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能登氏が2013年に発表した糖質制限食批判論文は信頼度が低い
こんにちは。

朝日カルチャー名古屋教室講座においても質問がありましたが、ネット上でちらほらと能登論文が登場しているようです。

私達、糖質制限食推進派としても、能登論文の信頼度が低いことを繰り返し発信する必要がありますね。


能登論文の結論は

「総摂取エネルギー比率、糖質が30~40%のグループ(=中糖質群)は、60~70%のそれ(=高糖質群)と比べて、死亡率が1.31倍だった。」

「糖質制限ダイエットを5年以上続けると死亡率が高まる可能性がある」

です。


以下、能登論文の信頼度が低いことを説明します。

能登氏は、492の論文(コホート研究)から、最終的に9論文に絞って、メタ解析をしておられます。(*)

そしてこの9論文、私が既に読んでいるものがあり、わかっている範囲で、玉石混交です。

引用文献は1~39まであり、文献番号7.8.9.1011.12と29.30.31が選択された9論文です。
→本記事の最後に記載。


文献9は、本ブログ記事で何回か取り上げた、信頼度ゼロの、「低糖質・高蛋白質食、心血管イベント上昇」というBMJの論文です。

・栄養分析が登録時の1992年1回、15年以上その食生活が継続という仮定。
・塩分摂取量での調節がなされていない。
・質問事項が食物の項目で、糖質量など各栄養素の算出方法が不明確。
・糖質摂取とタンパク質摂取の点数化が恣意的で歪曲されている。
・この論文の平均摂取カロリーは1561kcal。同時期のスエーデンの論文の平均摂取カロリー1999.5Kcalに比し過少申告。
・BMJ には、本記事に対する専門家のコメントが12件よせられ、その全てがこの論文に対して否定的見解。→希有なこと


上記からこの論文は、極めて信頼度の低い論文です。

そして、能登氏が所属していた、

国立国際医療研究センター研究所ホームページ
糖尿病情報センターEBM論文情報のサイト

http://ncgm-dm.jp/center/ebm/10000/10053.html

にさえ、文献9に対して

『・・・た​​だ​​し​​,​​参​​加​​依​​頼​​へ​​の​​回​​答​​率​​が​​低​​値​​で​​あ​​る​​こ​​と​​,​​肥​​満​​者​​の​​割​​合​​が​​小​​さ​​い​​こ​​と​​,​​食​​事​​内​​容​​情​​報​​収​​集​​が​​1​​度​​で​​あ​​っ​​た​​こ​​と​​,​​一​​国​​の​​女​​性​​が​​対​​象​​で​​あ​​る​​こ​​と​​を​​鑑​​み​​る​​と​​,​​バ​​イ​​ア​​ス​​や​​残​​存​​交​​絡​​因​​子​​が​​小​​さ​​く​​な​​い​​た​​め​​,​​結​​果​​の​​妥​​当​​性​​・​​信​​頼​​性​​・​​一​​般​​性​​は​​高​​く​​な​​い​​可​​能​​性​​に​​気​​を​​つ​​け​​て​​慎​​重​​に​​解​​釈​​す​​る​​必​​要​​が​​あ​​る』

との記載があります。

このような信頼度の低い論文を選択した時点で、能登論文の信頼度もまた地に落ちています。

文献11も同じ著者(Lagiou )の論文です。

一方、最も信頼度が高い文献は、30です。

症例数も追跡年数も申し分ありません。

文献30は、NHSがデータベースで、82802名を20年間の追跡です。

低炭水化物・高脂肪・高タンパク食に冠動脈疾患のリスクなし
ニューイングランドジャーナルのコホート研究  82802人 2006年 ハーバード大学

・1980年、米国の女性看護師82,802人に食事調査を行い、研究を開始 。
・質問票を使った食事調査を、1980年から1998年までのあいだに、2-6年間隔で6回実施。
・低炭水化物食「得点」が上位10%のグループの冠動脈疾患の発生率は下位10%のグループの0.94倍で有意差なし。
 2000年の時点で10グループを解析。炭水化物摂取比率36.8±6.1%グループと58.8±7.0%のグループの比較。
・即ち20年間の追跡で、脂肪と蛋白質が多く炭水化物が少ない食事をして
 いるグループでも、心臓病のリスクは上昇しなかった。
・一方総炭水化物摂取量は冠動脈疾患リスクの中等度増加に関連していた。
 高GLは冠動脈疾患リスク増加と強く関連していた。


最も信頼度が高い文献30の結論は、

「低炭水化物・高脂肪・高タンパク食に冠動脈疾患のリスクなし」

であり、

「総炭水化物摂取量は冠動脈疾患リスクの中等度増加に関連していた。 高GLは冠動脈疾患リスク増加と強く関連していた。」

です。

すなわち高炭水化物食の危険性を指摘しています。

結局、能登論文、折角信頼度の高い、文献30をもってきたのに、信頼度ゼロの文献9などを加えたために、メタ解析結果が全く信頼のおけないものになってしまっています。

つまり玉の論文の結論を、石の論文が足を引っぱって、違った結論にしてしまっています。

文献30と文献9では、アンケートの信頼度が月とスッポンであり、データを混ぜること自体が、文献30に対して失礼です。

意図的にこのような信頼度の低い論文を選ばれたのなら、アンフェアとしか言いようがありません。

能登論文のような信頼度の低いメタ解析など不必要で、82802名を20年間追跡した信頼度の高い文献30で必要充分と言えます。

さらに、文献31の論文は「高GL食・高GI食を食べている中年女性は、心血管リスクが上昇する。」という明確な結論であり、高炭水化物食の危険性を指摘しています。


江部康二


<能登論文で選択された9論文>
7. Fung TT, van Dam RM, Hankinson SE, Stampfer M, Willett WC, et al. (2010) Low-carbohydrate diets and all-cause and cause-specific mortality: two cohort studies. Ann Intern Med 153: 289-298. Find this article online

8. Sjogren P, Becker W, Warensjo E, Olsson E, Byberg L, et al. (2010) Mediterranean and carbohydrate-restricted diets and mortality among elderly men: a cohort study in Sweden. Am J Clin Nutr 92: 967-974. doi: 10.3945/ajcn.2010.29345. Find this article online

9. Lagiou P, Sandin S, Lof M, Trichopoulos D, Adami HO, et al. (2012) Low carbohydrate-high protein diet and incidence of cardiovascular diseases in Swedish women: prospective cohort study. BMJ 344: e4026. doi: 10.1136/bmj.e4026. Find this article online
2012/09/17 の本ブログ記事で取り上げた信頼度の低い論文。→石論文

10.Nilsson LM, Winkvist A, Eliasson M, Jansson JH, Hallmans G, et al. (2012) Low-carbohydrate, high-protein score and mortality in a northern Swedish population-based cohort. Eur J Clin Nutr 66: 694-700. doi: 10.1038/ejcn.2012.9. Find this article online

11.Lagiou P, Sandin S, Weiderpass E, Lagiou A, Mucci L, et al. (2007) Low carbohydrate-high protein diet and mortality in a cohort of Swedish women. J Intern Med 261: 366-374. doi: 10.1111/j.1365-2796.2007.01774.x. Find this article online
例のBMJの信頼度の低い論文と同じ著者の論文。

12.Trichopoulou A, Psaltopoulou T, Orfanos P, Hsieh CC, Trichopoulos D (2007) Low-carbohydrate-high-protein diet and long-term survival in a general population cohort. Eur J Clin Nutr 61: 575-581. doi: 10.1038/sj.ejcn.1602557. Find this article online

29. Oh K, Hu FB, Cho E, Rexrode KM, Stampfer MJ, et al. (2005) Carbohydrate intake, glycemic index, glycemic load, and dietary fiber in relation to risk of stroke in women. Am J Epidemiol 161: 161-169. doi: 10.1093/aje/kwi026. Find this article online

30. Halton TL, Willett WC, Liu SM, Manson JE, Albert CM, et al. (2006) Low-carbohydrate-diet score and the risk of coronary heart disease in women. N Engl J Med 355: 1991-2002. doi: 10.1056/NEJMoa055317. Find this article online
2012/09/17 の本ブログ記事で取り上げた論文。→玉論文。

31.Beulens JW, de Bruijne LM, Stolk RP, Peeters PH, Bots ML, et al. (2007) High dietary glycemic load and glycemic index increase risk of cardiovascular disease among middle-aged women: a population-based follow-up study. J Am Coll Cardiol 50: 14-21. Find this article online


(*)
能登論文

Low-Carbohydrate Diets and All-Cause Mortality: A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies
PLoS ONE, 8(1), e55030
25-Jan-2013
Hiroshi Noto

テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
よろしくお願い致します
江部先生こんにちは
昨年入院して自分的にきっちり守っていたのですが仕事上朝から勤務だったり昼過ぎだったりでリズムも狂い寝る時間食事もうまくとれなく土日に東京のクリニックにもいけずに日々焦っています 決して前回なまけた入院ではなかったですがきっと意識は甘かったような気がします

この状態を改善したく再度徹底した生活を叩きこみたく今一度入院をおねがいしたいのですが可能でしょうか
今回は1から勉強しなおしという意味でお願いしたくコメントさしあげました
可能であればまたお電話で予約いれさせていただければと思います
どうかよろしくおねがいします
たぶん前回の意識のなかには体重が減らないと焦りばかりだったように感じます

病気に対する意識をちゃんと把握してがんばりたいと思っています
よろしくお願い致します
2015/02/03(Tue) 19:33 | URL | 東京 窪田 | 【編集
Re: よろしくお願い致します
東京 窪田 さん

了解です。
高雄病院に電話して、主治医了解ということで
相談してみてください。
2015/02/03(Tue) 21:05 | URL | ドクター江部 | 【編集
ありがとうございます
ありがとうございます
明後日お電話させていただきます
また1からよろしくお願いいたします
2015/02/03(Tue) 21:31 | URL | 東京 窪田 | 【編集
能登Drの真実
 能登Drは自分の発表した論文に対して、こう書いています

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/noto/201306/531241_3.html

『以上の結果から、炭水化物制限食をし好する人は、脂肪や動物性蛋白質の摂取量が高値となる傾向にあり、そのことが総死亡の増加への関与が想定される。ただし、今回の解析はさまざまな理由で炭水化物摂取量が低かった人達の観察研究の結果であり、管理された低炭水化物食による介入研究の結果ではないため、確固たる結論を出すことはできない(表2のエビデンス水準の3に相当)』

 要するに、エビデンスレベルが低いということを自分で認めているわけだ。また、こうも書いている

『今回検討した論文はいずれも欧米の一般人や医療者を対象にした試験であり、糖尿病患者や日本人への影響も今後の課題である』

 糖尿病学会提言(2013)にあるように、欧米人の肥満度合いは著しいため、日本人にはそのままはあてはまらないということだ
2015/02/03(Tue) 22:11 | URL | 精神科医師A | 【編集
Re: 能登Drの真実
精神科医師A さん

コメントありがとうございます。

日本糖尿病学会の基準では、RCT研究論文のメタ解析とRCT研究論文とが、
エビデンスレベル1と2ですね。

能登氏の論文はエビデンスレベル3です。
2015/02/04(Wed) 07:35 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 能登Drの真実
江部先生

同じく精神科医師Aさんの示された記事で、能登氏は、

『今回の検討結果をもって炭水化物制限食に対して賛否を論じることはできないが、薬物治療を行っている糖尿病患者については、極端な炭水化物制限により低血糖リスクが高まることを鑑み、バランスよく食事を摂取することの大切さを伝える必要性があると考えられる。食事指導の際には、炭水化物制限は長期的には悪影響がある可能性があり、食事内容は主治医と十分相談する必要がある旨を伝え、患者と医師が協働で判断することが大切である。』

低血糖の恐れがあるなら、止めるのは薬の方では?
それと低血糖の恐れがあるということは、糖質制限が血糖値低下に寄与するということを認めていることになる訳で。。。


『なお、低炭水化物食については、日本糖尿病学会も今年3月に声明を出している。「糖尿病においては総エネルギー 摂取量の制限を最優先とすること」「三大栄養素の推奨摂取比率は、炭水化物 50~60%(150g/日以上)、蛋白質20%以下を目安とし、残りを脂質とする」といった内容である。炭水化物のみを極端に制限して減量を図ることは、その本来の効果のみならず、長期的な食事療法の遵守性や安全性などの点においてこれを担保するエビデンスが不足しているとの理由から、「現時点で推奨されない」としている。』

むしろエビデンスも無い、投薬ありきの糖尿病食の方が大問題ですね。
2015/02/04(Wed) 17:27 | URL | 福助 | 【編集
Re: Re: 能登Drの真実
福助 さん

まさに、仰る通りですね。
低血糖になるのは、SU剤やインスリンのせいです。
それらを減量・中止して食事療法がメインというのは、
本来の第一選択の糖尿病治療です。

このことは糖尿病学会のホームページにも書いてあります。
食事療法でうまくいかないときは、薬物療法を考慮するというのが、
糖尿病治療の大原則ですから、能登先生、本末転倒ですね。

そして、毎日最低3回は食後高血糖を生じるような、カロリー制限高糖質食を
長期に続けて、良いことが得られる可能性はゼロです。

2015/02/04(Wed) 20:24 | URL | ドクター江部 | 【編集
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