FC2ブログ
宗田先生ポスター発表。ケトン体は安全。日本病態栄養学会。
こんにちは。

第18回日本病態栄養学会年次学術集会において、2015年1月10日(土)宗田先生がポスター発表されました。
私も共同発表者の一人です。

宗田哲男先生は、2014年の病態栄養学会年次学術集会で、普通に糖質を食べている女性における人工流産児の絨毛のβヒドロキシ酪酸値を、58検体測定され、平均1730μmol/Lで、通常の基準値(βヒドロキシ酪酸85μmol/l以下)に比し、はるかに高値であることを報告されました。

58検体全てが成人の基準値よりはるかに高値(20~30倍)でしたので、胎児のケトン体の基準値は成人よりかなり高値であると言えます。

これは世界で初めての報告であり、極めて貴重なデータです。(^-^)v(^-^)v 

6週から18週までの胎児の絨毛間液のケトン体値がこれほど高値であることは、胎児の脳を始めとした組織の主たるエネルギー源はケトン体である可能性を示唆しており、このことはそのままケトン体の本質的安全性を証明するものです。

勿論58検体全例で、酸性血症(アシドーシス)ありませんでした。


今回は、耐糖能正常妊婦60名において、分娩時に胎盤組織液と臍帯血のβヒドロキシ酪酸値を測定です。

その結果、胎盤組織内のβヒドロキシ酪酸値は、平均2235.0μmol/Lであり、臍帯βヒドロキシ酪酸値は、平均779.2μmol/Lで、胎盤内が有意に高値でした。

胎盤組織内のβヒドロキシ酪酸値は、いわゆる基準値(85μmol/L以下)に対して20~30倍の高値でした。

胎盤でエネルギー源であるβヒドロキシ酪酸を産生して、胎児に供給しているということです。

前回は、妊娠初期の段階での絨毛間液の測定で、今回は分娩時の測定です。

これにより、妊娠初期から分娩時まで、胎盤のβヒドロキシ酪酸値は、一貫して成人の基準値の20~30倍という高値が当たり前ということが判明しました。

妊娠初期から分娩時まで、胎盤のβヒドロキシ酪酸高値は当たり前のことであり、再び安全性は確立されました。

胎盤組織内の血糖値は75~80mg/dlで、全ての妊婦で臍帯血の血糖値と比べて有意差なしですから、胎児は、ブドウ糖よりもβヒドロキシ酪酸などケトン体を主たるエネルギー源としているので、胎盤でせっせと生産していると考えられます。

つまり、胎児においてはケトン体高値は当たり前のことであり、危険であるどころか、主たるエネルギー源である可能性が極めて高いのです。

母体のケトン体が高値だと、出生児が2才時点で知能テストで低下がみられたというRizzo Tらの論文がよく引用されます。(*)

Rizzo Tらの論文は、βヒドロキシ酪酸値は100から180μmol/Lでの比較です。

正常分娩の胎盤のβヒドロキシ酪酸値は、平均2235.0μmol/L、臍帯血臍帯βヒドロキシ酪酸値は、平均779.2μmol/Lですので、Rizzo Tらの論文の、βヒドロキシ酪酸値「100から180μmol/L」というのが、いかに無意味であるかは一目瞭然です。

Rizzo Tらの論文は、結局、飢餓や血糖コントロール不良からの結果として、βヒドロキシ酪酸値が180μmol/Lと軽度高値になった母体のグループをチェックしたものと思われます。


(*)Rizzo T, Metzger BE, Burns WJ, Burns KC: Correlations between antepartum
maternal metabolism and child intelligence. N Engl J Med 325: 911-16, 1991.


江部康二


☆☆☆
以下宗田先生ポスター発表の抜粋。
第18回日本病態栄養学会年次学術集会。


ポスター22 小児栄養・母子栄養
第1日目 1月10 日(土) 18:00~18:56 イベントホール

P-169 胎児、新生児-胎盤系の高ケトン血症の研究(糖質制限食による妊娠管理第3報)
宗田マタニティクリニック 宗田 哲男、他

<目的>
糖質制限食では、βヒドロキシ酪酸値(以降ケトン体という)が上昇する。

これを危険なこととする考えがある一方、近年ケトン体は小児の重症てんかんの治療や活性酸素を無害化すること、アルツハイマー病の治療や予防、がん治療などにも使われて、積極的に脳の保護的エネルギー源になるという知見が増えている。

2013年、2014年と我々は、臍帯血、胎児、新生児には、高濃度のケトン体が存在することを発表した。

今回は初めて、胎盤組織内のケトン体を測定することができ、そこにさらに高濃度のケトン体があることを発見した。

これをもとに胎児、新生児、胎盤系のケトン体について検討した。


<方法>
60名の耐糖能が正常の妊婦の分娩時の胎盤と臍帯血のケトン体値(βヒドロキシ酪酸値)を検討。


<成績>
1)胎盤組織内のβヒドロキシ酪酸値は、平均2235.0μmol/Lであり
臍帯βヒドロキシ酪酸値は、平均779.2μmol/Lで、胎盤内が有意に高値であった。
胎盤組織内のβヒドロキシ酪酸値は、いわゆる基準値85μmol/Lに対して
20~30倍の高値であった。
2)胎盤組織内の血糖値は75~80mg/dlで、全ての妊婦で臍帯血の血糖値と比べて有意差なし。


<考察>
1)
ケトン体値は胎盤組織で極めて高く、血糖値は、臍帯と胎盤組織で差はない。
これは妊娠中の胎児の栄養代謝が脂肪酸に依存していることを示す。
自然流産の場合でも絨毛のケトン体は高値であって、これは絨毛でケトン体が産生されていることを示唆する。

2)
卵生動物、例えば両生類、鳥類などの卵には糖質はなく、脂肪とタンパク質で胎仔となる。
哺乳類はこれらの進化を受け継いで受精卵が着床し卵黄嚢造血を行う間巨大有核赤血球が存在する。
これは糖質がない状態で代謝が可能であることを示す。

3)
酸素の十分にない環境でも、ケトン体は効率的にエネルギーを生み、脳神経にも好影響を与える。
我々はこの時期の絨毛が、ケトン体2000μmol/Lになることを、2014年発表した。
妊娠初期から分娩まで胎児は高ケトン体環境下にある。

4)
RizzoTは、ケトン体高値が知能指数を低下させると述べたが(1991年)
そのケトン体値は100から180μmol/Lでの比較である。
ところが、
①つわりの妊婦でもケトン体は3000μmol/Lを超える。
②胎盤には、ケトン体が、常に2000μmol/Lは存在。
③新生児の4日-30日目のケトン体は240μmol/Lである。
RizzotTのいう知能低下は、ケトン体には無関係と考える。

5)
糖質制限食ではケトン体が上昇するが、胎児の体内環境を考えるとそもそもケトン体は上記のように高値であるので、危険なものではない。
胎児は脂肪酸-ケトン体をエネルギー源としていると考える。

6)
電極法ケトン体測定器は、臍帯血、胎盤組織液などでも酵素サイクリング法などのラボデータときわめて高い相関を示し、これらのケトン体の迅速な検査に利用できることがわかった。


<結論>
1)
妊娠中の胎児は母体からのブドウ糖を主なエネルギー源としていると言われてきたが、初期から全妊娠期間を通じて脂肪酸-ケトン体を中心にした栄養に依存していることが推測される。

2)
糖質制限食によるケトン体上昇は、脂肪酸代謝の結果であって、飢えの結果でもなく、危険なものでもない。
催奇形性や知能低下の影響因子とは考えにくい。

3)
胎児の影響環境は、ヒトの本来の栄養が、今ほど糖質依存ではなかった可能性を示している。

4)
ヒトの栄養代謝には、糖質制限食は、合理的なものであり、とくに、妊娠時は、妊娠糖尿病にも糖尿病合併妊娠に管理にも効果的で、安全であると考える。


テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
食事回数について
江部先生いつもアドバイスありがとうございます

最近忙しい日々が続き食事回数が夕方6時から7時の間の一回になってしまったりで

でも私の体にはなんの変化?あーお腹すいたとかいらいらするとかエネルギーたりてないなーなんてこともなく逆に軽く動けるようですがそれもあり?なんでしょうか?水分はちゃんととれています

自分であー疲れたとかしんどいとか自覚症状なければ1日に1食でもOKですか?
2015/01/13(Tue) 19:43 | URL | 東京 窪田 | 【編集
IRI/BSが0.00以下
先生こんばんは。いつもためになるブログ楽しく読んでいます。

先日ブドウ糖負荷試験を行いました。
結果、主治医から「IRI/BSが極めて低い!う~ん。不思議なんだよ。インスリンが出てないのに血糖がそれほど高くない。IRI/BSが0.00以下なんてあまり見かけない。う~ん。」と言われてしまい、ブドウ糖負荷試験が再検査となりました。
今はジャヌビアとたまに外食時にベイスンを服用しています。
このような結果はどのようなことが考えられますでしょうか。また、糖質制限と何か関係はありますでしょうか。
今のところ、内服はしていますが、糖質は昼少しのみでかなり頑張っています。

空腹時 BS:88  インスリン:2.8
30分   BS:154 インスリン:.3.1
60分   BS:185 インスリン:36.9
120分 BS:146 インスリン51.6

でした。
先生のご指導がいただけましたら大変ありがたいです。よろしくお願い致します。
2015/01/14(Wed) 00:41 | URL | 加賀美  | 【編集
血糖コントロール不良
江部先生

先日は、妊娠中の低血糖に関してアドバイスを頂きありがとうございました。
宗田哲夫先生の発表の報告を心待ちにしておりました。
先生に先日、低血糖での胎児の影響は60を切っていない限り心配しなくて良いと仰っていただきましたが、
今回の記事を読ませて頂き、血糖コントロール不良や飢餓の妊婦の場合、子供に影響がある可能性があることを知り、またもや不安になってしまいました。
周りから何を言われようとも、妊娠中の糖質制限を突き通してきましたので、今更不安になっても無意味だと思うのですが、念の為、この場合での血糖コントロール不良と飢餓が何を意味するのか先生にお伺いしておきたく投稿させていただきました。
・血糖コントロール不良とは血糖値が高い状態の事しょうか?糖質制限では血糖値は上がらないので、やはり低血糖が続いた状態のことでしょうか?
・飢餓というのは、体重が増えていれば心配はいらないでしょうか?

お時間のあるときに、またお答え頂ければ幸いです。
宜しくお願い致します。

2015/01/14(Wed) 02:48 | URL | España | 【編集
Españaさんへ
もう少し自分で考えることを努力した方が良いと思いますよ。
江部先生の本を読み、ネットで検索すれば、解決する問題ではないでしょうか?
不安な気持ちも分からないではないですが、ここは多くの方々が訪問しているサイトです。
同じような質問の繰り返しは、大勢の訪問者に不安を伝染させるだけです。
不安を取り除くのはあなた自身でしかなしえないことです。

糖尿病は血糖コントロール不良です。
機能性低血糖も同様です。
それぞれどのようなことが起こるのか調べれば、血糖コントロール不良の意味が分かると思います。

飢餓にしても、先生の推奨している糖質制限を十分に理解し実践する限りにおいては、飢餓など起こりえないものです。
2015/01/14(Wed) 10:06 | URL | 匿名 | 【編集
Re: 食事回数について
東京 窪田 さん

1日1食でも、OKです。
低カロリーになりすぎないように注意はしましょう。
2015/01/14(Wed) 10:23 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 血糖コントロール不良
España さん

高血糖が、胎児にも母体にも悪いことは明白です。
糖質制限食ならそれがありませんし、肝臓で糖新生するので低血糖もありません。

つわりがひどくて、全く食事できないのに、点滴もしないとか、
特殊事情で、低カロリーが長引くと、飢餓の状態になり、ケトン体が上昇します。
飢餓状態が長引けば、胎児にも母体にも良くないです。

つわりがあっても、改善して標準必要エネルギーを摂取しているなら問題ないです。
標準範囲内で体重が増えていれば心配ないと思います。
2015/01/14(Wed) 10:48 | URL | ドクター江部 | 【編集
ありがとうございます
ありがとうございました
エネルギーだけ気をつけてバランス考えててがんばります
2015/01/14(Wed) 14:00 | URL | 東京 窪田 | 【編集
申し訳ありませんでした
匿名さん

匿名さんの仰ることはご最もで、この様な誰でも気軽に質問できる場を無償で提供し、必ずご親切に返答して下さる江部先生に甘えておりました。この場をお借りして、江部先生、他の読者の方々にお詫び申し上げます。
御指摘下さいましたことに感謝しております。

江部先生

多忙な先生のお時間をお取りしてしまい大変申し訳ありませんでした。
そもそも糖質制限をやっていこうと決めたのは自分自身です。それなのに先生に甘え過ぎていました。
同じ様な質問にご丁寧に何度もお答え頂いたことに感謝しております。

無事に出産致しました時には、また御報告させて下さい。
妊娠中の糖質制限で、私のように一筋縄ではいかない妊婦さんも他にいらっしゃるかも知れないので、その方達の参考にもなるよう、投稿させて頂けたらと思います。

いつも本当にありがとうございます。
2015/01/14(Wed) 16:47 | URL | España | 【編集
Re: 申し訳ありませんでした
España さん

匿名さんの仰有るように、自分で考えて判断するということは、とても大切で
好ましいことなので、是非チャレンジしてみてください。
一方それは、なかなか難しいこともまたあると思います。

私の立場はおこがましいのですが「アドラー心理学」のいう、
「自己受容」「他者信頼」「他者貢献」にとても近いと思いました。

異国の地で、わかりやすく説明してくれる医師もいなければ、
不安が湧いてくるのも人情というものと思います。

インターネットがあってよかったと思います。
産婦人科の宗田先生にも助けていただきました。
糖質制限関係でお困りのときは、遠慮無く質問していただいてよろしいです。

2015年01月01日 (木)の本ブログ記事
「『幸福とは貢献感である』アドラー心理学。勉強します。」
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3234.html
をご参照いただけば幸いです。
2015/01/15(Thu) 17:27 | URL | ドクター江部 | 【編集
本当にありがとうございます
江部先生

温かいお言葉をかけて下さり、ありがとうございます。

糖質制限の普及活動に関しては勿論ですが、先生の生き方そのものに学ぶべきことが沢山詰まっているといつも思います。

直接お目にかかったことはありませんが、記事やコメントの言い回しから先生の温かさと、人生を楽しみながら他者に貢献している様子が伺えます。

アドラーの心理学`嫌われる勇気'は、以前から気になっており、近々他いくつかの本と合わせて注文しようと思っています。

まだインターネットでアドラー心理学の内容をサラッと読んだだけですが、仏教やヨガの世界と共通するところが有りながら、まず自己を受容するところに重点を置いている考えに感銘を受けました。

糖質制限という手段が目的にならぬよう、私ももう少し楽しみながら続けて行きたいと思います。

この様に立ち止まって自分を客観視する機会を与えて下さった匿名さん、そして私のようなものに時間を割いてくださった先生に心より感謝致します。

つわりの時、宗田先生から温かいコメントを頂いたことも決して忘れません。

私もいつかみなさんの御好意を還元出来たらと思います。
2015/01/15(Thu) 18:26 | URL | España | 【編集
病態栄養学会での重大発表
1月10日(土)
ワークショップ2
『糖尿病食品交換表第7版~使ってみて感じたこと・気づいたこと』

 席上、座長の石田均氏から、重大発表があった。11月30日の糖尿病学会理事会での決定である。「糖尿病腎症の第1期と第2期においては、食事のなかのたんぱく質制限に言及しない」

 これにより、食品交換表の文章表現が一部訂正された

 すでにCKD診療ガイド2012では、eGFR以上が60以上なら、蛋白質制限を行わないと記載されており、これに遅れること3年で、やっと両学会が歩調を合わせた
2015/01/15(Thu) 21:01 | URL | 精神科医師A | 【編集
敵前逃亡?
 2013年秋の糖尿病・妊娠学会での宗田Drの発表に対し、糖尿病学会誌2014年7月号に2編の批判的な文章が掲載された。

 この2編の著者の金塚東と谷川敬一郎は、病態栄養学会の評議員だが、今回の宗田Drの発表に全く質問してこなかった
2015/01/15(Thu) 21:26 | URL | 精神科医師A | 【編集
Re: 病態栄養学会での重大発表
精神科医師A さん

情報をありがとうございます。

座長の石田均氏から、重大発表があった。11月30日の糖尿病学会理事会での決定である。「糖尿病腎症の第1期と第2期においては、食事のなかのたんぱく質制限に言及しない」
これにより、食品交換表の文章表現が一部訂正された


とても良い方向への大きな変化ですね。
2015/01/16(Fri) 17:29 | URL | ドクター江部 | 【編集
今回の日本病態栄養学会
江部先生

今回の日本病態栄養学会は実に多くのことがあり,何年かしたら「あの学会がEpoch Makingであった」と言われるかも知れませんね.

ポスターセッション会場にて,先生に初めてお目にかかれたのは光栄でした.

私は,一介の技術屋で,職場の定期健診で「血糖値が高い」と言われたので,糖尿病専門医である大学同期に相談したところ,「まだ投薬治療するほどではない.これを読め」と言われて,彼の奨める通りに,当時日本糖尿学会や日本糖尿病協会が発行していたパンフをすべて読み漁りました.読むだけでなく,学会の推奨する通りの食事療法・運動療法を忠実に1年ほど継続したのですが,体重が少々落ちただけで(もともと肥満ではないので,これは当然),境界型糖尿病の方は改善どころか悪化する一方,ついに朝の血糖値が150を越える日がでてきたり,A1cもじわじわと上昇してくるに及んで,これはおかしいと思い,糖質制限食に切り替えました.するとその月から即座に血糖値が改善し,以降現在まで3年以上継続してもまったく悪化はしていません.それどころか血糖値・HbA1cだけでなく,コレステロール・中性脂肪・血圧・肝機能・腎機能など,どの指標をみてもカロリー制限食の時代より優良になりました. 最初に相談した大学同期に最近の結果を見せると,いまだに首をひねっていますが(さすがに糖質制限食をやめろとは言わなくなりましたが.最初は猛反対していたのですが),私は自分のこの体験から,日本の糖尿病医療の根本に不信を抱くようになり,それ以降は内外の医学論文を読み漁って(仕事柄,科学文献なら自由にアクセスできますし,海外子会社の品質管理システム構築などの経験から,英語も統計もハードルにはなりません),米国糖尿病学会の文献は,日本糖尿学会のそれとはかなり異なることに気づいたので,ますます日本糖尿病学会が信用できなくなりました.

学会は「一般的には,高糖質のカロリー制限食で糖尿病は改善する.実績もある.」というかもしれませんが,万歩譲ってそれが正しいとしても,それは多数の統計的平均結果に過ぎません. 人間は,工場で大量生産される商品ではないのですから,多数の平均値=各個体の値ではありません.平均でそうだからと言って,一人一人の例を見れば,改善効果の見られない場合,そして私のようにかえって悪化する場合もあるのですが,学会はこの「学会推奨の食事療法を忠実に守っても改善しない場合」について,ではその患者はどうすればいいのか,ここに一切口をつぐんだままなのが理解できません.その点で現在の米国糖尿病学会は,「糖尿病の食事療法は一人一人異なっていて当然だ」というスタンスであり,私には自分の体験をふまえて,こちらの方が合理的と納得できます.

日米の糖尿病学会のこれまでの文献を比較しますと,決定的に異なるのは,単に食事療法の炭水化物比率が高いか低いかというレベルの話ではなくて,一人の例外もなく一律の食事療法しか認めないのか(日本糖尿病学会),個人によって異なるとするのか(米国糖尿病学会),つまり根本理念において正反対なのです. 私も技術屋の端くれとして断言できますが,医学もScienceである以上,正反対の主張が存在した場合,一方が正しくて一方が間違っているのは自明です.正反対だが両方とも正しいということはありえません.昨今 日本糖尿病学会は「日本の食文化」を前面に打ち出して,米国とは正反対の現在のスタンスを正当化しようと試みていますが[注1],それは今回の「日本の伝統的料理の代表である京懐石は,実は高糖質ではなかった」ことで窮したはずです.

[注1]メディカル朝日 2014年9月号 p.28
「うれしいことに『和食:日本人の伝統的な食文化』が~ユネスコの無形文化遺産として登録された. この絶好の機会を活用して,私たち日本人にふさわしい糖尿病食事療法への正しい道を,基礎実験や臨床栄養学のエビデンスを基盤としながら確実に切り開く」

なぜ日本糖尿学会が,これほど一律の食事療法にこだわるのかといえば,それは食品交換表の存在だと思います. 今回の病態栄養学会でも自画自賛していましたが,本来食品交換表とは第2次世界大戦直後,つまり日本全体が食うや食わずの食糧不足・栄養失調だった時代,『肉が高くて買えないのなら魚や豆腐でもいいのです』『米がなかったら芋で我慢しましょう』と,最低限の栄養摂取を守るための『食品素材の交換』をわかりやすくまとめた,つまり栄養失調を防ぐ,ごく実用的な工夫を提示したに過ぎないのです.実際 昭和30年代までは,日本の各地で,栄養士・保険所がこの食品交換表を元に地域単位の講習を行い,栄養不良児を減らすという大きな実績をあげました.ここまではよかったのです.

しかし高度成長以降,「食糧不足」という言葉が死語になった時点で,食品交換表は当初の役割を終えたはずです.この時に,各大学の栄養学部は「健康学部」とでも改名して,食生活のみにこだわるのではなく,日常活動・運動も含めた総合的な健康増進に目を向けてパラダイム転換すべきだったのです. にもかかわらず,健康を守るためのツールのひとつに過ぎなかった食品交換表を,それ自体自己目的化してしまい[注2],改訂のたびに「食の欧米化は悪」「脂肪は悪」,「食品交換表は日本人の理想食」という【イデオロギー】を持ち込まざるをえなくなりました. そしてその瞬間から,日本の糖尿病標準食は,EBM(Evidence Based Medicine)ではなくて,IBM(Ideology Based Medicine)に成り下がってしまいました.イデオロギーに支配されてしまったため,エビデンスを基礎とした米国糖尿病学会の結論(=つまりScience)とは対極の位置に自らを追い込んでしまったのです.

[注2] 第7版への食品交換表改訂の際に,食品の糖質含有量を記載することにつき,『食品交換表が使いにくくなるから反対だ』と言う方がおられたのは,その典型です.

「報道機関はなによりも真実の報道が使命」という基本原則を逸脱したとして某新聞が叩かれていますが,ぜひとも日本糖尿病学会には,科学の基本に立ち返っていただきたいと存じます.
2015/01/17(Sat) 10:02 | URL | しらねのぞるば | 【編集
ケトン臭について
毎日さまざまな質問にボランティアでお答えくださる江部先生のお仕事の邪魔になるのでは、と思いつつもどうしてもお聞きしたく、メールしました。

糖質制限食を行って3か月ですが、ケトン臭がひどいようです。家族には「糖尿病がひどくなっているのでは?」と言われたり、電車にのったときや会社の会議などでは露骨に嫌な顔をして鼻を押さえる人、同僚には「最近体の調子が悪いのでは?」とまで聞かれました。
ケトン臭がでる人と、でない人の違いは何なのでしょうか?体質でしょうか?医学的に解明はできないのでしょうか。
江部先生はケトン臭は半年くらいで消えるとおっしゃっておりますが、このままどんどん臭いがひどくなるのではないかという恐怖で、糖質制限をやめたほうがいいのではないかと迷いがでてきています。
ケトン臭以外は、まったく良好でとても体調が良いため、できたら続けたいのですが、人とのコミュニケーションが困難であるストレスは耐え難く、生活に支障がでてきているため、悩んでいます。
なぜケトン臭が出る人と出ない人がいるのか、自分なりに考えました。
○脂肪の代謝に必要な栄養素(ビタミンB、C、鉄など?)が足りていない
○運動不足
○脂肪をとりすぎている
○インスリンの基礎分泌量が少ないことが関係している?

江部先生はケトン臭はでられなかったとのこと、本当にうらやましいです。
お答えいただければ、幸いです。
2015/01/22(Thu) 20:25 | URL | ろんご | 【編集
コメントを投稿
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可