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1900年代初期からの米国糖尿病食事療法の変遷。2015年5月。
米国糖尿病食事療法の変遷 

<インスリン発見前>

1900年代初期までは米国では糖尿病治療食としては、糖質制限食が主流でし た。

それも、ほぼスーパー糖質制限食です。おそら くヨーロッパでも同様で あった思われます。

この頃すでに、食後血糖値を上昇させるのは、3大栄養素 のなかで主として糖質であるという ことが、認識されていたからです。

当時 は血糖値の測定はまだあまり一般的でなかったたので、もっぱら尿糖を検査し ていました。

尿糖が でない食事療法が糖尿病治療において優れているとさ れ、それが糖質制限食でした。

個人差はありますが尿に糖が出始めるのは、血 糖値が 170~180mg/dLを超えたときですので、当時としてはなかなか良い指標 でした。

例えば、糖尿病学の父と呼ばれるエリオット・ジョスリン医師が執筆した「ジョスリン糖尿病学」の初版は1916年出版ですが、 炭水化物は総摂取カロ リーの20%が標準と記載してあります。

このころ1型糖尿病は、診断後平均余 命6ヶ月の致命的な病気でした。

そ の1型糖尿病患者に、フレデリック・アレ ン医師の考案した「飢餓療法(炭水化物をほとんど含まない400kcal/日てい どの食 事)」が適用されて、極端な低カロリー食で、寿命を数ヶ月から1~2 年、まれに3年延ばしましたが、結局は致命的な疾患でした。

飢餓療法が一定の 効果をあげたのは、内因性インスリンゼロの1型糖尿病においては、糖質が直接血糖値を上昇させると共に、タンパク質も間接的に糖新生により血糖値を 上昇させることが関与していたと考えられます。

ちなみにジョスリン医師とア レン医師は、ハーバード大学医学 部の同窓生で良い友人でした。

<インスリン抽出以後>

1921年にカナダの整形外科医フレデリック・バンティングと医学生チャール ズ・ベストがインスリンの抽出に初めて成功しまし た。

トロント総合病院に おいて、1922年に当時14才の1型糖尿病患者(レナード・トンプスン少年)に 初めて注射し、血糖コント ロールに成功しました。

1型糖尿病はインスリン の登場までは、致命的な病気でしたが、インスリンにより生命を保つことが可 能となりました。

その後、インスリンを注射しておけば糖質を摂取しても血 糖値が上昇しないことが、徐々に周知されるようになりました。

その結果、 正常人なみに糖質を食べても、インスリンさえ打っておけばいいという流れと なっていき、1型においても2型においても、米国糖尿人の糖質摂取量は徐々に増えていきました。

<ADA(米国糖尿病学会)食事療法ガイドラインの変遷など>

ADA(米国糖尿病学会)ガイドラインが初めて制定されたのが1950年です。

上 述の流れを受けて、第一回目のガイドライン制 定時には、ADAは総摂取カロ リーに対して、炭水化物の摂取量を以前より増やしました。

1950年のガイドラ インでは炭水化物40% を推奨。
1971年のガイドラインでは炭水化物45%に増えました。
1986年のガイドライン でさらに炭水化物60%と増加。

1994 年のガイドラインでは、総摂取カロリー に対してタンパク質10~20%という規定がありますが、炭水化物・脂質の規定 はなくなりまし た。

1994年のガイドラインの時、オリーブオイルたっぷりの 地中海食も選択肢に加わわりました。

1994年以降、ガイドラインでは 炭水化 物と脂肪のカロリー比を固定しなくなりました。

1993年に発表された米国の1 型糖尿病研究・DCCTにおいて、糖質管理食 (カーボカウント)が成功を収め たことから、欧米では、糖質管理食が、1型糖尿病患者を中心に広まっていき ました。

1997年版米国 糖尿病学会の患者用テキストブックには

「糖質は 100%、タンパク質が50%、脂質が10%未満血糖に変わる」

とされていましたが、 2004年版では

「血糖値を上昇させるのは、糖質だけで、タンパク質・脂 質は上昇させない」

という記載に変更されました。

2005 年、ボストンのジョ スリン糖尿病センターは、炭水化物の推奨量を40%に下げました(Joslin Diabetes Mellitus 第14版、2005年、616ページ)。

ジョスリン糖尿病セン ターは、全米で最も評価の高い糖尿病治療センターの一つです。

<近年のADA(米国糖尿病学会)の、「食事療法に関する声明」の変遷>

2007年までは、ADA(米国糖尿病学会)は、食事療法において、糖質制限食は 推奨しないとしていました。

ADA(米国糖尿 病学会)の「食事療法に関する声 明2008」において「糖質のモニタリングは血糖管理の鍵となる」とランクAで 推奨され、「減量が望 まれる糖尿病患者には低カロリー食、もしくは低炭水 化物食によるダイエットが推奨される」と低糖質食を一定支持する見解が初めてだされました。

さらに2013年10月のADA(米国糖尿病学会)の、成人糖尿病 患者の食事療法に関する声明(Position Statement on Nutrition Therapy) では、全ての糖尿病患者に適した唯一無二の食事パターンは存在しないとの見 解を表明しました。

そして、患者ごとにさまざまな食事パターン 〔地中海 食,ベジタリアン食,糖質制限食,低脂質食,DASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)食〕が受容可能であるとしています。

糖質制限食も正式 に認められています。

このADAの見解は、1969年の食品交換表第2版 以降、 2013年の第7版まで、40年以上一貫して唯一無二のカロリー制限食を推奨し続 けている日本糖尿病学会への痛烈な批判となっ ています。

ADAの「食事療法に 関する声明2013」、糖質制限食にとって、大きな追い風となりました。


テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
名古屋の佐橋さんの先生の講演会を機に、毎日ブログを閲覧させていただいております。私自身はj血液検査では正常人です。先生の、スーパー制限食を実践させていただいているからですが
さて今回メールさせていただいたのは、義弟が劇症一型糖尿病と診断されました。インスリンを打つのに数値が安定しないということです。話を聞くとおかゆ等を食べて測っているというのです。早速たん院したらすぐ、江部先生の所へ伺うようにアドバイスしました。6月2日に高雄病院を予約しました。。よろしくお願い致します
大庭
2015/05/31(Sun) 09:50 | URL | 大庭康宏 | 【編集
内科医の実情
町の内科医は糖尿病の治療を宣伝していても糖質制限による治療にほとんど関心がないようです。腹立たしいくらいです。
2015/05/31(Sun) 12:39 | URL | もり | 【編集
ダイエット飲料で糖尿病リスクが高まる!?
タイトルのような記事が出ていました。ダイエット飲料は怖いですね。
2015/05/31(Sun) 17:25 | URL | mmx | 【編集
Re: ダイエット飲料で糖尿病リスクが高まる!?
2015/06/01(Mon) 10:49 | URL | 精神科医師A | 【編集
Re: 内科医の実情
もりさん、

糖質制限歴8年の「さとし」と申します。

さて、ご近所の内科医の件、腹が立ちますね。お怒りはごもっともです。私も、そんな医者がいたら、きっと「君は、バカかね?」と言うと思います。何故なら、糖尿病薬より糖質制限の方が、はるかに効果ありますから。

バカ医者は、どんどん切り捨てましょう。

ネットの検索で「自分の住所 内科医」と入れると、ご近所の内科医の電話番号が分かりますから、どんどん電話して「先生は、糖質制限にご理解がありますか?」と質問してみたら、いかがでしょうか??

で、この口頭試問に合格した医者のところに行く、と。

ダメな医者は、どんどん切り捨てましょう。そうしないと、ダメな医者は、いつまでたっても、減りません。
2015/06/01(Mon) 10:56 | URL | さとし | 【編集
Re: タイトルなし
大庭康宏さん

検査データ正常、良かったです。

義弟さん、6月2日高雄病院受診なら、宗本医師が診察することになります。
劇症1型なら入院が必要かもしれませんね。
2015/06/01(Mon) 15:57 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: Re: ダイエット飲料で糖尿病リスクが高まる!?
精神科医師A さん

ありがとうございます。
2015/06/01(Mon) 18:13 | URL | ドクター江部 | 【編集
糖尿病食事療法の変遷
「米国糖尿病食事療法の変遷」、わかりやすいですね。それにしても不思議なのは、もともと炭水化物を含む糖質が糖尿病に悪いことは分かっていたのに、インシュリン治療が始まると「食事療法ガイドライン」が炭水化物をどんどん許容してしまったことです。「致命的な病」だったものに投薬治療法ができてお医者も患者も緩んでしまったのでしょうね。
翻って、日本の「食事療法の変遷」ですが、江部康二先生の母校の京都大学のホームページの「糖尿病教室」には、『明治時代に入ると糖尿病は蜜尿病といわれ、尿糖の検査も行われるようになりました。さらに治療法として、でんぷん、砂糖を禁止し、青野菜の摂取などがあげられています。』http://metab-kyoto-u.jp/to_patient/online/a001.html#2
とあります。明治時代までの治療法が、インシュリン発見で放棄されたされたわけですね。体に良いことは続け、さらに悪化すれば薬も使う、という当たり前のことがされなかったのが残念です。それが痛みや症状が出にくい糖尿病の怖さ。または、食習慣の重さでしょうね。
ところで不思議なのは、この京大の「糖尿病教室」。「改訂版」をクリックすると、個人クリニックのホームページに飛ぶのです。こんなのってアリかなぁ。京大も独立行政法人化して稿料がわりに個人営業の宣伝を許しているのかな。

2015/06/02(Tue) 05:56 | URL | ミーハー | 【編集
Re: 糖尿病食事療法の変遷
ミーハーさん

明治時代の糖尿病食といえば、夏目漱石も糖尿病で当時の厳重食(スーパー糖質制限食)を食べていたことが
あるそうです。

2014年01月02日 (木)の本ブログ記事
「夏目漱石と糖尿病、そして当時の厳重食(スーパー糖質制限食)」

をご参照いただけば幸いです。
2015/06/02(Tue) 12:16 | URL | ドクター江部 | 【編集
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