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ビタミンCとイヌイット、新生児高チロシン血症、壊血病
こんにちは。

今回はビタミンCとイヌイットついて考えてみます。

4000年前、すでにカナダ極北やアラスカに、人類(モンゴロイド)が移住し居住していました。

現在のイヌイット文化と同様の生活様式をしていたとは、必ずしもいえませんが、セイウチ猟などを中心に生業としていたようです。

現在のイヌイットの生活様式の原型ですが、まず10世紀頃、アラスカイヌイットでホッキョククジラが主食の時代がありました。

その後200~300年で他の極北周囲地域、西はチュコト半島、東はグリーンランドまでホッキョククジラ猟が広まりました。この文化は、チューレ文化と呼ばれています。

12世紀から17世紀にかけて極北地域に寒冷化が起こり、それまで豊富だったクジラが少なくなりました。

そのため、クジラ以外のものを主食とせざるを得なくなり、各地域でチューレ文化は多様化して、独自の文化が形成されていきました。

イヌイットといえば、誰でもイメージするような、アザラシ猟をして雪の家に住むという文化は、15世紀頃に形成されました。

その後、ホッキョクイワナ、アザラシ、シロイルカ、カリブーといった食材がイヌイットの主食となっていきました。

この伝統的な食生活のころは、海生動物の生肉・内臓、生魚肉・内臓が主食で、穀物や野菜もなしで、果物もほとんどなしです。

海生動物や魚の内臓には、あるていどのビタミンCが含まれていると思いますが、野菜や果物ほどではありません。

イヌイットの好物であるマクタック(シロイルカの生皮)にビタミンCが含まれているとのことですが、量的には野菜や果物には到底及ばないと思われます。

キビヤックというイヌイット独特の発酵食品があります。

海鳥(ウミスズメ類)をアザラシの中に詰めこみ、地中に長期間埋めて作るそうです。

大変臭いそうですが、ビタミンCが豊富という説もあります。

しかし通常、発酵食品にはビタミンCは含まれていないと思います。

結局ビタミンCが豊富なのは、新鮮な野菜と果物、そしてサツマ芋とジャガ芋です。

内臓には少量含まれてますが、量的には野菜や果物には及びません。

こうなると、イヌイットが伝統的な食生活を続けていたころは、ビタミンCの補充はどうしていたのかという疑問が生じます。

イヌイットの伝統的食生活では、ビタミンC摂取量は少ない可能性が高いですし、ビタミンC血中濃度も低い可能性が高いです。そして、ビタミンC不足による病気はどうなのでしょう?

1975年発表の、カナダの論文を読んでみました(*)。

この論文は、ケベック遺伝子医学ネットワークの調査などに基づいたものであり信頼度は高いと思います。

やはりイヌイットのビタミンC摂取量は、カナダ白人と比較して、かなり少なかったです。

妊婦のビタミンCが不足していると、新生児高チロシン血症(**)になります。

イヌイットの新生児高チロシン血症は、先天的なものではなく、ビタミンC不足によるものなので、妊婦へのビタミンC投与で改善したと報告されています。

イヌイットの妊娠中の女性の平均ビタミンC摂取量は、28mg/日で、血中ビタミンC濃度は、0.25mg/dl。

イヌイットの同年齢の非妊娠女性名の、平均ビタミンC摂取量は26mg/日で、血中ビタミンC濃度は0.17mg/dl。

カナダの白人妊婦の、平均ビタミンC摂取量は、133mg/日で、血中ビタミンC濃度は0.97mg/dl。

イヌイットの妊婦のビタミンC血中濃度は低くて、新生児高チロシン血症(**)の頻度が、カナダアングロサクソン人が0.94%に対して14.8%もありました。

イヌイットの血中ビタミンC濃度は、壊血病危険ラインの0.2mg/dl未満の場合も多く、歯肉出血が高率に見られたそうです。

イヌイットの場合は、血中ビタミンC濃度が低値であることは、壊血病と新生児高チロシン血症のリスクを高めていました。

このことに関しては、調査に基づく事実なので議論の余地はありません。

イヌイットとビタミンC不足のことを考慮すると、スーパー糖質制限食においても、基本的には、野菜はしっかり摂取して、ビタミンCを確保することが必要と思います。

一方、アフリカのケニア南部からタンザニア北部にすむマサイ族は、血中ビタミンC濃度はイヌイットと同レベルの壊血病危険ライン0.2mg/dlの場合も多いのに、壊血病がみられないのは、不思議です。

またマサイ族と新生児高チロシン血症の文献は、英文でも発見できませんでした。

血中ビタミンC濃度が、同レベルに低い「イヌイット」と「マサイ族」ですが、新生児高チロシン血症や壊血病リスクが生じたのはイヌイットだけで、マサイ族には生じなかったのは、何故なのか不思議です。


江部康二



(*)
Neonatal hypertyrosinemia and evidence of deficiency of ascorbic acid
in Arctic and subarctic peoples
624-626 CMA JOURNAL/OCTOBER 4,1975/VOL.113
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1956727/pdf/canmedaj01544-0034.pdf


(**)メルクマニュアルより抜粋
チロシン代謝障害
チロシンは,いくつかの神経伝達物質(例,ドパミン,ノルエピネフリン,エピネフリン),ホルモン(例,サイロキシン),およびメラニンの前駆物質であり,その代謝に関与する酵素の欠損は様々な症候群を引き起こす。

新生児一過性チロシン血症: ときに,代謝酵素(特に4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ)の一過性の未成熟により血漿チロシン濃度の上昇が発生し(通常は未熟児,特に高蛋白食を与えられているものに起こる),その代謝産物がPKUのルーチン新生児スクリーニングで検出されることがある。患児の大半は無症状であるが,嗜眠と哺乳不良を呈することがある。チロシン血症は,血漿チロシン高値によってPKUと鑑別される。

大部分は自然消失する。症状のある患児には,食事性チロシンの摂取制限(2g/kg/日)とビタミンC,200〜400mg,経口,1日1回を実施する。

チロシン血症Ⅰ型: この障害は,フマリルアセト酢酸ヒドラーゼ(チロシン代謝に重要な酵素)欠損に起因する常染色体劣性の遺伝形質である。疾患としては,新生児期には劇症肝不全として,また乳児期後期および幼児期には無痛性不顕性肝炎,有痛性末梢神経障害,および尿細管障害(例,正アニオンギャップ性代謝性アシドーシス,低リン酸血症,ビタミンD抵抗性くる病)として発症する。長期生存者では肝癌のリスクが増大する。

診断は,血漿チロシン高値によって示唆され,血漿または尿中サクシニルアセトン高値および血球または肝生検標本におけるフマリルアセト酢酸ヒドラーゼの活性低下によって確定される。2(2-ニトロ-4-トリフルオロメチルベンゾイル)-1,3-シクロ-ヘキサンジオン(NTBC)による治療が急性発作に有効であり,また進行を遅らせる効果もある。低フェニルアラニン・低チロシンの食事療法が推奨される。肝移植が有効である。

チロシン血症Ⅱ型: チロシンアミノ基転移酵素の欠損によって引き起こされる常染色体劣性遺伝のまれな疾患である。チロシンの蓄積により皮膚と角膜に潰瘍を来す。無治療の場合,フェニルアラニンの二次的増加により,軽度ではあるが神経精神医学的異常を来すことがある。診断は,血漿チロシン高値,血漿中または尿中のサクシニルアセトンの欠如,および肝生検における酵素活性減少の測定によって行われる。本疾患は,食事性フェニルアラニンおよびチロシンの軽度から中等度の摂取制限により,容易に治療可能である。


(***)チロシン
必須アミノ酸ではありませんが重要なアミノ酸であるチロシンは、
フェニルアラニンという必須アミノ酸から作られます。

チロシンは脳や神経が正常に働くために必要不可欠なアミノ酸で、神経伝達物質であるドーパミン やノルアドレナリンの前駆体となり、脳機能を活性化させる働きがあります。

チロシンは感情や精神機能、性的衝動を脳内でつかさどる重要な神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリン の前駆体です。納豆やチーズ、みそなどの表面に白く析出してくる結晶や、若いタケノコの切り口に見られる白いアクがチロシン で水には溶けにくい性質があります。

テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
Wikipedia「ビタミンC」からコピペ。
乳酸菌は発酵の際、ビタミンCも生成し、発酵前の生乳等のビタミンCよりも濃度が高くなる[16]。牛乳にはビタミンCがほとんど含まれていない。その理由は、子牛が自らビタミンCを合成できるので牛乳から摂取する必要がないためである。牛乳を発酵して作ったヨーグルトでは若干ながらビタミンCが含まれている。牛乳のみならず肉にもビタミンCは含まれていないので、野菜や果物を摂取できないモンゴル遊牧民は、大人のみならず子供を含め馬乳を乳酸発酵させ微量のビタミンCを生成した馬乳酒を大量に飲むことでビタミンCを補っている[16]。アフリカの遊牧民族であるマサイ族も日常的に発酵乳を飲む。

Wikipedia「エスキモー」からコピペ。
グリーンランドのイヌイットでは海鳥の発酵物キビヤックを食する習慣がある。乳酸菌による発酵で微量のビタミンCが生成される。
2014/04/25(Fri) 22:16 | URL | なんでだろう | 【編集
調理師学校の栄養学で聞いたお話
ビタミンCのお題なので調理師学校で栄養学の時に習った事で少し 情報を出してみたいと思いコメントします。

マサイ族ですが、1週間に数回ほど、ウシの動脈より採った血をミルクに混ぜて飲む。マサイ族のビタミン、ミネラル補給はウシの血液で補うと。聞きました、ミルクと血を混ぜた飲み物はバランスの良い飲み物となるそうです。 牛は草食で草からビタミン吸収して血液にもビタミンが豊富でしょうから、頚動脈から取った血液とミルクでビタミンとかの補給をしてると思います。

またお祝いや病人が出た時にマサイ族はヤギを食べるそうですが、その時にモンゴルの方々と同じで一滴も血液を地面に落とすことなく解体するそうです。 ヤギは仰向けですると聞きました。

その時にお腹に溜まった血液をヒョウタンで出来た器で飲むそうです。 また解体中にレバーだけは生食(刺身)で食べるそうです。

完全な資料が無いのであれですが…
ドキュメント番組で血液とミルクを混ぜて飲む事はTVで私も見たことが数回あるので間違いはないと思います。

また イヌイットやエスキモーの方々は、アザラシの海獣類を仕留めた時に優先的に解体時に真っ先にレバーや心臓を食べることが許されるそうです。 

昔の探検家が壊血病に成ったらしいですが、日本人、案内のイヌイット・エスキモーは壊血病率が低かったそうです。 それは日本人は刺身や海藻を食べる習慣やイヌイットは海獣類並びに魚の刺身、生食で助かった率が高いと習いました。 

イヌイットやエスキモーの方々は生肉をそのままドライジャーキーにしてビタミンが壊れる火を通さない方法で保存もしてるので厳しい自然環境で、ビタミン補給が出来てたと習いました。

また北欧のバイキングも野菜や果物は取れてないので、糖質制限してたかもな~ぁ て思います。

2014/04/26(Sat) 08:14 | URL | 横浜 糖尿病1年5ヶ月生 | 【編集
Re: タイトルなし
なんでだろう さん

情報をありがとうございます。
2014/04/26(Sat) 15:37 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 調理師学校の栄養学で聞いたお話
横浜 糖尿病1年5ヶ月生 さん

情報をありがとうございます。
2014/04/26(Sat) 15:37 | URL | ドクター江部 | 【編集
チロシン、メラニン、ビタミンC
3種類の物質から、三題噺的な連想をいたしました(evidenceはありません)
原初人類が赤道付近アフリカから遠ざかるにつれて、徐々に簡略化されてきたメラニン合成能は、ビタミンCの代謝能も変えてきた、という仮説はいかがでしょうか?

マサイ族:ネグロイド(黒色メラニン豊富)
イヌイット:モンゴロイド(肌色メラニン=還元型メラニン豊富)

黒色メラニンから肌色メラニンへの還元に、ビタミンCが必要。
コラーゲン合成をはじめとする紫外線曝露ストレスの修復にも、ビタミンCが必要。

チロシン-メラニン合成代謝系の間に、幾つかブラックボックスが潜んでいそうです。皮膚のメラニン合成量を少なく済ませているモンゴロイドは、代償性にビタミンCの消費が増しているということはないだろうか??
チロシンの一段階前、フェニルアラニンをみると、フェニルケトン尿症(PKU)は,白人集団全体に最も多くみられ,アシュケナージ系ユダヤ人,中国人,黒人の間では低頻度とされています。高緯度地方に移動定住した集団に起こった突然変異が常染色体劣性遺伝の形式で保持されている、と読めます。

ネグロイド、モンゴロイド、コーカソイドでビタミンC代謝を比較した研究が欲しいですね。
2014/04/28(Mon) 16:14 | URL | math | 【編集
Re: チロシン、メラニン、ビタミンC
math さん

興味深い仮説です。
「イヌイットのほうが、マサイ族よりビタミンC必要量が多い」
ということになるので、両者の壊血病リスクの差が説明できますね。

仮説ではありますが、ありがとうございます。
2014/04/29(Tue) 13:18 | URL | ドクター江部 | 【編集
壊血病の原因
江部先生

マサイ族とイヌイットで壊血病の有無が生じた理由ですが、単純に寒さによるストレス由来という事はないのでしょうか。

なぜなら、

1 ビタミンcは喫煙や飲酒、ストレスによって消耗される事実が溝口徹先生の著書「うつは食事が原因だった!」で明らかにされている。

2 私自身が糖質制限食を実行して2年近く
経過しますがビタミン欠乏症は全くなかった事
(野菜や果物はまず食べない)

3野菜や果物は糖質も含んでおり、また糖質が高いとビタミンcの吸収も阻害されるから。
http://www.nstimes.info/mailmag/vol61.htm
といった要因があるからです。

私も自身のブログで後日投稿しますが、
それまでに再び要因を調べてみます。
2014/06/22(Sun) 05:29 | URL | giga8plus | 【編集
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