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「糖尿病妊娠」「妊娠糖尿病」と『糖質制限食』『従来の糖尿病食』
こんばんは。

今回は、「糖尿病妊娠」「妊娠糖尿病」と『糖質制限食』『従来の糖尿病食』について、わかりやすく考察してみました。


A)「糖尿病妊娠」と「妊娠糖尿病」

すでに糖尿病であった人が妊娠したら「糖尿病妊娠」です。

糖尿病ではなかった人が、妊娠後初めて基準をみたした場合は「妊娠糖尿病」です。

妊娠糖尿病は、糖尿病にいたっていない糖代謝異常であり、妊娠時に診断された明らかな糖尿病は含まれません。

妊娠糖尿病は75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)によって診断されます。

前値が92mg/dl以上、1時間値180mg/dl以上、2時間値153mg/dl以上のいずれかがあれば、妊娠糖尿病(GDM)と診断されます。


B)<妊娠中の血糖値コントロール目標>は

朝食前血糖値70~100mg/dl
食後1時間血糖値140mg/dl未満
食後2時間血糖値120mg/dl未満
GA(グリコアルブミン)15.8%未満

となります。

HbA1c6.2未満、NGSP値、も目標なのですが、妊婦で鉄欠乏状態があると、HbA1cは正確な数値を示さないので、GA(グリコアルブミン)の方が頼りになるのです。


C)妊婦の高血糖によるリスクと弊害

高血糖による母体、胎児への合併症として

【胎児への影響】
・流産、奇形、巨大児、未熟児、低血糖児、心臓病、胎児死亡 など

【母体への影響】
・糖尿病腎症の悪化、糖尿病網膜症の悪化
・早産、
・尿路感染症
・妊娠高血圧症候群、羊水過多
・赤ちゃんが巨大児になることにより、難産になったり、帝王切開になるリスクの増加などがあります。

高血糖により、これだけのリスクが母体と胎児に生じます。


D)従来の糖尿病食(高糖質食)の欠陥

日本糖尿病学会推奨の糖尿病食(カロリー制限・高糖質食)で食後高血糖を防ぐことは、インスリン注射をしていても至難の業です。

さらに、食後高血糖を防ごうとして、インスリンの量を増やせば、今度は母体は低血糖のリスクが大きく増加します。

そして、普通に糖質を摂取して、インスリン注射で厳格にコントロールしようとすると、一日の血糖値の変動幅が、増大します。

食後高血糖と平均血糖変動幅の増大が一番大きな酸化ストレスリスクとなります。(*)

酸化ストレスは、母体にも胎児にも当然、悪影響を及ぼします。

「糖尿病妊娠」あるいは「妊娠糖尿病」で、糖質を普通に食べてインスリン注射を打っている場合は、上記のリスクは常にあるわけです。

糖尿病妊娠で糖質を普通に食べてインスリンを注射して、無事出産されている方も多いと思いますが、このように見てくると、それはある意味運が良い人と言えるのかもしれません。


E)スーパー糖質制限食の利点

スーパー糖質制限食に切り替えると、「糖尿病妊娠」あるいは「妊娠糖尿病」でもインスリンフリーになり、血糖コントロールが一日を通して、とても良好となります。

そして、食後高血糖、低血糖、平均血糖変動幅増大、酸化ストレス増大といった母体と胎児に悪影響を及ぼす要因が、
全てなくなります。

また妊婦体重コントロールも、糖質制限食なら、ほとんど苦労はいりません。

その結果、安産で、元気な赤ちゃん誕生の可能性がとても高いということとなります。


F)βヒドロキシ酪酸(ケトン体)の安全性

2014年1月12日(日)第17回日本病態栄養学会年次学術集会(大阪国際会議場)で、宗田哲男先生が、画期的な研究成果を発表されました。

人工流産胎児(58検体)の絨毛の組織間液のβヒドロキシ酪酸値の測定です。

何と平均1730μmol/Lとかなりの高値です。

成人の基準値は76~85μmol/L以下くらいなのですが、胎児の絨毛間液においては、1730μmol/L程度が基準値ということになります。

糖質を普通に摂取している成人の基準値の、約20~30倍です。

また生後4日目の新生児312名において、一般食、糖質制限食にかかわらず、βヒドロキシ酪酸値の平均値は240.4μmol/L、同様に生後1ヶ月の新生児40名において、βヒドロキシ酪酸値の平均値は400μmol/Lと、一般的な基準値(76~85μmol/L以下)より、はるかに高値であることを報告されました。

インスリン作用が保たれている場合、ケトン体が現行の基準値よりはるかに高値でも、安全であることの証明がなされたと言えます。

そして、胎児・新生児のケトン体の基準値は、現行の基準値よりはるかに高値であることがわかりました。

胎児、新生児は、ケトン体を主たるエネルギー源として利用している可能性が高いことを示唆する、画期的な研究です。

このように、胎盤、新生児のケトン体の基準値は、現行の基準値よりはるかに高値であることが確認されたわけですから、妊婦のケトン体が少々高値でも胎児へ悪影響などあるはずもないのです。

スーパー糖質制限食で、妊婦のケトン体が、一般的基準値より高値になりますが、妊婦においても、胎児においても、ケトン体の安全性(基準値より高値でも)が確認されたと言えます。



(*)
酸化ストレスに関しては、
2014年07月14日 (月)の本ブログ記事
酸化ストレス・・・て何?食後高血糖と平均血糖変動幅増大がリスク!
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3030.html
をご参照いただけば幸いです。



江部康二

テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
偏食を招き健康を害する
"栄養学のプロ"が「糖質制限ダイエット」に警鐘を鳴らす

http://news.mynavi.jp/articles/2014/12/09/diet/
2014/12/09(Tue) 10:40 | URL | 精神科医師A | 【編集
境界型糖尿病とピル
いつも、拝見して勉強させて頂いております。

三年前の妊娠時に、妊娠糖尿病となり、こちらのブログで糖質制限を知りました。先生の御著書でも勉強させて頂き、スーパー糖質制限でインスリンなし、GA値も基準内で無事出産することができました。
産後1ヶ月の75gOGTTにて、境界型糖尿病との診断され、以降スーパー糖質制限を続けております。

授乳中もスーパー糖質制限でしたが、完全母乳育児が出来ました。(産院では、母乳のためにご飯や芋類をたくさん食べなさいと言う指導でしたが…)
余談ですが、不思議なことに、妊娠糖尿病となる前に出産した上の子どもに授乳していた時(ご飯や芋類などの糖質たっぷりの食事)の方が、乳腺炎になりやすかったです。
スーパー糖質制限をしての授乳中では、一回も乳腺炎になりませんでした。

そして、スーパー糖質制限をしたまま、また妊娠、先々月に無事出産することが出来ました。
もちろん、今回もインスリンなし、GA値も良好。赤ちゃんも産後低血糖になることなく、母乳もたくさん出ています。

先生にお聞きしたいのですが、授乳期間が終わったら、避妊と子宮内膜症の為に低用量ピルを服用したいと思っております。
糖尿病でも血糖値の管理が良好であれば、低用量ピルの服用は可能でしょうか?

また服用することによってのリスクや、血糖値への影響などあれば教えて頂きたいのです。
お忙しい中すみませんが宜しくお願いいたします。
2014/12/09(Tue) 14:41 | URL | ばんちゃん | 【編集
Re: 境界型糖尿病とピル
 婦人科関連の質問は、宗田Drのblogをご利用されほうがよいでしょう

https://www.facebook.com/tetsuo.muneta
2014/12/09(Tue) 21:30 | URL | 精神科医師A | 【編集
Re: 境界型糖尿病とピル
ばんちゃんさん、千葉で開業している産婦人科医です。

 スーパー糖質制限をしたまま、妊娠、出産おめでとうございます。
スーパー糖質制限をしての授乳中では、一回も乳腺炎になりませんでした
とのこと、脂肪の多い食事が乳腺炎になるという迷信は、またしても砕かれたようですね。離乳食も糖質制限で行うと快調だと思います。
 さてピルのお話ですが、糖尿病であってももちろん内服には何も問題はありません。産後3か月ないしは6か月くらいから開始していいと思います。頑張ってくださいね。


2014/12/09(Tue) 23:16 | URL | 宗田 哲男 | 【編集
Re: 偏食を招き健康を害する
精神科医師A さん

情報をありがとうございます。

"栄養学のプロ"???

中村丁次先生、何の根拠も示さずに、ご自分の単なる私見で

たんぱく質: 13~20%

脂質: 20~30%

飽和脂肪酸: 7%以下

炭水化物: 50~65%

を推奨とは困ったもので、栄養学のプロとは言えませんね。

ご自分でも、三大栄養素の比率にかんするエビデンスはないと仰有っているのですから、
米国糖尿病学会のように、「唯一無二の食事療法」はないとするのが、
現時点での科学的態度と言えます。
2014/12/10(Wed) 08:58 | URL | ドクター江部 | 【編集
ありがとうございます
江部先生、こちらのコメントをブログで取り上げて下さりありがとうございます。

そして、アドバイス下さいました 精神科医A様、丁寧にコメント下さいました宗田先生ありがとうございます。
失礼ながら、この場をお借りして御礼 申し上げます。
2014/12/10(Wed) 14:28 | URL | ばんちゃん | 【編集
食育健康サミット2014
『米穀安定供給確保支援機構』によるPR記事です

http://www.47news.jp/topics/prwire/2014/12/260147.html
2014/12/11(Thu) 08:50 | URL | 精神科医師A | 【編集
糖質制限による出産後の胎児への影響
初めまして。

最近このブログを知り、勉強させていただいております。
現在36週でなのですが、出産前から体重6キロ増で、
胎児は2,300g想定なのを見て、
妊娠糖尿病外来では分食して炭水化物をとらないと、
産まれた後の赤ちゃんが将来肥満になる、と言われました。
野菜とタンパク質メインの食事で、サプリで足りない栄養素は補っていたので、
栄養不足ではないと思うのですが、将来あかちゃんが肥満になるというのは本当でしょうか?
週数的には今からどうこうしても遅いと思うのですが、疑問を解消したく書き込みさせていただきました。

ちなみに私は妊活中に栄養療法を知り、専門の病院でサプリを処方してもらい摂取して、糖質を控えておりました。
妊娠中も同じ食事療法を行っておりましたが、
75グラムブドウ糖負荷検査で、2時間後の血糖が154となってしまい、妊娠糖尿病と判定されました。
2014/12/20(Sat) 09:58 | URL | 妊娠糖尿病妊婦 | 【編集
妊娠糖尿病妊婦さん

間違っていたらごめんなさい。でも、もしかしたら、

あなたが実践しておられる「栄養療法+サプリ」と、江部先生が提唱する
「糖質制限食」は、【似て非なるもの】ではありませんか?

「低体重で生まれた赤ちゃんは、将来成人病になりやすい」
という情報は、耳にしたことがありますが…。


2014年06月15日 (日) 妊娠糖尿病と糖質制限食
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-2996.html
に、江部先生の見解が記載されています。
2014/12/20(Sat) 21:08 | URL | 悪路邁進 | 【編集
Re: タイトルなし
悪路邁進 さん

コメントありがとうございます。
2014/12/21(Sun) 11:33 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 糖質制限による出産後の胎児への影響
妊娠糖尿病妊婦 さん

私は糖質制限食を推奨しています。
しかしサプリは、原則として使用しませんので、
詳しくは主治医とご相談ください。

「分食して炭水化物をとらないと、
産まれた後の赤ちゃんが将来肥満になる」

ということは、根拠のない憶測です。

おそらく、「オランダの飢餓の妊婦と赤ちゃん」の話などと、混同しているのでしょう。

分食しても、糖質を摂取すれば、食後高血糖を生じますし血糖変動幅増大を生じます。
食後高血糖と血糖変動幅増大は母体にも胎児にも悪影響があることにはエビデンスがあります。
糖質制限食なら、食後高血糖と平均血糖変動幅増大が生じないし、妊婦の体重コントロールも容易で
よいことだらけです。


2014/04/01の本ブログ記事
「NHKスペシャル、妊婦の炭水化物摂取量と子供の肥満・・・反論」
をご参照ください。
2014/12/21(Sun) 11:44 | URL | ドクター江部 | 【編集
コメントいただき、ありがとうございました。
江部先生

コメントいただき、ありがとうございます!
2014年4月のブログ記事も拝見させていただきました。
大変すっきりしました。
糖尿病外来では先生が炭水化物にこだわっていらして、
分食で炭水化物以外のものを摂ったらどうか、と提案してみても否定され、不可解に感じておりました。
ありがとうございました。

悪路邁進さん

コメントありがとうございました!
おっしゃる通り、似て非なるものなのかもしれません。。
教えていただいたブログの記事と、
江部先生からコメントしていただいたことを基に
食生活を見直してみたいと思います。
2014/12/21(Sun) 14:37 | URL | 妊娠糖尿病妊婦 | 【編集
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