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日本医事新報「臨床医学の展望2015」の記事「糖尿病・内分泌代謝学」の感想
【15/03/08 しらねのぞるば

日本医事新報「臨床医学の展望2015」より

最近の日本医事新報(No.4740; 2015年2月28日)の特集「臨床医学の展望2015」のp.45-48に,「糖尿病・内分泌代謝学」というタイトルで,慶應大学医学部の河合俊英・伊藤裕 両先生が,3つのトピックスを挙げておられます.

Topic 1:SGLT2阻害薬
Topic 2:糖質制限食(低炭水化物食)
Topic 3:米国で糖尿病合併症が20年で大幅減少

いずれも,事実関係を中心とした中立的な記載です.

Topic 1の「SGLT2阻害薬」では,この薬剤の作用機序・効果・副作用についてわかりやすく解説しています.注目したのは,副作用の項で「(SGLT2阻害薬は)生理的な機構を破綻させる薬剤ともいえる」とあり,これは今まで私がみた中では,もっとも強い表現の警告です.

記事では死亡例が10件あったことも書かれているのですが,一方で厚労省の「医薬品・医療機器等安全性情報」(No.320; 2015年1月29日)の「重要な副作用等に関する情報」を見ると,SGLT2阻害薬の副作用症例が書かれているものの,わざわざ各薬剤ごとに「うち死亡0例」と注記されています. 因果関係は不明であるということなのでしょうが,厚労省はいったいどちらの方を向いているのやら.

Topic 2の「糖質制限食(低炭水化物食)」では,米国糖尿学会(ADA)の2014年『成人糖尿病患者の食事療法に関する声明』を紹介しており,そこでは「すべての糖尿病患者にふさわしい食事パターンは存在せず,患者ごとに地中海食・ベジタリアン食・脂肪制限食・糖質制限食など様々な食事パターンが受容可能である」と明記しています.

著者の一人,伊藤裕 先生は,「空腹時血糖値・HBA1cが正常でも,食後の血糖値が高い糖尿病予備群の段階から合併症の危険は始まっている」と解説されている方ですから;

『メタボリックドミノ食い止めよう!』
http://sales.nipro.co.jp/freestyle/diabeters/domino/index.html

高糖質食の危険性を意識されているのでしょう.

ただ,この記事中の「BMI30超の肥満は欧米では人口の20%以上である一方,日本人では成人人口の3%程度であり,日本人における糖質制限食の減量効果は顕著にみられない」という記載には少し首をひねりましたが,これは「同じような高度肥満であれば,米国人でも日本人でも同じように減量効果がみられる」ことを逆に認めておられるのだな,と解釈しました.

また,この記事には,糖質制限食に否定的な方が必ず言及する「糖質制限するとケトン体が云々~」という記載が一切ないことも好ましい印象でした.

ところが,京都大学医学部 糖尿病・栄養内科のホームページをみると;

糖尿病性ケトアシドーシス:
【体内にケトン体という有害物質が多量に作り出されます】
http://metab.kuhp.kyoto-u.ac.jp/to_patient/online/a005.html

などという記載があります. 日本病態栄養学会で,宗田先生が新生児・胎盤には高濃度のケトン体が存在することを発表されているにもかかわらず,まだこんなことを書いているのですね.『日本の新生児は高濃度の有害物質を抱えて出産してくる』由々しい事態と思っておられるのでしょうか?そうであれば,今すぐ対策をご教示いただきたいものです.

Topic 3の「米国で糖尿病合併症が20年で大幅減少」は,1990-2010年の20年間で,例えば急性心筋梗塞が67.8%減少,その他の合併症も相対比50~60%の減少であったという報告の引用です.

「糖尿病を原因とする死亡」の統計の取り方が日米で異なるせいなのかもしれませんが,数々の新薬が登場した割には,日本では糖尿病患者は一向に減る気配を見せず(糖尿病予備軍だけは2012年推計で減少し始めたようですが,予備軍は治療を受けていないので,これは「新薬の効果」ではありません),日米の糖尿病医療への取り組みには何か根本的な違いがあるのではないでしょうか.】


こんにちは。

しらねのぞるば さんから、興味深いコメントをいただきました。

日本医事新報の特集「臨床医学の展望2015」の「糖尿病・内分泌代謝学」というタイトルの記事についてです。
いつもありがとうございます。


Topic 1:SGLT2阻害薬

副作用の項で「(SGLT2阻害薬は)生理的な機構を破綻させる薬剤ともいえる」というのは、確かに今までで一番シビアな意見ですね。

私も、SGLT2阻害薬 は毎日、100gのブドウ糖を尿中に排泄して400kcal/日を失わせる薬なので、長期に内服すれば、人体は基礎代謝を減らして適応する可能性が高く、使うとしても糖毒解除などのために短期間が良いと思います。


Topic 2:「糖質制限食(低炭水化物食)」

医事新報というポピュラーな医学雑誌で、米国糖尿病学会の栄養療法に関する最新の情報を紹介して貰えるのは、大変有意義です。

これで、米国糖尿病学会が2013年10月から、正式に糖質制限食を受容しているということが、日本の一般の医師にかなり認知されることとなります。

ケトン体に対するネガティブな記載がないことも含めて、河合俊英先生、伊藤裕 先生に感謝です。

一方、京都大学医学部 糖尿病・栄養内科のホームページに
http://metab.kuhp.kyoto-u.ac.jp/to_patient/online/a005.html

「・・・ケトン体という有害物質・・・」という記載がありますね。

我が母校ながら、これは完全な誤解であり、残念極まりないです。

胎児や新生児のケトン体は基準値より数倍~30倍の高値です。

すなわちケトン体は胎児や新生児の主要なエネルギー源であり、まったく安全な物質です。

少なくとも全ての人類が、空腹時や睡眠時には、心筋・骨格筋などの体細胞はケトン体を主たるエネルギー源としていることもご存じないようです。

京大糖尿病・栄養内科のサイトは、インスリン作用が欠落していることが前提の「糖尿病ケトアシドーシス」という重篤な病態と、インスリン作用が確保されているときの「生理的ケトーシス」の区別がついていないようですね。


Topic 3の「米国で糖尿病合併症が20年で大幅減少」は、とても興味深いです。

わが日本では、糖尿病合併症が20年で大幅減少ということはまずないです。

日米の糖尿病患者における糖質摂取量の差が、糖尿病合併症発症に関係している可能性があります。

近日中にここらあたりを少し検証して記事にしたいと思います。


江部康二
テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
糖質制限と手足のしびれ
江部先生
いつも、最新情報を提供頂きありがとうございます。
糖質制限開始して10か月目の53歳男性です。糖質制限の効果は素晴らしく、体重が76キロから69キロ。血糖値も115⇒108、血圧も140-95と下がり始めています。
ただ、1月末から足の裏が両方ともしびれ始めました。また最近では手の指先もしびれ始めました。神経内科にも行きましたが、特に問題はないと言われています。お酒も週2-3日は休肝日を作ってます。ただ、飲むときは結構飲んでしましまいます。
今のところ、しびれだけで痛みはないのですが、周りからは偏食のせいだともよく言われます。糖質制限が原因のしびれなのでしょうか?ご教示頂ければ幸いです。
2015/03/11(Wed) 08:50 | URL | 天竺浪人 | 【編集
京大病院の入院食は?
江部先生 3/9の検査値頂きました 朝ご飯ゼロ+インスリンゼロの37日間の効果が出て、GA16.3(朝ご飯80g+ノボラピッド3単位ではGA17.9)になりました 京大病院へ2013.12~2014.1の1ヶ月入院しましたがその際の病院食のごはんは175gでした 主治医に150gのごはんでは2型糖尿病患者は血糖時ピークが166mg/dlアップだと教えてあげましたが、私は腎臓病が専門なのでといいながら、毎日ごはんを1/2残して抵抗しましたら、最後は江部先生の本を渡して勉強してもらいました
2015/03/11(Wed) 14:53 | URL | 柚木信也 | 【編集
基準値内ではあるのですが…
江部先生、こんにちわ。
私は今春看護学校を卒業しナースになる予定の26歳男性です。
自身の糖尿病(予備軍?)に対する不安から情報収集を行っていた所、先生のブログを発見しました。不躾な質問ではあるのですが、どうかお返信頂けないでしょうか。

実は入職前の健康診断(今年2月)にて空腹時血糖97mg/dl,HbA1c5.0%との結果が出ました。年齢の割に血糖値が高めだなと思い、また昨年尿糖値が基準値を逸脱していた(最高で300mg/dl)事もあって精査目的で3/4に75gOGTTを受診しました。
結果は

負荷前 BS 81mg/dl インスリン 4.7
30分値 177mg/dl インスリン 38.9
60分値  175mg/dl インスリン 記載なし
120分値  109mg/dl  インスリン 37.8

との結果が得られました。

インスリン指数0.4
インスリン抵抗性0.9

です。
これらの結果から私はインスリン分泌第一相が遅延していると考えています。

現在私は先生が提唱するスーパー糖質制限食を実践しているのですが、薬剤を用いた治療は併用すべきでしょうか?糖質制限以外に行う必要のある治療などありましたらご教授頂けないでしょうか。糖尿病診断基準上では正常型に属しているのですが、OGTT負荷後30分、60分の値に不安を感じています。

ちなみに私のBMIは21.2、親族にDMの方はいません。
2015/03/11(Wed) 16:26 | URL | 八王子 | 【編集
Re: 糖質制限と手足のしびれ
天竺浪人 さん

1)糖尿病があれば、
以前の高血糖の記憶で「糖尿病神経障害」が出現してしびれがでることがあります。
この場合は、続けていれば回復する可能性が高いです。

2)低カロリー過ぎるとしびれがでることがあるので注意が必要です。

1)2)以外、糖質制限食が直接の原因でしびれが出ることは聞いたことがありません。
2015/03/11(Wed) 22:55 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 京大病院の入院食は?
柚木信也 さん

GA16.3なら、17未満なので
コントロール優になりました。
良かったです。
2015/03/11(Wed) 23:02 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 糖質制限と手足のしびれ
江部先生
早速、ご回答頂きありがとうございました。これで安心して、糖質制限にまい進できます。
2015/03/12(Thu) 09:30 | URL | 天竺浪人 | 【編集
日本医事新報 2017/05/13
2017.05.13発売の日本医事新報 No.4855の特集は『医療不信患者への対処術2』です.

冒頭は医師3名による座談会記事ですが,その中でNHKの「ガッテン!」で,不眠治療薬ベルソムラが糖尿病に効くというトンデモな内容を放映したことがとりあげられ,

★ 一般の視聴者は,とにかくメディアに左右されている. 『メディアは正しい』『特にNHKについては,絶対に正しいと信じている』

などと,視聴者・NHKを批判していましたが,しかし 日本糖尿学会だって,NHKをはじめとするメディアを総動員して,『糖質制限は危険』というキャンペーンを行って,『NHKへの盲信』を利用してきたのではないでしょうか.

ただ 長尾和宏先生の発言:(ガイドラインに収載する文献の)『エビデンスレベルの判定は,医師ではなくAIに作らせた方が客観的』には賛成です.先日の 第60回 日本糖尿病学会年次学術集会のDebateでも,北里研究所病院の山田先生が,『現在の日本糖尿病学会 診断ガイドラインのエビデンス選択は,あまりにも恣意的だ』と述べておられたように,ガイドラインそのものが偏向していても,患者には(そして多分 多くの医師の方も)まったくわからないでしょう. なお,記事の中で,米国では医療ガイドラインの作成を担当するメンバーの半数以上は利益相反(COI)がないこと,かつ作成委員長は,COIがまったくゼロでなければならないと規制されていることも紹介されていました.
2017/06/01(Thu) 14:05 | URL | しらねのぞるば | 【編集
Re: 日本医事新報 2017/05/13
しらねのぞるば さん

NHKには、なかなか苦労しました。
まあ、やっとラジオ番組、NHKラジオ第一放送「マイあさラジオ」には出演できましたが・・・。


「米国では医療ガイドラインの作成を担当するメンバーの半数以上は利益相反(COI)がないこと,かつ作成委員長は,COIがまったくゼロでなければならないと規制されている」


当然、日本でもこうあるべきですね。
2017/06/01(Thu) 17:43 | URL | ドクター江部 | 【編集
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