間β細胞を鞭打つといった側面は皆無なので、β細胞も疲弊しないのだと思います。
なお2型糖尿人では、血中Glp1濃度の低下が認められ、膵β細胞におけるGlp1によるインスリン分泌の感受性も低いと言われています。
その意味では、DPP-4阻害剤は、初期の糖尿病患者には特に有効性が高い可能性があります。
江部康二
(☆)<SU剤の作用機序とブドウ糖刺激による一般的なインスリンの分泌経路>
血液中のブドウ糖濃度が上昇すると、ブドウ糖は膵臓のβ細胞の表面に発現するGLUT2(糖輸送体2)により、
細胞の中に取り込まれます。
取り込まれたブドウ糖は代謝を受け、ミトコンドリアでATP(エネルギー)が産生されます。
このATP濃度が増すと、β細胞表面のカリウムチャンネルが閉じます。
そうするとKが細胞外にでなくなり、細胞膜の脱分極が起こり細胞内外で電位差が生じます。
その結果、カルシウムチャンネルが活性化しカルシウムが細胞内に流入します。
カルシウム濃度が上昇すると、β細胞は活発になり、インスリンを分泌します。
この一連の流れが、ブドウ糖刺激による一般的なインスリンの分泌経路です。
SU剤は、カリウムチャンネルの一部を構成するSU受容体と結合して、ATP濃度とは無関係にカリウムチャンネルを閉じてしまいます。
SU剤によりカリウムチャンネルが閉じてしまえば、上述の一般的なインスリン分泌経路の一連の流れと同様に、
(Kが細胞外にでなくなり、細胞膜の脱分極が起こり細胞内外で電位差が生じ、カルシウムチャンネルが活性化し)
カルシウムが細胞内に流入しカルシウム濃度が上昇し、β細胞は活発になりインスリンを分泌します。
この場合、SU剤の作用時間(12~24時間)の間は、血糖が高かろうが低かろうが関係なく、ずっとインスリンはだだ漏れ状態です。
だから低血糖が生じやすいのです。
DPP4阻害薬の作用機序について
食後、高血糖になる場合、2つの経路によってインスリンが分泌されることになるのだと思いますが。
①グルコース(GLUT2を介して膵臓のβ細胞に入る)によってATPが産生され、ATP感受性Kチャネルが閉鎖することによって脱分極し、電位依存性Ca2+チャネルが開口してCa2+イオンが流入することによってインスリンの分泌が促進される。
②インクレチンによってcyclic AMPが産生され、上述した過程により電位依存性Ca2+チャネルが開口してCa2+イオンが流入することによってインスリンの分泌が促進される。
108mg/dl以下に血糖値が下がってきた場合に、インスリン分泌作用がなくなるのは、①が働かなくなる(GLUT2は血中にグルコースが多いときにだけ輸送する)からだと思いますがいかがでしょうか。
食後、高血糖になる場合、2つの経路によってインスリンが分泌されることになるのだと思いますが。
①グルコース(GLUT2を介して膵臓のβ細胞に入る)によってATPが産生され、ATP感受性Kチャネルが閉鎖することによって脱分極し、電位依存性Ca2+チャネルが開口してCa2+イオンが流入することによってインスリンの分泌が促進される。
②インクレチンによってcyclic AMPが産生され、上述した過程により電位依存性Ca2+チャネルが開口してCa2+イオンが流入することによってインスリンの分泌が促進される。
108mg/dl以下に血糖値が下がってきた場合に、インスリン分泌作用がなくなるのは、①が働かなくなる(GLUT2は血中にグルコースが多いときにだけ輸送する)からだと思いますがいかがでしょうか。
2016/03/22(Tue) 22:04 | URL | オスティナート | 【編集】
オスティナート さん
オスティナート さんのお考えでよいと思います。
オスティナート さんのお考えでよいと思います。
2016/03/23(Wed) 07:53 | URL | ドクター江部 | 【編集】
糖質制限で質問なのですが、やってよかったというのと悪かったというブログがいくつかあります
ライザップで3週間糖質制限のレクチャー受けて実践した結果いい結果もあれど
性欲減退し生理が止まり寒さを異様に感じるようになりそれが一年も続いたという人がいます 生理が止まったのは医者にホルモンバランスが崩れたからと言われたらしいです、
他にも一度ホルモンバランスが崩れると元に戻すのは難しく、 性欲がなくなっていくと言う人がいます 何人かのブログで性欲がなくなったとか落ち着いてきたという人もいれば、それの反論で糖質による性欲が正常に戻っただけという人もいてわかりません
まぁ何人かは精力剤や情報商材のアフィリエイトしてるサイトの人ですが 実際のところ性欲、精力に関してはどうなのでしょうか? デメリットなのかどうか気になります
また最初の女性は結局糖質制限が向いてなかったのでしょうか?3週間以後もやっていたかはわかりませんが
ライザップで3週間糖質制限のレクチャー受けて実践した結果いい結果もあれど
性欲減退し生理が止まり寒さを異様に感じるようになりそれが一年も続いたという人がいます 生理が止まったのは医者にホルモンバランスが崩れたからと言われたらしいです、
他にも一度ホルモンバランスが崩れると元に戻すのは難しく、 性欲がなくなっていくと言う人がいます 何人かのブログで性欲がなくなったとか落ち着いてきたという人もいれば、それの反論で糖質による性欲が正常に戻っただけという人もいてわかりません
まぁ何人かは精力剤や情報商材のアフィリエイトしてるサイトの人ですが 実際のところ性欲、精力に関してはどうなのでしょうか? デメリットなのかどうか気になります
また最初の女性は結局糖質制限が向いてなかったのでしょうか?3週間以後もやっていたかはわかりませんが
2016/03/23(Wed) 12:42 | URL | matu | 【編集】
matu さん
糖質制限食で生じる好ましくない症状の、ほとんどが
脂質制限のための低エネルギーによるものです。
つまり「糖質制限+脂質制限=低エネルギー」ということです。
性欲減退し生理が止まり寒さを異様に感じる・・・これらも摂取エネルギー不足と思われます。
厚生労働省のいう推定エネルギー必要量を摂取していれば、
スーパー糖質制限食で有害事象がでることは、ありません。
性欲も改善することが多いですし、EDが治ったというコメントもありました。
ただ、糖質制限ができない場合や注意が必要な場合があるので、ご留意いただければ幸いです。
また、以下の本ブログ記事もご参照いただけば、幸いです。
「糖質制限食実践中に生じうる好ましくない症状・変化について」1)~7)
まで、記事で公開していますので、ご参照いただけば幸いです。
2013年10月22日 (火)
糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状について(1)
「全身倦怠感など」
2013年10月23日 (水)
糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状について(2)
「こむら返り」
2013年11月01日 (金)
糖質制限食実践中生じることがある好ましくない症状・変化(3)
「高尿酸血症」
2013年11月02日 (土)
糖質制限食実践中生じることがある好ましくない症状・変化(4)
「高LDL血症」
2013年11月03日 (日)
糖質制限食実践中生じることがある好ましくない症状・変化(5)
「摂取エネルギー不足によって生じうる症状」
2013年11月12日 (火)
糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状・変化(6)
「便秘について」
2013年11月16日 (土)
糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状・変化について(7)
「高血糖の記憶」
糖質制限食で生じる好ましくない症状の、ほとんどが
脂質制限のための低エネルギーによるものです。
つまり「糖質制限+脂質制限=低エネルギー」ということです。
性欲減退し生理が止まり寒さを異様に感じる・・・これらも摂取エネルギー不足と思われます。
厚生労働省のいう推定エネルギー必要量を摂取していれば、
スーパー糖質制限食で有害事象がでることは、ありません。
性欲も改善することが多いですし、EDが治ったというコメントもありました。
ただ、糖質制限ができない場合や注意が必要な場合があるので、ご留意いただければ幸いです。
また、以下の本ブログ記事もご参照いただけば、幸いです。
「糖質制限食実践中に生じうる好ましくない症状・変化について」1)~7)
まで、記事で公開していますので、ご参照いただけば幸いです。
2013年10月22日 (火)
糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状について(1)
「全身倦怠感など」
2013年10月23日 (水)
糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状について(2)
「こむら返り」
2013年11月01日 (金)
糖質制限食実践中生じることがある好ましくない症状・変化(3)
「高尿酸血症」
2013年11月02日 (土)
糖質制限食実践中生じることがある好ましくない症状・変化(4)
「高LDL血症」
2013年11月03日 (日)
糖質制限食実践中生じることがある好ましくない症状・変化(5)
「摂取エネルギー不足によって生じうる症状」
2013年11月12日 (火)
糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状・変化(6)
「便秘について」
2013年11月16日 (土)
糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状・変化について(7)
「高血糖の記憶」
2016/03/23(Wed) 14:30 | URL | ドクター江部 | 【編集】
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