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ケトン体は人体に必須の生化学的役割を担っている重要な物質。
【14/12/06 しらねのぞるば

ケトン体は人体に必須の生化学役割を担っている.
そういえば,Diabetes Research and Clinical Practiceの
最新号にもこんな論文が発表されていましたね.

Diabetes Research and Clinical Practice
Volume 106, Issue 2, Pages 173–181, November 2014

β-hydroxybutyrate: Much more than a metabolite

John C. Newman, Eric Verdin

Abstract
The ketone body β-hydroxybutyrate (βOHB) is a
convenient carrier of energy from adipocytes
to peripheral tissues during fasting or exercise.

However, βOHB is more than just a metabolite,
having important cellular signaling roles as well.
βOHB is an endogenous inhibitor of
histone deacetylases (HDACs) and a ligand
for at least two cell surface receptors.

In addition, the downstream products of
βOHB metabolism including acetyl-CoA,
succinyl-CoA, and NAD+ (nicotinamide
adenine dinucleotide) themselves have signaling activities.

These regulatory functions of βOHB serve
to link the outside environment to cellular function
and gene expression, and have important implications
for the pathogenesis and treatment of metabolic
diseases including type 2 diabetes.


ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)は, 単にエネルギー運搬物質として有用なだけでなく, 細胞間信号伝達にも重要な役割を果たしている, という報告です.

心筋などのエネルギー源であるケトン体は, 更に重要な生化学的役割も果たしているというわけです.

ケトン体を「毒物」と信じてやまない, 学会の多くの先生には, 胸に手をあてて(心臓の鼓動を感じつつ), この論文をよく読んでもらいたいものですね.】



こんにちは。

しらねのぞるば さんから、

「ケトン体は人体に必須の生化学役割を担っている」

という当然とは言え重要なコメントをいただきました。

ディアベテス・リサーチ アンド クリニカル・プラクティスという英文医学雑誌に掲載された最新論文の要約を紹介していただきました。

しらねのぞるばさん、ありがとうございます。


要約

ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)は、空腹時や運動時において、脂肪組織から末梢組織への便利なエネルギー運搬体である。

しかしながらβ-ヒドロキシ酪酸は、単なる代謝産物ではなく、重要な細胞内シグナル伝達の役割を持っている。

β-ヒドロキシ酪酸はヒストン脱アセチル化酵素の内因性抑制物質であり、少なくとも二つの細胞表面受容体のリガンドである。

それに加えてβ-ヒドロキシ酪酸代謝のダウンストリーム産物(アセチル-CoA、サクシニル-CoA、NAD+を含む)は、それ自体がシグナル活性を持っている。

β-ヒドロキシ酪酸のこれらの調整機能は、細胞機能と遺伝子発現との外部環境リンクに役立ち、2型糖尿病を含む代謝性疾患の病因論と治療に重要な意味をもつ。



上記は論文の要約を直訳したものです。

現在、本文を手に入れるよう試みています。

ヒストン脱アセチル化酵素とかリガンドとか、難しい医学用語がでてきますが、これらはさっと流していただいて結構です。

論文の本意は、しらねのぞるばさんが、コメントしておられる通りです。

1)
ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)は、空腹時や運動時において、脂肪組織から末梢組織への便利なエネルギー運搬体である。

2)
β-ヒドロキシ酪酸は、エネルギー源であるだけではなく、重要な細胞内シグナル伝達の役割を持っている。

3)
β-ヒドロキシ酪酸は遺伝子の発現の制御にも関与している。

4)
β-ヒドロキシ酪酸のダウンストリーム産物もシグナル活性を持っている。

5)
β-ヒドロキシ酪酸のこれらの調整機能は、細胞機能と遺伝子発現の外部環境リンクに役立つ。

6)
β-ヒドロキシ酪酸のこれらの調整機能は、2型糖尿病を含む代謝性疾患の病因論と治療に重要な意味をもつ。

ということで、

ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)はエネルギー源としてとても便利なだけではなく
人体の機能が正常に働くために、大変重要な役割を果たしていることは明白です。

すなわちケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)がなければ、そもそも人体の細胞は、まともに機能できないということです。


このように大切なケトン体のことを、まるで悪者のように扱う日本糖尿病学会の一部の医師には、猛省を促したいですね。


江部康二



ウィキペディア
*ヒストン脱アセチル化酵素
ヒストン脱アセチル化酵素(Histone Deacetylase(HDAC))とはクロマチン構造において主要な構成因子であるヒストンの脱アセチル化を行う酵素である。
遺伝子の転写制御において重要な役割を果たしている。ヒトでは、現在HDAC1-11までの11種類が同定されている。
・・・中略・・・
ヒストンでは、N末端のリシン残基がアセチル化、脱アセチル化され、これが遺伝子発現の制御に関わっている。
ヒストンが多数アセチル化されている染色体領域は、遺伝子の転写が活発に行われており、
ヒストンのアセチル化は遺伝子発現を活性化させ、脱アセチル化は遺伝子の発現を抑制していると考えられている。

*リガンド
リガンド(ligand; ライガンド)とは、特定の受容体(receptor; レセプター)に特異的に結合する物質のことである。
リガンドが対象物質と結合する部位は決まっており、選択的または特異的に高い親和性を発揮する。
例えば、酵素タンパク質とその基質、
ホルモンや神経伝達物質などのシグナル物質とその受容体などが顕著な例である。
リガンドの代わりにはたらく薬物がアゴニスト、リガンドのはたらきを弱める薬物はアンタゴニストである。
特にタンパク質と特異的に結合するリガンドは、微量であっても生体に対して非常に大きな影響を与える。
そのため薬学や分子生物学の分野では重要な研究対象になっている。

テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
HbA1cと負荷試験
江部先生、はじめまして、こんばんは。毎日楽しみに拝見しています。

糖質制限生活2か月のぷくぷくと申します。
HbA1cと75gブドウ糖負荷試験について教えていただきたいです。

私は35歳、身長153cm、体重50Kgで、現在、多嚢胞卵巣にて不妊治療中です。父方家系が糖尿病であり、自分もなるのではないかと薄々は予想していました。10月に低血糖と思われる症状が3回あり、初めて糖尿病を看板にあげているクリニックの門をたたきました。そこで、HbA1c5.3  負荷試験インスリン値 前2.3 30分14 60分27.9 120分59.6 血糖値 前79 30分145 60分185 120分170 という結果から、境界型糖尿病であり、極めて高い確率で糖尿病になるでしょう、妊娠すればインスリンを打たないといけないので、その時にまた来てくださいと言われました。今どうしたらよいのか尋ねると、薬は飲むほどではない、食事と運動を気を付けて年に1度はHbA1cを調べるようにと言われ終了しました。

そこで、本やネットで糖尿病について調べるようになり、江部先生の糖質制限食にたどり着き、主食抜きで2か月たちました。2か月で、変わったことといえば、体重が53kgから50Kgになったこと、髪の毛の抜ける量が減ったこと、空腹時でも低血糖のような症状がでなくなったことです。

長くなりましたが、本題です。HbA1cは過去2か月間の平均血糖値を反映しているのに、いままで私は健診でのHbA1cでひっかかったこともなく、今回も正常値内でした。しかし、負荷試験では2時間後の血糖値も高く、食後高血糖が長く続いていたと思われます。なぜHbA1cに反映されていないのでしょう?年に1度のHbA1cチェックでひっかかってからではかなり進行した状態になっているのではと心配です。ちなみに、貧血はありません。糖質制限前までは、主食、甘いものをたくさん摂取していました。


今回も、負荷試験をしていなければ糖尿病と言われることはなく、糖質制限にたどり着かなかったと思います。

江部先生の本を読んで、食後高血糖がいかによくないのかが分かりました。今後の人生が変わったのではないかとも思います。ブログを毎日チェックしてモチベーションをあげることができています。これからも知識をつけて、糖質制限食を続行していきます。

つたない文章になりましたが、よろしくお願いします。

2014/12/14(Sun) 21:16 | URL | ぷくぷく | 【編集
最近のKetone文献から
 Ketogenic diet に関する文献は、最近とみに増えています。全文閲覧可能なものからお見せします

J Clin Endocrinol Metab. 2014 Nov 21:jc20142608. [Epub ahead of print]
Systemic, cerebral and skeletal muscle ketone body and energy metabolism during acute hyper-D-β-hydroxybutyrataemia in post-absorptive healthy males.
Mikkelsen KH, Seifert T, Secher NH, Grøndal T, van Hall G.
http://press.endocrine.org/doi/pdf/10.1210/jc.2014-2608


J Exerc Rehabil. 2014 Oct 31;10(5):326-331
The effect of weight loss by ketogenic diet on the body composition, performance-related physical fitness factors and cytokines of Taekwondo athletes.
Rhyu HS, Cho SY
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4237850/
2014/12/14(Sun) 22:41 | URL | 精神科医師A | 【編集
Re: HbA1cと負荷試験
ぷくぷく さん

食後高血糖が数年間以上続いて、その後初めて早朝空腹時の血糖値が、110mg・・・126mgと
境界型から糖尿病型になります。

ぷくぷく さんの場合は、空腹時が79mgとか低めで、おそらく食後4時間くらいで、60mgとかの低血糖になっていたと思います。60mgとか70mgの空腹時血糖値と170、180の食後血糖値の平均値がHbA1cですので
ひっかからなかたのだと思います。夜間睡眠中も正常低めの血糖値と思われます。

今から緩くてもいいので糖質制限食をしておけば、将来の糖尿病発症が予防できると思います。
2014/12/15(Mon) 07:55 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 最近のKetone文献から
精神科医師A さん

ケトン関連の論文情報をありがとうございます。
2014/12/15(Mon) 07:56 | URL | ドクター江部 | 【編集
橋本病で、なかなか痩せなくて苦労しています。食事と運動でなんとか25キロ減量したのですが、この一年間は痩せません。最近先生の本を買い糖質制限をすることにしました。
現在HLD66LDL91TG91血糖102ヘモグロビンA1c 5.6
CKが271と高く、免疫グロブリンmが20と、かなり低くなっています。それ以外は腎臓肝臓全て血液検査は良いです。現在リバロとチラージンを服薬していますが、全身の筋肉が痛み、身体に吹き出物が出来ています。
私の考えでは、食事指導でタンパク質と脂質をギリギリにしていて、すでに25キロ痩せたことから、身体の免疫が下がり、リバロの副作用で全身の筋肉の痛みかあるためCKが上がったのではと考えています。医師もリバロの副作用は心配しているため、自己判断でリバロを飲むのをやめました。現在の数値ではリバロをやめても良いのではと考えています。タンパク質と脂質をギリギリに制限すると、免疫が下がることがあるのでしょうか。私としては体重が少しづつ減りながらも身体も精神的にもずっと楽なコトからこの方法でやってみようと考えています。
2014/12/15(Mon) 11:48 | URL | ブルーローズ | 【編集
Re: タイトルなし
ブルーローズ さん

CK上昇で筋肉痛があれば、リバロは危険です。
すぐに中止して正解です。

タンパク制限やカロリー制限(脂肪制限)は免疫力がおちる可能性があります。

糖質制限食なら、タンパク質をしっかり摂取して、標準必要エネルギーも摂取するので
免疫力も回復です。
2014/12/15(Mon) 14:32 | URL | ドクター江部 | 【編集
ありがとうございます。
コメントへの返信ありがとうございます。夕方になり、ずっと筋肉の痛みが消えました、リバロを中止して3日たち、徐々に筋肉の痛みが消えたことからも、CK上昇の犯人はリバロだったようです。先生の意見を聞き、糖質制限のみでリバロをやめる決心がつきました。ありがとうございます。
2014/12/15(Mon) 20:01 | URL | ブルーローズ | 【編集
ありがとうございました
江別先生、回答ありがとうございました。

数年空腹時血糖が高い状態が続いてしまうとHbA1cに出るようになってしまうんですね。

これをきっかけに、糖質制限を学んで予防していきたいと思ってます。
2014/12/15(Mon) 23:20 | URL | ぷくぷく | 【編集
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