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高強度スタチンは糖尿病リスク上昇に関連
「高強度スタチンは糖尿病リスク上昇に関連」

という記事が、日経メディカルに掲載されました。

長谷川さんから情報をいただきました。
ありがとうございます。

BMJ誌(ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル)の記事です。

心血管疾患の2次予防を目的とする高強度スタチンの使用は、糖尿病発症リスクの中等度上昇に関係していた。

「リスク上昇は強力ではないが、高強度スタチンを処方する際には、糖尿病リスクに留意する必要がある」と著者らは述べている。


一言でいえば、著者らのいうとおりと思います。

スタチン剤で糖尿病リスク上昇というのは、もはや常識レベルになってきていますね。

例えば、「今日の治療薬」(南江堂)という、とてもポピュラーな毎年でる薬の本がありますが、2014年版の368ページに

「大規模臨床試験のメタアナリシスから、スタチンにより、糖尿病の新規発症がプラセボに比較して9%有意に上昇することが示された。また大規模な観察研究であるWHIでも、スタチン使用群で糖尿病の新規発症が多いことが示された」

と記載してあります。

スタチンというコレステロールを下げる薬には、横紋筋融解症、ミオパチー(筋肉痛)、肝障害などの副作用があることは、よく知られていますが、糖尿病の新規発症にも、しっかり留意する必要があるようです。

コレステロールを下げるべきか否かにおいて「日本動脈硬化学会」と「日本脂質栄養学会」のバトルが続いています。

私自身は、「家族性の特殊例を除いては、高コレステロール血症にスタチンは不必要」という、日本脂質栄養学会の見解に賛成です。

コレステロールは、とかく悪者にされがちですが、実は、細胞膜や男性ホルモン、女性ホルモンなどの原料として人体に必要不可欠な大切な物質です。

脳の乾燥重量の65%は脂質であり、その1/4はコレステロールであり、脳においてもコレステロールは重要な構成物質なのです。

一般にLDLコレステロールは悪玉でHDLコレステロールは善玉という言い方をしますが、これも正確ではありません。

正常サイズのLDLは、中に約40%のコレステロールを含んでおり、それを末梢組織に運ぶ真っ当な役割を果たしています。

HDLは末梢組織の細胞で原料として使用されたあと余ったコレステロールを回収して肝臓に運んでいます。 

即ち、LDLもHDLも人体に必要なものであり、日々良い仕事をしており逆に少なすぎたら困るわけです。

これらのことを普通に考察すると、

「むやみにスタチンでコレステロール値を下げることは如何なものか」

と、私は思うわけです。


江部康二


【14/06/12 わんわんこと長谷川清久
日経メディカルから
海外論文ピックアップ BMJ誌よりBMJ誌から

高強度スタチンは糖尿病リスク上昇に関連

心血管疾患の2次予防目的で低強度スタチンと比較したメタアナリシスの結果

2014/6/12
大西淳子=医学ジャーナリスト
 心血管疾患の2次予防のために行われるスタチン投与では、低強度スタチンに比べて高強度スタチンの方が糖尿病発症リスクが高いこと、特に処方開始から4カ月間のリスク上昇が大きいことが、複数の住民ベースのコホート研究と、それらのメタアナリシスの結果として示された。カナダBritish Columbia大学のColin R Dormuth氏らが、BMJ誌電子版に2014年5月29日に報告した。
 米国食品医薬品局(FDA)は、ランダム化比較試験のデータを対象に行われた2件のメタアナリシスの結果に基づいて、スタチンのラベルを2012年2月に変更し、血糖への影響(糖尿病発症、HbA1c値または空腹時血糖の上昇など)を追加させている。
 著者らは、心血管疾患2次予防を目的とするスタチン処方において、強度が高いスタチンと、低いスタチンを用いた場合の糖尿病新規発症リスクを比較するため、住民ベースのコホート研究を8件行い、それらのデータのメタアナリシスを実施した。
 カナダ6州の住民の医療記録と、米国と英国でそれぞれ収集された大規模なデータセット(英国の臨床診療研究データリンク、US MarketScan)を利用して、1997年1月1日から2011年3月31日に、主要な心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、CABG、PCI)により入院し、退院後90日以内にスタチンの処方を新たに受けていた、40歳以上で糖尿病ではない患者13万6966人の情報を得た。
 それらの患者についてコホートごとに、ネステッドケースコントロール分析をas-treatedで行った。具体的には、同一コホートの中から、ケースと性別、年齢、コホート組み入れ時期がマッチする、糖尿病を発症していないコントロールを、ケース1人当たり10人抽出し、条件付きロジスティック回帰分析を行って、低強度スタチンを使用する低強度群と、高強度スタチンを使用する高強度群の糖尿病新規発症のオッズ比を求めた。その際、米Brigham and Womens’ Hospitalが提供している高次元傾向スコア・アルゴリズムを用いて、多様な交絡因子候補で調整した。最後にメタアナリシスを行い、対象としたコホート全体で比較を行った。
 処方されていたスタチンの強度はLDL-C低下作用の大きさ(低下率が45%未満を低強度、45%以上を高強度)に基づいて判断した。

 主要評価項目は、スタチンの処方開始から2年以内の新規発症糖尿病による入院、もしくはインスリンまたは経口糖尿病治療薬の処方とした。

 スタチンの継続使用開始から2年間に糖尿病を新規に発症したのは3629人(高強度群が2402人、低強度群は954人)で、それらの患者にマッチするコントロールは計3万5623人だった。

 メタアナリシスの結果は、高強度のスタチンを使用していた患者における、糖尿病新規発症リスクの有意な増加を示した。低強度群と比較した率比は1.15(95%信頼区間1.05-1.26)で、リスク上昇は使用開始から120日目までが最も大きかった(率比1.26、1.07-1.47)。121日以降~1年までのリスク上昇も有意だった(率比1.19、1.02-1.38)が、1年以降~2年までの率比は1.08(0.93-1.25)と有意差を示さなかった。

 固定効果モデルではなく、ランダム効果モデルを用いると、2年間の高用量スタチン使用と糖尿病の関係は弱まった(率比1.11、0.96-1.27)。また、感度解析として、スタチン使用開始から90日以内に糖尿病を発症した患者を除外すると、やはり2年間の高用量スタチンの使用と糖尿病の関係は弱くなった(1.11、0.85-1.47)。しかし、この方法でも121日以降~1年までのリスク上昇は有意だった(1.23、1.05-1.44)。

 心血管疾患の2次予防を目的とする高強度スタチンの使用は、糖尿病発症リスクの中等度上昇に関係していた。「リスク上昇は強力ではないが、高強度スタチンを処方する際には、糖尿病リスクに留意する必要がある」と著者らは述べている】


コメント
SGLT2阻害剤の副作用
 日本糖尿病学会は、6月13日「SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation」を発表した

http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?page=article&storyid=48

◇ ケトアシドーシス

 1例のケトアシドーシスが報告された。本例では、極端な糖質制限が行われていた。SGLT2阻害薬の添付文書にあるように、血糖コントロールが良好であっても血中ケトン体増加が認められることがある。

 SGLT2 阻害薬投与に際しては、インスリン分泌能が低下している症例への投与ではケトアシドーシスの発現に厳重な注意が必要である。

 同時に、栄養不良状態、飢餓状態の患者や極端な糖質制限を行っている患者に対する SGLT2 阻害薬投与はケトアシドーシスを発現させうることに一層の注意が必要である。
2014/06/13(Fri) 20:11 | URL | 精神科医師A | 【編集
スタチンをやめるべきか
いつも有益な情報ありがとうございます。

私はLDLが150~190の脂質異常症だったため、スタチンを服用して80前後に下げ、糖質制限もしています。

動脈硬化にはLDL/HDL比を下げることが有効と言われるため、糖質制限でHDLを上げ、スタチンでLDLを下げることがいいのかと思っていました。

先生の記事を読み、正常サイズのLDLは人体に必要なコレステロールを運ぶ役割があるため、下げすぎたら困ることが理解できました。

動脈硬化を進める本当の悪玉は、酸化LDLや、小さなサイズのLDLだとも聞きます。

スタチンをやめるとLDLは増えると思いますが、糖質制限をしていれば安心でしょうか。先生のお考えを聞かせていただければうれしいです。
2014/06/13(Fri) 20:40 | URL | SHUKAN | 【編集
私はFH家族性の高脂血症がありますが、アフェレシスという透析を受けている方(スタチンが奏功しない)でも心臓に異常がない人もいるし、LDL500でこれまで未治療で心臓に異常なく過ごしてきた団塊世代の方もいて、なぜ私など薬が足りなかったと言われるけれど、やめた時もあるが、治療も受けてこんなにあちこち心臓血管が細くなっているのかと思います。LDLは患者の中で一番低いらしいですが、なぜか首のプラクは増えるばかりです。
最先端の病院で治療を受けてもこんな感じで、専門医にもわからないことが多いみたいです。確かに言えることは、薬だけに頼って食生活や運動をおろそかにするとよい結果はでないようです。
2014/06/15(Sun) 11:43 | URL | 匿名 | 【編集
Re: SGLT2阻害剤の副作用
精神科医師A さん

情報をありがとうございます。

ケトシドーシスの例ですが、「極端な糖質制限」が、行われていたなら
通常は薬物投与は必要ないはずなので、何故SGLT2阻害薬が処方されたのか不思議です。

もし、スーパー糖質制限食実践でも、高血糖が改善しなかったのなら、かなり
内因性インスリンが不足している重症の糖尿病で、本来インスリン治療が必要な症例の可能性があります。
2014/06/15(Sun) 12:29 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: スタチンをやめるべきか
SHUKAN さん

LDLが150~190の脂質異常症なら
私の患者さんなら、スタチンは処方せずに経過をみます。
念のため、1/年くらい頸動脈エコーを検査して、
動脈硬化の有無をチェックします。

本ブログの扉ページの、カテゴリーの「コレステロール」の項をご参照いただけば幸いです。
2014/06/15(Sun) 12:35 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re:Re:スタチンをやめるべきか
週末のお忙しい中、さっそく回答いただきありがとうございました。

糖質制限中はLDLの数値が高くても安心できる説明が2014年03月02日の記事にあり、納得できました。

LDLコレステロールは悪玉と言われますが、やはり真の悪玉は小粒子LDL(小さくて高密度のLDL)と酸化LDLなのですね。

糖質制限をすると低中性脂肪と高HDLが達成でき、小粒子LDLが減少するだけでなく、酸化ストレスが減るので酸化LDLも出来にくくなると思っていいですよね。

やはり、検査で気にすべきは中性脂肪とHDLなのでしょう。

メタボリックシンドロームの判定基準の脂質の項目に、なぜLDLが含まれていないのか、前から不思議に思っていたのですが、その理由がわかったような気がします。

ある検査機関のホームページに「メタボリック症候群や糖尿病の患者では高中性脂肪と低HDL-Cがあり、small dense LDLとなるためLDL-Cが高値とならないことが多く」という説明がありました。LDLが低くても安心できないケースがあるということですね。

なお、スタチン継続要否については頸動脈エコーも含めて主治医に相談してみます。
2014/06/15(Sun) 16:00 | URL | SHUKAN | 【編集
LDL-C168というのでスタチン処方されましたが
こんにちは、
今日、市民検診結果で、悪玉コレステロールが高いから、リピドールというスタチン処方されましたが、逆らって、クスリは、飲まないでおこう、と思っています。
先生の記事よんで、怖さをしりましたが、何でも下げようという医者は、信用できないですね。
副作用も、あるようだし、かえって、糖尿病リスク高まるのだから。

それよりは、ヘモグロビンa1c、が、6.1から6.8になったのが、驚きです、
また、しっかり糖質制限やり直すことにします、
原因のひとつに、調味料に使う砂糖、そして食事のワイン、白ばかりだけど糖質高かったようです、控えないといけない❗
また、やり直します⁉
2016/06/16(Thu) 12:34 | URL | 無菜 | 【編集
Re: LDL-C168というのでスタチン処方されましたが
無菜 さん

私もスタチンは必要ないと思います。
美味しく楽しく糖質制限食で、HbA1cは速やかに改善すると思います。
2016/06/16(Thu) 19:39 | URL | ドクター江部 | 【編集
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