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『月刊糖尿病』2014年9月号で境界型糖尿病の特集
【14/08/23 しらねのぞるば

境界型糖尿病の食事療法

『月刊糖尿病』の今月号(2014年9月号)では,境界型糖尿病の特集が組まれています.

【特集】
[1] インスリン抵抗性と境界型糖尿病の病態
[2] 舟形研究からみた境界型糖尿病
[3] DECODA Studyからみた境界型糖尿病
[4] わが国と海外の主要な診断基準比較
[5] 健診データを活かした糖尿病早期診断と発症予測
[6] 久山町研究からみた境界型糖尿病と合併症リスク
[7] 境界型糖尿病者に対する療養指導のコツ

と,ここまでは境界型糖尿病の病理,疫学データ,リスクなどが詳しく解説されており,特に;

◇日本では境界型糖尿病とひとくくりにされているが,海外では,IFG(空腹時高血糖)と,IGT(耐糖能障害=食後高血糖)
  とは,まったく別物としていること,
◇IFGの累積生存率は正常型とほとんど変わらないが,IGTはむしろ糖尿病型と同じであること
◇特にIGTの大血管障害や脳卒中の累積発症率は,糖尿病型とほぼ同じであること,

などが述べられています(注).

(注)
もっとも「境界型糖尿病」=「肥満の人」 と決めつけているのには首をひねります.たしかに肥満者に糖尿病や境界型糖尿病の割合が高いのは事実ですが,標準BMI以下の人でも境界型糖尿病は存在するのですから,その方達のIGTはどう説明されるのでしょうか?

また[2]では;

◇空腹時血糖値やHbA1cだけでは,IGTの存在は検出不可能である.

と明記しており,これらを総合すればIGT,即ち食後高血糖は,決して糖尿病『予備軍』ではなく,糖尿病と診断された人と同じくらいのリスクを抱えており,しかも通常の健康診断では『正常』と判定されているので,本人も医師もそれにまったく気づかず放置されている分だけ,よけい不利な状況にあると言っていいでしょう.日本では糖尿病と診断されない限り,IGTの段階ではボグリボースしか保険適用での投薬治療は認められていませんから,頼りになるのは運動療法と食事療法だけになるわけですが,

【特集】
8. 境界型糖尿病の食事療法

これを読むと呆れ果てます.境界型糖尿病を予防,ないしは改善するには『食品交換表通りの食事をしましょう』『炭水化物は低GIのものにしましょう』,これだけです.

ところがこの記事は一方で,糖質制限食については,ほぼ1頁にわたり(p.56)否定的見解を書き並べています. しかもそこで根拠としているのは2013年3月の日本糖尿病学会:『日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言』であったり,米国糖尿病学会(ADA)の2013年のStandards of Medical Care in Diabetes 2013(Diabetes Care Vol.36,S11-S16)の;

"For weight loss, either low-carbohydrate,low-fat calorie-restricted, or Mediterranean diets may be effective in the short-term (up to 2 years). (A)"

だけを引用し(しかも上記の通り、ADA原文では『2年まで』という表現は、カロリー制限食,地中海食及び低炭水化物食のすべてに対してかかっているのに、この記事ではあたかも糖質制限食だけが『2年まで』という制限がついたかのように歪曲して引用しています。)、同じくADAのNutrition Therapy Recommendations for the Management of Adults With Diabetes(Diabetes Care Vol.36,3821-3842)の;

"there is NOT a “one-size-fits-all” eating pattern for individuals with diabetes."

は引用せず,そのようなものは存在しないといわんばかりの偏向ぶりです.

つまり、この方の文献引用は徹頭徹尾『都合のいいところだけの引用』なのです。

しかもこの方のずるいのは,『低GI食品で食品交換表通りの食事療法をすれば,食後高血糖は発生せず、よってIGTから糖尿病への移行は必ず防止できる』とも書いていない点です. この記事のタイトル通り『境界型糖尿病の食事療法』として最適と信じているのなら,こう断言できるはずです.もちろん,それは事実に反するので,さすがに書けなかったのでしょうが.

この方の言う通りにしたら,現在IGTの人は,この特集の前半に詳述されたおそろしいリスクを増大させつつ,糖尿病まっしぐらでしょう.その意味で日本の糖尿病を増やしているのはこういう方々であると言えます.】



しらねのぞるばさん

『月刊糖尿病』2014年9月号、境界型糖尿病特集の解説、ありがとうございます。

(注)
もっとも「境界型糖尿病」=「肥満の人」 と決めつけているのには首をひねります.たしかに肥満者に糖尿病や境界型糖尿病の割合が高いのは事実ですが,標準BMI以下の人でも境界型糖尿病は存在するのですから,その方達のIGTはどう説明されるのでしょうか?


日本では、2型糖尿病新患の平均BMIが、24です。
欧米では、2型糖尿病新患の平均BMIが、32です。

ご指摘のように、肥満(日本ではBMI25以上)ではない境界型(IGT)の人は結構いると思います。

私自身、高雄病院の健康診断のデータを見てみると、今から思えば1993年くらいからIGTであった可能性が高いのです。

空腹時血糖値とHbA1cしか調べてないのでチェックできていなかったのです。

そして2002年に糖尿病発覚です。

40才までは、ずっと167cm、57kgくらいでした。

40才過ぎから徐々に体重が増えて、43才には60kg、BMI21.5です。

糖尿病発覚時の52才の時は67kgで、BMIは24.0です。

ですから、私の場合、IGTのときも糖尿病発覚の時も肥満ではありません。


また[2]では;
◇空腹時血糖値やHbA1cだけでは,IGTの存在は検出不可能である.
と明記しており,これらを総合すればIGT,即ち食後高血糖は,決して糖尿病『予備軍』ではなく,糖尿病と診断された人と同じくらいのリスクを抱えており,しかも通常の健康診断では『正常』と判定されているので,本人も医師もそれにまったく気づかず放置されている分だけ,よけい不利な状況にあると言っていいでしょう.


その通りと思います。

私自身が、健康診断で空腹時血糖値とHbA1cの検査だけでチェックしていて境界型(IGT)を見逃していた可能性が極めて高いのです。

今の健康診断のやりかた、「空腹時にまとめて血液も尿も画像診断も行う」という方式では、IGTは必ず、見逃されます。

IGTや糖尿病の早期診断のためには、食事開始後1時間の血糖値を調べるのが最善と思います。


【特集】
8. 境界型糖尿病の食事療法
これを読むと呆れ果てます.境界型糖尿病を予防,ないしは改善するには『食品交換表通りの食事をしましょう』『炭水化物は低GIのものにしましょう』,これだけです.
ところがこの記事は一方で,糖質制限食については,ほぼ1頁にわたり(p.56)否定的見解を書き並べています.


2013年11月に11年ぶりに改訂された

<糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版>(編著:日本糖尿病学会、発行所:文光堂)

では、7ページに

●血糖値に影響を及ぼす栄養素は主に炭水化物ですが、脂質とたんぱく質も影響を及ぼします。
●脂質は食後しばらくたってから血糖値が上がる原因となります。1回の食事でとりすぎないようにしましょう。


何の根拠もあげずに、上記の記載があります。

米国糖尿病学会は、2004年以降は、患者教育用テキストブックにおいて、

「摂取後血糖に変わるのは糖質のみで、蛋白質・脂質はは血糖に変わらない。」

と明言していますので、日本糖尿病学会は、米国糖尿病学会に真っ向から喧嘩を売っているようなものですね。

さらに、米国糖尿病学会は、5年ぶりに改訂した

「成人糖尿病患者の食事療法に関する声明(Position Statement on Nutrition Therapy)」

において、地中海食やベジタリアン食などと共に「糖質制限食」も正式に受容しています。

『月刊糖尿病』2014年9月号の著者は、「米国糖尿病学会が正式に糖質制限食を受容している」という重要な事実を日本国民に隠蔽しているのは、信じられない愚挙ですね。

しらねのぞるばさんのご指摘どおり、日本糖尿病学会が、糖尿病の唯一無二の食事療法として推奨する「カロリー制限食(高糖質食)」では、必ず食後高血糖を生じるわけですから、理論上、IGTから糖尿病への移行を防ぐことは極めて困難です。

IGTから糖尿病への移行を予防できるのは、唯一糖質制限食だけです。

新潟労災病院消化器内科部長前川智先生が書かれた

「耐糖能異常に対する低炭水化物食の効果に関する後ろ向き研究」

と題した英文論文がPubMedに掲載されました。

Diabetes, Metabolic syndrome, Obesity, Target and Therapy
というニュージーランドの英文雑誌です。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4063858/  → ここで全文が閲覧可能です。

『糖質制限食が境界型糖尿病において、血糖コントロール及び2型糖尿病への進行を予防するのに有効である。』

という結論です。

まさに糖質制限食が、IGTから糖尿病への移行を予防したという研究です。

前川智先生の論文に関しては、2014年07月01日 (火)の本ブログ記事

「糖質制限食に関する英文論文、PubMed掲載。新潟労災、前川智先生。」

をご参照いただけば幸いです。



江部康二



☆☆☆

新刊のご案内です。
おかげさまで早くも2版となりました。
よかったら、アマゾンの書評を書いていただけば嬉しいです。 (^^)
よろしくお願い申しあげます。



『炭水化物の食べすぎで早死にしてはいけません』
生活習慣病を予防&改善する糖質制限食31のポイント
江部康二著 東洋経済新報社
2014年8月1日(金)から発売中

テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
食品交感表
江部先生おはようございます。大酒のみのヘルミです。
「脂質は食後しばらくたってから血糖値が上がる原因となります。1回の食事でとりすぎないようにしましょう。」
・・・先日管理栄養士と話していて(いじめていて?)変なことを言うな、と思ったら、出所はここか!
困りますね、管理栄養士のバイブル的な本がこんなでたらめを堂々と書いては…
うちの病院なんて患者指導にバンバン使っていますよ。いったいどうしたらいいんでしょう…
2014/08/27(Wed) 10:13 | URL | ヘルミ | 【編集
Re: 食品交感表
ヘルミ さん

そうなんです。
折角11年ぶりに改訂された
<糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版>
なのに、困ったものなのです。

米国糖尿病学会の患者教育用テキストブックの記載を
栄養士さんに教えてあげてください。


血糖と糖質・蛋白質・脂質 米国糖尿病学会 2004年

摂取後血糖に変わるのは糖質のみである。
糖質は速やかに吸収され、120分以内に100%血糖に変わる。
蛋白質は血糖に変わらない。
脂肪は血糖に変わらない。
「炭水化物・タンパク質・脂肪はカロリーを含有している。
  炭水化物だけが、血糖値に直接作用する。」

1997年版では蛋白質50%、脂質10%未満が血糖に変わるとしていたが、2004年版で削除・変更。

*ADA:Life With Diabetes A Series of Teaching Outlines 
by the Michigan Diabetes Research and Training Center 2004








2014/08/27(Wed) 13:08 | URL | ドクター江部 | 【編集
食事摂取基準2015
食事摂取基準は管理栄養士にとってバイブルである。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000042646.pdf

422頁 図2 栄養素摂取と高血糖の関係

脂質・蛋白質は、内臓脂肪型肥満を介して血糖値を上げる

直接血糖を上げるのは糖質のみである
2014/08/27(Wed) 18:31 | URL | 精神科医師A | 【編集
Re: 食事摂取基準2015
精神科医師Aさん

情報をありがとうございます。

日本糖尿病学会の「食品交換表第7版」7ページの
誤った記載
『●血糖値に影響を及ぼす栄養素は主に炭水化物ですが、
 脂質とたんぱく質も影響を及ぼします。
 ●脂質は食後しばらくたってから血糖値が上がる原因となります。
 1回の食事でとりすぎないようにしましょう。』


に対して
厚生労働省「日本人の食事摂取基準」(2015年版)では、
『血糖に直接変わるのは糖質だけ』ということが、
明記されていて、当然のことながら正しい記載ですね。
2014/08/27(Wed) 21:58 | URL | ドクター江部 | 【編集
食事摂取基準2015 (2)
食事摂取基準(2015)策定検討会構成員に糖尿病学会の門脇理事長が入っているよ

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000042627.pdf
2014/08/28(Thu) 12:22 | URL | 精神科医師A | 【編集
Re: 食事摂取基準2015 (2)
精神科医師A さん

情報をありがとうございます。

そうすると、「門脇理事長、血糖値に直接作用するのは、糖質だけ」
ということはご存知のはずですよね。

あーそれなのに、食品交換表では
「タンパク質と脂質も血糖値に影響を与える。」
という明白な間違いの文言があるのは、何故でしょうね?
2014/08/29(Fri) 11:18 | URL | ドクター江部 | 【編集
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