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糖尿病妊婦における糖質制限食。批判と反論。
糖尿病妊婦における糖質制限食。批判と反論。

【糖尿病学会誌
糖尿病学会誌7月号 に2通の編集者への手紙が掲載された。同じ時期の投稿であり何らかの指示で企画されたものと思われる。私の糖尿病妊娠学会での発表抄録を文献トップに挙げて糖質制限食の批判を披露している。ただこのレターは最初の数行でこの方の栄養学への無知が露呈する。

また、私はこの学会発表で糖質制限食でケトン体が上昇することを主に発表したのではなく、糖質制限とは無関係に妊婦、胎児、新生児が高ケトン血症であることを発見し発表したのであるが、彼らにはその点は、全く理解ができないようである。そもそも、胎児の栄養は何によっているのかという江部先生から与えられた宿題からこの研究は始まった。

そしてケトン体といえば飢餓しか思い浮かばないこの2通のレターの著者の見解とは異なり、「悪阻や飢餓で起こる高ケトン血症は脂肪、筋肉組織の動員でおこるが、糖質を制限し脂質、タンパク質を中心に摂取する場合は、体内組織は使われず、食事に起因するもの」、胎児は脂肪をエネルギー源としている可能性」を論じた。

抄録を引用するのなら、こうした中身を読んで見解を述べてもらいたいものである。

ケトン体が悪いの一点張りの20年前の文献に頼らないで、少なくともアメリカ糖尿病学会の今のレベルをふまえて、なぜ胎児がケトン体が高いのかを考えてほしいものである。

江部先生、このレターは、極端な糖質制限食を批判していますが、あまりにレベルの低い内容に驚いています。ぜひ先生の見解を聞かせてください。


編集者への手紙Letters to the Editor

糖代謝異常の妊婦における糖質制限食
金塚東1) 竹本稔2) 横手幸太郎2)
Key words:妊娠,妊娠糖尿病,食事療法
〔糖尿病57(7):527,2014〕

今回我々は,極端な糖質制限食(たんぱく質:脂質:炭水化物=17.7:50.9:30.9,1094 kcal 日)にて治療を 受けていた妊娠糖尿病患者を経験した.

本症例は当院 入院時(妊娠36 週)に倦怠感,嘔気や高ケトン血症を 呈していたが,入院後,糖質制限の解除により速やか に症状改善し,妊娠39 週目に異常なく出産した.

一方で,第29 回日本糖尿病・妊娠学会年次学術集会において,糖質制限食を実施した妊娠糖尿病ではケトン体は上昇したが,同制限食は妊娠糖尿病管理に有効である と報告された1).

妊娠時の糖・脂質代謝の特徴は「accelerated starvationとfacilitated anabolism」である2).妊娠後期のβ ― ヒドロキシ酪酸値と出生児2 歳時のIQ が逆相関する ことが認められ,全ての妊婦においてケトアシドーシスとaccelerated starvation を避けるよう努力する必要があると報告された3).

さらに胎生期・新生児期の飢餓は成人期の糖代謝異常等にも関連する4).

従って,極端な糖質制限食で治療され,高ケトン血症を呈した妊婦より出産した児には将来障害が発症する可能性は否
定できず,長期的な予後の観察が必要である.

「日本糖尿病学会の提言」において,“炭水化物のみを極端に制限して減量を図ることは(中略)エビデンスが不足しており,現時点では薦められない”とされた5).

妊婦の栄養状態は出産後長期間にわたり児の発育に影響すると指摘されている2,4).

以上より糖代謝異常の妊婦には,「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013」6)に準じた治療が薦められ,現時点で極端な糖質制限食の試みは慎むべきである.


2014/08/08(Fri) 23:05 | URL | 産婦人科医 宗田 |】


宗田先生、コメントありがとうございます。

まず金塚東氏のレターです。

極端な糖質制限食と金塚氏は仰有ってますが、

「たんぱく質:脂質:炭水化物=17.7:50.9:30.9,1094 kcal 日」

です。

糖質の割合は30.9%ですので、スーパー糖質制限食の12%よりはるかに多い糖質摂取量です。

この糖質摂取割合は、山田悟先生の推奨する緩やかな糖質制限食であり、決して極端な糖質制限ではありません。

逆に、妊婦であることを思えば、1094kcal/日というのは極端なカロリー制限食です。

妊婦さんの年齢により異なりますが、必要カロリーは成人女性の1日あたり摂取カロリー+350kcalが目安となります。
18~29歳:2150 kcal (1800kcal+妊娠中350 kcal)
30~49歳:2100 kcal (1750kcal+妊娠中350 kcal)

つまり、この患者さんは妊婦に必要なカロリーの半分しか摂取していないので極端な低カロリーです。

入院時(妊娠36 週)の、「倦怠感,嘔気や高ケトン血症 」は全て低カロリーのためであり、糖質制限は無関係です。

糖質の割合が30.9%もあって、通常の必要エネルギー2150kcal/日ならそもそもケトン体産生は生じませんので高ケトン血症になりません。

スーパー糖質制限食(糖質12%)でもちょっと油断して糖質が多めになると血中ケトン体はたちまち、基準値以下になってしまうのです。

1991年のRizzo等論文を引用して妊婦のケトン体高値のリスクを述べておられますが、この当時は、空腹時血糖値とHbA1cのみで血糖コントロールを評価しており、酸化ストレスの最大リスクである「平均血糖変動幅増大」「食後高血糖」のことは、
全く知られていませんでした。当然この文献でも無視されています。

結局、このRizzo等の文献のケトン体高値は、「平均血糖変動幅増大」「食後高血糖」といった糖尿病の血糖コントロールの悪さを反映していたものと考えられます。

すなわち血糖コンントロールの悪い糖尿病妊婦ではケトン体が結果として高値となるが、実際には血糖コントロールの悪さが出生児のIQに問題を生じたと考えられます。

2014年1月12日(日)
第17回日本病態栄養学会年次学術集会(大阪国際会議場)で、宗田哲男先生が、画期的な研究成果を発表されました。

人工流産胎児(58検体)の絨毛の組織間液のβヒドロキシ酪酸値の測定です。何と平均1730μmol/Lとかなりの高値です。

成人の基準値は76μmol/L以下なのですが、胎児の絨毛間液においては、1730μmol/Lていどが、基準値ということになります。糖質を普通に摂取している成人の基準値の、約20~30倍です。

また生後4日目の新生児312名において、一般食、糖質制限食にかかわらず、βヒドロキシ酪酸値の平均値は240.4μmol/L、同様に生後1ヶ月の新生児40名において、βヒドロキシ酪酸値の平均値は400μmol/Lと、一般的な基準値(76μmol/L以下)よりはるかに高値であることを報告されました。

インスリン作用が保たれている場合、ケトン体が現行の基準値よりはるかに高値でも、安全であることの証明がなされたと言えます。

そして、胎児・新生児のケトン体の基準値は、現行の基準値よりはるかに高値であることがわかりました。

胎児、新生児はケトン体を主たるエネルギー源として利用している可能性が高いことを示唆する画期的な研究です。

このように、胎盤、新生児のケトン体の基準値は、現行の基準値よりはるかに高値であることが確認されたわけですから、妊婦のケトン体が少々高値でも胎児へ悪影響などあるはずもないのです。

金塚氏は、宗田先生のご研究をご存じないのでしょうか。


江部康二




☆☆☆

新刊のご案内です。
おかげさまで、早くも第2版となりました。



『炭水化物の食べすぎで早死にしてはいけません』
生活習慣病を予防&改善する糖質制限食31のポイント
江部康二著 東洋経済新報社
2014年8月1日(金)から発売中


テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
日本糖尿病・妊娠学会(2013)抄録
<演題名>糖質制限食による妊婦、胎児、新生児の高ケトン血症の検討
<所属>宗田マタニティクリニック1)、永井クリニック2)
<筆頭演者>宗田哲男 czf06641@nifty.com
<共同演者>河口江里1)、松本桃代2)、永井泰2)
<抄録>

【目的】糖質制限食で管理すると血液中のケトン体(主としてβ-オキザロ酪酸)が上昇する。日本糖尿病学会は、極端な糖質制限食は高ケトン血症を招くために危険という声明を出している。我々は、一般的な食生活の妊婦と糖質制限食を実施した妊娠糖尿病をはじめとした妊婦について、それぞれ、妊娠中、および分娩時、新生児のケトン体値をしらべ、生体に与える影響を検討した。

【方法】妊娠中の血中ケトン体値の測定、分娩時の児、および母親のケトン体値、出生後のケトン体値推移。

【結果】妊娠中の母体は、重症悪阻ではケトン体が上昇する。糖質制限食を行うと程度によってケトン体が上昇し、最高5000μmol/L以上にもなる。たとえ1000μmol/L以上であってもアシドーシスを起こす例はない。また、分娩時に臍帯血を調べると一般食、糖質制限食にかかわらず、児の70%は高ケトン血症である。そして生後もこの傾向は続き、1か月検診でも高ケトン血症である新生児が多い。糖質制限食ではない妊娠の胎児の血液、絨毛組織からも常に700μmol/L以上のケトン体が測定された。

【考察】胎児、新生児はケトン体をエネルギー代謝の中心にしていることが示唆される。悪阻や飢餓で起こる高ケトン血症は脂肪、筋肉組織の動員でおこるが、糖質を制限し脂質、タンパク質を中心に摂取する場合は、体内組織は使われず、食事に起因するもの。高ケトン血症で、いわゆる正常値の50倍の高値でも日常生活は快適におくれて、何ら危険なものではなかった。

【結論】胎児、新生児は高ケトン血症であり、糖質制限食の下ではさらに顕著であるが、それは生体の基本的な代謝の反映であり、人類史では、穀物のない時代の方がはるかに長く、現代の糖質過多食こそ特殊な時代であり、ヒトは本来ケトン代謝によるエネルギーを基本としていたと推察される。糖質制限食は妊娠糖尿病管理に有効であり、それによっておこるケトン体の上昇は生理的なもので、胎児期からあり、危険なものではないと考える。
利益相反:無

学会当日の光景はこのHP参照
http://www.wound-treatment.jp/new_2014-04.htm#0417-06:00-6
2014/08/09(Sat) 18:03 | URL | 精神科医師A | 【編集
糖尿病学会への反論(1)
糖尿病学会誌の2論文(金塚、谷川氏著)に対する私の考えをお知らせします

https://www.jstage.jst.go.jp/browse/tonyobyo/57/7/_contents/-char/ja/

 両論文とも、引用英語論文はやたら80年代のが多い。21世紀の引用文献は両論文とも各1編のみ。

 また申し合わせたように2014年2月投稿である。2013年12月下旬には、ADAの2014年1月増刊号がWeb公開されており、ADA見解では妊婦の食事療法に対しても「唯一無二は無い」はずである

 宗田Drの抄録をよく読むと、「悪阻や飢餓で起こる高ケトン血症は脂肪、筋肉組織の動員でおこるが、糖質を制限し脂質、タンパク質を中心に摂取する場合は、体内組織は使われず、食事に起因するもの」とある

 ところが両論文とも申し合わせたように、今世紀の論文を基に『飢餓がいけない』という方向に結論を導いている。これは抄録内容と矛盾する。抄録と両論文を比較すれば、抄録の内容全般をきっちりと批判できていないことがよくわかる

 次は金塚論文を吟味する。共著者の竹本氏は准教授、横手氏は教授である。引用英語文献の最も新しいもので2001年のreview論文である。これでは2014年時点のevidenceとはいえない。

 谷川論文では、ケトーシスとケトアシドーシスの正確な区別が分かっていない。「ケトン体が胎児の脳の発育や神経細胞の成熟に及ぼす影響については全く知られていない」と正直に書いているだけ、金塚氏よりはよく勉強している。前世紀の英語論文を並べたてているが、最新の2011年論文でも飢餓に関する内容しか説明できていない。
2014/08/09(Sat) 18:11 | URL | 精神科医師A | 【編集
糖尿病学会への反論(2)
 さて、2014年1月の日本病態栄養学会で、宗田Drはさらなる発表を行った。抄録では「一般妊娠の胎児の絨毛組織から700-2700μmol/L のケトン体が測定された」との報告である。その他口頭で追加内容の発表を行った

 また別の演者からは、2歳男児にケトン食療法を実施し、ケトン体 4000μmol/L 前後で良好に維持できたとの発表が2件あった。2歳児にやってよいことが、妊婦にとって悪いはずはない

 さて以下の各名は病態栄養学会の評議員である。1月の病態栄養学会での宗田Drの発表内容を知らないはずがない

著者: 金塚 東、谷川敬一郎

糖尿病学会誌編集委員長: 吉岡成人

編集委員: 伊藤博史、江藤一弘、大沼 裕、佐々木敬、佐々木秀行、戸邉一之、西尾善彦、平野 勉

http://www.jds.or.jp/modules/journal/index.php?content_id=1

http://www.eiyou.gr.jp/

 あきれるのは筆頭著者は両名とも評議員であることである。1月の学会抄録の内容を知らないことは絶対にありえないはずであり、その内容を2月に投稿した論文に引用文献にしなかったこと自体、評議員として失格である。
2014/08/09(Sat) 18:22 | URL | 精神科医師A | 【編集
Re: 糖尿病学会への反論(1)
精神科医師A さん

コメントありがとうございます。
2014/08/09(Sat) 20:56 | URL | ドクター江部 | 【編集
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