2016年01月02日 (土)
こんばんは。
RIO さんから、マサイ族の伝統的食生活(牛乳・ヨーグルト・牛の生き血)と健康度についてコメント・質問をいただきました。
まず、マサイ族と同様に、野菜と果物の摂取が、ほぼ無かったイヌイットと比較してみます。
イヌイットが伝統的食生活の頃は、野菜と果物の摂取が、ほぼ無かったので結果として、ビタミンC摂取不足があり、新生児高チロシン血症と壊血病のリスクがありました。
動物の内臓や血液にもビタミンCは少量含まれていますが、野菜や果物に比べるとごく少量なのです。
マサイ族の伝統的食生活においても、ビタミンC摂取が少ないことが知られています。
しかし、マサイ族はイヌイットと異なり、新生児高チロシン血症と壊血病のリスクはなく、また貧血もありません。
伝統的食生活の頃のマサイ族の主たる食事は、牛乳とヨーグルトと牛の生き血なのですが、健康度は高かったようです。
今回は、以下の論文をもとに、マサイ族のビタミンC血中濃度などについて考えてみます。
①Low ascorbate status in the Masai of Kenya
The American Journal of Clinical Nutrition 27: MARCH 1974, pp. 3 10-314.
http://www.ajcn.org/cgi/reprint/27/3/310.pdf
①を参考にして、アフリカのマサイ族の食生活を、検討してみました。
マサイ族は、牛乳及びヨーグルトを2~3リットル/日摂取します。
毎日、何キロも歩いて牛の放牧をし、腰に牛乳を入れた『キブユ』という瓢箪(ひょうたん)をぶら下げて歩くので、数日間で自然醗酵され、ヨーグルトになります。このように、マサイ族の主食は、牛乳とヨーグルトです。
放牧しながら飲むとすれば、どちらかというと、2~3日経過した牛乳や発酵してヨーグルトになったものの方が、新鮮な牛乳よりも主となります。
これらだけの食料で不足する鉄分は、牛の生き血で補っています。牛の生き血は、週に数回、牛乳に混ぜて飲んでいます。
マサイ族は、野菜や果物は一切食べないそうですので、ビタミンCをどうやって摂取しているのか不思議です。
ビタミンCは、ヒトは体内で合成できないので、必ず食物から摂取することが必要です。
牛は財産ということで、殺したりしませんので、牛肉も食べません。
山羊や羊も飼っていて、こちらは、お祝い事や家族に病人が出て、栄養をつけたいときに食べるそうです。
この時、山羊の生レバや生小腸も食べるそうです。
牛生レバのビタミンCは100g中に30mg
牛小腸のビタミンCは100g中に15mg
です。
ちなみに、100gあたりのビタミンCは
赤ピーマン170mg、パセリ120mg、柿70mg、イチゴ62mg、ブロッコリー54mg・・・です。
山羊の生レバや生小腸は、五訂日本食品標準表に載っていないのですが、牛に準する程度と思います。
したがって、山羊の生レバや生小腸はビタミンCがあるていど含まれていますが、日常的に摂取しているわけではありません。
牛の血漿中のビタミンC濃度は、1.4~3.6mg/dLであり、
人の血漿中ビタミンC濃度0.6–1.4mg/dLより高値です。
しかし、それでも、牛の血を1リットル飲んでもせいぜい30mgですから、やはり、牛の血でビタミンCが充分量摂取できるとは言えません。
①によれば
マサイの牛の新鮮な牛乳の中には、ビタミンC2.2mg/dl含まれています。
瓢箪(ひょうたん)に入れて、数日間発酵させてから飲むとすれば、ビタミンCの含有量は減少します。
例えば、瓢箪の中で4日間経過した牛乳は、ビタミンC0.4mg/dlに減ります。
そうなると、牛乳、ヨーグルト、生き血から得られる日々のビタミンC摂取量は、せいぜい30mg/日ていどでしかありません。
厚生労働省の推奨量が、100mg/日として、全然足りません。
①によれば
伝統的な食事をしているマサイ族の血清アスコルビン酸濃度は、0.16mg/dlとかなり低くなっています。
バンツー族は、0.56mg/100mlでやや低値ですが、マサイ族よりは、かなり高値です。
白血球の中の、ビタミンC濃度も、マサイ族はバンツー族の半分以下と低値です。
ビタミンB12は、マサイ族は1188pg/mlでバンツー族は404pg/mlで、マサイ族の方が高値でした。
赤血球中の葉酸はマサイ族は低値でした。
血清総タンパクはマサイ族がバンツー族よりやや高値でした。
上記検査データは、マサイ族が21名、バンツー族が24名の平均値です。
バンツー族は、ケニアやタンザニアの同じ地域に住んでいて、食生活はマサイ族とは異なり、穀物・野菜など何でも食べています。
他に、赤血球数、ヘモグロビン、白血球数、血小板数、血清鉄も検査されていますが、マサイ族、バンツー族ともに、異常はありませんでした。
結論として、マサイ族の血中ビタミンC濃度が低いのは、単純に食物から摂取するビタミンCが低いからと考えられます。
血漿ビタミンC濃度がこれほど低値なのに、壊血病や貧血は見られず、さらなる研究が必要と締めくくられています。
ちなみに、日本の厚生労働省の第6次改定「日本人の栄養所要量」によると、100mg/日のビタミンC摂取を推奨し、血漿中ビタミンC濃度基準値を0.7mg/dl以上に設定しています。
マサイ族の0.16mg/dlは兎も角として、人類の本当のビタミンC基準値はどのていどなのでしょう?
そして人類の本当のビタミンC摂取必要量はどのくらいなのでしょう?
人類が700万年の進化の過程でいったい何を食べてきたのかを考察するのに、人体で合成できないビタミンCの必須量が気になります。
7属23種の人類が生まれては消え、現在残っているのは現世人類(ホモ・サピエンス)だけです。
7属23種の人類は全てビタミンCは合成できなかったので、野草や果実からビタミンCを摂取していたと考えられます。
現世人類においても、伝統的食生活の頃のマサイ族やイヌイット以外は、野草や果実からビタミンCを摂取していたと考えられます。
ウィキペディアによれば
哺乳類ではテンジクネズミ(モルモットなど)や直鼻猿亜目の霊長類(サル、類人猿、ヒトなど)が、ビタミンCを合成できません。
霊長目でこビタミンCを合成する酵素の活性が失われたのは約6300万年前であり、直鼻猿亜目(酵素活性なし)と曲鼻猿亜目(酵素活性あり)の分岐が起こったのとほぼ同時だそうです。
江部康二
RIO さんから、マサイ族の伝統的食生活(牛乳・ヨーグルト・牛の生き血)と健康度についてコメント・質問をいただきました。
まず、マサイ族と同様に、野菜と果物の摂取が、ほぼ無かったイヌイットと比較してみます。
イヌイットが伝統的食生活の頃は、野菜と果物の摂取が、ほぼ無かったので結果として、ビタミンC摂取不足があり、新生児高チロシン血症と壊血病のリスクがありました。
動物の内臓や血液にもビタミンCは少量含まれていますが、野菜や果物に比べるとごく少量なのです。
マサイ族の伝統的食生活においても、ビタミンC摂取が少ないことが知られています。
しかし、マサイ族はイヌイットと異なり、新生児高チロシン血症と壊血病のリスクはなく、また貧血もありません。
伝統的食生活の頃のマサイ族の主たる食事は、牛乳とヨーグルトと牛の生き血なのですが、健康度は高かったようです。
今回は、以下の論文をもとに、マサイ族のビタミンC血中濃度などについて考えてみます。
①Low ascorbate status in the Masai of Kenya
The American Journal of Clinical Nutrition 27: MARCH 1974, pp. 3 10-314.
http://www.ajcn.org/cgi/reprint/27/3/310.pdf
①を参考にして、アフリカのマサイ族の食生活を、検討してみました。
マサイ族は、牛乳及びヨーグルトを2~3リットル/日摂取します。
毎日、何キロも歩いて牛の放牧をし、腰に牛乳を入れた『キブユ』という瓢箪(ひょうたん)をぶら下げて歩くので、数日間で自然醗酵され、ヨーグルトになります。このように、マサイ族の主食は、牛乳とヨーグルトです。
放牧しながら飲むとすれば、どちらかというと、2~3日経過した牛乳や発酵してヨーグルトになったものの方が、新鮮な牛乳よりも主となります。
これらだけの食料で不足する鉄分は、牛の生き血で補っています。牛の生き血は、週に数回、牛乳に混ぜて飲んでいます。
マサイ族は、野菜や果物は一切食べないそうですので、ビタミンCをどうやって摂取しているのか不思議です。
ビタミンCは、ヒトは体内で合成できないので、必ず食物から摂取することが必要です。
牛は財産ということで、殺したりしませんので、牛肉も食べません。
山羊や羊も飼っていて、こちらは、お祝い事や家族に病人が出て、栄養をつけたいときに食べるそうです。
この時、山羊の生レバや生小腸も食べるそうです。
牛生レバのビタミンCは100g中に30mg
牛小腸のビタミンCは100g中に15mg
です。
ちなみに、100gあたりのビタミンCは
赤ピーマン170mg、パセリ120mg、柿70mg、イチゴ62mg、ブロッコリー54mg・・・です。
山羊の生レバや生小腸は、五訂日本食品標準表に載っていないのですが、牛に準する程度と思います。
したがって、山羊の生レバや生小腸はビタミンCがあるていど含まれていますが、日常的に摂取しているわけではありません。
牛の血漿中のビタミンC濃度は、1.4~3.6mg/dLであり、
人の血漿中ビタミンC濃度0.6–1.4mg/dLより高値です。
しかし、それでも、牛の血を1リットル飲んでもせいぜい30mgですから、やはり、牛の血でビタミンCが充分量摂取できるとは言えません。
①によれば
マサイの牛の新鮮な牛乳の中には、ビタミンC2.2mg/dl含まれています。
瓢箪(ひょうたん)に入れて、数日間発酵させてから飲むとすれば、ビタミンCの含有量は減少します。
例えば、瓢箪の中で4日間経過した牛乳は、ビタミンC0.4mg/dlに減ります。
そうなると、牛乳、ヨーグルト、生き血から得られる日々のビタミンC摂取量は、せいぜい30mg/日ていどでしかありません。
厚生労働省の推奨量が、100mg/日として、全然足りません。
①によれば
伝統的な食事をしているマサイ族の血清アスコルビン酸濃度は、0.16mg/dlとかなり低くなっています。
バンツー族は、0.56mg/100mlでやや低値ですが、マサイ族よりは、かなり高値です。
白血球の中の、ビタミンC濃度も、マサイ族はバンツー族の半分以下と低値です。
ビタミンB12は、マサイ族は1188pg/mlでバンツー族は404pg/mlで、マサイ族の方が高値でした。
赤血球中の葉酸はマサイ族は低値でした。
血清総タンパクはマサイ族がバンツー族よりやや高値でした。
上記検査データは、マサイ族が21名、バンツー族が24名の平均値です。
バンツー族は、ケニアやタンザニアの同じ地域に住んでいて、食生活はマサイ族とは異なり、穀物・野菜など何でも食べています。
他に、赤血球数、ヘモグロビン、白血球数、血小板数、血清鉄も検査されていますが、マサイ族、バンツー族ともに、異常はありませんでした。
結論として、マサイ族の血中ビタミンC濃度が低いのは、単純に食物から摂取するビタミンCが低いからと考えられます。
血漿ビタミンC濃度がこれほど低値なのに、壊血病や貧血は見られず、さらなる研究が必要と締めくくられています。
ちなみに、日本の厚生労働省の第6次改定「日本人の栄養所要量」によると、100mg/日のビタミンC摂取を推奨し、血漿中ビタミンC濃度基準値を0.7mg/dl以上に設定しています。
マサイ族の0.16mg/dlは兎も角として、人類の本当のビタミンC基準値はどのていどなのでしょう?
そして人類の本当のビタミンC摂取必要量はどのくらいなのでしょう?
人類が700万年の進化の過程でいったい何を食べてきたのかを考察するのに、人体で合成できないビタミンCの必須量が気になります。
7属23種の人類が生まれては消え、現在残っているのは現世人類(ホモ・サピエンス)だけです。
7属23種の人類は全てビタミンCは合成できなかったので、野草や果実からビタミンCを摂取していたと考えられます。
現世人類においても、伝統的食生活の頃のマサイ族やイヌイット以外は、野草や果実からビタミンCを摂取していたと考えられます。
ウィキペディアによれば
哺乳類ではテンジクネズミ(モルモットなど)や直鼻猿亜目の霊長類(サル、類人猿、ヒトなど)が、ビタミンCを合成できません。
霊長目でこビタミンCを合成する酵素の活性が失われたのは約6300万年前であり、直鼻猿亜目(酵素活性なし)と曲鼻猿亜目(酵素活性あり)の分岐が起こったのとほぼ同時だそうです。
江部康二
ありがとうございました。ビタミンCについて疑問を思ってましたので焦点はそこになるかと思ってました。牛乳にビタミンCの粉末を混ぜて飲んでますが、人間にはビタミンCが本当に必要なのかと考えさせられました。今後の研究に期待したいです。
2016/01/03(Sun) 10:14 | URL | RIO | 【編集】
先生、はじめまして。
9ヶ月ほど前から日に何度もブログを読んで勉強させていただいている ふぁに と申します。
数年位前から何となく体の不調があったり、疲れやすかったりということが度々ありましたが、毎年受ける人間ドックでは特に大きな異常も無く・・・。
気になるといえば、Hba1cが5.6や5.8という数字で。
炭水化物も好きで、毎日の間食も痩せ型(165.5センチ47kgほど)をいいこと?に続けていました。
去年の春先にあまりにも疲れやすいのと2kg程の体重減で、まさかと思い市販の尿糖試験紙を買い求め検査してみたところ、食後に尿糖が検出されました。
あまりのショックに半分パニックになりながらいろいろ検索をし、江部先生のブログにたどり着きました。
先生と先にコメントを書いていらっしゃる方々に感謝してもしきれない思いです。
それから書店にて先生の御著書を数冊買い求め「食品別糖質量ハンドブック」をもとに一回の食事の糖質量を20g以下に抑えるように食事をしてきました。
とは言っても週一は一回の食事の糖質が50g程度になる回もあったり、3泊四日の旅行では糖質三昧をやってみたり・・・(汗)
前置きがとても長くなりましたが、意を決して先月やっと75g負荷検査を受けてきました。(前3日間は150g以上の糖質を摂って)
その時の結果です。
空腹時 112 インスリン6.7
30分 202 23.1
60分 265 79.5
120分 137 57.1
60分の数値があまりにも高く驚いています。
尚、コレステロール値も高く医者から注意を受けるほどでした。
総コレステロール値320
中性脂肪 38
HDLコレステロール 125
LDLコレステロール 187
この結果の数値をどう解釈し、今後どのように生活を続ければよいのか、ご教示いただけたら幸いです。
運動不足もあったので、先月中旬頃より毎日夕方食前に30分程度2.5kmほどの早足ウォーキングも始めました。
糖質制限を始めてしばらく経った頃、原因のよくわからない足の痛みが消えていることにも気付きました。
まとまりの無い文章で申し訳ありません。
9ヶ月ほど前から日に何度もブログを読んで勉強させていただいている ふぁに と申します。
数年位前から何となく体の不調があったり、疲れやすかったりということが度々ありましたが、毎年受ける人間ドックでは特に大きな異常も無く・・・。
気になるといえば、Hba1cが5.6や5.8という数字で。
炭水化物も好きで、毎日の間食も痩せ型(165.5センチ47kgほど)をいいこと?に続けていました。
去年の春先にあまりにも疲れやすいのと2kg程の体重減で、まさかと思い市販の尿糖試験紙を買い求め検査してみたところ、食後に尿糖が検出されました。
あまりのショックに半分パニックになりながらいろいろ検索をし、江部先生のブログにたどり着きました。
先生と先にコメントを書いていらっしゃる方々に感謝してもしきれない思いです。
それから書店にて先生の御著書を数冊買い求め「食品別糖質量ハンドブック」をもとに一回の食事の糖質量を20g以下に抑えるように食事をしてきました。
とは言っても週一は一回の食事の糖質が50g程度になる回もあったり、3泊四日の旅行では糖質三昧をやってみたり・・・(汗)
前置きがとても長くなりましたが、意を決して先月やっと75g負荷検査を受けてきました。(前3日間は150g以上の糖質を摂って)
その時の結果です。
空腹時 112 インスリン6.7
30分 202 23.1
60分 265 79.5
120分 137 57.1
60分の数値があまりにも高く驚いています。
尚、コレステロール値も高く医者から注意を受けるほどでした。
総コレステロール値320
中性脂肪 38
HDLコレステロール 125
LDLコレステロール 187
この結果の数値をどう解釈し、今後どのように生活を続ければよいのか、ご教示いただけたら幸いです。
運動不足もあったので、先月中旬頃より毎日夕方食前に30分程度2.5kmほどの早足ウォーキングも始めました。
糖質制限を始めてしばらく経った頃、原因のよくわからない足の痛みが消えていることにも気付きました。
まとまりの無い文章で申し訳ありません。
| ホーム |