肥満の日本人男性では、炭水化物摂取量が増えると糖尿病リスク?
こんにちは。
精神科医師Aさんから
興味深い研究に関するコメントを頂きました。
ありがとうございます。

 『肥満の日本人男性では、炭水化物摂取量が増えると糖尿病リスクが上昇するが、
正常体重者ではこの関連はみられず、両者の関連には肥満度が影響する』


というのが、研究を行った金沢医科大学公衆衛生学の櫻井勝氏らの結論です。

一方
 『10年間の追跡期間中、232人が糖尿病を発症した。対象を炭水化物エネルギー比率で4群に分けて糖尿病の粗発生率を比較したところ、50%未満群が16.5、50~57.4%群が14.4、57.5~65%群が12.7、65%超群では17.6(単位はいずれも/1,000人・年)であり、食事や生活習慣に関連する因子を補正後も、炭水化物摂取量と糖尿病リスクに関連はみられなかった。』

炭水化物摂取エネルギー比率
1)50%未満群
2)50~57.4%群
3)57.5~65%群
4)65%超群

1)2)3)4)群で、糖尿病発症率に有意差なしです。
これを私なりに考察してみると、
日本人の工場勤務の男性の研究ですから結局一番糖質摂取が少ない
50%未満群でも、糖質制限食を意識していることは考えられないので
40数%以上の炭水化物摂取比率があると思います。
すなわち40%以下の炭水化物摂取比率の対象者は、ほぼ皆無と思います。

つまり、工場に勤務する33~55歳の男性勤労者2,006人において
普通に炭水化物を摂取している限り(40数%~65%超)、少々少なかろうと多かろうと
12.7~17.6%くらいの、一定の有意差のない糖尿病発症率だったというのが、この研究だと思います。

さて
よく引用されるイスラエルのShai先生の有名な論文、DIRECT(以下の緑太字)
「低炭水化物食で体重減少・ HDL-C増加・HbA1c改善  RCT研究論文」

イスラエルの322人(男性86%)
(1)低脂肪食(カロリー制限あり)女性1500kcal、男性1800kcal
(2)オリーブ油の地中海食(カロリー制限あり)女性1500kcal、男性1800kcal
(3)低炭水化物食(カロリー制限なし)
3グループの食事法を2年間
低炭水化物食群が、最も体重減少。HDL-Cも増加。
36名の糖尿病患者で、低炭水化物食群だけHbA1cが有意差をもって改善。

Iris Shai,et all:Weight Loss with a Low-Carbohydrate,Mediterranean,or Low-Fat Diet.
NENGLJ MED JULY17,2008、VOL359. NO.3 229-241

を検討してみます。
糖質制限群は、最初の2ヶ月は20g/日に糖質を制限、
その後3ヶ月目からは徐々に緩めて120g/日までOKと設定しています。
しかしながら、6ヶ月後、12ヶ月後、24ヶ月後、
全て40~41%の糖質を摂取しています。

つまり、このDIRECT論文は、最初の2ヶ月間~5ヶ月間を除いたら、
糖質40%の糖質制限食群(中糖質群)と
糖質約50%の低脂肪食群、地中海食群(高糖質群)を
比べた研究ということになります。

そして、炭水化物摂取比率が40~41%の低炭水化物食群だけが
糖尿病患者において、HbA1cを有意差をもって改善させています。

このDIRECTの結果を考慮すると、
金沢医科大学公衆衛生学の櫻井勝氏らの研究においても、
もし、炭水化物摂取比率40%群が存在していたら、
糖尿病発症率が有意差をもって少なかった可能性が高いと思います。


「炭水化物制限により、脂質摂取の増加に伴う脂質異常症や、蛋白質摂取の増加に伴う腎臓への負担が危惧される。」

これは、桜井氏の誤解です。糖質制限食により、TGは減少しHDL-Cが増加することは明らかです。
LDL-Cも不変・増加・低下と3パターンありますが、1年~数年で基準値内になることがほとんどです。
そして、蛋白質摂取の増加で腎機能が悪化したという研究は皆無です。

「最近では、青壮年期の蛋白質過剰摂取はがんのリスク増加と関連する可能性も示唆されている。」

こちらも、根拠となる論文は示されていませんね。


江部康二




【日付 名前
15/11/20 精神科医師A

日本人対象の臨床研究
肥満者で炭水化物摂取量と糖尿病リスクが関連―日本人男性で検討

http://www.carenet.com/news/general/hdnj/40987

 肥満の日本人男性では、炭水化物摂取量が増えると糖尿病リスクが上昇するが、正常体重者ではこの関連はみられず、両者の関連には肥満度が影響することが、金沢医科大学公衆衛生学の櫻井勝氏らの検討でわかった。詳細は「Journal of Diabetes Investigation」10月31日オンライン版に掲載された。

 わが国の糖尿病患者数は増加の一途をたどっている。この背景には、食生活の欧米化も一因である可能性が指摘されている。日本人の食事摂取における脂肪エネルギー比率は、1960年の10.6%から2011年の25.5%に著増している一方で、炭水化物のエネルギー比率は76.1%から59.7%まで大きく低下している。しかし、日本人の炭水化物エネルギー比率は欧米と比較するとまだ高く、炭水化物の過剰摂取が日本人の糖尿病発症と関連している可能性がある。

 そこで、櫻井氏らは、日本人男性を対象に、炭水化物摂取量と2型糖尿病の発症リスクの関連を検証する10年間の前向きコホート研究を行った。

 対象は、工場に勤務する33~55歳の男性勤労者2,006人(平均年齢45.9歳、平均BMI 23.4)。対象のうち肥満者(BMI≧25)は557人(27%)だった。2003年に食事に関する質問票調査を行い、栄養摂取状況を評価した。2型糖尿病の発症の有無は、2003~2013年の健康診断データ(年1回)の血液検査で判断した。

 10年間の追跡期間中、232人が糖尿病を発症した。対象を炭水化物エネルギー比率で4群に分けて糖尿病の粗発生率を比較したところ、50%未満群が16.5、50~57.4%群が14.4、57.5~65%群が12.7、65%超群では17.6(単位はいずれも/1,000人・年)であり、食事や生活習慣に関連する因子を補正後も、炭水化物摂取量と糖尿病リスクに関連はみられなかった。

 次に、対象者を肥満(BMI≧25)の有無に分けて検討したところ、肥満があると、炭水化物摂取量の増加に伴い糖尿病リスクが上昇した。肥満者で炭水化物エネルギー比率が65%を超えると、50~57.4%の場合に比べて、関連因子を補正後も糖尿病リスクが約2倍に増加した。一方、正常体重者ではこの関連はみられなかった。

 櫻井氏は、HealthDayの取材に応じ、「肥満者では、肥満に伴うインスリン抵抗性に炭水化物の過剰摂取が加わることで、食後の高血糖・高インスリン血症を介して糖尿病を引き起こす可能性が考えられる。肥満者では、食事摂取基準で推奨される50~65%以下に炭水化物を制限した食事も有用な可能性が示唆される」と述べている。

 一方で、炭水化物制限により、脂質摂取の増加に伴う脂質異常症や、蛋白質摂取の増加に伴う腎臓への負担が危惧されるとし、同氏は、「最近では、青壮年期の蛋白質過剰摂取はがんのリスク増加と関連する可能性も示唆されている。これらを踏まえると、単純に炭水化物摂取量を制限すればよいというわけではなく、三大栄養素のバランスを考えた食事が重要と思われる」とアドバイスしている。

原文

Dietary carbohydrate intake, presence of obesity and the incident risk of type 2 diabetes in Japanese men

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jdi.12433/full
コメント
力強いお言葉、ありがとうございます
一般に、ニュートラルの立場の人たちでも、
1:炭水化物の制限が、筋肉を溶かしエネルギーを確保するので注意が必要。
2:たんぱく質の過剰摂取による腎負担。
を強調されます。
糖質制限を始めた人や、継続して良好な結果が得られてる人でも、懐疑的になり中断に至る人もおられます。
本当に今までのやり方がベターな選択なら、良い結果が得られているはず。
そうでなければ修正すればいいだけのこと。
それができてない現状に一石を投じてるのが気に入らないのでしょうか。
先生方、これからもよろしくお願いします。
2015/11/21(Sat) 19:41 | URL | クワトロ | 【編集
糖質制限とお酒
江部先生。先生は糖質制限食をしているため、飲酒をしても睡眠の質は優れているようですね。特に私の感想としては、江部先生がすごいな、良いなと思うのは糖質制限で就寝前まで飲んだとしても睡眠がしっかり取れている、という点です。江部先生のケースだと、一般的に飲酒の際はお水もしっかり飲むように言われていますが、先生の場合はどのくらいお水を飲まれますか?あるいは、しっかり糖質制限できているならあまり神経質にならなくても良いようになっているのでしょうか?私も夜間にトイレに立つのは嫌なので水は飲みすぎないようにしつつ、最低限は飲むようにしています。ちなみにここ数日間スーパー糖質制限をしています。メンタル面、睡眠の質の大幅な改善を感じています。
何かご意見、アドバイスありましたら大歓迎です!よろしくお願いいたします。
2015/11/21(Sat) 20:16 | URL | MAKOTO | 【編集
ケトン体について
お忙しいところ、申し訳ありません。
先生の本を3冊購入させていただき、スーパー糖質制限食を続けて3ヶ月になります。
本の通り10日ほどで4kg体重が減り、肌の調子も良く、眠りも深くなっています。
先生のブログも毎日読ませていただき、自分の頭の中ではわかっているつもりですが、家族や友人に、脳や心臓等の体の臓器にブドウ糖が少なくなっても、ケトン体が体を機能させてくれる、ということを上手く説明できません。
数値や専門的な言葉は抑えめに、医療の素人が周りの人にわかりやすく説明できるように教えていただけないでしょうか?
糖質制限食の第一人者、高雄病院の理事長先生に失礼なことを申し上げていることは承知しております。
本当に厚かましいお願いを申し訳ありません。
よろしければ、教えていただけると幸いです。
厚かましすぎる質問だと判断された場合は無視してください。
宜しくお願い致します。 きみか
2015/11/22(Sun) 03:21 | URL | きみか | 【編集
Re:糖質制限とお酒
酒の飲み方なんて飲める歳になったら自分で見つけましょう。 体質によって個人ごとに違うんだから・・・ 誰かに教わる前に自分で調べて考えて自分で試すって姿勢が大事!
2015/11/22(Sun) 21:49 | URL | 通りすがり | 【編集
Re: ケトン体について
きみか さん

拙著のご購入、ありがとうございます。

糖質を摂取しなくても、肝臓がアミノ酸や乳酸からブドウ糖をつくるので、
そもそも、低血糖にはなりません。
空腹時でも睡眠時でも、同様に肝臓がブドウ糖とを作るので、血糖値は一定以上に保たれるのです。

ケトン体は脂肪酸の分解物で、脳はブドウ糖とともにケトン体をいくらでもエネルギー源として利用します。
小児ケトン食は、難治性の小児のてんかんの治療食として、確立していて、世界中で実施されています。
2015/11/23(Mon) 08:49 | URL | ドクター江部 | 【編集
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